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異世界転移したんけどほぼ普通の人間なので毎日がサバイバルです  作者: おるる
第8章 常識が通用しない世界もある
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9 お金がない!


「ふい~。ネルのやつは一体どこに行ったんだ? とりあえずあいつがいないうちに何か買っとくか……って……金がない……」


 食べ終わった後片付けを済ませ、昼を過ぎ強くなった日差しを避けるべく一人木陰で待つキノ。

 タブレットを開いてチャージ金を確認するのだが、チャージされているのは10,000ほどしかない。


「手持ちは……ぬおっ!?」


 バッグの中から皮袋を取り出してみるがほぼ重さを感じない。まるで小学生のペラペラの財布並の軽さだ。念のため中身を確認するが、入っていたのた銅貨8枚のみ。


「う~む。800Gか……ほか弁くらいしか買えないくらいの小銭しかない財布とは……」


 おもむろに皮袋とタブレットを投げ込むと深いため息をつく。


「さすがに……やばいぞ。全財産が11,000Gだと? マジでどうすんだ……ネルに借りる? いやいやそれはさすがに俺のプライドが……この地の冒険者ギルドで依頼を受ける……うむ。それしかないか。だけどネルが言ってたよな。《俺が住んでいる地よりも魔物が格段に強い》って。。。」


 キノが憂慮しているのは当面の食費だ。10,000Gほどでどれだけ食いつなげられるかだけが現状最も関心を払わねばならない問題なのだ。


「絶対に……食料だけはまともなもんじゃないと……ネルみたいにムカデなんか食えるかってんだ!」


 そうである。キノは思い出していたのだ。


 アンデッドを食料として持ち帰ろうと袋に突っ込んだあの嬉しそうなネルの横顔。


 その袋から覗いていた紫色の血が滴る何かの肉塊。


 料理を振る舞おうと二メートルはあろうかというムカデを引っ張り出して、その足をむしり取りバリバリと頬張る至福の表情のネルの笑顔。


「この地に住むネルがあんなもんを普通に食ってるって事は……まともな飯は皆無なはず。……冗談じゃねえぞ……それに調子に乗ってネルに食わせちまったせいで、あれだけ釣った魚もあと三匹しか手元にないし……」


 ない知恵をフルに働かせて今後の食事プランを考えるキノだが、結論として一つの答えしか導き出せない。


[頑張っても一週間食っていけるのが限界]


「よし! もう深く考えるのはやめ! なんとかなるだろ!」


 木にもたれていた体を地面に投げ出して大の字に寝転ぶ。時折頬を撫でるように過ぎ行く風が心地よい。

 ネルと再会するまでは、見ず知らずの地に一人放り出されたような孤独感に包まれていたが今は違う。たった一人でも話せる知人がいるだけでこんなにも見える景色が違うのかと再認識させられている。


「にしても遅いな。まぁいいか。そのうち戻ってくるだろうからちょっとばかり食後の昼寝を……」


 張り詰めていた心が解放されたのか、寝転んだまま軽く伸びをすると、深い井戸に落ちるようにキノはすぐに微睡んでいびきをかき始めたのだった。





~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~






「……よ。」


 途切れかけたキノの耳に入ってくる。


「……きよ。」


 少し前にも聞いたようなフレーズがキノの耳に入ってくる。そしてあからさまな殺気が……。


「起きよと言っ……」


「あっぶねぇ!!」


 まさに飛び起きるといったところか。キノの寝転んでいた地面の額があった場所は、猛烈な風圧でできたのか地面が軽くえぐられていた。


「……おい。殺す気か?」


 視線の先にはケラケラと笑い転げるネルがいた。


「なかなかの回避能力だな。ワシの微弱な殺気を感じてこうもたやすく避けるとは。お主ならばこの地においても健やかに生きてゆけるであろうよ。」


「何が健やかだ……毎日こんなハードモードの駆け引きするような生き方こなすなら、いっそのこと死んだほうがマシだ。」


 ゆっくりと立ち上がったキノは体に付いた埃を払い、大きなあくびをひとつつく。


「ところでキノよ。これからどうするのじゃ? お主が住む地に帰るには少しばかり手間と時間がかかると思うのだが……」


「だな。なんせ戻る手段が分からないしな。ここから航路で戻る方法はあるのか?」


「あるにはあるが結構な旅費がかかるぞ。それに……」


 若干難しい顔をしてネルは話を続ける。


「この地の海流は独特でな。通常海流は月の満ち欠けで潮が変わるのだが、ここにおいてはこの地における磁場が大きく左右するのじゃ。その磁場は不安定であり潮流も不規則なものになってしまう。それゆえ、風の力と潮の流れだけでは見当違いの地に流れ着く可能性が高すぎる。」


 えっ? マジで?


「さらに厄介なのは、この近辺に生息する魔物は未知のものが多い。お主が運ばれる原因となったリヴァイアサンなんぞ普通に魔物と食いあっておるほどだからのぅ。」


 ふあっ!? あのリヴァイアサンとやりあう魔物がそこらじゅうに……


「じ、じゃネルはどうやって俺が住む大陸まで来れたんだよ? いくらお前でもそう容易くは無理だろ?」


 キノの問いかけにしばらく沈黙していたネルだが、彼の真剣な眼差しを直視しきれず仕方ないといった感じで話を続ける。


「ワシは海を渡らずともかの地に行くことはできるのじゃ。大陸を繋ぐ移動陣があるのでな。だが、お主には使えぬ。」


「え……何でだよ? 俺がよそ者だからな……」


「違う! 断じて違うぞ! そういう意味ではないのだ!」


 心なしかキノの言葉を遮って反論するネルの言葉が痛々しい。彼女の言葉には頭ごなしに反論している感情だけは見当たらない。むしろキノを憐れむ、もしくは同情のような気持ちすらある。


「それよりもまずは体を休めるのが先であろう。どうやら心身共にお主には余裕が感じられぬのでな。」


 うまくはぐらかされたキノだが、実際のところネルの言葉は当たっていた。自分の置かれている状況、今後の事、流れ着いた地で卑下に扱われた事すべてが彼を蝕んでいるといって過言ではない。


「行くあてなどないのだろうからとりあえず我が家に来るのはどうじゃ? 少し休んでこれからの事を考慮すれば最善の方法を見出だせると思うぞ。」


「えっ! いいのかよ? お前には近くの町まで案内してもらうと思ってたんだけど。」


「うむ。もちろん町まで案内するだけでもよいが、せっかくなので我が家に来ればよい。それにお主が作った料理を父と母にも食わせたいからのぅ。まだ三匹ほど残っておるようじゃしな。」


「……見たのか?」


「いやいや。たまたまあと三匹とかぶつくさ言ってるのが聞こえ……ゲフンゲフン! ワシの勘じゃ。」


 こいついなくなってからいつ戻ってきて俺を見てたんだ?


「分かった分かった! んじゃお前んとこの両親に振る舞ってやるよ。約束だからな。」


「うひょー! そ~かそ~か! 来てくれるか! では早速……」


 おもちゃを与えられた子供のようにはしゃぐネルを尻目にポツリとキノが呟く。


「ひとつ確認しときたいんだが。」


「なんじゃ?」


「お前んちのご両親様は、暇潰しだと言って生命の危険を感じさせるような真似はしないよな?」


「……よし! 早速行こうではないか!」


「ちょっと待てえええぇ!」







 



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