2 とりあえず今の状況をまとめてみようじゃないか 2
異世界では22歳でおっさんらしいです。
まずは言葉だが、何の問題もなく意思の疎通はできているから大丈夫っぽいな。あとは文字はどうだろうか?
ベッドから起き上がり本棚にある書籍を一冊手に取り中を見ると、見たことがない文字が綴られているがなぜか読める。
ふむ。じゃ書くほうはどうかな?
指先で手に取っている書籍の表紙に〔異世界〕と単語をイメージして指を動かしてみる。これまた見たことないスペルだが、自然と指が動く。書くほうも大丈夫だ。
読み書きができれば今後の活動がスムーズにいきそうだ。
手に取っている本を本棚に戻すときに、ふと他の本に目が留まる。
〔初心者でも簡単!呪詛モンスターの遭遇とその対処〕
〔これからの金策!人気の素材集め モンスター部位編〕
〔親子で楽しもう!Cレベル以下のモンスター狩り〕
……なんちゅー本だ……異世界はハンターの世界なのか……これは見なかったことにしたい。
それはそうと町並みはどんな感じなんだろう? 窓の外から聞こえてくる少し賑やかな声に惹かれ外を眺める。
「すっげぇ~~! こんなの映画でしか見たことない景色だ!」
そうなのだ。日本では見られなかった石造りや土壁造りの木造の家屋が建ち並ぶ町の姿や、いびつながらも整備されている石畳の街道とその街道を行き交う荷車を引く馬車。すべてが初めて見る光景だ。
町行く人々も町に自然とマッチしている。布や革でできたシンプルな服はどんな年代の人にもあっている。ゆったりとしたタイツや控えめなローブで身をまとった若者達がそれを更に引き立てて町を賑やかにしている。
そして鎧を着て大きな剣を背中に背負った重厚な雰囲気の男や、軽快な動きに対処するべく作られたような若干肌を露出した皮作りの上下お揃いの服を着た女性、見るからに怪しげな魔術を使いそうなフードを深く被った老人と思われる人物。まさにMMORPGの世界に飛び込んだようだ。
さっきのオークの事はすっかり頭から消えてしまい、しばし窓の外に広がる世界をぼんやりと眺めていると扉の向こうから俺を呼ぶ声が。
「食事ができたぞ。どうだ? 食べれそうかの?」
エルシュさんが声をかけてきた。
「はい! すぐに行きます!」
そう言うと俺はエルシュさんの声のする方へ向かった。
リビングと思われる食事が準備されているテーブルに着く。少し大きめのコッペパンとぶつ切りにして野菜と煮込んだ肉料理、そして木のコップに注がれているミルクが準備されている。
「口に合うか分からんがしっかりと食べればよいぞ。」
エルシュさんに促されてありがたく頂く。
テーブルにはエルシュさんとさっきの女の子が座って一緒に食べるようだ。
柔らかく煮込まれた肉を口に運ぶ。うん! うまい! 久しぶりに食べ物を口にしたように出されている料理にがっつく。塩味と香草で味付けされた肉と野菜が少し固めのパンにあう。素朴な味が六腑に染み渡るようだ。
「よほど腹が減っておったのかのぅ。いい食べっぷりじゃ。」
パンに肉を乗せて頬張りながらエルシュさんは頬笑む。向かいに座った女の子はウサギのように無心でモシャモシャと食べている。おとなしくしていればかわいいもんだ。
「挨拶が遅れましたが、こちらのお嬢さんは何と言うお名前なのでしょうか?」
今更ながら感があるのだが、一応名前を聞いてみる。
「この娘はニーチェと言ってな、息子夫婦のとこの一人娘じゃ。今はわしと一緒に暮らしとるのだ。」
エルシュは柔らかい眼差しを彼女に向ける。かわいくて仕方ないのだろう。見た目のかわいさは俺でも否定はしない。ニーチェは俺にちらりと目を向けるとけだるそうに言葉を発する。
「ニーチェよ。よろしくどうぞおっさん。」
「キノって名前だ。よろしくニーチェちゃん。」
「わかったわ。キノおっさん。」
うわ~もう彼女のなかでは俺はおっさん確定なんだな。変に関わると面倒なタイプだな。触らぬ神になんとやらだ。
モシャモシャと顔色変えずに食事をする彼女を尻目にエルシュさんに問いかける。
「ところでエルシュさん。なぜ、あなたはあんなにくっそ強いんですか?」
エルシュさんからいろんな事を聞いた。
まず、ニーチェちゃんの両親は旅に出ている。いつ戻るかは分からないとの事。理由は雰囲気的に話したくなさそうだ。
エルシュさんの強さは、若い頃に冒険者として様々な経験を積むことにより人より強くなったと。一応、この町では一番強いが似たり寄ったりの人はいくらでもいるそうだ。
そしてこの町はその昔に魔物に支配されかけていたのだが、エルシュさんと4人の仲間が戦いの末に町を解放し、その褒美として町長(正式には管理統治者)として就任して50年の間、人々の安全を見守っているそうだ。ただ、共に戦った仲間はこの地に留まらず、自らの安住の地を探して旅立ったそうだ。
そしてこの町には王都に負けない設備が整っていると自慢気に語る。魔物から解放された町とあって、復興の為に重きを置いたのが2度と戦いに負けない町造り。そのために武器、防具、錬金術、魔法などの生産や訓練設備、そしてギルドが整っている。そして、強さを求めここを訪れる冒険者や過去を繰り返したくない町の人の高い意識と相乗効果により、王都に匹敵するほどの強き者が溢れているそうだ。
ある程度話し終えたのかエルシュさんが食器を片付けながら俺に今後の事を語りかける。
「キノは金がないと言っていたな。落ち着くまで我が家で過ごしてかまわんぞ。今日はもう遅いから明日にでも冒険者ギルドに行ってみるとよい。己の生活の糧は己で賄わないとな。」
なんと! 一文無しの俺にはまさしく天からの声だ。
「助かります! 迷惑はなるべくかけたくないので、早く仕事を見つけて頑張ります!」
なんてできた方だ。しかも食事の後片付けまでやってるじゃないか! いっその事俺を養子にしてくれても構わないぞ。生活費はきちんと納めるがいくらでも甘えてやろうではないか。
「そう気張らんともよいぞ。町長として困っている者に手を差しのべるのは当然のことじゃ。のうニーチェよ。明日の朝キノをギルドに案内してやってくれぬか?」
「嫌です。」
瞬時に発する完璧すぎる即答だ。うん。養子には行かない。行きたくない。こんな子が身近に常にいるのは耐え難い。
「私にネットショッ◇▽○◆●☆▲!」
はいはい!黙りましょう!それ以上しゃべるのは控えなさい!ニーチェの口を塞ぎ黙らせる。こいつにはおとなしくしといともらわないとあかんな。
「なんじゃネットシ?」
「ああ! 何でもないです!」
ニーチェは急に口を塞がれてモガモガとしているがお構いなしだ。そして小声で彼女の耳元で囁く。
「ネットショッピングの事は忘れろって言っただろ?」
「だって私の人生を狂わせるくらいの物なんでしょ? 教えてくれなきゃおじいちゃんに言いつけてやる! ネットショッピングって魔法を使う疫病神だって!」
はぁ~ほんとに面倒な事になったな。俺にとっては彼女が疫病神だ。いつまで経っても押し問答にしかなりそうにないからニーチェには教えてやるか。
「わ~ったよ。じゃ見せてやるからおまえの部屋に行こうか。」
「ほんと! いこいこ-!」
ぱあっと向日葵のような笑顔を振り撒くニーチェ。現金なもんだな。んじゃ、いっちょやってみるか。彼女の金で。
ネットショッピングは異世界ではどのように発動するのでしょうか?
乞うご期待!




