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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第3章雷神様と治癒の魔法使い
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第32話守りたい光

「ど、どうしていきなりそんな」


「お主にはこの先数多の困難が待ち受ける事になる。いや、お主の仲間全員やな。それでも背負うという覚悟があるなら、我に見せて見るがよい」


 降り注ぐ雷を何とか避けながら、僕は考える。昨晩の事、そして今起きている事。イヅチ様はきっと最初から何か分かっていたのかもしれはい。

 だから試練だと言っていた。勿論ラティの事も頼みたかったのはあるのだろうけど、アリスの魔法を見たあの時から、きっと……。


「どうしたユウマ、攻撃できぬか。これでも我はまだほんの少ししか力を使っておらぬ。その程度で負けるならお主は」


「そこだ!」


 僕は雷の合間を縫って、踏み出す。距離を詰めるなら、今がチャンスだ。


「ほう、自ら突っ込んでくるとわ。その潔さ、これを受けても持ちこたえられるかのう」


 正面にやってきた僕に対してイヅチ様は手を差し出し、僕の頭を掴んだ。身長差は明らかなのに、それでも受け止められてしまった僕は驚きを隠せない。


「なっ、どうして」


「身体が小さいからって、舐められては困る」


 至近距離での魔法を狙っていた僕は、動きが止められ魔法を発動する機会を失う。イヅチ様はそんなのは御構い無しに、何と僕の身体を片手で持ち上げた。


「そんな馬鹿な」


「事があるのがこの世の中じゃ。忘れておるかもしれぬが、我はこの世の神の一人。人間よりも何万倍もの力は持っておる」


 そしてそのまま空中に放り投げた。空中に投げ出され、体の自由が効かない僕に、雷が落とされる。


「まだだ」


 だけど僕はそれをとっさの判断で、小さな光の防御壁を作り受けきる。しかし勢いがあった為、身体は地面に叩きつけられた、


「ぐっ、がはっ」


「まさかあれを受けきるとは流石じゃ。しかし直撃ではないにしろ、今ので主の身体は充分に」


 かなりの高さから叩きつけられたので、全身が痛む。おまけに受けきれなかった分の雷が鳴り、身体を痺れさせ、ろくに動かせない。


『ユウマ、無理よ。いくら私が授けた魔法でも神様に挑むなんて』


 シレナの声が聞こえる。挑むというよりは、僕が試されているに近いのだけど、流石に相手が神様なので敵うはずがないのは僕も分かっている。


「イヅチ様、まだーー僕は諦めていませんよ」


「ほう」


 僕はフラフラになりながら立ち上がる。まだ一発も魔法を当てていないし、男としての根性も見せられていない。

 僕が男としてこれから守らなければならないのは、アリスだけじゃない。セレナもハルカも、僕が守っていかなければならない。その為に僕は力をーー。


 守る為の力をーー。


「ぬっ、お主いつの間に」


「さっき雷を身体に受けた時、盾を使いましたよね? その時に少しだけ魔法を頂きました」


 僕の身体には痺れとは関係なく、僅かながら身体に電気が帯びていた。片手には先ほどの盾を持っている。


「他人の魔法を吸収するなど、普通の人間ではできぬものじゃぞ。それをどうして」


「ヒントは今日アリスからもらいました」


 川で遊んでいる時、彼女は人形にラティの魔法を付加させて僕に投げつけようとした。あの人形が特殊なものだと思っていたけど、どうやら僕にもそれをする事は可能だったらしい。


「吸収というよりは、この盾に一時的に帯びさせたに近いんですけど。なのであくまで付加なんですよ」


 この盾もその時に思いついたものだった。活用性はまだ見いだせないけど、僕の光の魔法に雷の魔法を乗せる事ができる。

 それが今のイヅチ様に効くかは別として、僕は新しい力を手に入れた。


「光の盾、その魔法を使えるお主は一体」


「合わされ光と雷!」


 そして僕は一時的に帯びた電気と自分の持つ光の魔法を合わせて、剣を作り上げる。ベースの剣は光で出来ていて、その剣が電気を帯びている。


「もう一度、行きますイヅチ様!」


「面白い、来るがよい、ユウマ!」


 降り注ぐ雷は避け、正面から来る電撃は盾で防ぐ。そして攻撃は、この剣で。


「せめて一撃だけでも!」


 先程とは違って無防備ではないので、投げ飛ばされる事もない。つまり至近距離まで接近でき、そして僕は不慣れながらもこの剣をイヅチ様に振りかざした。


「見事、じゃな」


 けど振りかざした剣は、片手で優しく受け止められた。今の僕の限界がここまでな事を。


「我にここまで接近できたのを褒めてつかわす。誇りに思うがよい」


 剣を受け止められた僕は、そのまま倒れこむ。そしてその身体はイヅチ様に優しく抱きとめられた。

 僕はそれに甘えて、ゆっくりとゆっくりと意識を失っていった。


「気を失いかけながらも作り上げたその新しい力、忘れるでないぞ、ユウマ」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 昔から影がが薄いと言われ続けていた僕。それでイジメられていた事もある。


 でもそんな僕を照らしてくれる光があった。


「悠馬、こっちこっち」


「待ってよ雪菜。僕体力がないんだから」


「もう男のくせに情けないんだから」


 僕にとってたった一つの光。でもその光は僕にはとても大きくて、絶対に失いたくない光。


「ーーえ? 雪菜が?」


 だからその光を失った時、僕は本当の意味で影の存在になった。もう僕を照らしてくれるものは無くなってしまった。


 本当は守れるはずだった光。


 守りたかった光。


 でも今の僕にはまた新しい光が……。



「久しぶりに見たな、この夢……」


 あれからどのくらい僕は眠っていたか分からないけど、目を覚ますと既に部屋は真っ暗になっていた。外の光は見えないので、時間は分からないけど恐らく夜だろう。


「目、覚ました?」


 起きてしばらくボーッとしていると、アリスの声がする。彼女は小さな光をつけて、部屋の隅で人形の修繕をしていた。


「今何時くらい?」


「少なくとも日付は変わってる」


「そっか」


 僕は立ち上がろうとするが、先の戦いの痛みが残っていて動かす事ができない。


「馬鹿」


「え、何でいきなり怒られてるの?」


「セレナが起きたら伝えてって言ってた。私とハルカも同じ意見」


「……」


 身体を動かせないので僕は再び仰向けになって寝ながら、アリスの作業を眺める。


「僕そんなに馬鹿かな」


「神様に挑むなんて、馬鹿以外にいない」


「いや、まあ、確かに正論だけど」


 何度も言うけど、僕が挑んだわけではない。でも皆もう知っているんだ、僕の事。


「それにユウマは嘘が下手。皆隠し事をしている事くらい分かってる」


「それはセレナにも言われたよ」


「ならどうして隠す?」


 僕は言葉に困る。さっきのセレナの時もそうだけど、僕は昨晩の事は隠し通したかった。それが何を意味しているのかは分からない。

 でもいつかそれを話す時が来るなら、それは……。


「私達はそんなに信用されてない?」


「そうじゃないよ」


「だったらどうして」


「本人の為、かな」


「本人って誰?」


「……」


 また僕は黙る。あまりにしつこいかもしれないけど、僕がこれを黙るのはもう一人関わっているからだった。しかもそれは、イヅチ様の差し金で、ヒアラさんの差し金でもある。


『そこを退いてくれませんか?』


『それは出来ません。ここには大切な仲間が眠っているんです』


『その大切な仲間、いえ仲間達の為なら自分が犠牲になってもいいと?』


『守る為なら、僕はそれでも構いません』


 少しだけフラッシュバックする昨日の光景。でもあの時僕は退かなかったからこそ、彼女達を守れたのも事実。


「ごめん、アリス」


「どうして謝るの?」


「僕はまだ力不足だ。闇の魔法とか色々知らない事だらけだし、こうやって皆に迷惑もかけてる」


「……」


「でもこれだけは貫きたい。何があっても僕達四人は仲間だって。だから」


「もう聞き飽きた」


「え?」


「私守られ続けるほどヤワじゃない。ましてや男のユウマなんかに」


「うっ」


 かなり痛いところを突かれて、僕はぐうの音もでない。


「でも、ありがとう」


「っ! こ、こちらこそ」


 その後僕はアリスより先に眠った。

 明日は約束の最後の日。ラティもこの二日でかなり元気になっていたので、もう問題はないだろう。

 ただ残されている課題は一つだけある。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「やっぱり戻ってきていたんですね」


「帰りの挨拶にでもきたの〜? ユウマ君」


 アルカンディアへ戻る少し前、僕はヒアラさんの家を訪ねていた。恐らく戻っているとは思っていたので、ここまでは予想通り。

 問題はその次からだった。


「それもありますが、それ以上に僕はあなたに頼みたい事があってここに来たんです」


「私に頼みたい事〜?」


「まず一昨日の件について、アリスについてはしばらく様子を見てほしいんです。簡単な話ではないかもしれないですけど」


「うーん、考えておく」


「それともう一つ。これは僕個人としての頼み事になるんですけど」


 アリスの事は簡単に受け入れてもらえないのは分かっていた。だからそれは今はこの反応でいい。けどもう一つは、僕のこの先に関わるとても大事な話だ。


「迷惑でないならいいんですけど、僕を、その、弟子にしてもらえませんか?」


 それはまだ未熟な僕を育ててほしいという、三大魔法使いの一人に簡単に頼めるようなものではない頼み事だった。


「弟子〜? どうして〜?」


「もっと知りたいからです。魔法の事を。そして強くなりたいんです、仲間達を守る為に。だからお願いします!」


 僕は真っ直ぐにヒアラさんに伝えた。


「かなり厳しい道を進む事になるよ?」


 それに対してヒアラさんは真面目な口調で僕に尋ねてきた。この道はかなり荊な道なのは分かっている。それでも僕は、


「自分が決めた道なんで、ただ突き進むだけです」


「そう。ならいいよ。弟子として取ってあげる」


「え? 本当ですか?」


「ただし、私も優しくしないから覚悟だけはしておいて」


「……はい! ありがとうございます!」


 こうして僕は冒険者として、そして一人の魔法使いとしてヒアラさんの弟子になったのであった。


 ただ、まだこの時僕は知らなかった。この道が本当に厳しい道になる事に。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「私が師匠、かぁ」


 弟子をワープでイヅチちゃんの所へ送った後、私はため息をついた。

 まさかこんな私に弟子ができるなんて、魔法使いを始めた時の自分に言ったらきっと驚くだろう。


「ねえセツナ、どう思う? 私が弟子を取っただなんて信じられないでしょ」


 私は一枚の絵を手に取る。そこには私が書いた一人の親友が写っていた。


「これもまた、運命なのかな」

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