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7 こんなクエストをクリアするには一人じゃ無理だ

キノの趣味が活躍するそうです。


「お待たせキノ! 言われたものを買ってきたよ!」


 ふーふー息を切らしながらニーチェが扉を開け帰ってきた。


「ありがとう! マジで助かったぞ! これだけはこっちで加工して……あとは現地で細工をして使ってもらえば……」


 俺の方は準備万端。気合い入れてやりあげるよ。趣味が実益を兼ねるなんて素晴らしいじゃないか。


「今から行けば夕方にはサガラ川に着けるかな?」


「ん~夕方には間に合わないと思うよ。着いたら真っ暗だと思うからそんなに慌てなくていいからね。ところでその机の上のは何? レイピア?」


「ふふふ。俺の唯一の趣味の道具だ! このクエストが終わったら、お前達は俺にひれ伏すだろう!」


「えっ……」


 うわぁ……ゴミを見るようなニーチェの目が痛い……。しかし嘘偽りは言わないぞ。


「……とりあえずこないだ夜営した所まで行きましょうか。」


 今のは聞きませんでした的な空気を醸し出してすたすたと家から出て行くニーチェ。勝負は明日の朝と夕方だな。



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~



 先日の夜営地に着くと先客がいた。エルシュさんと町の冒険者達だ。さすがBクラスの猛者達だけあってみなさん強そうだ。ただのマッチョって体格ではなくて、とにかく雰囲気が今まで会った町の冒険者と違う。これが実力者なのか。


「おじいちゃん! みんな! 大丈夫?」


 ニーチェの声にエルシュさんは我が目を疑うように小走りにやってきた。


「ニーチェ! それにキノくん! なにしに来たのだ? まさか緊急クエストを知ってここまで来たのか?」


「うんうん。すごい無理難題なクエストを依頼されたってアヤメさんも言ってて、町のみんなも心配してるから様子を見にきたの。」


「そうかそうか。ワシらは大した怪我もなくクエストに挑んでるのじゃが、まだ一匹も捕らえておらんのじゃ。捕れたのはこのブラックトラウト二匹だけじゃ……日が落ちて水辺は危険だから今夜はここで夜を明かすが、あと二日で納品分のレイザーサーモンを捕らえることができるかどうか…」


 漆黒の闇の向こうにあるサガラ川の方角を睨みながら唇を噛み締めるエルシュさん。他の冒険者も歯がゆさと焦りで沈黙している。町を歩けばみんな道を譲るような人達が背中を丸めその威厳すらない。

 王都からの緊急クエストとはいえ、別にできなくても問題はないのだろう。罰則があるわけでもないし。

 だが町のみんなは違う。滅びを逃れ復興を果たしたこの町を、このオルーツアをみんなが好きだから何とかしたいに違いない。じゃないと魚ごときに命を賭けるとは思えない。

 そう。みんなはお金のためじゃなく町のために命を賭けているんだ。俺はそんなやつらは嫌いじゃないぞ。よし! お世話になってる恩返しを始めようか。まずは……


「エルシュさん。お聞きしたいことがあるのですが?」


「どうしたんだね? キノくん?」


「朝と夕方、その時間帯にレイザーサーモンは浅瀬に来るんですよね?」


「うむ。だが、高レベルの魔物もその浅瀬に寄ってくるレイザーサーモンを狙って川辺に来るからやっかいなのじゃ。魔物も何がうまいのかよく知っておるわい。」


「では、もしも魔物が川辺に来たらエルシュさん達で退治することはできますか?」


「うむむ。少し骨は折れるができぬわけではないぞ。ワシらは魚を捕るのは素人じゃが、戦いに関してはそこんじょらの兵団にも匹敵するからのぅ。」


 よし。ならばここはみなさんに助けてもらうしかないな。そうじゃないとこのクエストを安全こなすのは無理だ!


「じゃ俺がレイザーサーモンを納品分捕りましょうか? そのかわり、魔物のほうはよろしくお願いします! とりあえず俺の命を最優先で守ってください。あと、一応パーティーに入れてもらってもいいですか?」


 強そうな戦士A「おいおい! ガキが何くそ生意気なこと言ってるんだ!」


 強そうな戦士B「おまえなぁ魚を傷つけずに捕るのがどんだけ大変なのか分かってるのか!?」


 ローブを羽織った若者「一匹も捕れなくてイライラしてんのにんなこと言うたぁ俺らを馬鹿にしてるんだな?」


 う~む。見事に反感を買ったな。魔物よりこの方々に殺されそうだ。だが、言うべきことはちゃんと伝えないと俺の命が危ういからな。どう納得してもらうのがいいかな……


「みんな! お願いだからキノの話を聞いてあげて! 彼ならなんとかしてくれると思うのよ! お願いだから!」


 突然ニーチェが声を震わせて叫ぶ。冒険者達もこんなニーチェを見たことないのだろう。一瞬にしてその場が静まり返る。

 そしてニーチェが小声で俺に囁く。


「キノごめんね。少し喋っちゃうから。」


 冒険者に振り返りニーチェはゆっくりと語り出す。


「ここにいるみんなにだけ話すわ。そしてこれから話すことは絶対に他言しないで!このキノは初のクエストであのタートルドラゴンを一人で討伐した噂のテイマーよ。私がその場にいたから証人よ!」


 ニーチェの発言に皆一様に顔色が変わった。


「そして横にいる魔獣のオルちゃんだけど、ザネックスさんのあの暴れ馬二頭を獣気だけでおとなしくさせたとても強い子なの。でもね、キノはそんなオルちゃんを用いて倒したのでもないの。そして倒した武器は剣でも槍でも魔法でもないの。彼が持ってる魔術具で倒したのよ。」


 男達が騒然となる。「マジかよ」「テイマーで魔術士だと?」「こんなちっこい猫があの馬を……」

 うんうん。普通は誰も信じないよな。おれも信じないわ。だって魔術に必要な魔素はこれっぽっちもないし。だが今のニーチェの言葉に疑いを持つ者はいない。彼女は話を続ける。


「タートルドラゴンのクエストを受けたとき、『こんな貧相な体の男が倒せるわけない。冒険者の生き方って大変なんだ』って思わせるはずだったの。だけど、彼はやれる!倒せるぞってやる気になってそのとおりに倒したのよ。ここにいる一人一人に聞くけど初めての戦いでタートルドラゴンを単独で倒せる? 無傷でしかも瞬殺よ。そんな規格外な男いるわけないわ!」


 そうか。ニーチェは世の中の厳しさを教えるためにあんな無茶なクエストを俺にってあれ……? ニーチェ泣いてるのか?


「でも彼はそんな男なの。無理なことをやってみせたの! そんな彼が何とかしてくれるって言ってるの! 私達じゃどうしようもないのはみんなわかってるでしょ! みんな町のために頑張ってても絶対に捕れっこないのわかってるでしよ! だったらこのルーキーに賭けてみてよ! 彼ならなんとかしてくれるから!」


 ポロポロ涙を流しながら屈強な男達に訴える。みんな黙りこんで彼女に目を向けない。いや目を向けれないのだろう。自分達の非力さゆえに何も言えないんだ。


しばしの沈黙の後、エルシュさんがニーチェに近づく。


「ニーチェ。お前の言い分はよくわかった。ワシはキノくんに賭けてみるぞ。」


 エルシュさんがニーチェを抱き寄せ頭を撫でている。ただのわがまま娘かと思ってたがなかなか芯がある子だ。ただ泣き虫だな。


「わかった。正直どうしょうもねえのは気づいてたんだ。お前に任せる。」


「俺からも頼む。俺らでできることは何でもするから、この無茶なクエストをなんとかしてくれ。」


「とんでもないルーキーがいるってアヤメ姐さんとレイカちゃんが言ってたがお前のことだったんだな。どんな魔術か知らねえがこの通りだ。力になってくれ。」


 ニーチェの言葉に心を動かされたのか、その場にいるみんなから了解を得られた。ありがとうニーチェ。お前のおかげだ。あとは任せろ!













いよいよ次回は魚を捕ります。



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