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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第4章僕達の日常は常にハード
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第34話大剣少女とデートタイム

 アルカンディアへ無事帰還した翌日の昼下がり、僕はギルドの前で待ち合わせをしていた。


(デートなんてどうしてこんな急に……)


 待っているのは昨日突然デートしようだなんて言い出したハルカ。寝ぼけてたのかと思っていたけど、どうやら彼女は本気だったらしく、色々な疲れが取れぬまま今彼女を待っている。


(服装これで大丈夫かな……)


 一応デートなので、まともな服装は選んできたつもりだけど、まだこの世界に来て一ヶ月ちょっと。そこまで詳しくないので、これが相応しいのか分からない。


「お待たせユウマ」


 待つことしばらく、ようやくハルカがやって来る。彼女の服装は、日本の服で言う水玉のワンピースを着ており、普段の彼女とは思えないくらいオシャレしていた。


「待ってないよ、僕も今来たところだから」


「そう? じゃあ行こうか」


「行くってどこに?」


「私一度は行ってみたいお店があるの。そこに行こう」


「分かった」


 こういう時男である僕が彼女をエスコートしなければならないのだけれど、いかんせんこういうのに慣れていないので、どうエスコートすればいいか分からない。


『男として情けないよ、それ』


 シレナに突っ込まれる。分かってる、情けないのは分かっているんだ。


「どうしたのユウマ、ほら行こう!」


「あ、うん。今行く」


 僕は少しだけ緊張しながらも、彼女の後をついて行くのであった。


 そしてギルドから歩いて移動すること五分、ハルカに連れられて最初にやって来たのは、雑貨屋みたいなところだった。


「見た感じ雑貨店だけど、こういう店ってあったっけ?」


「丁度フュリーナ水神祭の前に見かけて、行きたいと思ってたの。ほら、こういうの可愛いでしょ?」


 そう言って彼女が取り出したのは、見たことがない生物のストラップ。彼女が言うように可愛いかどうかは分からないけど、ハルカがそう言うのならそうなのだろう。


「た、確かに可愛いよ」


「でしょ? じゃあこれとかも?」


 そう言って彼女が取り出したのは、先程と違いが分からない生物がプリントされたタオル。


「可愛いと思うよ。ハルカに似合っているんじゃないかな」


「わあ、ありがとう」


 笑顔でハルカはそう言った。僕もそれに合わせて笑うが、彼女の感性があまりにもおかしくて限界が早くも来ていた。


(これ駄目なやつだ)


 ほとんど違いが分からないレベルのそれらをずっと褒め続けるのは至難の技。だけどまだデートは始まったばかり。ここで折れてしまっては、先が持たない。


(耐えるんだ僕……)


 一時間後。


「やっぱりこの雑貨店正解だった。また今度買い物しに来よう」


「そ、そうだね」


 僕が生きる屍となって店を後にしたのは、言うまでもなかった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 嘘を貫くのは難しい教訓を得た僕は、店を出たところでハルカに尋ねる。


「そういえばハルカ、お昼食べた?」


「ううん。どうせならご飯も一緒に食べようかなと思ってたから」


「じゃあお昼食べに行こうか」


 今度は僕が彼女を案内する番だと思い、ハルカの手を取る。


「あ」


「美味しそうなお店、見つけておいたからそこに行こう」


「う、うん」


 今振り返ると、僕はこの時とても恥ずかしい事をしていた。その時は気にしていなかったけど、ごく自然な流れでハルカと手をつなぎ、一緒に歩く。

 これって側から見ると……。


「ね、ねえユウマ」


「ん?」


「ちょっと恥ずかしい……」


「え、あ、ごめん」


 僕は手を離してしまう。流石にこれはちょっとやり過ぎたかな……。


「と、とりあえず行こうか」


「う、うん」


 結局そのあと手を繋ぐことはなく、お店に到着。


「ここなの?」


「うん。最近出来たらしいんだけど、何でも倭の国から来た人が店主を務めているらしく、ここら辺ではめったに食べれないものが食べれるんだって」


「へえ」


 僕が今回ハルカと来た店は、日本食に近いものが料理として出されているお店。

 この世界の倭の国というものが、本当に日本に近いものなのかとかは分からないけど、外にあるメニューを見ると見た事がある名前が多かった。


「つまりユウマの故郷の味って事?」


「まあ、そうなるかな」


「確かにちょっとそれは気になるかも」


「丁度お客さんも少なそうだし入ろうか」


「うん!」


 僕達は店の中に入る。タイミングが良かったのか、すぐに席を通してもらい僕とハルカは向かい合って椅子に座った。


「確かに見た事がない名前のメニューばっかり。どれが美味しいのかな」


「うーん、好みにもよるけど、妥当なのは定食かな」


「テイショク?」


「簡単に説明するとね」


 僕はあくまで日本の知識として、ハルカに説明をする。それがこの世界でも通用するのかは分からないけど、トンカツ定食とか見る限り多分間違っていないと思う。


「じゃあ私はユウマがお勧めしてくれたこのトンカツ定食にしようかな」


「いいの? 他にも種類あるけど」


「いいの。ユウマがオススメしてくれるなら」


「そ、そう? じゃあ僕も同じのを」


 店員さんにトンカツ定食を二つ注文して、それが届くのを待つ。その間、僕は改めてハルカに聞きたい事があったので、聞いてみる事にした。


「どうしてデートに誘ったのかって? それは勿論」


「勿論?」


「私の気まぐれ」


 僕はズッコケそうになる。いや、別に何かを期待していたわけではない。決してそういう気持ちがあったわけではない。


「もしかして何か期待させちゃったりしたの?」


「い、いやそうじゃないけど。あまりに不自然だったから」


「ふーん」


 疑いの目を向けてくるハルカ。でも不自然なのは確かだった。特に昨日からハルカの様子がおかしい。誰が好きなのかとかデートしようとか、ラブコメみたいな展開ばかりが起きている。

 だから僕としても、もう少しなんとかしなければならないのだが、どうもハルカの気持ちが見えてこない。


「でもユウマがそう思ってくれたなら、少しだけ嬉しいかな」


「え?」


「あ、ううん何でもない。ほら、トンカツ定食来たよ」


 僕達の前にトンカツ定食が運ばれてくる。やはりというべきか、ご飯と味噌汁、そしてトンカツという定番中の定番が並べられていた。


「うわぁ、美味しそう」


 ハルカは目を輝かせながら定食を眺める。僕もこうして日本食を食べられるのは久しぶりなので、かなり嬉しい。


「いただきまーす」


「いただきます」


 僕とハルカは同時にトンカツを口に運ぶ。口に広がるのは懐かしい日本の味。完全な再現とまではいかないけど、確かにこれは僕が食べてきたトンカツの味だった。


「美味しい、こんな食べ物初めて食べた」


 ハルカが感想を口にする。どうやら彼女の口にも合ってくれたようだ。一安心しながら、僕は次々と食べ進める。

 けど僕の頭には先程のハルカの言葉が残り続けていた。


 彼女は定食が来る前に、僕の言葉に嬉しいと言ってくれた。


 僕の中にそんな期待が少しでもあったら、彼女は嬉しいのだろうか。こんな女性との縁がほぼなかった僕と一緒にいても嬉しいのか。


 ハルカに限らずアリスもセレナも。


 僕に対してどんな気持ちで一緒にいてくれているのだろうか。もしも、僕がこの三人の中で、誰かに気持ちがあったとしたら、他の二人はどう思うのだろうか。

 その時このパーティは一体どうなるんだろう。


「どうしたのユウマ」


「え、あ、何でもない。食べ終わったら次どこに行こうか考えていただけ」


「そう? でも次は私が行きたいところに付き合ってほしいの」


「あ、そうなんだ。分かった、付き合うよ」


 今はそんな事考えなくてもいいか。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 食事を終えた後も、僕はハルカに色々な場所に連れ回された。服屋ではどれが似合うか選ばされたり、武具屋では試し切りの相手にされたり、充実といえば充実した一日を過ごした。

 そしてハルカが一番最後に行きたいと言ったのは、何故かアルカンディアから少し離れた草原。


「よし、モンスターの気配とかもない。ここなら充分適してる」


「適してるって、何に?」


「そんなの勿論」


 ハルカは先程の武具屋で新調した武器を僕に向ける。


「ユウマ、勝負しよう」


「勝負?」


「ルールは簡単。相手に一発でも攻撃を当てた方が勝ち。とてもシンプルでしょ」


「シンプルだけど、どうして急に」


「まだ私ちゃんとユウマの力を見た事がなかったから。ほら、日が暮れちゃう前に早く」


「……分かった」


 僕はイヅチ様との戦いで編み出した、光属性の剣と盾を魔法で形成する。


「いくよ、ハルカ!」


「え、ちょっと剣が使えるなんて聞いて」


 イヅチ様以外にこれを見せるのは初めてだったので、ハルカは驚きながらも大剣の中原部分で剣を受け止め、弾き飛ばす。

 僕は受け身を取り、再び剣を構え直す。


「いつからそんな事できるようになったの?」


「二日前にイヅチ様と戦った時に。剣士相手に魔法だけじゃ足りないと思って」


「それでその発想に至るなんて、流石。でも」


 今度は自分の番だと言わんばかりにハルカは地面を蹴って、剣を振りかざしながらこちらへ迫る。

 大剣を持って動いているスピードとは思えない早さに、反応が少し遅れながらも、彼女の一撃をしっかりと盾で受け止める。


「隙あり!」


 大剣を受け止めた状態で、僕は突きをお見舞いする。しかしそれをハルカは大剣を支点にして飛び上がり避けた。


「ちょっと意外な顔してる。私もワンパターンな攻撃ばかりじゃないから」


 そして彼女は飛び上がった勢いを使って、大剣ごと一回転空中で回り、再び剣を振り下ろす。僕はそれを辛うじて盾で受け止めるものの、足元が崩れる。


「もらった!」


 それを見たハルカは、剣ではなく蹴りで僕に一撃を加えてくる。この戦いは一撃でも当てれば勝ちなので、防ぐ術のない僕の負け。


「ハルカ、残念だけどこの勝負僕の勝ちだ」


「え?」


 なのだが、彼女が至近距離で攻撃を仕掛けてくるのを待っていた僕は、剣を一度手から消しゼロ距離で本来の僕の魔法である光魔法を、


「その魔法打つ前に私の攻撃が当たってるけど?」


「あ」


 打つより先にハルカの蹴りが僕の腹に直撃して、決着。


「まさか攻撃を引き寄せてゼロ距離で打とうとしたのは予想してなかったけど、まだ魔法の発動スピードが遅いねユウマ」


 僕とハルカのデートは、とても甘酸っぱい結果で幕を閉じたのであった。

おまけ『帰り道』


「そういえば今日一日セレナ達を見かけなかったけど、どこに行っていたんだろ?」


「何か私とユウマが出掛けるのを知って、朝から二人で何処か行っていたみたいだよ」


「どこかって?」


「さあ? それよりも、私が勝ったんだから、何か奢ってよ」


「奢るって何を?」


「うーん、じゃあ夕飯!」


「その位ならいいけど、それでいいの?」


「うん。ユウマが奢ってくれるなら、何でもいいから」


「分かった。じゃあギルドに戻ってなんか食べようか」


「うん!」

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