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遺言  作者: 椎名 千尋
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第十四章

 レストランに着くと珍しくメニュー表を見て手当たり次第に注文した。


「私はいいわ、この人のを分けてもらうわ」

「かしこまりました」


 料理がズラッと並んだ、端から順に手を付ける。物足りない、ウエイターを呼びスタミナ丼の特製ダレだけ貰えるか聞いた。


「構いませんよ、今お持ちします」


 タレが届くと全部の料理に均等に混ぜ、食べ始めた汗が流れてきたが食べるのは止めなかった。飽きたり残った物は由香里が食べてくれた。


 殆どの物は完食した、もう入らない。由香里が残りを平らげる。


「あなた、凄い食欲ね見てるだけでもお腹が膨れたわ」

「頭を使うのがこんなに疲れると思わなかったよ、さっきも言ったが殴り合いをしている方がマシだ」

「ゆっくり帰りましょ、シャワーを浴びたらいつ寝ても構わないわ」

「ああ、そうさせて貰うよ」


 帰るとサッとシャワーだけで汗を流した、由香里が体を洗ってくれた。


「悪いな、しかしあのタレだけだと大丈夫な様だ」

「あなたの世話をするのも嫁候補として当然の事よ気にしないで」


 終わったようだ。バスタオルで体を拭かれる。

「本当にタレだけじゃ効果は薄いみたいね、さあ終わったわ自由にしてちょうだい」

「コーヒーは要らないから豆乳だけくれないか?」


 二杯一気に飲み干しタバコを吸った。吸い終えるとおやすみと言いベッドに潜り込む。眠いが腹がパンパンで苦しくてなかなか寝付けなかった。とりあえず目をつむり何も考えないことにした。


 いつの間にか寝ていたようで夜中の三時に目が覚めた。腹はまだ膨れているが苦しさはなくなっていた。そっと起き上がり伸びをする、体は軽くなっていた。寝室から出て豆乳を飲むと由香里がまた寂しがると思いノートパソコンと豆乳を持って寝室のテーブルに行きネットサーフィンをして時間を潰した。いつの間にか外は明るくなり始めていた。


 アラームが鳴り由香里が目を覚ます。


「おはよう、優しいのね」

「お前が寂しがると俺も寂しいからな」

「お腹は大丈夫? 食べ過ぎでお腹壊してないか心配だわ」

「大丈夫だ何ともないが今朝はあまり食欲がない」

「あれだけ食べたんですもの、仕方ないわ。何を調べてたの?」

「暇潰しにネットサーフィンしてただけさ」

「何か飲み物だけでも飲む?」

「ああ、コーヒーだけ頼むよ」


 由香里は起き上がり、寝室を出た俺も付いていく。すぐにコーヒーが出てくる。由香里はパンと目玉焼きを食べている。


「今日、どちらかの土地が動くはずよ」

「昨日の今日だぞ、早すぎないか?」

「山本さんの行動力は凄いわよ、まあ待ちましょ。暫くはあなたもお休みでしょ? ゆっくりしましょ」

「そうしよう」


 ジムに行きたかったがこの腹では何も出来ないだろう。それに土地が動くとなれば島村も黙っていないはずだ。


 十二時に由香里の携帯が鳴る。


「ほらね」


 と言って電話に出る。俺も携帯に耳を近づけた。


「社長、駅前の土地売却完了ですお二百八十億円で手を打ちました。あそこは社長名義の土地なので諸経費諸々差し引いて、口座に振り込んでおきます」

「十分よ、俊輔さんの土地は?」

「午後一番に売却しに行く予定です」

「流石に仕事が早いわね、任せるわ」

「はい、失礼します」


 電話が切れた。


「聞こえたでしょ? あの敏腕さが買われてあの人が三十歳の時に社長代理を任されたのよ、エリートコースに乗った腕利きよ」

「凄いな、でお前のとこにはいくら振り込まれるんだ? また金が増えるじゃないか」

「そうね三分の一から二分の一くらいかしら経費にいくらかかったか分からないからはっきりわからないわ。でももう十分よね、この大きな仕事が終わったら引退しようかしら、

悩むわ」

「使おうと思っても使い切れないだろ? 引退してもいいんじゃないか? お前の判断に任せるよ。貯金の二百億に今回の報酬がプラスか想像もつかないな」

「あら、お金に興味を持ち始めたの?」

「いや、そんなんじゃない。まずそんな金額を言われても実感がないしな。ただ凄いなと思っただけだよ」

「午後にはあなたも私に負けないくらいの金額が振り込まれるわ」

「余計わけがわからない、とりあえず午後から待っていればいいんだな」

「そうよ、ただ待ってるだけでいいわ松本さんが上手くこなしてくれるわ」


 また電話が鳴る、ドキッとしたが時間が早すぎる。また耳を近づけた


「もしもし、社長聞き忘れたのですが荒木さんの土地を売却したら荒木さんの口座に振り込みで良かったですよね?」

「当然よ」

「銀行口座は聞きましたっけ? 慌ててて覚えてません」

「契約書に私が代筆してるわ、それに経理の遠藤さんも知ってるわ。松本さん珍しくパニックになってるわね」

「こんな大きな仕事を一日に二件も扱うのは初めてですからね。あっ書類確認しました。書いてありました。すいません、では取り引きに行ってきます」


 慌てて電話が切れた。


「あの松本さんが慌てるの珍しいわ」

「俺が緊張してきたよ、小腹が空いたな」

「何か作りましょうか?」

「ああ、頼むよ少しでいい」


 暫くリビングで新聞を読んだ、活字を見ていると落ち着いてくる、時計を見る十四時。


「あなた出来たわ」

 テーブルに付く、ミニスタミナ丼だった。

「安心して分量は三分の一に減らしてるわ」

「じゃあ戴くよ」


 一口食べる、前回よりも確実に美味い、由香里に伝える。


「よかったわ、唐辛子は抜いたから体は火照らないはずよ」


 普通の茶碗だったのですぐに食べ終えた。


「美味かったよにんにくとかの分量もいい感じだった」

「ありがとう」


 時計を見る、十四時半。


「時間が気になるの? 大丈夫よもう掛かって来る頃よ」


 リビングに行きタバコに火を付けると電話が鳴った。


「ほらね」


 電話を受ける、また耳を近づけた。


「社長、遅くなりました。荒木さんも一緒ですか?」

「ええ、側にいるわ」

「スピーカー通話に切り替えてください」

「切り替えたわ」

「荒木さん聞こえますか」

「ああ、しっかり聞こてますよ」

「お二人ともいくらで売れたと思います?」

「八十億くらいかな?」

「私は二百億」

「違います驚きますよ、何と三百億で売れました。経費は殆ど掛かっていないので、仲介手数料を差し引いて、ほぼ丸ごと荒木さんの口座に振り込みました。後で確認しておいて下さい。いやーいい仕事が出来ました。胸を張って帰れますよ、荒木さん億万長者おめでとうございます。荒木さんびっくりして声も出ないようですね」

「ああ、実感が湧かなくて。とりあえずありがとう」

「社長も驚きました?」

「ええ、誰がどんな目的で買ったの?」

「国と鉄道会社があそこの山を更地にして新しい線路を引いて駅も作るそうです」

「予想が当たったわそれなら妥当な金額ね」

「では、わたしはこれで事務所に戻ります」

「お疲れ様でした、近い内に顔を出すわ」

「お待ちしてます、失礼します」


 電話が終わった。放心状態の俺に。


「ほら、早くネットで確認したらどう? 少しは実感湧くかもしれないわよ。


 すぐにネットで確認する、桁がデカい一、十、百と下から数えて行く、確かに三百億程が振り込まれていた。元々持っている五億円を併せると三百億円以上になる。


「由香里、見てくれ」

「私よりお金持ちになったわね」

「記念に食事に行こう」

「いいわよ、私も両方売れてホッとしたわ」

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