14 クエストが終わったら忘れずに報告しよう
町に戻ってきました。
「おっしゃ~~! 帰ってきたぞ~~~!」
町の門をくぐり、とりあえずギルドに向かう。エルシュさんの家からギルドに行くよりも直接向かうほうが近いのだ。
「やっぱり人がいたら安心するな。魔物に襲われる心配もないし。だが、焚き火を囲んでまったり外で過ごすのもいいもんだったぞ。また行こうぜ。今度は討伐なしでな!」
ニーチェに話ながら通りを歩いて行く。ひとつのクエストをこなしただけでもう一人前の冒険者の面をしてしまう。町行く人がそんな有頂天な俺を見ているような錯覚に陥る。いや。実際見られてるな。しかも凝視されてるな。みなさん目からレーザーでも出しそうな視線だ。
「おいニーチェ。なんだかえらくみんなから見られてるような気がするんだが? 気のせいか?」
少しばかり早歩きなニーチェに聞いてみるが
「おっさんの気のせい。」
としか言わない。どうしたんだ? また俺をおっさん呼ばわりして。そして顔が真っ赤だぞ。腹でも痛いのか?
おっさんA「おお! 今まで女性パーティかエルシュさんとしか討伐に行かなかったニーチェちゃんが!」
若者B「うわ……ニーチェちゃん……あんな男のどこがいいんだ……」
はなたれ坊主「ねぇお母さん。ニーチェ姉ちゃんはあのもやしみたいなおっちゃんと結婚するの?」
金髪のそこそこイケメン「おいそこの黒髪! どうやってニーチェさんをたぶらかしたんだ! ニーチェさんから離れろ!」
なんなんだ。どうなってるんだ?
「……あの~ニーチェさん? これは一体?」
恐る恐る彼女に問いかけるが
「知らないっ!」
という一言だけ残してものすごいダッシュでギルドに走っていった。
……とりあえずはギルドに行くか。
「いらっしゃいませ~! あっキノさん! 無事に帰ってきたんですね!」
相変わらずのレイカさん。毎度のことながら笑顔がまぶしい。うん? ニーチェがいないぞ。
「おお! クエスト完遂してきたぜ! ところでニーチェは? 先に来てるはずなんだけど……」
「ニーチェさんなら裏で破竜石を出してますよ。さすがにここじゃあれですからね。行ってみますか?」
そりゃそ~だ。確かにこのギルドのロビーは広いが石っころを300キロ広げるとか迷惑でしかない。
「うんうん。じゃ入らせてもらうよ。」
受付の横の扉から奥に通される。レイカさんに案内してもらいながら薄暗い通路を進んでいくと、その奥の広まった部屋でニーチェが石を取り出し終えていた。
「遅いよ! あんまり遅いから私だけで破竜石を取り出したよ。」
「いや~遅いって言われてもな。あんな猛ダッシュについて行けるわけないだろ。馬でも無理だわ。」
「きぃ-! もうキノのバカ!」
なんだこの情緒不安定娘は。まともに相手してたら話が進まない。レイカさんに話を振ろう。
「レイカさん。クエストの依頼品とかはここまで持ってきて納品すればいいんですかね?」
「そうですよ。依頼品のなかには高価なものもありますから、ロビーでは出さないでくださいね! 盗みのスキルを持ってる冒険者もいますから気を付けておかないと、せっかくクエスト完了しても納品前に盗まれたら大変ですからね。」
むぅ。そんな輩もいるんだな。十分注意しとかないとな。
「報酬は受付で渡しますからここへは納品だけのために来る場所と思って頂いたらよいですよ。では受付へどうぞ。」
そう言って来た通路に戻る。ニーチェは先に戻ったようだ。都合がいいからレイカさんに聞いてみよう。
「ちょっとレイカさん聞いてくださいよ。さっき町に戻ってからニーチェがおかしいんです。元からおかしい子だと思ってたのですが、更におかしくなってるんです。どうしたらいいでしょうか?」
クエストから帰還してここまでのあらましを話すとレイカさんはケラケラと笑い出した。
「ちょっとキノさん笑わせないでください! もうニーチェさんのことはそっとしてあげましょう。明日になればいつものニーチェさんに戻ってますよ! あ~おっかしい!」
なんなんだ。レイカさんは理由が分かってるのか?まあいい。今度時間があるときに聞いてみようか。
「はい!それじゃ報酬だよ! 二等分でいいかい?」
アヤメさんがどさりと金貨が入った小袋をカウンターに二つ置く。
「ああ。それでいいですよ。」
小袋をひとつ取りカバンに納めようとすると待ったがかかった。
「オルちゃんいるから三等分じゃない? ちゃんと一匹倒したんだから。」
慌ててニーチェが三等分にするよう取り繕うがきっぱりと断る。
「俺とオルで一人分だ。居候してる身だしな。それにニーチェの指導がなかったら倒せるものも倒せなかったからな。ほんとに感謝してるぞ。だから半分はお前が受け取れ。」
「む-……わかった! じゃ半分こだね!」
にっと笑って報酬を受けとる。
「ねぇねぇねぇ」
ん? どうしたんだアヤメさん?
「倒したってキノくんが?」
「はい。そうですよ?」
「物陰からニーチェちゃんの戦いっぷりを観察してたんじゃ?」
「いえいえ。俺が倒しましたよ。一匹。」
「あっ! この魔獣ちゃんに手伝ってもらったんだね♪」
「いえいえいえ。一人で倒しましたよ?」
「え……マジ?」
「はい。本気と書いてマジです。」
「そうだよ! キノの戦いはすっごかったんだよ! そのあと卒倒したけどね!」 「にゃんにゃん!」
「おい! それを言うんじゃない! まぁそういうことでちゃんと俺も働いたんで! またクエスト受けに来ますね!」
「あっはい。待ってるよ……」
よし! 記念すべき初クエストは無事完了だ! 明日はゆっくり休むぞ! オルにもいいもん食わせてやろうかな!
~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~
二人と一匹が出たあとのギルド内
「ねぇ。今の会話はリアルよね?」
「うん。ニーチェさんが嘘を言うわけないわよね。」
「よね。」
「Fランクの初クエストがタートルドラゴンってだけでも、槍持って戦地に赴く農民レベルなのに倒してきたって……それも一人で一匹を……」
「テイマ-として戦ったわけじゃないからやっぱりあの剣が……」
「どうなんだろ! どんな戦いをしたのかすっごい気になる!」
「そうとなれば……」
「「今度ついていってみよっか?」」
これで第一章終わりです。
明日から第二章に移ります。




