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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第1章影が薄くても冒険始めます
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第8話初めてのヒーロー

 その日の夜、無事魔王軍を退けたという事で宴が行われていた。


「いやぁ、さすがは倭の国から来ただけあるな」


「光の魔法、どこで覚えたんですか? 是非教えてください」


「え、えっと……」


 その中でも一番活躍したという事で僕が宴の主役とされ、沢山の人から祝福された。主役なんて言われたら、僕としてはすごく恥ずかしいのだけど、反面嬉しかったりもする。


「私やっぱりあなたとパーティ正解だったと思う。こんなに強い子が私のお供なんだもん」


「パーティなのに、お供扱いはなんか酷くない?」


「じゃあ奴隷?」


「もっと酷い!」


 お酒でも入っているのか、いつも以上に絡んでくるセレナ。まだ彼女と出会って二日だというのに、どうしてこんなに積極的に僕と接してくれるのだろう。ただでさえ影が薄いはずなのに、彼女のおかげでその事も忘れてしまう。


「ユウマぁ、本当にありがとう〜。私のパーティになってくれてぇ」


「か、感謝されるような事じゃないよ。ただ、セレナには最初に助けてもらったお礼もあるし、半ば強引に僕を誘ったのはそっちじゃないか」


「それでもお礼を言わないと気が済まないのぉ」


 僕が想像している以上のお酒を飲んでいるのか、もはや何を言っているかも分からない。でも感謝されている事には間違いないようだ。


「素直じゃないわね」


 そんな僕達のやり取りを、少し離れたところで見ていたアリスがそんな事を言ってくる。彼女は先程の戦いで、人形が傷ついてしまったのか宴の最中にもかかわらず、人形の修繕をしている。


「本当は参加したいくせに、人形の修繕をずっと一人でしているような人には言われたくないよ」


「余計なお世話よ。……主役はユウマなんだし」


「さっきの時も気になったんだけど、もしかして僕の名前をちゃんと呼んでくれ」


「黙りなさい、雄豚」


 からかおうとしたら、人形を投げつけられました。


「そういえばあの戦士と言っていたけど、アリスは人形使いなの?」


「見ての通りよ。何か文句ある?」


「別に喧嘩なんて売ってないよ僕。ただ、ちょっと気になって」


「私の人形になりたいというのは勘弁して」


「違う、そうじゃないよ」


 誰が自分から進んで人形になる奴がいるかと、思う。或いは特殊な趣味のお持ちの方なら、あり得る話かもしれないけど今はそういう話ではない。


「じゃあ何? あと人形返して」


「あの人形といい、アリス自身といい格好いいなって思ったんだ。たまたま僕の能力がその場に合っていただけで、もしかしたら何もできない時があるかもしれない」


 それはあり得る話だと思った。光の属性の魔法が効かない相手だって現れるかもしれないし、そもそも魔法が当たらない敵もいるかもしれない。


「それに比べればアリスはどんな相手でもああやって対峙できるだるし、あの戦士を前に一歩も引き下がらなかった。そんな場面を見たら、格好いいなと思ってさ」


 毒舌過ぎて敵を煽りすぎてしまうのが玉に瑕だけど。


「な、きゅ、急にそんなに褒めないで気持ち悪い」


「照れてるくせに」


「う、うるさい!」


「ユウマぁぁ、お酒持ってきてぇぇ」


「セレナどれだけ飲んだの? すごいお酒臭いよ」


 騒がしい宴は、夜が明けるまで続いたのであった。


 ■□■□■□

 翌日。セレナは二日酔いにでもなったのか、借りた宿の部屋から出でくる様子がなく、僕は一人アルカンディアの街を散策していた。


(今日で三日目、か)


 サポートをすると言いながらほとんど役に立っていない、あの女神様から半ば強制的に異世界へ連れられてから早くも三日。何というか三日だけなのに、かなり濃い日々を過ごしているような気がする。


(熊に襲われたり、魔王軍が襲撃したり、いい目には合ってないけど)


 でも以前生きていた頃とは全く違う人生が送れているのは確かだ。影が薄くて誰にも接する事ができず、ろくな友達もできなかったあの二十年。変わろうとしても変わる事ができなくて、ずっと後悔していた。

 それに比べたらこの三日間は、それまでの人生と逆の生活を送れているような気がする。今回の魔王軍との戦いで、僕は皆からヒーローだの言われて、一目置かれる存在になった。


(これだけでもう、充分な気がする)


 今から死んでも悔いは残らない。


『ちょっと、そんな危ない思考するのやめて!』


 僕の考えでも読み取ったのか、シレナの声が聞こえる。今のが冗談だという事くらい分からないのだろうか。


「あれ、あそこにいるのは」


 街中を歩いていると、見覚えのある顔が見える。僕は折角なので声をかけてみる事した。


「こんな所で何してるの? アリス」


「ふぇっ」


 急に声かけられたからなのか、普段のアリスとは似つかない声が彼女から発せられた。と、同時に彼女は態勢を崩しその場に派手に転んでしまった。


「そ、そこまで驚かなくても」


「ゆ、油断した……。まさかユウマごときにこの私が」


「僕ごときって、すごく失礼だよね? しかも僕は声をかけただけなのに、そんな言い方しなくても」


「いきなり声かける方が悪い」


 アリスがいたのは何かの行列の途中。どうやら何かを買おうとしていたらしい。


「もしかしてあれってクレープ?」


 その店に並んでいるものを見て、僕は日本にあったクレープを連想した。似ているというか、もはやそれだった。クレープといえば、甘いものなのだけど、


「もしかしてアリス、甘いものとか食べるの?」


「その言い方だと私は食べなさそうなイメージみたいな言い方だけど、喧嘩でも売ってる?」


「そ、そんな滅相もない。だ、だからこんな所で魔法唱えようとしないで!」


 こんな人混みがある所で魔法なんて唱えたらそれは大事件だ。最悪至近距離で食らったら、僕は死ぬ可能性がある。


「これだから人間は」


「アリスも同じ人間だよね?!」

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