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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第1章 オルーツアを生活の拠点としよう
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13 弱点を攻めるのは立派な兵法だ

タートルドラゴンを倒したキノです。


どうやって倒したのでしょう?


 ……チ


 ペチペチ


 う……うぅ……こうばしい臭い。


―目を覚ましたか―


 もふもふが側にある。オルか。オルの肉球の臭いか。


「あっ! 目を覚ましたね! 気分はどう?」


 ニーチェの声だな。相変わらず目覚まし替わりになる声だ。


「おぉ。まだ眠いな。もう少し寝ていいか?」


 徹夜明けにおもいっきり神経削るような真似をして、戦いが終わって気を抜いた瞬間に意識が飛んだようだ。この寝不足からくる気だるさはいただけない。もう少し寝よう。


「ダメだよ! 夜になるとタートルドラゴンなんて比べものにならないくらい強い魔物が水辺に寄ってくるんだから。」


「はい! すぐ起きます! そしてさっさと退散しましょう! って破竜石を剥ぎ取らないと!」


 ものすごい勢いで起きあがり周囲を見渡す。すっかり日が落ちている。昼間とは違うもんだな。あれだけ美しく壮大な景色が、今では底知れぬ闇の塊のようで魔物の棲み家にしかみえない。


「破竜石なら私が剥ぎ取ったから心配しないで。それにオルちゃんの討伐も終わったからあとは帰るだけだよ。」


 おお! ありがたい! 剥ぎ取り方はまた今度教えてもらわねば。

 身に付けていた手袋を取りブーツに履き替える。おっと。忘れずにこいつもカバンに戻してと…


「いつまでもここにいたらほんとに危ないから早く戻りましょ。昨日野宿したとこまで行けば安全だから。」


「わかった。何から何まで助けてくれてありがとうな!」


「いえいえ! それよりも後で色々と話してもらうわよ。」


 いたずらっぽく笑いニーチェが先導する。知りたいのはあれのことだろう。隠す必要もないし落ち着いたら話してやろうか。



 急いで昨夜の場所まで戻り早速天幕を張る。見よう見まねで俺一人でやってみたが案外簡単にできた。さすがに地球では建築関係の仕事をしていたからこのくらいできて当たり前か。


 昨日と同じく焚き火を囲んで飯を食べる。疲れた体に染みる。


「オルの戦いは残念ながら見れてないがどんなだった?」


 軽く火で炙ったパンに香草で味付けした干し肉をはさんでかぶりつく。味は悪くないが干し肉が固すぎて歯が欠けそうだ。

 ニーチェもフガフガしながら干し肉と格闘しているようだ。

 オルは……大丈夫だ。よほど腹を空かしていたのかフーフー唸りながらとても近寄りがたい雰囲気でがっついている。心配しなくても横取りしないぞ。


「オルちゃんはね」「真っ正面から挑んだのよ。あのちっちゃな体がタートルドラゴンより」「も大きく見えるようであれがザネックスさんの」「馬をおとなしくさせた獣気なの」「かな」


 言ってる内容が分かりにくい。口の中に物を入れてしゃべるんじゃない。


「とにかくすごかったんだよ。水刃が吹き出される前に首筋に爪をたてずにそのまま引っ掻いたらそれだけで倒しちゃったの。首が切れてるわけでもないのにタートルドラゴンは死んでたのよ!」


 余程すごい場面だったのだろう。こんなに興奮しているニーチェを見るのは初めてだ。


―どういうことだ? 血を流さず倒したと?―


―あれはな、タートルドラゴンの首筋を軽く叩いて骨を砕いてやったのだ。見た目には傷がついてないように見えるが即死だろうな―


―おっそろしいな……猫パンチで仕止めたのかい……お前はどれだけ最強モードに溢れてるんだ?―


―ワシは最強などではないぞ。最強と言うのはお前みたいなやつのことを言うのだ。いずれ分かるときがくるであろう。たぶんな―


 オルのやつもったいぶった言い方しやがって。今の俺にはシェーラさんの加護とか祝福とかわからん。だいたい身体能力があがってるわけでもないしな。

 食べかけのパンと干物を完食しごろりと横になる。空気が汚れていないせいで星がきれいだ。だが地球で見たことがある星座なんてひとつもない。やっぱり異世界なんだな。


「ねぇキノ。キノがタートルドラゴンを倒したのって魔術なの?」


 いつになく真剣なニーチェだ。よしよし。話してやろうじゃないか。


「いや。あれは魔術なんかじゃないぞ。その証拠に俺には魔素がないだろう?」


「そうなんだよね~。だけど、あんな魔法知らないからてっきり魔術だと思ってたんだ。どうやったらあんなことができるの?」


ふふふ。仕方ないから特別に見せてやろう。そしてその手に取ってみるがいいぞ。


「ほら。これだよ。こうやって持って、ここを握って口を近づけて…」


「「「なんなの? これはぁぁぁ!」」」


うおっ! こいつはうるさい。。。オルも飛び起きたぞ。


「びっくりさせるなよ。オルがまた毛を逆立ててるぞ。」


 ニーチェの足元で丸くなってたオルはまたしてもしっぽをたわしにして目を真ん丸にしている。


「ごめんごめんオルちゃん! これって一体何なの!? 自分の声がこんなに大きくなるなんて……しかも私の魔素が全然減ってないし……」


 ふはははは! 無知なお前に教えてやろうではないか! 心して聞くがよい!


「教えてやろう。それはメガホン型拡声器だ!」


「え? 何それ?」


……ま、そりゃそんな反応になるわな……


「えっと……これは自分の声を大きくするものなんだ。俺の住んでいた国の道具なんだが、タートルドラゴンの持ってる特質を逆に利用して使ってみたんだ。やつはすごく耳がいいって教えてくれただろ? エルシュさんも爆発系の魔法で耳を潰すって。」


 瞬きもせず俺の顔を見つめコクコクとうなずくニーチェ。そんなに見つめられるとちょっと恥ずかしいぞ。オルも座り直して俺の話を聞いている。


「オルーツアで過ごして感じたのは、町そのものが静かなんだよ。陰気臭いって意味じゃないぞ。俺が生きてきたところと比べて物音が小さいんだ。そして町を一歩出たらこれまた静かなんだよ。自然の音しかしない。じゃあ、普段からこんな穏やかな空間で生活してるなら爆発系魔法にも匹敵する音量を拡声器が産み出すだろうと考えたのさ。」


「なるほどね……キノの言う通りだよ。さっきの私の声なんて普通に喋っただけなのにあれだけ大きくなるんだもん。おもいっきり耳元で叫んだら、聴覚に優れたタートルドラゴンなんて……」


「だろ? まぁ、あの叫びだけで倒せるとは思わなかったが、二個使ったのがよかったのかもな。そしてこれを手に入れたのが例のあれだ。」


「ネットショッピングね!」


「うむうむ。このクエストのために手袋と地下足袋と拡声器二個で12000Gなくなったが報酬を考えたらプラスだな。」


「ほぇ~ネットショッピングってほんとにすごいよ! 気転を効かせたキノもすごいけどね!」


「物には適材適所って言うからな。今回は拡声器がぴったり当てはまったって感じだ。とにかくクエストを果たせてよかったよ。ところでニーチェの隠者ってスキルはあれか? 物音を立てずに動くってやつか?」


「うんうん。ほぼあってるよ! 物音立てずに動けて、尚且つ半径3メートルの中だったら瞬時に動くことができるんだよ! まだまだ訓練中だけどね。どうしてもスキル発動した一歩目の踏み込む音が感知されやすくて、タートルドラゴンならいいんだけど、俊敏な魔物だと先手を取るのさえ厳しいかな。」


「そうなのか? 俺が見た限りだと普通じゃ考えられない動きだったぞ。」


「そう言ってくれるのは嬉しいけどまだまだだよ。おじいちゃんにはまだ遠いよ。」


 おい……どこまで高みを目指すつもりなんだ? 間違いなくこいつはエルシュさんに訓練されてるな。


「まぁ、ほどほどに強くなればいいんじゃないか? これ以上強くなったら嫁の貰い手がなくなるぞ。お前のことだから『私より強くないと旦那は務まらないわよ』とか言いそうだ。」


 ケラケラ笑ってると純情な乙女が般若に変化した。


「当然よ! 私の夫になるには私より強いのが最低条件だからね!」


 うんうん。わかったからその右手に持ってるナイフはしまいましょう。暗闇に光る刃物ほど怖いものはないぞ。


「さて、騒ぐのはこれくらいにしてもう俺は寝るぞ。マジで疲れすぎて目を開けとくのもしんどいわ。」


「あ……うん。わかった! 朝になったら町に戻ろうね!」


 俺はわかったと手を挙げ彼女に背を向け意識を飛ばす。次からは絶対楽なクエストにしようと誓いながら。







『キノってやっぱり召喚者なのかな……あんな力今までみたことないし……ううん! そうと決まったわけじゃないよね! 寝よ寝よ!』


 キノに背を向け瞳を閉じる。今までと何か違う。強く雄々しい冒険者が唯一の正義だと常に思っていた。だが彼は違う。とても冒険者とは呼べない弱い男。だが、あのタートルドラゴンをたった一人で倒してしまった。



「ふふっ。おじいちゃんに今日のこといっぱい話さなくっちゃ」



明日からどんなクエスト受けようかな。楽しみばかりが広がる。












 

次回が第一章の結びになります。

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