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10 その気になればできないことはないんだ2

異世界らしくドラゴン登場です。


―なかなかおもしろい人間ですねそなたは―


 うっ……オルと同じ念話か。だがオルとは違う。言葉が重いのだ。文字通り言葉が重く体が押し潰されそうだ。俺は立っていられなくなり膝をつく。ねっとりと空気がまるで油のように体にまとわり付いている感覚に陥る。変な汗が止まらない。

 周囲を見渡すとまわりの人達も同様に膝をつき身動きが取れないようだ。どうやらこの念話は俺にしか聞こえないみたいだな。

 オルにも聞こえていないようで普通に俺の横にちょこんとしている。あれ? 威嚇すらしない? もしかして……この飛竜は敵じゃないのか?


―この川の刃魚を易々と手にするとは思いもしませんでしたよ。私も一度は口にしてみたいと願っていたのですが……どうでしょう? 良ければ分けてもらえないですか?―


 オルの様子やこの語り口調から察するに敵じゃないっぽいな。やけに言葉遣いが丁寧だし。無駄な争いはしたくないから要求を飲んでやろうか。


――そりゃ構わないが、この威圧感をやめてもらえないか? ほら見ろ。このままじゃ魚を捕る道具がなくなっちまうんだよ―


 最初の奴の念話で俺はうかつにも竿を落としてしまい、かかったままのレイザーサーモンに引っ張られて今にも川の中に引きずり込まれそうだ。


―おっと。これはすみません。では姿を変えましょうか―


飛竜の言葉が終わると同時にその姿はなくなる。代わりにニーチェと変わらない年齢の女性がいた。その瞳はさっきの飛竜の体のように赤黒くルビーのようだ。それに瞳と同じ色の絹のような髪が整った顔に映えており幾分大人びて見える。


―早くその道具を取りなさい。なくなると困るのではないのですか?―


 不意に言われて我に戻り、自由になった体でずるずると引っ張られている竿に慌てて飛びつき、びしょ濡れになりながら釣り上げた。もうだめ。竿を振るう気力もない。次当たりが来たら間違いなく竿と一緒に川に引きずり込まれるな。


―見事なものですね。ではそなたがうまいと思う調理をしてもらいましょうか?―


―俺も食ったことないから味が分からない。それに調味料なんてものは今は手元にないんだ。普通に焼いたものでいいか?―


―ふむ。ならば仕方ありません。美味しく頂きたいのであなたの住まいに戻って調理してもらいましょうか―


「えっ! これ食いに町に来るのか? あっ!やばっ!」


 まずい! 思わず口に出してしまった。


「ここで食べられぬのなら食べられる場所に行くまでです。とても小さなことではありませんか。ふふっ。」


 にまぁっと小バカにした嫌らしい笑顔だな。人間の姿に変えたせいだろうかみんなも体の自由が効くようになったみたいだ。だが誰一人こいつらに攻撃を加えようとする者はいないな。力の差を見せつけられたからだろう。エルシュさんですら遠巻きに俺達を静観している。


「わかった。じゃもう少し待ってくれ。川に仕掛けているやつを片付けるのと今釣れかかっているやつをあげないとな。」


念話をやめ普通の会話をしてる姿を見て、口々に冒険者が呟く。


「なぁ。あれってワイバーンじゃねえよな? ドラゴンか?」


「ぽいな。人化できるのはドラゴンや幻獣クラスじゃないと無理って聞いたことがあるぞ。」


「って、キノくん普通に会話してたぞ。どういうことだ!?」


 いや~もう俺自身よく分からないよ。

 今はっきり言えるのは釣りの仕掛けの回収とエルシュさんが格闘していたサーモンを釣り上げるのが最優先だ。

 エルシュさんは無事にレイザーサーモンを釣り上げて雄叫びをあげている。他の仕掛けを順次あげてみるとほかにも二匹釣れていた。釣りに慣れてもらうため他の人達にやってもらうが、マッチョな冒険者の手にかかればまるで小魚を釣り上げるように岸に引っ張りあげられる。非常に理不尽だ。


 納品分以上の釣果をあげたのでさっさと町に戻ろう。この上ない達成感に包まれて誰しもが笑顔だ。が……最後尾にいる俺とエルシュさん、それにニーチェはなんとも言えない気分だ。


「エルシュさん。あの飛竜を町に入れてもいいんですか? あんなのが暴れだしたら町は滅びますよ! 今は収穫祭の真っ只中ですよね?」


「わしもできればご遠慮願いたいのだが、断った途端に暴れだすのではないかと思うとな……はっきり言って倒せる気がしない。」


「あの女ドラゴン、ずっとニヤニヤしながらついてきてるけど後ろの二匹はやばいわよ。町の人が見たら魔法と魔術が雨のように降ってくるはずよ!」


 だよな……この女性の後ろにはでかいワイバーンが宙を飛びながらついてくる。


「なぁお願いがあるんだが……後ろのワイバーンが町に来ると騒ぎになるんだが……」


刺激しないように柔らかく伝えると信じられない返答が返ってきた。


「これはすみません。すぐに消しましょう。」


 また一瞬空気の威圧感を感じた途端に二匹のワイバーンは姿を消してしまった。


「私の力で形成した幻を出したままでした。」


 ……あれが幻?リアリティーありすぎだろ! こいつって本当は関わってはいけない存在なのではないのか? 何もかもが異次元すぎるぞ。


―オルよ。こいつ一体何なんだ? この国くらい三日くらいで支配できそうな強さだと思うんだが……さっきお前ですら戦う素振りもみせなかったよな?―


―ああ強いな。ワシでも今のままでは勝てぬわ。一見して幼き飛竜と見誤ったがどうやら……―


「ところでこっちの小さい子猫。少しお借りしていいでしょうか?」


 急に俺の顔の前に月明かりに鈍く光る赤い目があった。もうキスする寸前くらいまで顔が近い。だが何の色気もない。あるのはすべてを見透かすような赤い目だけが俺の視線とつながっている。


「あ、ああ……いいけどあまり懐かないと思うぞ。」


「ふふふ。それは大丈夫であると断言しますよ。ねぇ」


 そう言ってオルに目を向ける。オルはまるで忠犬、いや忠猫のごとく直立不動だ。オルですらドラゴンには恐怖するのか。まぁ、勝てない相手には従っときゃいいぞ。しばらくはやつの相手はオルに任せよう。とてもじゃないが俺じゃ役不足だ。


 こうして俺達は緊急クエストの条件を満たし、収穫祭で賑わう夜のオルーツアに戻ってきた。





町に入れて本当に大丈夫なのでしょうか?

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