青空下のStudent。
「行ってきま──す!」
玄関のドアを蹴っ飛ばすみたいにして開けて、それから後ろに向かってそう叫んだおれは、駐車場に停めてある自転車のもとへすぐさま走り寄った。
気を付けなさいよー、とか何とか母さんが後ろで叫んでいる。うるさいな、気を付けてる暇なんてもうないよ!
焦りながら突っ込んだせいかな、鍵がなかなか刺さらない。ああもう、こんな時に機嫌悪くしないでくれよ、頼むから! 祈りながら力任せに捻ったら、ガチャンと大きな音を立てて鍵が外れた。
安心している余裕もない。すぐさまハンドルを握って、飛び乗った。
長岡晴樹、十三歳。中学二年生。
今、おれは派手に寝坊をかまして、始業に遅刻する恐怖に怯えながら自転車を全力で漕いでいます。
待ちに待った夏休みも近付いてきた、七月の初め。空は気持ちの悪くなるような快晴だ。さんさんと降り注ぐ朝の陽の光は、ふと立ち止まって深呼吸をすると、ふわりとした暖かさを胸の中へと流し込んでくれる。
──あいにくと今日、そんなことをしている時間のゆとりはおれにはないけど!
街道の交差点を全速力で駆け抜けながら、おれは唇を噛んだ。くそ、あのポンコツ目覚まし時計め! こんないい天気の日に限って電池切れを起こすなんて! だいたい母さんも母さんなんだよ、『自分で起きてくると思ったわよ』なんて嘯いて! おれが朝弱いの、知ってるくせに!
「今日が朝礼のある月曜日じゃなくて……よかったけど……さっ」
走りながら息絶え絶えに愚痴ったら、すれ違ったサラリーマンのおっさんがぎょっとしたみたいに振り向いた。聞こえちゃったかな。でもいいや。愚痴るくらいの自由、おれにだってほしいもん。
慣れた通学路を十分も飛ばすと、並ぶ低い屋根の向こうにグラウンドを囲う大きなフェンスと、それからクリーム色の校舎が見えてきた。ああ、あれだ。町立第三中学校って書いてある。
ラストスパートを駆けるべく、ペダルに力を込めて立ち上がる。
ああ神様、どうか間に合わせてください。遅刻なんていう辱しめをおれに受けさせないでください。今日の一時間目は教室で英語なんです! 隣の席のあいつに、カッコ悪いところ見せたくないんです────!
「…………」
火照った頬を、おれは軽く拳で叩いた。
余計なこと考えてる場合かよ、って思って。
なぜって……本気で悩み始めたら“余計”の度を越えちゃうって、知ってるから。
幸い、校門に先生が立って監視してるなんてことはなかった。しめた、最後の最後で運が良かった! 気合いを足に叩き込んで、おれはブレーキをかけずに校門を通過した。
いつもと何も変わらない、でも、ちょっとだけ大切にしたくなる一日が、
今日も始まる。