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影が薄いけど魔法使いやっています  作者: りょう
第2章真夏の夏祭り盛り上げます
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第22話誰だって臆病

 その後午前中からお昼にかけて、水神祭を堪能した僕達は、午後からは真面目に仕事を行った。


「いらっしゃいませ、ヒルの姿焼きは如何でしょうか?」


「お二つですね、ありがとうございまーす!」


 僕とハルカは屋台の手伝い、アリスとセリナは客引きとそれぞれの役目を果たしている。


 ちなみに僕達が今売っているヒルというのはこの世界では魚の一種らしい。


 それを焼いて少し味付けした物を売っているのだけれど、あまり馴染みがない僕にとっては美味しそうには見えない。まだギルドで出る食事の方が美味しそうに見える。


「ちょっとユウマ、手が止まってる。ちゃんと仕事して!」


「そういうハルカだって、さっきまでお腹一杯だぁとか言って動こうとしなかったくせに」


「あ、あれは、ここで出す料理が美味しすぎるから悪いの!」


「まさかの他人のせい?!」


「あの、姿焼き二つ欲しいんですけど」


「「ありがとうございまーす!」」


 喧嘩をしながらも僕とハルカは順調に売りさばく。


  「アリス、今すぐその人形しまって」


「いらっしゃいませ、人形はいかが?」


「ちょっと何勝手に商売始めているの?! あ、すいません、怖いですよねこの人形」


「怖くないよ。だから買っていって」


「もしかしてあんた、さっきの失敗まだ引きずっているんでしょ!」


 一方アリスとセレナは、上手くいっているのかいっていないのか分からない状態で、客引きを続けている。


(滅茶苦茶だけど、売り上げも順調だしこれはこれで成功かな)


 三人の浴衣も見れて、僕は既に大満足だった。あとは夜まで商売をしたり、会場を回ったり、後夜祭をやったりとにかく楽しめば問題ない。


(本当最高の1日になるかもしれない)


 僕はそう思った。


 けどそれは突然に、


 何の前触れもなく起きた。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 水神祭も後半に差し掛かり、そそろそろ観光客も帰り始めたその時、あの音がフュリーナに鳴り響いた。


「この音、まさか」


「魔王軍?!」


 まだ屋台で販売をしていた僕達は、その音が鳴り響いたと同時に身構えた。


(どうししてこんなタイミングで……。これだとまるでここに人が集まっている事を知っていたかのような……)


「ユウマ!」


 警鐘が鳴り響く中、アリスとセレナが僕達の元にやって来る。僕は丁度買い物をしていたお客さんを一度安全な場所に誘導して、二人と合流する。ハルカも一緒だ。


「今、都の門番の人から聞いたけど、遠方に魔王軍の影が見えたんだって。数は百近くだって言ってた」


「今この都にいる冒険者ってどのくらい?」


「正式な依頼で来ているのは私達だけど、観光客の中にはいるかも」


「じゃあいる限りの数を集めよう。迎え撃つ」


 僕はセレナとハルカに冒険者を集めるのを頼み、アリスと共に都の入口に向かった。何故アリスを選んだのかというと、


『ねえ最近、私の出番忘れているよね?』


「気のせい気のせい」


 彼女の人形には神様が宿っている(宿らされている)からだ。いざとなればこの光の女神様だって役に立つ。


 たとえ出番を一年近く忘れていたとしても、役に立つはずだきっと。


『ねえ私の扱い雑過ぎない? 私神様なんだけど』


 とにかく今は急ごう。


「待ってユウマ」


 だがその途中で何故かアリスが足を止める。


「どうした?」


「何かが来る」


「え?」


 それとほぼ同じタイミングだった。空から何かが降ってきたのは。


「危ないアリス!」


 僕は慌てて彼女を庇って、それを避ける。


(これは……大剣?)


 さっきまでアリスが居た場所には大剣が突き刺さっている。しかもかなりの大きさだ。

 僕はアリスから離れて、その大剣の持ち主を探す。


「まさか我が剣を避けるとは。お前が噂に聞く魔法使いだな」


 声がしたのは大剣が降ってきた空。そこから体長三メートル近くはある巨漢が降ってきた。


「くっ、魔王軍か」


「いかにも。我は魔王軍四将星の一人、デルーテ。先日の仲間の仇はここで取らせて取らせてもらうぞ」


 デルーテが地面に降り立つと同時に、地面が大きく揺れる。バランスを崩しそうになるのを僕は抑えて、デルーテと対峙する。


「四将星……」


「アリス知っているの?」


「魔王の次に強いと言われている四人の戦士。デルーテは見た目の通り、一撃の破壊力がとてつもない」


「確かにあの大剣を食らったら、ひとたまりもないかも」


 おまけにあれだけ大きいと、攻撃を当てることも難しい。というか相手は四将星、僕がどうにかなるような相手ではない。しかも都の入口には別働隊が迫っている。


(このままだと……。でも戦うしかない)


 折角の祭を台無しにされた事は許せない。勝ち目はないかもしれないけど、それでも僕は……。


「ユウマ?」


「勝ち目があるわけじゃないけど、戦うよアリス」


「その心意気や良し。かかってくるがよい、魔法使い」


「勝負だデルーテ!」


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

「ユウマ!」


 僕はアリスの声を背にデルーテの足元へ駆け出す。こういう巨人は足元が弱点なのが相場だ。まずは敵の攻撃が当たらない範囲に、


「なるほど単純な考えだが、素晴らしい判断力だ。しかし」


 だがたどり着く直前でデルーテは飛び上がった。現れた時と同じくらい、いやそれ以上の高さで飛び上がり、持っていた大剣を振り下ろしてきた。


「あ」


 巨人でもあんなに高く飛べるんですね。


『呑気な事言っている場合じゃないでしょ! あれが振り下ろされたら都が』


 女神様のツッコミで我にかえる。そうだ、あれが振り下ろされたら僕達どころかこの都が……。


「こんな街などこの一振りで十分だ。さあ食らうがいい!」


 デルーテがすごいスピードで振り下ろしてくる。どうすれば、


「ユウマ、考えがある」


 アリスが数秒耳打ちしてくる。彼女が伝えた作戦は、決して簡単なものではない。何よりアリスが……。


「大丈夫、私を信じて」


「っ! 分かった」


 僅かな作戦会議の後、アリスは人形達をあの大剣の元へと飛ばす。僕はデルーテの影のところに魔法を発動させる。


「そんな人形如きで、この剣が止められるとでも思っているのか?」


「止めるんじゃない。これは時間稼ぎ」


「何っ!?」


 アリスがギリギリのところで人形を使って剣を受け止めているおかげで、デルーテの足元から魔法が打てる。


「敵を貫け、光速の槍!」


 僕は地面から無数の槍を飛び出させ、それをデルーテに貫かさせる。


「ぐぁぁ」


 アリスが動きを止めているおかげで、攻撃はすべて当たり、デルーテはバランスを崩して倒れる。アリスのおかげで大剣の勢いを殺す事もできたので、何とか被害を最小限にとどめられる。


 だが……。


「ふっふ、面白い。まさかこの剣を止めるものが現れるとは」


 デルーテは何事もなかったように立ち上がった。全ての攻撃が当たったから、多少なりともダメージ入ったと思ったけど、その様子も見られない。


「だがまだまだ弱い。その程度では我には勝てない」


「くっ」


「若き力をこの手で潰すのは悔やまれるが、これも運命だ。大人しく散れ!」


 僕の頭上に剣を振り下ろすデルーテ。今の一撃で魔力を使ってしまった僕には、今反撃する力も残されていない。


「ユウマ!」


 アリスの声がする。彼女がこんなに感情的な声を出すのは初めてかもしれない。最後にそんな声が聞けてよかった……。


「さらばだ、魔法使い」


 僕が全てを諦めたその刹那、


「はぁ!」


 それはまるで光の速さのごとくやって来た。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎


「なっ! 我の剣が」


 同時に誰かに抱きかかえられる。


「大丈夫ですか?」


「え、あ、はい」


 ほんの一瞬の出来事で僕は思考が追いつかない。僕を寸前のところで助けてくれたのは、セレナと同じような鎧を纏った、青い髪のショートカットの女性だった。


「まさか四将星にたった二人で挑むなんて無茶にもほどかありますよ」


「でも」


「この都を守ろうとしたんですよね? おかげでギリギリあなたを助けることが出来ました」


 そう言うと青髪の女性は僕を安全な場所に置き、デルーテと再び対峙する。


「デルーテは私が相手します。貴方達は街の方の避難をお願いします」


「あの、あなたは?」


「私は……」


「許さぬ、許さぬぞ!」


 彼女が名前を名乗ると同時に、デルーテが吠えたため、肝心な部分が聞き取れずに終わる。もう一度聞こうと思ったが、今はそれどころではない。


「大丈夫? ユウマ」


 アリスが僕の方へ寄ってくる。アリスの方は怪我なさそうだ。


「僕は大丈夫。それより一度セレナ達と合流して、都の人達を避難させよう」


「うん」


「あ、でも都の外の軍勢が」


「それなら多分大丈夫」


「大丈夫って何が?」


「私達は指示通り動けばいい」


 何が大丈夫かは分からないけど、とりあえずアリスと共にセレナ達との合流を急ぐ。


(結局僕は何もできなかった……)


 デルーテと戦う青髪の女性を、背中に見ながら僕は思う。無謀にも四将星に挑み、ほとんど傷も与えられずに敗北してしまった。あの時助けが来なければ僕は確実に殺されていたのだ。


「ユウマは頑張った」


「アリス……。でも僕は」


「頑張れなかったのは、私の方」


 そこで僕は気づく。アリスの体から僅かに血が流れていることを。きっと大剣を受け止めた時かその後に、傷を受けてしまったのだろう。


「ユウマが殺されそうになった時に、私は動けなかった。本当は助けなきゃいけないのに」


「そんな事はないよ。アリスが居なければ戦う事が出来なかったよ、僕は」


「死の人形使い」


「え?」


「私がそう呼ばれている理由、分かったでしょ?」


 そんなの分からない、そう答えたかった。だけどその言葉はきっと何の意味も持たない。きっとアリスはそれを認めてしまっているから。自分が関わると誰かが死ぬかもしれないって。


 だけど、


「それがどうしたんだよ、誰だって死ぬ事が怖いのは当たり前じゃないか」


「でもあの人が居なかったら、私が助けようとしなかったせいでユウマは死んでいた。私が臆病だから」


「それと死の人形使いって呼ばれているのは関係ない!」


「っ!?」


「やっと分かったよアリス。君は死の人形使いなんかじゃないって」


 誰かの死は彼女の意図によって起きた事ではない。なら、そんな名前で呼ばれる理由がない。


 誰だって死に対して臆病なのだから。


「……早くセレナ達と合流しよう」


 アリスは僕の言葉に対して、何も答えなかった。けど最後に、


「ありがとう」


 彼女がそう言っていたのを僕はしっかりと聞いていた。

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