表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第3章雷神様と治癒の魔法使い
27/180

第25話彼女がその名で呼ばれる理由 前編

 僕とセレナが遭遇したのは、不幸な事に雷神様の娘様。こちらの意図でこの森に入ったわけではないから、まだ弁解の余地があると思っていたけど、こうして実の娘を連れて歩いてしまっていては、絶対にお怒りだ。


「ユーマはどうしてこの森に? お母さんはここはニンゲンは入っちゃダメだって言ってた」


「それが僕達も本当は入るつもりなんてなかったんだよ」


「どーゆー事?」


 小首を傾げる女の子。彼女に説明しても多分理解できないだろうし、選択肢としてはもう直接雷神様に直談判するしかない。


「ところで、貴女の名前はなんて言うの?」


 真面目な話をする僕とは反対に、セレナは優しい口調で少女に話しかける。そういえばまだ雷神様の娘様って分かっただけで、肝心の名前を聞いていなかった。


 というかその事実だけで十分インパクトが強すぎた。


「私? 私はねラティって言うんだ」


「ラティちゃんね。ねえ、ラティちゃんのお母さんは今どこにいるの?」


「お母さんはあそこのお山の一番上にいるんだ」


 そう言ってラティちゃんは洞窟の外に見える岩山を指差す。つまり彼女を母親の元へ帰すためにはあの岩山を登らなければならない事になる。

 岩山は普通の山よりも足場が悪いので、簡単に登れそうにない。


「セーナお姉ちゃん、お母さんに会いたいの?」


「会いたいというより会わなきゃいけないかな。ラティちゃんをお母さんの元に帰さなきゃいけないし」


「えー、ラティお母さんのところに帰りたくなーい」


「帰りたくないの?」


「だってお母さんいつも私に怒ってばかりで、嫌なんだもん」


 多分お母さんが怒っているのは、僕達のように勝手に森に立ち入る人がいるからだと思うのだけど、恐らくラティちゃんの年ではそれが理解できないのだろう。


(やっぱりまだまだ子供なのかな)


 見た目通りなら、まだ親に甘えたい年頃だ。でも僕達のような人のせいで怒ってばかりだったら、甘えたくても甘えられない。多分ラティそれが嫌で、俗に言う家出をしてきたのだろう。


「ねえユウマ、これって」


「うん、多分僕達も原因の一つだったりするのかもね」


「私達罠に嵌められただけなのに」


「でもこの森を悪用した奴もいるのも事実だからね」


「確かに……そうだけど」


 そんな話をしていると、再び遠くで雷が落ちた音がした。僕達は未だ洞窟の中に避難しているので、もしかしたら誰かがまたこの森に立ち入ったのかもしれない。


「もしかしたらアリス達が」


「その可能性があるわね。一度二人と合流したほうがいいかも」


「ユーマとセーナお姉ちゃん、何のお話をしているの?」


 僕とセレナの会話にラティが入ってくる。もしここに入ってきたのがアリス達ならば、合流を急がなければならない。でも同時にラティの事もあるので、彼女も連れて移動しなければならない。


 それは正に火に油を注ぐ行為になりかねないのだ。


「どうするセレナ、ラティは帰りたがってないけど、やっぱりお母さんの所に届けた方がいいよね」


「そうね。でもアリス達の事も気になるし」


「危険だけど二手に分かれようか。僕はラティを連れて先にあの岩山を登るから、セレナはまずアリス達と合流してくれないかな」


「でもそれってユウマが危ないでしょ」


「大丈夫だよ。登山の経験はあまりないけど、無事ラティをお母さんの所に連れて行くよ」


「ねーねー、ラティにも教えてよー」


 かなり危険な行動ではあるけど、今の状況から二手に分かれるのが得策だ。アリス達と合流してからでもいいのだけれど、先に向かった方がこの雷を止められる可能性がある。


「分かった、私にユウマを信じるね」


「ありがとう。ラティ、今から大事な話をするから聞いてくれないかな」


「何? ユーマ」


「僕は今から君と……」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ひぃ!」


「ハルカ、情けない」


「だ、だ、だって、か、か、雷が」


「落ち着いて」


 森の中に足を踏み入れてしばらく、予想通り私達を落雷が襲っていた。どうやらこの場所が鳴雷の森だというのは間違いなかったらしい。

 雷に慣れていないハルカは先程から落ちる度にビクビクしているけど、私はこの位、


「ってアリスも落ち着いているように見えて、すごく震えているじゃない!」


「こ、怖くない、怖くない……」


「うわ言みたいになってる?!」


 怖くない、怖くない。


「怖くない怖くない怖くない」


「私雷よりアリスの方が怖いんだけど……」


 そんな会話をしながら、私達は森の中を進み続ける。私達が目を覚ましたのは朝、そうなるとユウマ達が馬車から居なくなったのは、夜のうちだと考えられる。

 だとするなら、二人は森の奥にでもいるのだろうか? それとも……。


「ねえアリス、何か感じない?」


 ふとハルカがそう言葉をもらす。それは私自身も先程から感じていた。落雷とはまた別に感じる気配、言葉で表すならそれは殺気。


(でもどうしてこんな森の中で?)


 ただでさえ人が足を踏み入れるのはとても危険な場所。そんな所で殺気を感じるならそれは……。


「構えてハルカ、来る!」


「え?」


 私は木の陰に人形を向かわせ、至近距離での魔法を狙う。しかしその気配は私達の上、頭上に移動した。


「ハルカ、上」


「分かってる!」


 ようやく私はその殺気の正体を捉える。私とハルカを襲撃したのは、


「人間?」


「違う、これは多分」


 この森にいるものとしては相応しい、人型の鬼だった。その証拠に、その頭部にはツノが生えている。


「我らの森に入る者は、何人たりとも許されない」


「待って、私達はここに迷い込んだ仲間を探しに」


「問答無用!」



 武器を持たない鬼は、力をそのままにハルカを地面に叩きつける。


「っ! すごい力」


「ハルカ!」


「大丈夫、この程度」


 ハルカは拳を大剣の中腹部分で受け止めきり、そのまま鬼を弾き飛ばす。


「素手でこの強さ、ちょっとマズイかも」


 敵を弾き飛ばせたものの、よほど衝撃が強かったのか、ハルカは顔をしかめる。だが弾き飛ばされた敵は、平然とした顔で、次の一撃にはいる。


人形防御(ドールガード)!」


 ハルカを守るために私は人形を使って、追撃を防ぎ、今度はこちらが攻めに入る。


人形(ドール)2、回り込んでファイア!」


 私は人形を動かし、その一体に魔力を込め放たせる。鬼の背後を取った人形は、確実に魔法を与えた。


「ぐっ、小賢しい!」


 しかし直撃だったのにも関わらず、人形の防御を破る鬼。だけどそこまでは想定済み。


「ハルカ、行って!」


 人形の防御を破ると同時に、鬼との距離を詰めていたハルカが、更なる追撃を図る。


「何っ!」


「もらった!」


 敵の防御はガラ空き。ハルカは確実にその大剣で敵を一閃した。


「まだだ!」


 筈だった。

 鬼はハルカの一閃を片腕で受け止め切ったのだ。


「嘘でしょ」


 それにより今度はハルカの防御がガラ空きになり、鬼はそれを見逃さずにハルカに重い一撃を当て、吹き飛ばす。


「きゃあああ」


 吹き飛ばされたハルカは、近くの木にぶつかり、そのまま倒れこんだ。私は急いで彼女に駆け寄った。


「ハルカ、大丈夫?!」


「ごめんアリス、私……」


 そこで気を失うハルカ。息はしているので命に別状はないかもしれないけど、もしかしたら大怪我をしている可能性もある。


「鬼を甘く見たようだな、人間」


 何事もなかったかのように鬼はこちらにやって来る。私はハルカを寝かせ、対峙する。


「やっぱり男は下劣な生き物。それが鬼でも変わらない」


「何だと」


「私の仲間を傷つけたお前は、死をもって償ってもらう」


 許せない


「人形使い如きの貴様に何が出来る」


 許せない


「私は死の人形使い、並みの人形使いと同じにされては困る」


「何だこの魔力」


 久しぶりに私の身体中にあの力が湧いてくる。ずっと、ずっと、使わないようにしてきた力。


 せめて私を受け入れてくれた彼の目の前だけでは、使いたくなかった。


人形(ドール)4、久しぶりにあれ使う」


『しばらくわらわの出番がないと思うたら、まさかこんな形で使うことになるとはのう。よいのか?』


「そうしないと多分勝てない」


『分かった』


 人形から吹き出るのは闇のオーラ。それは敵を包む絶対的な闇。


「なっ、この魔法、貴様まさか」


「闇魔法、『闇の鎮魂歌(ダークレクイエム)』」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ