第12話滅びた村と大剣少女②
探索を始めて五分。なかなか人の気配がなくて、見つけるのに僕達は手こずっていた。
「この体も案外悪くないかも」
人形となってからしばらく経って、久しぶりに女神様は喋る。人形本体は僕が抱えているのだけど、どうやら本当に動く事はできないらしく、何度か立たせようと試みても立つことができなかった。
「抱えている僕の気持ちにもなってほしいんだけど。一々重くて動きにくいし」
「むきーっ、女神様に対して体重の事を言うなんて、どれだけ失礼なの? わたしはこう見えてスレンダーなんだから」
「スレンダーというよりは、小さすぎだと僕は思ったけど」
「ユウマ、人形と話しているとか怖い」
「人形をこんなに連れているアリスの方が僕は怖いんだけど!」
「私は人形とは話してない」
「大して変わらないと僕は思うんだけど」
どちらかというと、九体も連れてこんな夜を歩いている人を見かけたら、ホラーだし誰も近寄りたくなくなる。
「ん? もしかして」
ハルカっていう子が見つからないのは、こんな怖い人が一緒にいるからなのだろうか。
「よし、アリス。ちょっとどこかに隠れていてほしいんだけど」
「どうして? まさか私には見て欲しくないことを」
「そうじゃなくて」
事情説明中。
「そんなに私、怖い」
「うん」
「人形可愛いと思うんだけど」
「どこをどう見れば、そういう考えになるのか後で教えてくれないかな」
とにかくアリスには近くに隠れてもらい、僕は再び探索をする事に。
五分後。
「ハルカちゃん、出てきてー。僕は君を保護しに来たんだ」
僕は心が折れかけながらも、ひたすら呼んでみる。しかし、反応はない。
「あれどっからどう見ても、犯罪者ね」
「私より怖いと思う」
いつの間に会話するようになったのか、女神様とアリスのひそひそ話が聞こえてくる。
「二人とも、聞こえてるからね?」
さらに探し回るが、やはり反応はない。もしかしてどこかへ行ってしまったのだろうか。
「ハルカちゃーん、どこですかー」
「私の名前、そんな呼び方しないで!」
あ、出てきた。
■□■□■□
「何なの、何度も何度も私の名前を呼んで!」
焼け野原から出てきた赤髪の少女。彼女は恐らくシレナといい勝負になりそうなくらいの身長の女の子で、背中にはそれには似つかない大きさの大剣を背負っていて。
「そんなに僕、名前呼んでないと思うけど」
「三十回」
「え?」
「あなたが一人になってから、私の名前を呼んだ回数」
「あ、えっと、何かごめんなさい」
僕そこまで名前呼んでいない気がするんだけど。それだけ呼んでたらまるで変質者じゃないか。
「間違いなくあれは変質者だった」
「女神の私でも、ちょっとあれは見逃せないかな」
人形と人形使いにツッコミを入れられているけど、そんなの気にしない。
「それで、さっきから保護しに来たって言っていたけど、誰の差し金?」
「君の従姉妹のミナさんだよ」
「はぁ……。またミナなの」
「またって、どういう事?」
「もうかれこれ一年、ずっと彼女は私を保護しようとしているの。もうこの一年で私は充分成長したし、一人で生活もできている」
「い、一年? てっきり僕は、クロム村が最近滅びたと思っていたんだけど。ミナさんも言っていたし」
「それはあの人の真っ赤な嘘。私を早く保護したいから、そういう話を作っただけ」
「で、でも一年って」
いくらこんな小さな女の子が一人で暮らせるような期間ではない。背中の大剣を持っている辺り、戦う能力はあるかもしれないけど、それでも危ないのには変わりない。
「とにかくここまで来てもらったのはわるいけど、私はここから離れるつもりなんてないから。こんな大切な場所を離れるなんて事は……」
でも本人の意志は固く、僕にそう言い残してどこかへ行ってしまう。
「あ、ちょっと待って」
「何? 私は帰らないって言ったでしょ?」
「あの、僕達明日まで馬車が来ないから、泊めてほしいんだけど」
「……」
ハルカは焼けはしたものの、形だけはしっかり残っていた建物の中で生活していた。一年で色々中を整えたのか、外からは見違えるくらい中は綺麗だった。
「外があれだけボロければ、誰も住んでないと勘違いすると思ったの。いわゆるカモフラージュみたいなやつ」
「へえ」
「ところでさ」
「ん?」
「その人形、何とかならない? 怖くて寝れないと思うんだけど」
「それはアリスに聞かないと」
「あ、あの、あ、アリス、さん?」
「断る」
「えぇ!?」
即答でした。
「とりあえず僕、もう眠くなったし寝てもいいかな」
「私も寝る」
「ねえ二人とも絶対わざとでしょ? こんなに人形がいるのに、慣れる前に寝るなんて」
「わざとじゃないよ。その方が面白いと思うから」
「ねえ、私に何か恨みでもあるの? ミナが嘘をついた腹いせ? アルカンディアに一緒に行く以外なら、何でもするからまだ寝ないで」
よほどの怖がりなのか、必死に僕達を起こそうとするハルカ。やっぱり体が小さいだけあって、おばけとかは苦手らしい。何でもするって言うし、僕は仕方がないので起きた。
「すー、すー」
アリスはというと、そんなのも御構い無しと既に寝息を立てている。流石は空気を読めない人形使いだ。
「何でもするなら、一つ僕の頼みごとを聞いてくれる?」
「な、何?」
「この村を離れたくない本当の理由を、僕に教えてほしいんだ」