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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第3章雷神様と治癒の魔法使い
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第33話長い一週間の終わり

「嫌だぁ、行かないでよユーマ、セレナ、アリス、ハルカ〜」


 ヒアラさんの家から戻ると、案の定と言うべきかラティが号泣していた。それに対してセレナは、彼女を優しく抱きしめながら頭を撫でてあげている。


「大丈夫だよラティちゃん、お姉ちゃん達また絶対に遊びに来るから」


「本当に?」


「勿論! それにユウマは絶対に来なきゃ駄目だしね〜」


 僕を見ながらセレナは言う。僕は外に出かけるとは言ったけど、細かい理由は話していないはずなのに、まるで全てを知っているような顔をしていた。


「とにかく絶対にまた遊びに来るから。ラティも元気にしているんだよ」


「うん!」


 セレナに慰められたからか、気がつけばラティは笑顔になっていた。

 またこの場所に来る。

 簡単な約束に見えるけど、それは絶対に破られない約束。何せここはもう僕達の二つ目の居場所になったのだから。


「本当にラティが世話になったのう、ユウマ」


「いえ、こちらこそ色々とお世話になりました。最初はどうなるかと思いましたが、こうして仲良くなれてよかったです」


「我もそう思う。主らに会えて本当によかった。これで少しは人間を好きになれたかのう」


「そう言ってくれると、こっちも嬉しいです」


 僕達四人は家を出て、洞穴も出る。出た所には僅かながら昨日の戦いの形跡も残っているけど、僕はあの戦いでほんの少しだけ成長できたと思っている。

 結果としてはボロ負けだったけど、おかげで新しい力も手に入った。


「それじゃあ、また来ますねイヅチ様」


「主らならいつでも歓迎じゃ。また来るのじゃ」


「はい」


 イヅチ様の見送りもここまでで、僕達四人は教えてもらった道通り進んで、この森の出口へと歩き出す。


「ユーマ、セレナ、アリス、ハルカ、皆またねー!」


 最後にラティの声が聞こえる。僕達は最後に振り返りラティに手を振り、今度こそイヅチ様達に別れを告げた。


「最初この森に来た時はどうなるかと思ったけど、逆に来れてよかったかもね」


 歩き出してしばらく、セレナがそう口を開いた。


「確かに」


「罠に嵌められてここに来たとはいえ、雷神様と仲良くなれて嬉しい私」


「これは向こう側も誤算だったんじゃないかな」


 罠に嵌めた側はまさかこうなっているとは思っていなかっただろう。でもこう言っては悪いけど、罠に嵌められなかったらこんな出会いもしなかったのも事実。


「それにユウマにとってはいいキッカケになったんじゃない?」


「僕が?」


「だって、ヒアラさんの弟子にしてもらったんでしょ?」


「「え?!」」


 セレナの言葉に驚くアリスとハルカ。そもそもセレナに話していないのに、どうして彼女はそれを知っているのだろうか。

 女の勘なら、それはすごく怖い。


「どういうつもり」


「え、えっと、これには事情があって」


「どうして私達に黙って勝手にそんな事をしたの?」


「だから、その」


「まあまあ、その辺の話はアルカンディアに戻ってからしよう。まずは帰ることを優先しなきゃ」


「その火種を蒔いたのはセレナだからね?!」


 この後僕はしつこいくらいに二人に詰め寄られた。その度に僕は何とか誤魔化し続け、山を降り森を抜けて、僕達は約四日振りに森の外へと出てきた。


「荷物は無事だったけど、やっぱり馬車は動かせそうにないね」


「うん、やっぱり歩いて帰る以外になさそう」


 森を出てすぐのところに、ここまで僕達を運んできた馬車があった。馬車の中にあった荷物は無事だったものの、馬車自体は動かせそうにない。

 つまりここから歩いてアルカンディアに帰る事になるのだが……。


「長い旅になりそうだね」


「えー、ここから歩いて帰るのー?」


「道は教えてもらっているしそれ以外ないよ」


 かなり長い道のりになりそうだけど、それ以外にないのでここは素直に諦めて歩いて帰るしか、


「最初から世話の焼ける弟子ですね〜」


「え?」


「ワープ」


 どこからか声が聞こえたかと思うと、僕達四人の下に魔法陣が敷かれていて、あっという間もなく僕達は一瞬でアルカンディアのギルド前に移動させられていた。


「え、今何が」


「ってあれ、ここってアルカンディアじゃあ……」


 一瞬の事で全員がパニックになる。でも誰がやったのかとか、そんなのは考えるまでもなく分かっている。


「あの魔法使い、余計な事を」


 アリスがそう呟く。彼女にとっては余計な事をされたと思っているのは当然。そもそも僕がヒアラさんの弟子になった事自体、本当は怒っていたっておかしくない。

 でも僕はそこまでしてでも、もっと自分が魔法使いとして成長したかった。それは他でもないここにいる仲間の為に。


「何見てるの?」


「いや、何でもない。それよりまずは報告しに行かないと。フュリーナ水神祭は大成功したんだし」


「あ、そうね。かなり遅れちゃったけど、怒られないかな」


「報酬減額だったら、生活費どうしよう」


 それぞれ色々と言いながら、ギルドの中へと一週間ぶりに帰還していく。最後にアリスも付いてきているのだが、どうも暗い顔をしている。


(僕のせいかな……)


「アリス、大丈夫?」


「大丈夫」


「僕に何か言いたい事があったら、言ってくれて構わないから」


「ーーうん」


 こうしてフュリーナ水神祭の依頼から始まった、この長い長い一週間は幕を閉じたのだった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 ギルドに帰ってきた後は、ミナさんに色々言われたり、ギルド内にいた他の冒険者達にからかわれたりして、ようやく宿に泊まれたのは夜になった頃だった。


 そしてその夜、

 ここ連日続く睡眠不足が続いている僕は、皆が寝静まる中で僕は眠れないでいた。


(少し散歩しようかな……)


 僕は三人を起こさないように宿を出る。久しぶりにアルカンディアから眺める綺麗な夜空。人もそんなに外に出ていないので、静かでとても過ごしやすい。


「光の魔法使いのユウマさん、ですよね」


 しばらく空を眺めていると、いきなり声をかけられる。


「そうですけど」


 僕はそう答えて振り返る。そこには銀髪のショートカットの女の子が立っていた。腰には短剣が二本差してある。


「ごめんなさいいきなり話しかけてしまって」


「別に構わないけど、僕に何か用?」


「実は先日のフュリーナ水神祭の際に見かけして、お話をしようと思っていたのですが、機会がなくて」


「水神祭の主催で忙しくて、ごめんね。でもどうして僕なんかに?」


 彼女が何故僕に話しかけてきたのかそれでも分からなかった。見た目は盗賊辺りの職業だと思うけど、僕は一度もその職の人は関わったことない。


 それとも何かの依頼で関係があったとか?


「実はあなたに、いえあなた達に一つお依頼したい仕事がありまして」


「仕事? ギルドを通さないの?」


「私個人の話なので直接お話したくて。ユウマさん達にしかできない仕事だと思うんです」


「僕達にしか出来ない仕事?」


 そんな物がこの世にあるとは思えないのが、僕の本心なんだけど、とりあえずもう少しだけ話を聞いてみる。


「実は行方不明になっている私の友人を探してほしいんです」


「人探し? それなら別に僕達に頼まなくても」


「この方に見覚えがありますよね? 特にユウマさん、あなたには」


 そう言って女性は一枚の絵を渡してくる(写真ではない辺り、異世界感を感じ取れる)。そこに写っていたのは、


「え、ちょっと、どうしてこれを」


「やはり見覚えがありますよね。セツナはいつもあなたの名前を言っていましたから」


 女性は確信付いた名前を僕に告げた。


「行方不明になったのは今から三ヶ月ほど前からなんです。だからこの依頼はすぐにこなさなくて構いません。ただセツナの居場所を私に教えていただければ、それでいいので」


 そう言うと盗賊の女性はそのまま何処かへ消えていってしまった。残された僕は、その絵をただ見続けた。


(まさか、そんな事が……)


 失くしたと思っていた光、もしそれがこの世界にあるならば、僕はもう一度でいいから掴みたい。

 たとえどんなに時間がかかっても、僕はもう一度。


「ユウマ、どうしたの?」


 そんな事を考えていると、いつの間に起こしてしまったのかハルカが宿から出てきていた。


「起こしちゃった?」


「ううん。私も眠れないから」


「そうなんだ……」


 僕はこっそり先程の紙を隠し、ハルカに向き直る。


「さっき誰かと話してなかった?」


「ん? 気のせいじゃないかな」


「気のせいなら別にいいけど。ところで私、ユウマに聞きたい事があるの」


「僕に聞きたい事?」


 ハルカは僕と向き合ったまましばらく喋らない。僕は彼女の言葉を待っていると、しばらくして口を開いた。


「こんな事を聞くのはあれだけど、ユウマって私達三人の中だったら誰が一番好き?」


「ーーえ?」


 一瞬ハルカが何を言ったのか分からなかったけど、すぐに僕の頭は理解した。でも理解したところで、答えは出てこない。


 そんなの今まで一度も考えた事なんてなかったのだから。


「もしかしてそんな事考えた事なかったとか、言わないよね?」


「い、いや、そんな事は」


「まあ、そんな答えになるのは皆分かっていたけどね」


 ハルカは宿屋の入口に視線をやる。そこにはこっそりと隠れている影が二つ。


(何やっているんだあの二人)


 隠れているつもりだろうけど、僕からも丸見えだ。というかハルカは分かっていて、それを聞いてきたのだろうか。


「普通こういう時ってもう少しドキドキすると思ったんだけど、やっぱりユウマだから駄目か」


「ちょっ、それどういう意味?」


「そのままの意味。じゃあ私寝るねー」


「あ、待って僕ももう寝る」


 結局僕ははるかの質問の意図を掴めなかった。でもそれ以上に僕は、この世界にあるはずのない物がある可能性があって、とにかく驚いている、


 伊吹雪菜


 僕が失った幼馴染という光。あの盗賊の女性がセツナと言いながら渡してきた絵の人物とそっくりの人物。


 もし本当にその人物がこの世界にいるのなら、ハルカの先程の問いの答えはきっと……。


「あ、そうそうユウマ」


 部屋に戻る直前ハルカがふと足を止めた。


「どうしたの? まだ何か」


「明日二人でデートしようよ」


「で、デート?」


 決まっているはず、だよね?

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