第84話温泉ロマンスは突然に⑤
シレナの話を聞いた時、僕がした事は間違っていない事を知った
アリスの今の言葉を聞いて正しいことをしたとしても、心配させてしまっては意味がないと知った
きっとセレナもハルカも、口に出さずとも僕のこの傷のこと、気づいていたのだろう。だからアリスは言った。
旅行より大切なことがあるって
「……アリスに一つ聞いていいかな」
「何?」
「僕が今回した事、間違っていると思う?」
「うん」
「即答しなくても……」
「ユウマにとってそれは正義なのは分かる。あの場でできたたった一つの方法だってことも。けどあの時どうして意識があった私に相談しなかった?」
「それは……」
あの時は次の一手がもう浮かばなかった時のための最終手段としてずっと前から考えていた事だった。四将星の時に限らず、もし三人が守れる僕が身を挺してもいいって考えるようになっていた。
「正義が必ずしも全て正しくないのをユウマは分かってる? 私は正しいことをするために闇の力を手にした。それは決して正しい判断とは言えない」
「闇の魔法のこと、だよね」
「手に染めた時は正しい道だと思ってた。多分今もどこかで思ってる。でも」
「でも?」
アリスの返事がしばらく途絶える。その間僕は湯船に浸りながら、空を眺めていた。何も考えずにただボーッと。
「ユウマと出会って、私の道に迷いが生じた。もう二度と男とは関わりたくないと思っていたし、会話もしたくなかった。仲間も作ろうとも思わなかった」
そしてしばらく時間が経った後、アリスは口を開いた。
「それは自分の魔法と、自分の呼び名が原因?」
「そう。私は死の人形使いだったから。でも今は違う」
「どう違うの?」
「私、ずっと嫌っていた男を好きになった。私という存在を認めてくれる男を。だからその男が傷ついた姿を見ているのは私は嫌だ」
「アリス、それって……」
「温泉の会話も聞かれたから、もう隠す必要もないと思った。だから私は正直に伝えようと思う。私、今その男、ユウマが好きなの」
彼女の初めての僕に対する気持ちを
これももしかして温泉旅行だから起きてしまった事件?
これがラブロマンス?
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後悔した
今しがた自分が言った言葉を
二度と言わないと思っていた
異性に対して自分の気持ちを伝えることを
でも何故だか分からないけど
私の気持ちは不快ではなかった
「え? アリス、今なんて……」
そんな私の言葉に対して、ユウマは間抜けな返事が返ってくる。こうなる事なんて分かっていた。ユウマの私に対する感情がこの場で分からない事なんて。
「忘れて構わない」
「で、でも」
「多分私も忘れるから」
そんな事は嘘だ。今自分が言った言葉、抱いた感情全てが嘘じゃない。
嘘じゃないならこの気持ちはやはり……。
(こんな事一度も考えた事なかった。けど……)
思えば私の中の感情が明らかに変化したのは、雷神の郷の一件以来だった。あの時彼が私にくれた言葉は、今でも忘れられない。
例え私がどんな存在でも受け入れると
私が抱えている闇も一緒に受けてくれると
あの言葉は、彼が使う光の魔法のように眩しくて、真っ暗だった私の心は光を照らしてくれた。
「ありえない事だって思ってた」
「へ?」
「私の魔法も、存在も受け入れられる人がいるなんてあり得ない、そう思ってた」
「そんな事なんてないよ。話せば受け入れてくれる人だっている。それは僕だけじゃなくてセレナもハルカもだよ」
「今考えるとそうかもしれない。けどあの時それを初めて感じた時、私の心は確かに動いた」
「僕はそこまで大したことは」
「王都の時も復讐を急ごうとした私を必死に止めてもくれた」
「あれも僕はただアリスに無理をして欲しくなかったから」
「それでも」
それでも全部私にとって新しかった。だから私も彼に同じ感情を抱くようになった。無理をしないでほしい、傷つかないでほしい。
その感情が救出作戦を行おうとした私の感情の核だったのかもしれない。
「長く話しすぎた。そろそろ出よう」
「え? まだ話が」
「さっき私は言った。今の話は全部忘れてほしいって」
湯船から上がり、私はその場から離れる。ユウマはその後も何かを言っていたような気がするけど、私にこれ以上の話は無理だった。
「ごほっ」
浴場から脱衣所へ戻った時、ふと私は咳をした。
「隠し事……私もユウマに人の事は言えない、か」
自分の手を見つめながらため息を吐く。今までは気にしていなかったことが最近気になり始めていた。本当はもっと前から予兆はあったし、これが代償であることも分かっている。
(だから感情を抱きたくなかった。例え抱いたとしても忘れてほしかった)
それがさっきの言葉の真意だ。
私は今の咳でわずかに血を吐いた
それは誰にもまだ見せていない私だけの嘘
私の気持ちを忘れてもらうための嘘
(我ながら情けない……。今更嘘をついていることを後悔しているなんて……)
嘘は後悔でもあった
誰にも知らせずに突然迎えるだろう、いつかの死への後悔
気持ちを花開かせることができない事への後悔
「はぁ……」
私の人生はいつの間にか嘘と後悔に塗りつぶされていた




