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9 海の上は慣れてないと怖い

「うぃ~っす。」


 昨夜はゆっくり休んだのだろう。気合いの入っている顔つきのニョロゾがゆっくりとこっちに向かって歩を進めている。


「おは~。」


 昨夜は部屋飲みしたのか、息が酒臭いネシャがいつの間にか俺の横に座っている。


「眠い……」


 朝は弱いのだろうか。アヤメさんは今にも瞼が合体しそうな顔で見えない何かを探すように宙に目を泳がせている。


「おはようございます。」


 グラさんは……うん。店にいるときとまったく変わりない。



「んじゃそろそろ行こうか。皆これ飲んでおいたほうがいいと思うぞ。ほれ。」


 各自に船酔い止めの薬を渡す。実のところ、俺自身は酒には強いが乗り物酔いしやすい体質なので密かにネットショッピングで探していたのだ。


「へぇ~これで船に酔わずにすむんだ。キノくんって薬師のスキル持ちなんだ?」


「いやいや。とある伝手で手に入れたんですよ。完全に船酔いを防ぐわけじゃないのでそこんとこは注意してくださいよ。」


「ふ~ん。伝手ねぇ……」


 意味深な顔で俺を覗き込んでくるアヤメさん。ネットショッピングの事はまだ知られてないが、多分そのうちばれるだろうな。うん。



「ほら。あの船ですよ。操舵は僕にまかせてくださいね。」


 グラーシュさんが指差す先には海風に帆がなびく1隻の小型帆船が係留されている。中世の大航海時代に海原を駆け巡っていたような立派な帆船だ。


「目的の場所までは一日もあれば着くと思いますから、皆さんはゆっくりしていてくださいね。」


 そう言い残すとグラーシュさんは帆を張り、アヤメさんと一緒にテキパキと出航の準備を始めた。


「んじゃ、俺達は俺達で準備しとこうか。色々とな。」


 俺はネシャとニョロゾに声をかけ、グラーシュさんら二人を残して船内に下りて行った。




~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~



「まず今回のクエスト攻略の作戦なんだが……」


 波に揺れる船内で紙に内容を絵にしていく。


「なるほどな。だけど俺は海底に着くまでに息が続かないぞ。ってか、間違いなく死ぬな。」


「それは大丈夫だ。これを使ってくれよ。」


 そう言うとカバンからプラスチックのペットボトル型の容器を30本ほど取り出してニョロゾ達の前に並べた。


「これは空気を圧縮して詰め込んでいるんだ。一本でだいたい10分くらいはもつからな。ただし、常に口にくわえて空気が吸えるようにしとけよ。ちなみに再利用できるから吸い終わったボトルも回収しといてくれよ。」


「マジか……こんな物があったら海底散歩も夢じゃないな!」


「相変わらずキノの出してくる物はとんでもないものね……」


 今回の依頼を聞いて思いついたのはスキューバダイビングだ。魔輝真珠の採取となると、話を聞くかぎり相当の深さまで潜らないとならない。だが、魔法の効力と探索者の基礎体力を考慮するととてもじゃないが海底にたどり着くまで体がもたないだろう。


 だが、スキューバダイビングの時に用いる酸素ボンベはどうか?


 脳裏に浮かんですぐにネットを開くがここで問題が。


 酸素ボンベに酸素を充填してもらえるのは酸素の製造元会社のみ。つまり酸素ボンベを買えても酸素は充填できない。買うだけ機能のこのシステムをこれほど恨めしく思ったことは初めてだ。

 だが、なにか解決法はあるだろうかと検索してみると気になるページが。


《その場で充填! 気軽にスキューバ!》


 はい。宣伝文句に踊らされました。

 しかしながらこの宣伝文句通り酸素の確保には問題がなさそうだ。迷うことなく大量購入する。


 「あとは息の続くかぎり海底を探してみるだけだ。魔物は……ニョロゾなら大丈夫だろ?」


「正直なところ海中での戦いなんて初めての経験だから分からんよ。いざとなったらすぐに引き揚げてくれよ!」


 大丈夫。君の強さならどんな魔物が現れても問題ないはずだ。頑張れ。

 一通り説明を終わらせしばしの休息を取る。波の揺れを気にしながら横になっているとオルが話しかけてきた。


―今この船が沈みだしたら危険だな―


―ああ。あれから結構時間が過ぎているから相当沖に出ているからな。溺れ死ぬか魔物の餌になるかどっちかの可能性が高いだろうな―


―……ふむ―


 オルといえども地に足がついていないと不安になるのか。飯の催促すらしてこない様子からも見てとれる。


―まぁおまえは生き残るはずだから、いざとなったら俺以外の奴等を助けてやってくれよ。皆と違って俺はそれなりの準備はしているし、海に関する知識は漁師並にあるからな―


―わかった。だが無茶はするでないぞ。おまえが一番貧弱なのだからな―


―……うるさい。これでも食って寝とけ―


 そう言ってカバンから肉串を取り出してオルに与える。再び横になり目を閉じる。そして秘めたる思いが脳裏に浮かぶ。




《刺身食いたい……》



~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~・~~




「皆さん着きましたよ。起きてくださいよ。」


 グラーシュさんがいつもの穏やかな口調で起こしにきた。

 甲板にあがるとすでにネシャ達は来ていた。


「この船の真下に強い魔素が感じられますから、ほぼ間違いないと思います。」


「じゃ早速始めようか!」


 ネシャもニョロゾもやる気満々だ。グラーシュさんもアヤメさんも目を輝かせながら俺達がどうするのかを見ている。


「それじゃ、ネシャはこれの固定を頼むぞ。ニョロゾはこれを付けて……」


 まずはカバンから親指ほどの太さのワイヤーを取り出す。その長さは300メートル分。


「これは……鋼の綱? どこでこんなものを?」


 興味深そうにアヤメさんが手にする。


「そうですよ。普通の綱だと不安なので。出所は……とある伝手で。」


 う~む。いい加減ごまかしが効かなくなってきたぞ。


「キノ。これでいいのか?」


 振り返ると水中ゴーグルと足ヒレを付けた毛玉が立っている。


「おお……ばっちりだ。あとはさっき渡したボンベを使ってくれよ。」


 あまりのちんちくりんさに笑いをこらえながら返事をする。他の三人は笑いを堪えきれずにそっぽを向いている。


「それじゃ行くぞ! くれぐれもこれが命綱なのを忘れるなよ!」


「おっしゃ! 行ってくるぜ!」


 気合いを入れ直したニョロゾがワイヤーの先に付けた錨につかまりゆっくりと青黒い海に消えていった。





 


 





 

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