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4 町の噂話には気をつけよう

一仕事終えてギルドに戻りました。

「戻りましたよ~ボス!」


 レイカさんに続いてニーチェとオル、そして俺がギルドに戻る。あのエルフに破壊された扉が目立っていて、行き交う人々は何事かと中をチラ見しながら通りすぎて行く。


「おかえり! ご苦労さんだったね。ん? キノくんどうしたの? あ! 昼休憩か! 一緒に食べに行こっか?」


 むっ…アヤメさんはまだ昼を食べていないのか? そしてギルド内にいる冒険者の方々の視線が痛い。


 ムキムキ戦士A「なんであいつはギルド長に飯誘われてるんだ? 親族か?」


 軽装備の女子「なんでもあの坊やがタートルドラゴンを一人でやったらしいよ。噂のルーキーさ。」


 ムキムキ戦士B「ほぅ。人は見かけによらないな。どう見てももやしっ子じゃねぇか。ギルド長のお気に入りってわけか。」


 金髪のそこそこイケメン「なぜおまえはアヤメ様にまで贔屓にされてるんだ! アヤメ様から離れろ!」


 ……う~む。何かこんな場面をつい先日経験したな……最後の金髪イケメンくんも見覚えがあるぞ。だが今は相手にするのも面倒だ。


「えっと……依頼は終わりましたので戻ってきました。んでもって、昼もみんなで食べてきたので……」


「終わったですって? ピッピさんとこの在庫は結構な量だから半日で終わらせるなんてできるわけないよ! レイカちゃん達と私をからかおうなんて100年はや……」


「ギルド長。本当です。」「ほんとに終わったんですよ!」「にゃんにゃん!」


「ほんとにほんとなの?」


「本当です。ほらこちらにピッピさんのサインが。」


 そう言ってアヤメさんにサイン入りの依頼完了書を渡す。受け取ったアヤメさんはしばらくの沈黙の後に唐突に俺を口説きだした。


「キノくん。あなたここで働かない? 三食昼寝付きで希望なら二週間に一回飲み会開いてもいいわ!」


 むちゃくちゃ真剣な眼差しで言わないでもらいたい。レイカさんが「私より優遇されてる……」って涙目になってるじゃないか。


「あはは……せっかくのお誘いですが遠慮しときます。とりあえず報酬を……」


「じゃ、月末の3日だけでもいいから! うちのとこも冒険者の管理が大変なのよ! 毎月二人で各個人のクエストと達成報酬の書類整理するのに月末は夜中までやってるのよぉ――――! あなたの才能を月末だけちょうだい!」


 うわ……目がマジだ。今にも血の涙を流しそうなアヤメさんだが、俺はきっぱりと断る。


「ごめんなさい。」


「いや――――! 私を捨てないで――!」


 いやいや! 捨ててないから! レイカさんもここぞとばかりにわざとらしく泣いてる振りをしない。外からもたくさんの人が中を覗いてるぞ。


 通行人A「どうしたんだ? ギルド長が捨てられるだと!? こんな昼間っから痴話喧嘩か!」


 通行人B「うわ……婚期遅れたギルド長を捨てるって……遊ぶだけ遊んでポイ捨てか……ひっでぇ男だな……」


 ムキムキ戦士B「おいおいおい! お気に入りって、そっちのお気に入りだったのかい? そりゃねえぞ坊主。責任は取ってやらんとギルド長はこの先結婚できねぇかもしれんからな。」


 金髪のそこそこイケメン「うあああ! なんて男だ! 女性をなんだと思ってるんだぁ! まさかニーチェさんもこいつの手にかかって……このクソ野郎! 外へ……外へ出ろおぉぉ!」


 もういい加減にしてほしい。


「アヤメさん。町中がパニックになる前にこんな茶番劇はやめましょう。このままじゃ、近いうちに俺は暗殺されるかもしれません。それからレイカさんもうそ泣きはやめましょう。」


 カウンターで崩れ落ちてたアヤメさんがのそのそと立ちあがり報酬の準備をする。


「ちっ。この程度の泣き落しじゃ君は崩れないか……ならば子供ができたって騒げば…」


 おい……今舌打ちしたよな? そして子供ができたとか恐ろしいデマは絶対にやめていただきたい。間違いなく俺は今夜中にあの世に行くだろう。


「にしても、どうやって依頼を終わらせたのよ? どんな会計士でもこんなに早くできなわよ。下手したらこれだけで生きていけるかもしれないほどの能力よ……」


「でしょでしょ! 私も聞き出そうとしたんですがどうしても教えてくれないのです。こうなったら三人で夜を共にして…」


 なにぃ!? そんな夢みたいなことが! まだそんなプレイは経験したことないですがどうぞよろしくお願いします! ってニーチェ怖い。俺の背中で撫でるようにナイフを滑らせないでくれ。そしてナイフの刃が俺に向いてるぞ。それって力入れたら俺切れるよね?

 ニーチェから精神的恐怖を受けている間に報酬の準備ができたようだ。コトリとカウンターの上にある銀の皿に金貨が二枚置かれる。


「はい! 報酬の金貨2枚よ。次はもっと刺激的な依頼を受けてよね! すっごく期待してるんだから!」


 あなたは一体何を期待してるのか? 刺激的=生死に関わる事例と認識しててよいでしょうか? にやにやしてるアヤメさん達とギルドにいる冒険者の面々を後にして、とりあえず報酬をもらった俺は今日はエルシュさんの家に戻ることにした。


帰りながらニーチェに棚卸のために何を使ったか説明した。俺が使ったのは電卓だ。この世界では数を数えるときにほぼすべて紙に個数を書き出して計算するみたいで、複雑なかけ算や割り算はなかなか市民に浸透してないようだ。ニーチェに電卓を見せて実際にやってみてもほぼ理解してもらえなかった。どうやらおつむの方はまだまだ子供だな。


 家に戻るとちょうどエルシュさんは出かけるところだ。なにやら慌ただしそうだな。いつもとは違う戦いに赴くような姿だ。背中に背負った大斧がそれを物語っている。


「おかえり二人とも。ちょっと出かけてくるから晩飯はなにか適当に食べてくれ。なるべく早く帰るようにするが遅くなるやもしれんからな。」


「分かりましたが……何かあったのですか? どう見ても狩人みたいな格好ですよ?」


「おじいちゃん何かあったの? そのアックスを持ち出すなんてただ事じゃないわよ!」


 今にも玄関から飛び出ようとするエルシュさんだがニーチェに捕まえられてしまう。理由を言わないとニーチェはその手をほどきそうにない。仕方なくエルシュさんは二人に告げる。


「実は先程緊急クエストがギルドから発令されたのじゃ。ちょうどおまえ達が帰る直前にな。期日までに完遂しなければ…」


 ひどく顔色が悪いな。それほど至難なクエストなのだろうか?


「そっか……無理しないでね!」


 見送るニーチェも不安そうだ。エルシュさんを見送り椅子に座ったニーチェは深いため息をつく。他人事ながら俺も不安に襲われる。


「ニーチェ大丈夫か? あのエルシュさんの様子だとなかなか厳しいクエストっぽいな。」


「うんうん。依頼内容を聞き忘れたけど、あんな表情のおじいちゃんは久しぶりに見たよ。何もなく帰ってきてくれたらいいんだけど…」


「そうだな。エルシュさんの無事を祈ろう。」



 しかしその日の夜も次の日の朝を迎えても、エルシュさんは戻らなかった。


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