髪を切ったら……
息抜き程度にふと思いついたモノをつらつらと・・・
突っ込み不可でお願いします
この国は髪が長ければ長いほど良いとされていた。
その理由は定かではない。
ただ昔から長い人が多かったから今なお女も男もみんな長髪。
しかも括りもせずに垂れ流し……
正直見ていて暑苦しいのよね。
いや、まあそれが世間の常識と言えば常識なんだけど……
むさ苦しい男の長髪姿は正直見ていて気分が良いものじゃないのよね。
見目麗しい男性なら見ていても飽きないけど……
私は16年間伸ばしていた腰のあたりまであった髪をバッサリ肩のあたりで切りそろえた。
それを見た侍女が盛大に叫び、屋敷中にその声が響いた。
血相を変えて部屋に飛び込んできた、両親、兄、弟。
短くなった私の髪を見て『何があった!?』と理由を話すまで開放してくれなかった。
だから仕方なく話した。
婚約者(仮)に婚約破棄を言い渡され、婚約者(仮)の新しい女に髪を切りつけられ、長さがバラバラになったので短くしてみた……と。
両親と兄は額に青筋を立てて、勢いよく部屋を飛び出していった。
慌ただしい人達である。
「リー、本当にフィルから婚約破棄を言われたの?」
一人残ったのは双子の弟。
「ええ。ご丁寧にも彼のご両親の前で婚約破棄を宣言して、その場で新しい婚約者を紹介されたわ。そのあとあの女、私の髪を切りつけたのよ……」
部屋に置いてあるお気に入りのソファに座ると弟も隣に座った。
「フィルの両親は?」
「顔を真っ青にさせて私に平謝りしたあと、彼と新しい婚約者をつれてどこかに出かけたわ」
「ふ~ん」
「心のこもっていない、口元に笑みを浮かべた謝罪に思わず大笑いそうになったけど、何とかこらえたわ。傍から見たら泣くのを堪えている様に見えたでしょうね」
くすくすと笑っていると弟が真剣な表情で見つめてきた。
「リーはそれで納得したの?」
「納得も何も、彼等の名前を挙げる為だけの婚約だったのよ。ある程度知名度が出来たから私は不要になったってだけでしょ?心構えなんてとっくにできていたわよ。今頃彼らは上手くいったと祝杯を挙げていることでしょうね。悪名が高まっただけなのに……」
私との婚約は相手側からの申し入れだった。
何度も断っていたが、あちら側は周囲を固めて私たちが拒否できない様に仕向けた。
もっとも、周囲と言ってもあちら側の周囲。
こちら側の周囲は皆『脅されて婚約させられた可哀そうな令嬢』と私を見ている。
中には『早々に破棄して、自分と……』とアプローチをしてくる強者もいた。
私の婚約破棄の話題は明日には貴族中に知られるだろう。
そして、この短くなった髪のことも……
あの家の使用人たちがどのような噂を流すのかで私への態度が変わるわね。
***
翌日、予想通り婚約破棄の話は瞬く間に国中に広まった。
破棄理由が『身分相応の相手を見つけた。身分が上のお嬢様を娶るには我が家は……』というあちら側の自分勝手な言葉だけが伝わった。
身分か……
確かにこちらは侯爵、あちらは子爵。
本来ならあり得ない婚約。
だけどそれを無理やり通したのはあちら側。
無理やり婚約を結んだのにいろいろとやらかされていたわね。
社交の場でエスコートされたことは一度もない。
我が家主催の夜会に招待しても欠席。
お茶会に夫人を招待してもこれまた欠席。
侯爵家を相手によくこれほどのことが出来るモノだと周囲は呆れていたモノだ。
社交界はその話題でもちきりだったわ。
無理やり婚約を結んで、相手を蔑にしていた挙句、自分勝手な理由での破棄。
彼等の今後の言い訳が楽しみだわ。
私たちは一切フォローなんてしないけどね。
「リー、本当に大丈夫?」
心配そうに私の傍らに立つ弟。
今日は王家主催の舞踏会。
本来なら髪を理由に欠席したいところだが、王妃様より必ず参加するよう命令されての参加。
「伯母様の命令をリューは拒否できるの?」
にっこり微笑みながら弟・リューの腕に手を掛けるとリューは苦虫を潰した様な表情を浮かべた。
「無理だね……まあ、あの方が味方なのが僕たちの強みだよね」
「あと、アル様からも絶対来い!って言われたのよ」
第二王子の名前を出すとリューはクスリと笑った。
「なるほどね、フィルの家だけじゃなくて我が家にとっても今回の婚約破棄は予定通りってわけか」
「え?」
「リーはまだ知らなくていいよ。すぐにわかるから」
***
いつの間にか、エスコート役がリューからアル様にチェンジしていました。
たしか、伯母様こと王妃様に挨拶した時まではリューが傍にいましたのに……
遠巻きに短くなった私の髪を見て眉を顰めている令嬢達を横目に、王太子妃様とも楽しく会話をしておりました。
王太子妃様は隣国から嫁がれてきた、ふわふわの金髪で青い瞳のお人形のように可愛らしい方です。
王太子妃様とは学院時代の同級生でもあります。
「リー様の髪形素敵ね。どうなっているの?」
「少しずつ髪を束にしてリボンや髪飾りを一緒に編み込んであるのです。長いと時間がかかるし、装飾品も多く頭が重くなるでしょ。でもこの長さなら、髪を結う人もさほど疲れないし、装飾品も少なく済むので、私も頭が重くならないし、侍女たちも腕への負担が減ったと好評ですわ」
普段は垂れ流している髪もこういった舞踏会などでは懲りに凝った髪形をする。
侍女たちにとっては時間との戦いだと私の侍女が言っていました。
今回は私の髪が短くなったので作業時間も大幅に短縮。
髪を結いあげる時間が減ったのでその分、髪飾りを選ぶのに時間がさけていろいろ試せて楽しかったとこっそり呟いていました。
「私も切ろうかしら。毎日毎日髪を整えるだけで1時間以上かかるんですもの。座っているだけで疲れちゃう。髪に時間を掛けるよりも他の事に時間を割きたいわ」
王太子妃様のこの発言が波紋を広げたのは言うまでもない。
「あら、じゃあ私も切ろうかしら。リーの髪型を見ていたら自分でもやってみたくなっちゃったわ」
なんと、王妃様まで便乗。
周囲が止めようと必死の中、国王陛下までもが『短い方が楽そうだな』と呟かれたとか。
「俺も切ろうかな」
「アル様?」
「正直、長い髪って鬱陶しいんだよね。昔から長髪が良いとされてきてたけど、周辺国でここまで長髪が多いのはうちの国だけなんだよな。他国に留学していた時に、短髪の奴らが羨ましかったんだよね。いろいろな面で……」
第二王子のアル様の言葉に周辺からどよめきが起きた。
「王太子妃の実兄……ガル殿下と手合せした時、髪が邪魔でしょうがなかったんだよ。ねえ、父上」
大臣たちと酒を交わしてた国王陛下は視線だけで先を促したのでしょうか、アル様は世間話をするように続けられました。
「俺もリー同様に短くしていい?というかしますから」
アル様の宣言に陛下は一瞬瞠目されましたが、小さな笑みを浮かべた。
「好きにしなさい」
「まあ、陛下!では私も……」
「王妃はダメだ」
「なんでですの?私も短くしたいです!」
「アルディオンとリーシュル嬢の婚姻が整うまでは我慢しなさい」
はい?
今、さらりと何か重大なことを言われたような……
「父上!では……!」
嬉しそうに陛下を見つめるアル様。
あの……一体なにが……
「ただし、リーシュル嬢の承諾を得たならば……だ」
にやりと意地の悪い笑みを浮かべる陛下にアル様は一瞬言葉を詰まらせたようですが、すぐに私の前に跪いてて私の両手を軽く握りしめました。
こ、これは……
「アルディオン・フォン・ラージアルはリーシュル・フィラ・レーゲントを妻に望みます。どうか、私と苦楽を共にしてくださいませんか?」
プ、プロポーズされてしまいました。
しかも公衆の面前で……
これって……
断れないパターンじゃないですか~!!
はっ!?
リューが言っていたのはこの事ですか!?
我が家にとっても予定通りって……
「リー?」
返事を待つアル様の瞳が不安に揺れています。
諦めていた想いを捨てなくていいのでしょうか。
子爵家からの強引な婚約で一度は捨てようと思ったアル様への想い。
「リー、自分に素直になっていいんだよ」
「リュー?」
いつの間にか傍にいたリュー。
リューの笑顔に私は小さく頷き、小さく深呼吸をした。
「私、リーシュル・フィラ・レーゲントはアルディオン・フォン・ラージアル様のお申し出をお受けいたします」
私の返事にアル様は嬉しそうに微笑むと左手の薬指にキスをした。
周りからは盛大な拍手と祝福ともとれる声が上がった。
「ねえ、リー。リーが俺の髪を切って」
「え?」
「婚約の成立記念に……ね?」
にっこりほほ笑むアル様。
周囲からは興味津々の視線が……
「ぶ、不恰好になっても怒らないでくださいね」
「大丈夫、リーはとっても器用だって知っているから」
いつの間にか従者がはさみをもって傍に立っておりました。
「い、今この場でですか?」
「うん、君が俺の大切な人で、俺が君の一番の人と見せつけたいんだ」
キラキラ瞳を輝かせるアル様。
キョロキョロト視線を彷徨わすと陛下からも是非と言われたので公開散髪を行う事になりました。
「婚約が成立したら男性は女性に髪を切ってもらうというのはどうかしら」
王妃様の提案に、貴族達からは反発の声が上がるのは必至。
今迄長髪が良いとされていた文化を変えようとしているのだから……
「もちろん、希望制ですけどね。でも、髪を切る=伴侶を得たと一目でわかるのでは?」
王妃様の言葉は後日、大臣たちを交えて討論されることとなったが王妃様の希望は通らなかった。
***
長髪が良い事とされていた国で初めて誕生した短髪のカップル。
そのカップルの挙式後、次々と短髪の人々が増えた。
主に男性だが……
特に騎士と平民層の男性には短髪の方が、仕事がしやすいと好評だったとか……
ラージアル国の長い歴史の中で起こった小さな出来事がのちの国の風習を大きく変えたと知るのは何百年も後の事である。
ただ髪を短くしただけで歴史に名を残すことになったリーシュルとアルディオン。
二人のその後は『大勢の子や孫に囲まれて幸せに暮らしました』で締めくくられることとなる。
~余談~
リーシュル・フィラ・レーゲントの元婚約者の家は、最終的に抹殺されたようなものだった。
平たく言えば、周辺貴族から無視され、社交界に居づらくなったのだろう。
その後、領地を返納し、他国に逃げたとか……
彼等のその後を知る者はいない。
仕事の合間にふと浮かんだものをダーっと打ち込んだものなので意味のないお話に…σ(^_^;)アセアセ...
冬の間は長い髪も防寒になる場合もあるけど、長すぎると鬱陶しいんだよね。
あと夏は暑くてたまらん!(経験済)




