11 男の料理はシンプルなものに限る
昨日はUSJで遊び呆けて更新のためのチェック等怠っていましたのでアップしませんでした。
町に戻ると大勢の人々が出迎えてくれた。絶対に目立ちたくないからこの度のクエストには協力してないことにしてもらう。クエスト参加者はクエスト貢献者の俺が称えられないのが不満そうだが俺はひっそりと生きていきたいのだ。
なのでクエストの報告には行くが報酬は貰わない。その代わりにレイザーサーモンを丸々一匹頂く。こいつを食いたいと町までやって来たドラゴンのためだ。
すぐにギルドに行きクエスト完了の報告をして、納品分を納める。余ったものはエルシュさんに渡しみんなで食べてもらうよう伝える。これは俺だけの手柄じゃないからね。
その後収穫祭で賑わう町を尻目にこそこそとエルシュさんの家に戻る。見た目は普通の女性なのだが、中身はオルさえ敵わないと認めるドラゴンだ。あまり人目につけたくないのが本音だ。そしてエルシュさんとニーチェには今回は席を外してもらった。なぜならこの女ドラゴンが道中とんでもないことを呟いたからだ。
―そなたが持っているとても便利なスキルを駆使して調理をお願いしますわ― と。
俺のすべてを知られているかのようで軽くパニックになりかけたがもう覚悟決めたよ。ネットショッピングのことを知ってるならば変に隠す必要もない。俺もいい加減口が寂しくなってきていたんだ。エルシュさんもニーチェもいない台所で作りあげてやろうじゃないか! とりあえずサーモンを三枚におろしてみると、思っていた通りその身は普通の鮭と変わらない。これを見て作る料理は決まった。
これぞ日本の味! ってやつを作ろうじゃないか!
懐にある銀貨と銅貨をタブレットにぶっこんで調味料の選択。
そしてアルミホイルを購入。
蓋付きのフライパン購入。
はははは……残金が300Gだよ。明日からどうしろってんだ! いや、今さら明日のことは考えまい。レイザーサーモンを食らわせてさっさと帰ってもらおうじゃないか。
玉ねぎ、しめじを切りアルミホイルに敷いてその上にぶつ切りにして塩と胡椒で味付けしたレイザーサーモンを乗っける。薄切りにしたレモンとバターを一欠片乗せたらアルミホイルでくるっと包んでフライパンで焼くだけ。
しばらくすると台所にバターの溶けた匂いと玉葱とサーモンの香ばしい匂いが広がる。
「ほらできたぞ。」
ものの10分ほどで完成したのは
【レイザーサーモンのホイル焼き】
アルミホイルを広げた瞬間に立ちのぼる素材の匂いをふんだんに含んだ湯気に包まれて、今まで見たことも食したこともないであろう料理を前にそわそわしてるドラゴン。心なしか唇の端から光るものがみえるのだが……涎垂らしてないよな?
「すばらしい! そなたはいとも簡単にこのような料理を! では早速頂くとしますわ。」
ナイフとフォークでサーモンを切り分け口に運ぶ。
「ふーむ。刃魚の味はこのようなものなのですか。海にいる魚とは違いほのかにクセがありますがこれはこれで……」
もぐもぐと咀嚼しながら美味しそうに食べている。が、びっくりするほど喜んでいるようではなさそうだ。よ~し。ホイル焼きの真の力を見せてやろうじゃないか。
「サーモンの下に玉ねぎがあるだろ? そいつと一緒に食ってみなよ。野菜嫌いってことはないよな?」
ニヤリと意地悪く笑みを浮かべドラゴンを挑発する。
「あら、私は好き嫌いはありませんわよ。美味しいものでしたらね。」
つんとすましながらも今度はサーモンと玉葱を口に運ぶ。その瞬間ドラゴンはガタッと椅子から立ち上がってプルプル震えている。さらにテーブルの上のホイル焼きと俺の顔を何度も見比べるように視線を走らせる。
うまくないはずがない。アルミホイルの上でほんのりと焦げた玉葱。蒸し焼きにされふっくらと仕上がった新鮮なサーモン。それを包む濃厚なバターの風味と香り。
「どうだ? うまいか?」
「ちょっとびっくりしましたわ……こんなに味が変わるなんて…」
ふふふっ。そんな反応されたらニヤニヤが止まらないぞ。だが日本の味はここからだ。
ナイフとフォークが止まらないドラゴンの前に一本のボトルを置く。
「最後はこいつをかけて食ってみな。今までの味はは誰だって作れるもんだが、こっからの味は俺専用スキルじゃないと食べられないぞ。酸っぱいのはいけるか?」
俺の言葉を聞きはっと顔色が変わるドラゴン。そしておどおどしながらボトルの中の液体をホイル焼きにかける。そうだ。日本の味【ポン酢】の出番だ!
「そ、そうなのですね。こ、ここまでのは誰でも作れるのですか…酸っぱい果実は好きですから大丈夫です。ではそなたのスキルが活かされたこの料理を頂きますわ。」
あれ? もしかして……ポン酢かける前の時点で味に満足してたのか?
ホイル焼きされたサーモンの上にかけられたポン酢。久しぶりだなこの鼻を刺激する酢の匂い。よし! 俺も食べよう!
鼻歌まじりで皿に盛りつけテーブルに向き直すと真っ赤な顔をした女ドラゴンが肩を震わせながら目の前にいた。危ない!危うくその顔面にホイル焼きをぶつけるところだったぞ。
「うおっと! どうしたんだ?喉に骨がひっかかったか?」
「……りないのです。」
「はい?」
「足りないのです! もっと頂きたいのです! それ頂きますわ!」
俺の手から皿がなくなっている。女ドラゴンはすでに椅子に座りポン酢をとぷとぷとホイル焼きにかけながら食べてる。
「まだ足りません! どんどん焼きなさい!」
ちょっと声に威圧感があるのですが……やばい……これは焼き続けないと俺がホイル焼きにされてしまうかも…
―ワシの……ワシの魚が…―
オルよ。そんな断末魔のような声をあげるな。俺だって同じ気持ちなんだ。ホイル焼き食いたいんだ……
結局もらったレイザーサーモンすべて食い尽くされた。一口も食えなかったか。ポン酢もない。てか、使い尽くして有り金300Gでもう一本追加するはめになってしまった。オルの気持ちも痛いほどわかるぞ。その流れた涙の跡がすべてを物語ってるからな。
「完食して満足したかこのやろう。」
皿を洗いながら皮肉まじりに挑発する。女ドラゴンは幸せそうにため息をついて椅子から立ちあがると扉に向かう。
「とても」
「とても美味しい料理でした。また次回お会いしたときに何か作ってくださいますか?」
「おお。それは構わないが材料は準備してくれよな。俺って居候の身でこのサーモン捕るクエストとお前に食わせるために金を使ってほぼ一文無し状態なんだ。」
くすりと笑い扉を開きながら女ドラゴンは約束した。
「わかりましたわ。あなたに金銭の負担がかからない形で料理を作っていただきましょう。私の名前はビビ。ではごきげんよう。」
そう言った彼女は、まだ収穫祭で賑わう夜の暗がりに消えた。
なんだか狐につままれた気分だ。だが幻じゃないはずだ。部屋に残ったサーモンの骨の山が現実だと物語っている。
ビビが座っていた椅子に腰かけて背伸びをする。さっきまであった食欲もどこかに失せてしまった。
ふ~疲れたぞ。相当な疲労感だ。考えてみれば早朝から動き回ってこんな深夜にひたすら料理作ってたんだからな。
もうダメ。寝よう。なに? ワシの飯も作れって? もう明日にしてくれ。明日ならいくらでも作ってやるから。もう眠い……んだ……よ……




