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5 緊急クエスト

エルシュさんはどこに行ったのでしょう?


 いつもと同じ朝を迎えた。いや、エルシュさんがいないからいつもの朝じゃないか。ニーチェはどうやら一睡もしてないようだ。目の下のくまが痛々しい。


「おはよう。昨日は寝れなかったのか?」


「うん。おじいちゃんが気になって起きてたらいつの間にか朝になってたよ……ねぇキノ。悪いんだけど一緒にギルドに言ってくれるかな?」


「ああもちろんだ。今日はニーチェに付き合うから気にするな。俺もエルシュさんが心配だしな。」


「うん。ありがとう!」


 疲れた顔から少しばかりの笑顔がこぼれた。大丈夫。きっとエルシュさんは笑顔で戻ってくるはずさ。


 身支度を整えニーチェとオルとギルドに向かう。オルもさすがに気になるようで朝飯を食わせてないのに文句すら言わない。


 ギルドに近づくといつもの三倍くらいの人だかりになっていた。どうやらこの緊急クエストには町の実力者9人もがパーティーを組んで出ているらしい。パーティーの家族と、その9人と普段パーティーを組んでいるメンバーがほとんど集まってるようだ。


「ギルド長! 町長さん達はまだ帰ってないのか? 町の精鋭を連れていったから帰ってくるとは思うのだが……」


「うちの旦那が昨夜慌てて出て行ったから何事だとギルドに来てみたらまさか緊急クエストが出ていたなんて……」


「それにしても緊急クエストなんて何年ぶりだい? あのときはワイバーンの討伐だったが今回は9人も出かけてるんだろ? ドラゴンクラスの魔獣か魔族でも現れたのか?」


 ギルドの外にいる人達はこの緊急クエストの内容を知らないようだ。いつまで突っ立っててもわからないからアヤメさんに聞いてみよう。


「アヤメさんおはようございます! 昨夜緊急クエストが発令されてエルシュさんが家を飛び出ていったのですが何があったのでしょう?」


 冒険者でごった返すギルド内をかき分けて、緊急クエスト参加希望者の書類をまとめているレイカさんとアヤメさんに話しかける。顔を真っ青にした彼女が昨日からの事の成り行きを教えてくれた。



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~


 昨日俺達がギルドを後にしてしばらく経った夕方のこと







「ギルド長! 緊急クエストです! 王都の騎士団団長様が帰り際にこれを守衛長に渡していかれました! 早急に対応を!」


 アヤメとレイカが今日のランチの話題に華を咲かせていると町の守衛らしき若者がものすごい勢いで駆け込んできた。アヤメは返事もせずに封書を受け取り、何かしらの紋様が押された蝋の印をきれいに剥ぎ取る。そしてカウンターに封書の中身を広げ内容を確認するが、その目には驚きと困惑の色で満ちていた。


「ちっ! よりによってこんな時に無茶苦茶なクエストを放り込んできたもんだ。しかも期限付きだよ! 王都のお偉いさんはオルーツアを試そうってつもりなのかね。」


 クエストの内容を覗きこんだレイカは硬直している。そして口だけ動かして無理無理……って呟いている。


「緊急クエストってもう五年振りくらいですよね……いつ発令しましょうか? って発令したとして、希望者は集まるのかしら……」


「このクエストは発令したら今すぐにでも受けれるけど、この攻略はほぼ無理。とても完遂できる人間がこの町にはいないよ。挑戦しても無駄に死人が出るだけかも。」


 アヤメは目を伏せてじっと考えている。どうシミュレーションしても攻略のビジョンが見えないのだ。


「そうですね。私でも無理としか言えません。だからでしょうか……報酬額がすごいことになってますね……」


 アヤメは迷っていた。この緊急クエスト攻略によってこのオルーツアをいや、このオルーツアと冒険者ギルドが周辺地域に名を轟かせるか、王都のクエスト一つすらこなせないひ弱な田舎町として汚点を残し蔑まれていくか。

 行き場のない私を受け入れてくれたこの町。強者すらいないギルドなのかと卑下にされてこのオルーツアの名は汚したくない。何ができる? ギルド長として何ができる?

 誰かできる者はいないのか? 希望を託せる者はいないのか?

駄目だ。何も頭に思い浮かばない。仕方ない。こうする以外に今の私にできることはない。


「町長に緊急クエストを伝えるんだ。今回のクエストはBランク以上の者しか参加させられない。それ以下の冒険者はすべて断るよ。行っても無駄に命を失うだけだからね。」


 アヤメの凛とした声とあまりにも冷めた眼差しにレイカはびくっと身じろぎし、慌てて町長の元に遣わせる伝令の手配をする。


―誰か……旅の人でもいいから…―


 レイカはそう願いながら緊急クエストの写しを掲示板のに張り付ける





【キリサバル王国宮廷料理長と魔術師官長よりクエスト】



〔依頼内容〕


 レイザーサーモン15匹


 この度の収穫祭にて王国宮廷料理団がオルーツアにて国王の御前で調理をする故に三日目の朝に鮮度が落ちていないものを準備すること。


※鱗が剥がれていたり傷があるものは無効とみなす※



〔報酬額〕


5,000,000G




緊急クエストの依頼内容は魚でした。


しかしなぜ魚を入手するだけなのに命懸けなのでしょう?


理由は明日明らかになります。

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