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遺言  作者: 椎名 千尋
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第七章

 午後はまったりと過ごしたが、長井に聞きたい事があったので一人で出掛ける。


「あら、お出かけ?」

「さっきの長井にちょっと聞きたい事があるだけさ、すぐに戻る」

「わかったわ」


 ジムまで歩いていった、中を覗くと長井は黙々とシャドーボクシングをしている、終わるのを待っていると目が合った。


「荒木さんじゃないか、忘れ物かい?」

「いや、さっきの話の続きだが、俺はフックの方が得意なんだが、もっと上達するにはどうすればいいか聞きに来た」

「じゃあそこのサンドバックを打って見てくれないか」


 言われた通りにする、サンドバックに右フックを打ち込む、パンッといい音がした。


「いいパンチだ、だが力任せに打っているだけだ、それでも十分倒せるだろうが、コツを会長に内緒で教えよう。ステップを踏んで向かって行った時に右足が前に来る、左足から右足を踏み込む時に体のねじりを利用し、脇をしっかり締めて打つ、力は入れない。わかるかい?」


 もう一度言われたことを守って力を抜き、ねじりを入れ脇をしっかり締めて打った、サンドバックが軋む音を出しながら大きく揺れた。


「飲み込みが早いね、それでいい。力を入れなくてもさっきの倍以上の威力だ、あんたのパンチ力じゃ素人相手なら相手が数メートルぶっ飛ぶぞ、内臓破裂するかもしれないから気を付けてな」

「他のパンチも同じ要領なのか?」

「そうだ、力を入れるとこっちの体力が奪われる、全部体のねじりを使うのさ、力は要らない、体力も使わず倍の威力のパンチが打てる様になる、さっきの足運びとねじりが身につけば、俺より強くなるだろう。俺も負けないようにトレーニングしておく」

「助かったよ、ありがとう」

「後は靴も大事だ、踏ん張りが効かない靴じゃ駄目だ地面をしっかりグリップする靴の方がいい、それだけでもかなり変わる。テレビとかでも試合中キュッキュッて音が鳴ってるだろ? しっかりグリップしている証拠だ」


 会長がやって来た。


「さっきのパンチ荒木さんのパンチか? サンドバックがあんなに揺れるなんて凄いじゃないか。喧嘩相手に打たない方がいい、殺しかねない。長井が教えたのか?」

「いや、荒木さんが元々持ってるパンチだ」

「そう言えば仕事で必要って言ってたが、荒っぽい仕事なのか?」

「探偵をしている、そのせいでヤクザが絡んでくる事が多いんでな」

「なるほど、だからか。しかしあんた相手に勝てるヤクザがいるとは思えんがな、拳銃相手ならわからんが」

「今のところ無敗だが、上には上がいるかもしれないからな。今度こそ本当に帰るよ、ありがとう」


 手を挙げジムを後にした。


「ただいま」

「本当に早かったのね」

「今から靴とかを買いに行くが、由香里も一緒に来るか?」

「うん、一緒に行くわ」


 近くの大型のショッピングセンターに行った、ここはホームセンターから電気店まで入っている大型の施設だ。まず靴を選びに行った。何個か試履をしてグリップ力を確かめたその中から軽い靴を三足買った、次にスポーツ用品店に行き、ボクサーパンツを二枚購入した。


「俺の用事はこれだけだ、行きたいところはあるか?」

「ないわ、あなたと一緒に買物に来れただけで十分よ」


 まっすぐ家に帰った。靴を取り出し早速靴紐を通しぴったりフィットするように縛り、玄関先で履こうとした時に由香里に咎められた。


「靴は朝下ろす物よ」

「お前、意外と古風なんだな。わかったよ」

「早いけど晩ご飯が出来たわ、食べましょ」


 食事を取りながら他愛ない話をする、日課になっていた。


 食い終わるとリビングに行く、タバコに火を付けた。コーヒーと豆乳が運ばれて来る。


 飲みながら考え事をした。明日山中をどうにかしよう、下見もバッチリだ。そろそろ動かないとただ待っているだけではいけないと思ったからだ。


 由香里にそれを伝える。不安そうな顔をしている。


「心配しなくてもいい。ほぼ確実にあいつは拳銃は持っていない、ちょっと脅して話をするだけだ」

「安心してていいのね?」

「ああ、大丈夫だ」

「でもヤクザの事務所でしょ?」

「そう言えば言ってなかったな、島村組は経済ヤクザだ、事務所じゃなく会社だ、しかもお前のとこと同じ不動産屋を経営している。島村不動産って会社だ」

「島村不動産なら知っているわ、あそこは業界内でも凄く評判が悪いのよ」

「そうだったのか、その内会社ごと潰しておくよ。ところでテレビを付けてもいいか?」

「二人の家よ確認取らなくてもいいわよ」


 テレビを付けた、ニュース番組の始まる頃だ、今日のチンピラがニュースになっているかを確認したかった。


 天気予報の後、今日の事件が取り上げられていた。チンピラの仲間割れと言う事になっていた、俺の事は話さなかった様だ。


「由香里、見たか? 所詮チンピラなんてこの程度の扱いだ」

「そうね、目撃者が居なくてよかったわ」


 テレビを消し一緒に風呂に入った。


 風呂から上がると、コップに残っていた豆乳を飲み干した。


「もう一杯飲む?」

「ああ、頼む」


タバコに火を付け、ちょっとずつ豆乳を飲んだ。


「あなた、そんなにチビチビ飲まなくても買い置きはたくさんあるからおかわりしたらいいわ」

「わかった、ありがとよ」


 一気に飲み干しおかわりをした。

 暫く明日の行動をイメージトレーニングしたが、所詮イメージだ、どうなるかはわからない。時間は早いが寝ることにした。


「先に休むよ」

「いいわよ、お休みなさい」


 浅い眠りに着いた、こう言う睡眠がたまにある。ドア越しに由香里が食器を片付ける音が聞える、調子外れの鼻歌もかすかに聞えて来る、同時に夢も見ている山中を殺す夢だった。暫くすると由香里がそっと寝室に入ってくる。目は開けなかった。熟睡してるように見えるだろう、頬にキスをされた。

いつの間にか深い眠りに落ちていった。

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