第五話 過分な報酬
一日の商いを終えたナーシアは、店内の暖炉で燻る炎を火掻き棒で消し去った。底冷えする寒さは身に染みるが、本格的な冬が来る前に暖炉の温もりに慣れてしまっては、春を迎える頃には薪代が恐ろしい額となるだろう。それに妹のリーアは昨日から大森林へと赴いており、店を守っているのは自分一人だけである。客のいない時間は切り詰めねばならなかった。
『いっそのこと、私も新しいマントを買おうかしら・・・』
リーアが新調した見事な光沢を放つ毛皮のマントのことを思い出したナーシアは、片付けをしながら考えに耽る。頭を覆うフード部分は黒貂、その他は灰色のウサギの毛皮で作られた、あのマントはなかなかの代物だった。消耗品である薪に頼るよりも、多少高くても何年も仕える毛皮のマントにお金を掛けるのが正解のように思えたのだ。
「いやいや、あれは森に出掛けるリーアへのご褒美だし・・・」
一時期の気の迷いにナーシアは苦笑を浮かべ自分に言い聞かせるように呟く。多少古いが冬用のマントは持っている。やはり余計な出費は控えるべきだと思い直したのだ。
そのようなことを考えていたナーシアの耳に遠慮がちに戸を叩く音が響く。既に看板は下げていたが、彼女は再び商い用に気持ちを切り替えると戸口へと急いだ。何しろ自分達が売るのは薬である。下手をすれば人の命に係わる商売だ。無視するわけには行かなかった。
「あ、あの!妹が、す、凄い熱を出してて!お願いします!薬を売って下さい!」
ナーシアが店の扉を開くとともに少年と思われる切迫した声が響き渡る。彼の年の頃は十二か十三歳ほどだろうか、痩せた身体に清潔というには若干無理のある衣服を身に纏っている。
「・・・とりあえず、中へどうぞ。詳しい話はそこでお聞きします」
少年の身なりと気配からナーシアは本能的な警戒感を覚えるが、訴える声に真摯な気持ちと悲愴感が込められていたことを思い出すと店の中に引き入れた。それに真偽は定かではないが、妹を助けようとする者を蔑ろに出来なかったのである。
「あ、ありがとうございます!」
少年も自分の身なりで気後れがあったのだろう。ナーシアの申し出に喜びの声を上げた。
「高熱に気付いたのは何時からなの?!」
「き、今日の朝からです。それで街中の医者や薬屋を回って薬をもらおうとしたんだけど・・・俺の身なりを見たら、誰も相手にしてくれなくて、やっと冒険者通りにも薬屋があることを思い出して・・・。お願いします!現金はありませんが、お礼は必ずします!薬を譲って下さい!」
妹の容態を聞かされたナーシアは厳しい口調で少年に詰め寄る。費用の工面の心配と勘違いした彼は怯みながらも改めて懇願した。
「朝からですって!大変!もう!なんでうちにまっすぐ来なかったのよ!えっと、ルベオルって言ったかしら?!今直ぐあなたの家まで案内しなさい!私が直接看て上げないと!」
詳しい状況を知ったナーシアは普段の温厚な態度を捨てて少年に言い放つ。その間にも必要と思われる薬と道具を鞄の中に突っ込み準備を進めていた。
「す、すいません!あ、ありがとうございます!」
叱られたルベオルは謝りながらも、涙を流してナーシアの好意に礼を伝えた。
初冬の日暮れの中をナーシアはルベオルの後に従い速足で歩く。彼の足がラハダスでも雑多で薄汚れた地区を目指していることにナーシアは気付くが、今更そんなことで躊躇うような彼女ではない。懐の短剣の重みを確認しマントのフードを目深く被り直すと、痩せた身体で必死に歩く少年を追い掛けた。
ルベオルの棲家はラハダスでも下層民が住む地区に存在した。どの街にも存在するスラムや悪所街と呼ばれる地域である。その中にあってもルベオル兄妹が暮らす部屋は古い下宿の地下にあり、乾燥した冬でさえも黴臭く湿った環境だった。
「思ったとおり・・・肺炎になりかけているわ・・・」
「シ、シエラは助かりますか?」
「・・・ええ、絶対助けて上げる!!」
シエラ、それが粗末な寝台で呼吸すらも喘ぐ少女の名前なのだろう。彼女は誰が見ても虫の息と思う状態だったが、ナーシアはルベオルを元気付けるために力強く頷いた。
「あなたは、清潔な水を汲んできて!いい?清潔な水よ!買ってでも手に入れて!それとその後は残りのお金でミルクと麦それと適当に栄養のある食べ物を買ってきなさい!」
「わ、わかりました!」
ナーシアはルベオルに銀貨五枚を渡して使いに走らせると、鞄から商売道具を取り出して治療の準備を始める。彼女は二人がテーブル代わりに使っていたと思われる木箱に携帯用のコンロを置いて火をつけると、持って来た飲み薬を小型の鍋に注ぎ暖める。更にトロチの実の粉末を始めとする薬を混ぜて調合を行う。この中にはかなり高価な薬も含まれるが、今はそれを忘れることにした。
内心ナーシアも自分が愚かな行いをしていることはわかっていた。憐れな子供を見つけたとしても、その度に施しをしていたら破産するのが目に見えているし、全てを助けてあげることは出来ない。それでも、妹を必死で助けようとするルベオルにかつての自分の姿を見た彼女は、例え一時の気の迷いや偽善であっても自分がしてやれることはしてやりたいと思ったのだ。
調合した薬の温度を確認すると、ナーシアはそれを熱でうなされているシエラに口移しで飲ませる。彼女にはもう自分で薬を飲む力も残されていないので、この方法で摂取させるしか方法がない。ナーシアが直接訪れたのも、素人には難しいこの治療のためだ。幸いにしてシエラの本能は口に含まれた物を摂取する力を失っていなかった。ナーシアは自分の口に含まれたで苦い薬が減っていくことに安堵した。
「買ってきました!」
「じゃ、その水で彼女の身体を拭き清めてあげて!
「わかりました!」
指示に従いルベオンが妹の身体を拭く間にナーシアはミルクと麦を使って粥を作る。もっと栄養のある食べ物を食べさせてやりたいが、まずはお粥からだった。
「あなたも、何か食べなさい」
再び口移しで粥をシエルに摂らせたナーシアは、黙ってその様子を見つめていたルベオンに告げる。妹を助けようとする兄だが、その痩せた身体では彼自身が病気になってもおかしくないように思われた。
「でも・・・」
「あなたが倒れてしまっては意味がないわ。遠慮せずに食べなさい!」
「す、すいません!頂きます!」
ルベオンは自分の買って来たチーズとハムを切り別けると、行儀よく食べ始める。その様子を見たナーシアはこんなところに暮らしていながらも、本来この兄妹はしっかりした家の生まれなのではないかと思い浮かべた。
しばらくすると、シエラの体熱と呼吸は安定し顔色も回復の兆しを見せ始めた。一概には言えないが、薬が効く時は圧倒的な効果を表わすことが多い。シエラはこのまま薬と栄養を摂り続ければ順調に回復すると思われた。とは言え、危ない状態であったのは間違いない。あと半日、いや数時間遅れていたら施しようがなかっただろう。あまりの高熱に長時間晒されると脳に異常をきたしていまい、そうなってしまってはもう回復の見込みはないのだ。
「私は薬師よ、心配しなくていいわ。これは苦いけど、良く効く薬だからがまんして飲んでね」
「うん・・・」
やがて夜が更ける頃、意識を取り戻したシエラに優しく声を掛けながらナーシアは匙を使って薬を与える。子供には特に苦く感じると思われるが、幼い少女は大人しく彼女に従った。更に粥を与えて再び寝かしつけるとナーシアは自分が持って来た道具と薬を片付け始める。付きっきりの看病はもう必要ないと判断したのだ。
「あ、あの!妹を助けてくれてありがとうございます!薬屋のお姉さん!これはさっきの買い物のお釣り銀貨二枚に銅貨七枚・・・あと、お礼の品です。受け取って下さい!」
帰り支度を始めたナーシアにルベオルはポケットから数枚の銀貨と銅貨、そして端切れに包まれた塊を取り出すと彼女に手渡した。
「これは・・・!」
お釣りはともかく、端切れの中身を確認したナーシアは驚きの声を上げる。それは小指の爪ほどの緑色の宝石が飾られた指輪だったからだ。淡いランプの光の中でも魅惑的な輝きを放つことから、おそらくは本物のエメラルドだと思われた。台座と輪は金で出来ており、そちらにも凝った象眼が施されている。少なく見ても金貨二十枚は下るまい。その美しく高価な装飾品は、ルベオルの姿とこの部屋には不釣り合いな代物だった。
「・・・まさか、盗品ではないでしょうね?盗んだ物は受け取れないわよ!」
もとより薬の代金は期待していなかったが、思いがけない高価な宝石を渡されてナーシアは声を荒げる。
「違います!それは盗んだ物じゃありません。母さんの形見なんです!ずっと大事にしていたんですけど、妹を助けてくれたお礼です!お姉さんはそれだけのことをしてくれましたから・・・」
「そんな大事な物、余計に受け取れるわけないじゃないの!それに〝それは〟ってことは他では盗みをやっているのね。あなた・・・コソ泥にしては言葉使いも丁寧だし・・・どうしてこんなところに住んでいるの?」
ナーシアは指輪を元のように端切れで包むと、ルベオルの手に戻しながら問い掛ける。深入りするのはわかっていたが、聞かずにはいられなかった。
ルベオルとシエラはナーシアの見立てのとおり、もとは裕福な商人の家庭に生まれていた。幸せな幼少期を過ごしていたが、それは母の死とともに一変する。父親が迎えた後妻が前妻の子供である彼らに、冷たく当たるようになり、遂には言い掛かりをつけては体罰を始めるようになったのだ。そして体罰は徐々にエスカレートし始めて、このままでは自分達、特に幼くて弱い妹が殺されてしまうと判断したルベオルは、彼女を連れて逃げ出したのだ。
「お父様には頼らなかったの?」
「父さんはあの女の言う事はなんでも聞くようになって・・・特に弟が出来てからは・・・味方になってくれはしなかった」
「それで、今はスリで生計を立てていたというわけね・・・」
「はい、そんなことはしたくなかったけど・・・お金がなくて街で野宿していたらジャノフって人に声を掛けられて、稼ぎの殆どを払う代わりにこの部屋を与えられ・・・少なくても屋根があるところで寝られるし野たれ死ぬよりはましだったんで、スリをやるようになったんです・・・」
「そう・・・」
溜息を吐きながらナーシアは頷く。虐待から逃げた子供が路頭に迷って悪事に利用される。よくある話だ。コネや特別な技能を持たない子供が出来る仕事は少ない。少年なら行き着く先は乞食かチンピラの使い走り、少女ならやがて娼館に売られる運命だ。
「ルベオル、あなた・・・数を理解出来るようだけど、読み書きも出来るの?」
「はい、多少の計算と西方語なら読み書きは出来ます・・・」
「計算が出来て読み書き出来るのなら、スリよりまともな仕事はあるはずよ!実際、私の知り合いの宿屋でも新しい使用人が欲しいと言っていたしね、ルベオル!あなた、まとな仕事をやる気はある?!」
シエルの命は一先ず救えたが、このままでは二人の行き先が暗雲なのは間違いない。ナーシアは薬を提供するだけでなく、この兄妹を救うための根本的な原因の解決を提案する。
「はっはい、お願いします!あ、でも・・・ジャノフが・・・」
思いがけないナーシアの誘いに興奮するルベオルだが、直ぐに顔を曇らせる。
「大丈夫、私がそいつと話を着けてあげる!」
ナーシルはルベオルにやさしく微笑んだ。
「あんたがこいつの顔役のジャノフね!」
「なんだよ、姉ちゃん!いきなり凄むとはご挨拶じゃねえか!」
場末の酒場の奥に陣取って酒を飲む男にナーシアは声を荒げて食って掛かるが、ジャノフと呼ばれた男は彼女の整った顔に気付くと舌なめずりをしながら答える。既に厚化粧の女達を左右に侍らしていたが、これまで見たこともないナーシアの美しさにジャノフは凶悪な顔を緩ませた。
「私はナーシア、薬売りよ!この汚い小僧が私から高価な薬を掠め盗って行ったのよ!こいつはあんたの舎弟なんでしょう?!なら、あんたが代わりに薬代を支払うのが筋ってもんよ!さあ、金貨五枚と銀貨十二枚きっちり払って頂戴!」
「なんだと!ルベオルおめえ!そんなドジ踏みやがったのか!」
事情を理解した男はナーシアに襟首を掴まれ突き出されているルベオルに怒号を浴びせる。そのまま殴り掛かろうと腰を浮かせたのでナーシアは慌ててルベオルを引っ込めた。
「おっと、こいつの身柄は私のものよ!返して欲しかったら、さっきの額を払ってからにして!」
「馬鹿が!そんなの払うわけねえだろ!つうか、このまま帰れるって思っているのか、このアマ!」
「私はね、コーテスとは顔見知りなのよ!子分が私を傷物したらどうなるかしらね?」
ナーシアがラハダスを仕切る裏組織の首領の名前を出して嘯くと、侍らしていた女の一人がジャノフに耳打ちをする。
今では薬師が本業のナーシアだが、裏社会のしきたりには精通していた。スリや乞食は地元の裏組織の下部構成員とされており、その後ろ盾を得るかわりに上納金を支払う義務がある。一種の組合のようだが、非合法組織だけにルール違反者には厳しい罰が与えられる。上納金を長く怠った者や許可のない足抜けを行った者が人知れず下水に浮かぶのはよくあることだった。ルベオルがスリを辞めるには、裏組織側と話を着ける必要があるのだ。
現在、ラハダスの裏を仕切る裏組織はコーテス一家に統一されており、ナーシアは少なくないコネを持っていた。もともとラハダスに拠点を持つ商人達の多くは程度の差はあれ地元の裏組織、コーテス一家とはなんらかの関わりを持っている(所謂、みかじめ料を払っている。業種によって額は様々だがこれを払わないと、ラハダスの盗賊達に集中して狙われるのだ)が、彼女は表には出てこない情報の供給元として定期的に取引を行っていた。それに加えてナーシアはその美貌によって一家の主であるコーテスのから『俺の女にならないかと』口説かれている。もちろん彼女は角が立たないように断っているが、正式な愛人でなくともナーシアは一家の首領が執心する女の一人として裏組織の間では一目置かれていたのである。
「・・・だからって、おめえに払う金なんてねえ!」
「私もガキの使いじゃないの、ただでは帰れないわ!・・・そうね、この小僧を痛めつけて問い質した話によると、こいつには妹がいるらしいじゃない?こいつとその妹を売るなり、こき使えば少しは回収できるわね・・・こいつらを私にくれれば引き下がってもいいわ!」
側近の入れ知恵で態度を軟化させたジャノフに、ナーシアは畳み掛けるように予め用意していた条件を突きつける。
「ルベオル、こいつの妹のシエラは・・・あんたほどじゃないが綺麗な顔している、あと数年もすれば娼館に金貨十枚で売れるだろう!割に合わねえよ!」
「そうかしら?!さっき確認しに行ったらその娘、今にも死にそうだったわよ!あれを治せるのは私くらいはず。まあ、あんたがそのつもりなら、私もコーテスには借りを作りたくなかったけど、彼に裁定してもらうとするわ!さあ、行くわよ!この汚いうすのろ!」
「いや待て!待ってくれ!」
ルベオルを乱暴に扱ってその場を立ち去ろうとするナーシアにジャノフは慌てて声を掛ける。
「わかった!こっちもそんな些細なことでコーテスさんを煩わしたくない!そいつら兄妹はあんたにくれてやる!好きにしろ!」
「では、取引成立ね!」
ナーシアはジャノフに告げると込み上げてくる笑顔に耐えて彼の根城である酒場を後にした。
「ふふふ、上手くいったわね!さっきはごめんなさいね。ああするしかなかったの」
「いえ、ありがとうございます!ジャノフをやり込めるなんて凄いです!」
「演技力には自信があるの。それより、シエラが目を覚ましたら私の店に移動させるわよ!準備をしてね!あなた達が新しい仕事に就くまでは家に置いてあげるから!それにお姉さんって言われるのは悪い気はしないけど、私の名前はナーシアよ!」
「・・・本当にありがとうございます。ナ、ナーシアさん!う、うううぁああああ」
一芝居を打って、ここらを仕切るチンピラのジャノフと話をつけたナーシアはルベオルの部屋で成功を喜ぶが、彼女の手厚い援助、自分達を支配していたジャノフからの解放と突然起こった劇的な展開に感極まったルベオルは号泣する。
「・・・私はね、あなたが妹思いで誠実な心を失っていなかったから、ちょっとだけ手助けすることにしたの!だから、これからもその気持ちを忘れてはだめよ!」
「うう、はい・・・」
激しく泣くルベオルをナーシアは抱き締めながら諭す。柄にもない気分だが、嗚咽を漏らしながらも素直に答える彼の姿に、あとは仕事さえ見つかれば彼は二度と道を間違えることないという確信を得ることが出来た。
その後、ナーシアの店に移り住んだルベオルとシエラの兄妹はナーシアの期待通り、その誠実さと読み書き出来る能力を買われて〝羊の涙亭〟に住み込みで働く使用人として雇われた。シエラも順調に健康を取り戻し今では兄の仕事を手伝っている。
リーアが大森林から戻ったらなんと説明しようかと悩んでいたナーシアだったが、二人の兄妹はナーシアの援助に甘えることなく、いち早く新しい生活の基盤を築き上げたのだった。
「あたしがいない間にそんなことがあったとはね!姉さんは普段はケチだけど、時折損得を忘れることがあるからな・・・」
リーアは自分の留守の間にナーシアの身に起きた事件の顛末を知ると、感慨の声を上げる。そして〝羊の枕亭〟の食堂を給仕で忙しく動き回るルベオルに視線を送ると、手にしていた麦酒を飲み干した。自分も大森林ではちょっとした冒険を繰り広げていたが、姉は姉で忙しい日々を送っていたようだ。
「それで、しばらくあなたの部屋を二人に貸して、服の幾つかを彼らにあげたってわけ。事後承諾だけど許してくれるわよね?!」
「まあ、妹思いの良い奴みたいだし、あたしからは何も言わないよ!」
正直言えば、自分の寝台を他人に使われていたのは気になることだが、ルベオルの働きぶりを見たことでリーアは許すことにする。そもそもそんな潔癖症では野宿なんて出来はしないし、服は新しいのを買う口実に使える。彼女としては悪いことではなかった。
「それと、シエラには忙しい時にはうちの店で働いてもらうことにしたの。ほら、あなたが街の外に行くと私一人しかいないじゃない。まだ幼いけどちょっとしたことは出来るし、本人も薬代を働いて返したいって言うのよ」
「うん、良いんじゃないの!」
留守中の人手不足はリーアにとっても前々からの懸念だ。先程兄弟と挨拶を交わした時、シエラは兄に劣らずしっかりした対応の出来る可愛らしい女の子だった。姉が仕込めば間違いのなく客の対応が出来るだろう。
「あ、あのリーアさん、おかわりはいかがですか?」
「おお、気が利くな!頼むよルベオル!」
リーアの杯が空になったことに気付いたルベオルがおかわりを訪ね、彼女は頷いた。
「あいつなかなか目敏いな!彼の妹ならシエラの方も上手くやってくれるかもしれない!」
「ええ、ひょっとしたら接客技術なら直ぐにあなたを抜いちゃうかもね!悔しいからってイジメちゃだめよ!」
「そ、そんなことはしないさ!」
口では笑いながらもリーアは動揺する。さすがにイジメたりはしないだろうが、後輩であるシエラに抜かれては先輩の立場がない。苦手とする接客技術もなんとかしなければと彼女は自分を戒める。
「ふふふ」
そんな妹の心境を読み取ったナーシアは笑みを浮かべた。偶然と一時の気の迷いから始まった今回の出来事だったが、最後には良い方向に転んだようだ。今更善人ぶる気はなかったが、それでも何かが満たされる気分になる。
「ねえ、ルベオン!私にも、もう一杯頂戴!」
「はい、ただいま!」
ナーシアは久し振りにしっかり酔いたいと思うと、ルベオルに追加の麦酒を頼むのだった。




