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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君の為の打ち上げ花火

作者: 梛木湯斗

 

 今年も夏がやって来た…もうあれから何年たっただろうか。あの娘と…もうこの手で触れることの出来ない夏を過ごすようになって何年経っただろうか…。

 僕はあの娘の為に打ち上げ花火の入った袋を片手に約束の場所へと向かう。


 あの交通事故から何年経っただろうか…数えるのも彼女との時間の流れに違いを感じただただ哀しみに暮れるだけになってからは数えていない…。彼女との楽しかった日々はつい昨日の様に思い出せるのに…僕は彼女に囚われ続けているのだろうか…。

 それでも例え触れることが出来なくとも…共に過ごすことが出来なくとも僕は彼女の為に今日も打ち上げ花火を上げに行く。




 彼女との約束の場所は幼い頃僕が彼女を連れて近くの林を抜け小高い丘へ続く道の途中にあるちょっとした開けた場所だ。僕達はそこで約束をした…僕達は永遠に一緒にいる。そう…約束したはずなのに…。

 彼女を失ったと気がついた時はこの世の全てに絶望した…そして気がついたら約束の場所に来ていてそこには彼女がいた…事故の傷跡が見られたが浴衣姿の彼女がいた。

 それから僕は毎年彼女為に彼女に会うためにこの林を抜けて約束の場所へ向かう。この当たりは最近…というか随分と前から首から上を持ち去り人喰いをする動物のようなナニカが出てくるらしいが彼女のためならばその程度大したことではない。それに彼女と会えない世界なんて存在している価値もない。




 最近は物忘れが多いのかふと気がついたらこの林にいることが多い。彼女を思うあまりの行動だろうと思っているが正直服が汚れていることが多いのでちょっと困っている。林を抜けて約束の場所へと来る…彼女はまだ来ていない様だ…。

 おや?あれは彼女の友達の…。彼女の友達である△△さんへと近づく△△さんは驚いた様子でこちらを見てきた…もしかしてナニカとでも間違えられたのかな…確かに此処へはあまりというかかなり人が来ないから…。それにしても△△さん彼女から此処のこと聞いていたのかな?泣いている様だし…悪いタイミングで来ちゃったかな?そんなに泣かないで…そうだ!君も一緒に彼女の所にいこう、そうしたらきっと彼女も喜ぶ。そうと決まればすぐにいこうか、大丈夫僕がいるからこの間なんか彼女を襲う人を返り討ちにしたくらいだから安心して…ネ?



 △△さんと一緒に彼女との約束の場所に付いたので静かに彼女を待つ。

 それから少し待ってみても来る気配がしないので周囲を探す。

 すると彼女はちょっとした草むらの中に隠れていた。



 ああ、其処に居たんだね…探すのに苦労したよ…。え?驚かせたかった?全く君は昔から困ったものだね。僕の方がだって?そ、それは何のことかな?

 久しぶりだね○○。元気だったかい?え?僕?僕はもちろん元気さ。そうそう今日も君の為に打ち上げ花火を持ってきたんだ好きだったろう?今回のは特別性でね色々あるんだよ?それと今日は△△さんも来てるんだよ?早速上げようよ。



 僕はこうして今日も君の為の打ち上げ花火を打ち上げる…。




 ────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────



 私は今日も彼の為に約束の場所へと向かう…あの辺は人喰いの化け物が出るのだが私は特に気にしてはいない…だって彼に会うためなのだから。

 あの事故の後私は失意の底にいた。何故あの時何故あの時偶には歩いて花火大会会場に向かおう等と言ったのか…どれほど自分を憎んだか数え切れない。彼のいない世界で生きる意味はないと思い彼との思い出の深い約束の場所で死のうとした。そんな中彼にもう一度出会った。彼は私を赦してくれたもう触れ合うことが出来なくなったと言うのに同じ時間を過ごせなくなったと言うのに…。



 事故の傷跡が残る醜くなってしまった私を彼は変わらずに愛してくれている。周りがなんと言おうと私は彼を愛している。例え世界が敵に回ろうとも私だけは味方でいるつもりだ。




 何度か彼と私を引き裂こうと払い師がやって来たこともあったが彼は私を守ってくれた。とても頼もしかった私には彼と二人だけで居られればそれでよかった他の全てを捨てでもカレと一緒にいる。それがヤクソクだから。

 約束の場所に近づくと少し鉄臭い臭いを感じた…この当たりはゴミの不法投棄も多かったから仕方ないのだろう。



 そして彼を見つけたその時私は咄嗟に草むらに隠れた…どうして此処に…と驚きが隠せない。彼はこちらに気がついた様でこちらに向かってくる。

 驚きを誤魔化す為に咄嗟に彼に驚かせたかったと嘘をつく。彼はそれで納得したようで打ち上げ花火を上げようと言う。



 これはもう一種の決まりだった…一年に一回夏のある日に彼と私は約束の場所に来て彼が用意(・・)した打ち上げ花火を打ち上げる。いつかは終わらせなければいけない…そう良心が訴えるが私にはそんなことは出来なかった。終わらせたら最後彼とは二度と会えなくなるのだから。でも、そんな風にしていたから私は△△を巻き込むことになったのだろう…きっと私は死んだら彼とは違い地獄に落ちるべきだろう。そんなことをしてきたのだ…私は地獄に落ちて叱るべき存在なんだ…。

 私の顔にその暗い気持ちが現れたのか彼が心配そうにこちらを見てくる。




 ああ、なんて優しいんだろうこんな女の為に心配してくれるなんて彼はとても優しい。私の最愛の人…もう今は彼の隣にいる資格を失った私…。彼よりも大人らしくなってしまった私…。彼よりも歳を取ってしまった私。大丈夫…アナタのためならばなんだってやってみせる。だからそんな風に心配しないでアナタはアナタのままでいて…。



 だから私は今日も(アナタ)の為に打ち上げ花火(人間の生首)に火をつける。







ここまでお読みいただきありがとうございます。

ホントは悲しい恋の話のつもりが怖い話になりつつあって難しかったですね。

△△ちゃんは…助かるといいですね…いや無理ですね…。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やや怖いところが独特で面白かったです。
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