11 クエストをしに行こう
初クエストはなかなかの難しさみたいです。
「えっと~回復薬と毒消しと~」
「にゃ!」
「3日分の食べ物と飲み水と~」
「ににゃ!」
「着替えと天幕と~」
「にゃ~ん!」
「ま、こんなもんかな。ほら行くよ! いつまでもぐずぐずしないの! 初クエストだよ!」
なんということでしょう。
どうやら俺はもうすぐ命を落とすようです。
「死なぬ程度に頑張ってくるのじゃぞ!」
笑顔で送り出してくれたエルシュさんが憎々しい。
こうなったら理路整然と忠告してニーチェに納得してもらうしかないな。
「いいかいニーチェよ。年頃の男女が共に夜を明かすなんてハレンチにもほどがあるぞ。しかも一晩だけでなく二晩も。そりゃあもうね……大変なことになるぞ!」
「……大丈夫。私はあなたをそんな目で見ないし間違いは起きないし、もし襲われそうになったらタートルドラゴンの餌になるように骨ごと切り刻んであげるわ。下半身からね。」
この子怖いよ。冗談がまるで通じない。
俺がこんなに行きたくないのには理由がある。
このクエストはDランクの冒険者が三人以上のパーティーで挑むものらしい。
ちなみに俺はFランク。おかしいでしょ? なぜ俺が高ランクのクエストを受けられたかって? ニーチェがなかなか強かったのさ。高ランク者が受けたクエストは底辺ランクでも同行できると。もちろん報酬は均等に分配される。
ニーチェはCランクの冒険者。どんだけ強いんだ!? まぁエルシュさんの孫ってことを考慮すると納得はいくのだが…
いくら駄々こねても意固地になっても、クエスト登録したからには遂行する義務があるらしいので、腹をくくって行くしかない。
「サガラ川ってどこにあるんだ?」
ニーチェと並んで歩きながら行き先を聞く。
「そうね~あの一番高い山の麓にサガラ川があるんだけど、川沿いにいるタートルドラゴンを探しながら歩かないといけないから着いても歩きっぱなしよ。じっとしててもやつらは出てこないからね。」
「ニーチェは戦ったことあるのか? やっぱり強かった?」
「う~ん。おじいちゃんに戦い方を教えてもらったきり遭遇してないけど、確かに水刃は厄介だよ。あのくらいの木なら簡単に切断するからね。」
そう言って目の前にそびえている20メートルはあろうかと思われる杉の木を指差す。
「やっぱ帰ります。僕には町の溝掃除が似合ってます。」
くるりと踵を返すと見事に襟首をつかまれた。
「やってみなきゃわからないじゃない。破竜石300キロなら3匹倒したら十分よ。つまり……ひとり一匹ね! オルちゃんも頑張るんだぞ~!」
「にゃ~ん!」
僕はやるよ! と言わんばかりの力強い目でオルはニーチェを見上げる。
何が『にゃ~ん!』だ。てめぇこそ余裕だろうが。
そして追い詰められている俺に向けられるオルからの真剣な眼差しと濁りのない言葉。
―この戦いでお前の真の力みせてもらうぞ―
―いや! 真の力って今のこの状態が真の力なんだからね! これ以上もこれ以下もないぞ―
オルよ。そんなシリアスに言われても本気で困るぞ。冗談のほうがまだ気分的に楽だ。
―何を言っておる。シューラ様の祝福と保護を受けし者よ。まぁ、己が気づかねば宝の持ち腐れというやつだがな―
―まったくもってお前の言う意味がわからん。祝福? 保護? 何ももらってないぞ。あのレゴブロックからはこのブレスレットはもらったがな。とにかく俺は生きる! なんとし……―
オルと話してると急にニーチェが話しかけてきた。
「さっきレイカさんが言ってたのちらっと聞こえたけど、ザネックスさんの馬を鎮めたってほんと?」
「あ、ああ。だけど鎮めたのはオルだぞ。俺は死を覚悟したからな。」
「胸張って言うような事じゃないと思うけどね。。。それにしても……オルちゃんってすごく強いんだね! 獣気であの二頭の馬をね……」
「そんなにすごいのか? 確かに空気が変わったのを感じたが。」
「うんうん。凄すぎるよ。だっておじいちゃんでさえあの馬の1頭すら束縛できなかったんだから。」
マジですか……
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日が傾きかけ周囲が夕暮れに染まり始める。緑に覆われた草原が深い藍色に変わりつつある。
「だいぶ歩いてきたわね。もう少ししたら川辺に出るんだけど、夜の川辺は夜行性の魔物が集まりやすいからこの先の開けたところで今日は休もうか。」
「おう。もう俺の足はパンパンだ。歩けと言われても歩けんぞ。」
「ははは! よく歩いたよね! じゃ早速天幕張って、火をおこして……」
そう言って彼女は持っているマジックバッグから天幕を取り出す。マジックバッグはある程度経験がある冒険者は各自持ってるそうだ。しかし俺の持っているものとは違い保温や保冷、防腐効果はないらしい。
ニーチェは器用に木の杭を柱にし、荒布をかけ雨避けを作る。そして近くから小枝を集め一言二言呟き右手を向ける。するとソフトボールくらいの火の玉が現れ小枝を燃やす。
「すげ~~! 初めて魔術見た!」
正直この時ばかりはニーチェを尊敬した。いやニーチェ様を尊敬した。
「違う違う! これは魔術じゃなくて魔法だよ。魔素があれば誰でもできるはずだけど……キノは……うん。魔素ないわね。びっくりするくらいないわ。」
「うるさい。自分でも分かってるんだ。で、この魔素ってのは訓練したら身につくのか?」
焚き火になった火のまわりに猪串を刺す。熱々のうちにカバンに入れていたがこうして焼き直すのも乙なものだ。
「たぶん訓練次第だと思うけどね。しかもどれだけ自分の魔素を強くできるか限度も分からないよ。」
「そうなのか。んでもって魔術と魔法は違うのか? 俺はてっきり同じものだと思ってたんだがな。」
少し焦げ目がついた猪串から肉をばらしオルの器に盛ってやる。
「えっとね、魔法って言うのは唱えるものなの。詠唱して発したり無詠唱で発したりするんだよ。それに対して魔術は陣や生贄なんかを用いて見えない領域から力を借りるのを前提としたものなの。」
ほほう。ということは……昨日の店は確か魔術具って書いてあったよな……
―昨日おもいっきし弾かれた店は魔素さえ培えれば入れるんだったよな?―
ハフハフしながら猪肉と格闘しているオルに訪ねる。
―そうだ。だが、魔術は魔法を操るより膨大な魔素が求められるからお前ではいつになるやわからぬぞ。そんな事より明日には死ぬかもしれぬというのに魔術だ魔法だと呑気なものだな―
嫌なことを思い出させるんじゃない。せっかく脳内から消去して考えないようにしていたのに。しかしいつまでもこのままじゃいかんから対策を練らないと。
「ありがとう。教えてくれてなんとなく違いが分かったよ。ところで話は変わるが、タートルドラゴンって弱点はないのか? なにも情報がないのに悠然と立ち向かうほうが自殺行為だ。」
「うんうん。基礎的な事は知っておかないとね! 私の知ってる限りなんだけど、タートルドラゴンは動きはとっても遅いんだけど、聴覚、視覚がすごく優れているから鎧を着てガチャガチャしてる戦士とかは戦いに不向きだよ。」
ほほぅ……
「どちらかって言うと、私達みたいに軽装な装備が推奨されるの。背後から近付いて攻撃するのが普通かな。それでも首を伸ばして水刃を至近距離から飛ばしてくるから厄介な魔物なんだよ。」
なるほど……
「あと、おじいちゃんはおっきな音でタートルドラゴンの耳を潰してから攻撃する方法を教えてくれたんだけど私には爆発系の魔法使えないからその方法はダメなんだ。」
なるほど……な・る・ほ・ど……なるほど!!!
「俺、いけるかもしれん。いやマジでいけるはず! ニーチェ先生よ! 俺にタートルドラゴンに後ろから近づくときの注意点と近づき方を教えてくれ! それとからだの特徴を!」
「う、うん。いいけど……急にどうしたの? あれだけの説明でなんとかなる魔物でもないよ? 一応Dランクパーティ推奨の魔物なんだけど……」
ポカーンと鳩が鉄砲を食らったような顔をしている一匹と一人を前に、活路を見いだした俺はカバンからタブレットを取り出してネットショッピングのトップページを開いた。
タブレットの登場です。
さてさて
何を買うのでしょうか




