9 その気になればできないことはないんだ1
筆者は釣りが好きです。
なので早速ネタにしてしまったのです。
「お前はサーモンに集中しろ! 魔物は俺達に任せろ!」
一瞬にして目つきが変わる男達。そして風を切り裂くように残影を残し魔物を迎え撃つ。俺の目に飛び込んできたのは体長4メートルはあろうかという熊だ。しかも四頭も。
「お前ら! 狙いは足だ! モスグリズリーの動きを止めろぉ!」
鎧で身を固めた戦士達が二人一組で一頭の両足に斬りかかり動きを封じる。熊が倒れた瞬間に炎の塊が降り注ぎその身を焼き焦がす。
「一頭駆逐完了! 残りもいくぞ! 気合い入れろやぁ!」
これが魔物との戦いなのか。これが魔法なのか。エルシュさんやニーチェの力は十分知っていたが、これほどまでに冒険者とは強いのか。
驚きよりも恐怖が俺を包む。人間であって人間ではない。強い者とはこんな存在なのか。
呆然と戦況に目を奪われていたが、ものの15分ほどで四頭の熊はその身を焼き焦がしその命を終わらせていた。
「すごい……」
それしか言葉にならない。これがBクラスの実力者の力か。
「これで終わりじゃないはずだ! 気を抜くなよ!」
怒声が川辺に響く。魔物よりこっちのほうが狩りをする強者のようだ。
「なるべくお前が集中できるようにするからな。頼むぞ!」
いつの間にか横にいたエーシャさんの言葉に我に返る。そうだ。俺は俺のやるべきことをしないと!
気持ちを切り替えて再びフルキャストしてリールを巻く。またも同じポイントで鋭い当たりが両腕に伝わる。慌てず先程と同じようにやり取りをしてレイザーサーモンを釣り上げる。さっきと型が揃ってるから群れでこのポイントに寄ってきているのだろう。数を稼ぐなら今だ!
こうして朝の段階でレイザーサーモンを9匹釣り上げた。その間またしても五頭の熊が茂みから姿を表したが、はじめの四頭と同じく町の冒険者により倒された。
「もう9匹も捕らえたのか。お前すげえな!」
「ほんとすげえよ。俺らじゃ1ヶ月かかっても捕れる気がしねえからな。」
屈強な男達から称賛の雨あられだ。それはこっちの台詞だ。あんたらの強さはまるで鬼だよ。
「まさかあんな短時間でこれだけのレイザーサーモンを捕らえるとは……キノくんはこれだけで生きていけるぞ…」
「キノにこんな力があったなんて……こんなの誰も信じないよ……!」
まるで子供のように喜んでるエルシュさんとニーチェ。
―とりあえずワシはあのサイズなら二匹はいけるぞ―
……オルは食うことしか考えていないな……ってか二匹も食えるだと……
みんなが落ち着いてきたところで俺から提案をする。
「みなさん! これは俺の勘なんですが、これだけ困難なクエストの依頼は間違いなく故意的なものだと思うんです。クエストをクリアしてももしかしたら、どうやってレイザーサーモンを傷つけずに捕らえたのか設問されるかも知れません。なので、夕方の捕獲はぜひみなさんで一匹でいいから捕らえて欲しいんです! 誰かが一匹でも捕らえたらいくらでも言い訳ができます!」
みんなの綻んだ顔が引き締まる。少なからず同じように思っていた人もいるようだ。
「今、みなさんが昨夜作ってくれた仕掛けを川に流していますがまだそれには一匹もかかっていません。だけどレイザーサーモンの習性を覚えておけば捕れないことはありません。エルシュさんと一緒に捕らえてください! 俺はそのための知恵を教えますから!」
「おお! やってやろうじゃねぇか!」
「人一倍不器用な俺でも魚を捕れるのか?」
「すげえ! 剣を振るうより何かわくわくするぞ!」
いかつい皆さんがやる気だ。よしよし。後半戦はみんなにも参加してもらおうじゃないか!
それから日が上り落ち着いたので川辺から少し離れ、遅い朝食を取りみんなくつろいでいる。夕方までは時間があるので各々体を休めたり武器の手入れをしているようだ。横になっている者がいれば談笑している者もいる。
俺はエルシュさんと魚を捕りたいと願う冒険者二人に、釣れるポイントとかかったときの対処をレクチャーしてから、俺はこっそりとオルに食わせる魚を釣りに行く。さすがにレイザーサーモンをあいつに食わせるわけにはいかない。
みんなから少し離れて安全が確保できる浅瀬でスプーンを投入し釣りをする。ニジマスのような体長60センチくらいの魚が入れ食いだ。魚が高級なものだったのを思い出して、ここぞとばかりに釣りまくる。投げる度に釣れるから、ものの一時間ほどで40匹ほどをカバンに押し込んだ。帰ったら塩焼きにしてやろう。
ひとしきり釣りを堪能し夕方の勝負のために体力温存のために少し横になる。やっぱり何も考えずに釣り糸を垂らすのが一番落ち着くな。釣らないといけないって感情が入るとどうしても気疲れしてしまう。
いつもならなにかと話しかけてくるニーチェも俺から距離を取り静かにしている。責任をすべて被っている俺に気を遣っているのか。とりあえず今回は今のまま静かにしててほしい。釣りっていうのは集中力が過剰なくらい必要なんだ……
「キノ! そろそろ時間だよ!」
ニーチェに揺り起こされる。うぅ……眠い……あと六匹だったよな。もう一踏ん張りだ。
だいぶ日が傾いてきてる。向こう岸はすでに景色が黒い。朝と比べてやはり不気味さが増す。暗がりが明るくなるのとこれから闇が訪れるのとではまったく対照的だ。早いとこ釣ってこの場から引き上げたい。
早速川辺に行き、すぐさまキャスティング。夕方はミノーを使ってみる。同じポイントでやはり当たりがくる。朝の釣果ですでに両腕はパンパンだが泣き言を言ってる暇はない。釣り上げてすぐに締めて血抜きをする一連の流れ作業をし休む間もなく再びフルキャスト。あと五匹。……あと二匹 ……あと一匹だ!
もう景色が夕暮れの赤色に染まりつつある。時間が厳しくなってきたぞ……よし!当たりだ! これで最後の一匹だ!
「何かかかったみたいだ!」
エルシュさんが川下で叫んでいる。どうやら向こうも当たりがあったみたいだ。よしっ! これで誰でもレイザーサーモンが捕れるって実証できるぞ。
っ!?
空気が変わった。この感じは少し前に感じた……あのときと似たような……オルがザネックスさんの馬を静めたあの獣気と同じ感覚だ!
「やばい! ワイバーンどもが三体だ! しかも一体は姿が違うぞ……亜種か!?」
おいおい! こんなクライマックスにきっついのが来るのか? せめてこれを釣り上げてから……
―気を抜くな! こいつはワイバーンなんぞ下等なものではない。こいつは……まだ幼いが飛竜だ!―
オルの突き刺すような言葉に耳を疑う。
―何ぃ!? ドラゴンだと?―
異世界につきものの絶対的強者のドラゴン! 生ドラゴン! この目に焼きつけて!
と俺が振り返った瞬間だった。
オルが飛竜と呼ぶ赤黒い体をしたそいつは俺を見下ろすように目の前にいた。
中途半端に長くなったので二回に分けます。




