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ゴンドールの大陸  作者: 芹沢 まの
第三章
54/88

王女の依頼

 翌朝、グレイスは再びアルベルトの部屋を訪れた。

 彼は近衛騎士隊長として、訓練に出る支度をしていた。いつものように金色の鎧を身に纏っている。


「騎士を動かしていいですか?」


 グレイスの問いに、アルベルトは目を丸くした。


「なんのために?」

「どうしても納得いかないの。ちゃんと調べたいのよ。カイルが罠にはめられた晩餐会でのことを」


 グレイスがそこまでムキになるとは思わなかったと、アルベルトは少々意外な気持ちだった。それでも首を横に振って応える。


「だめだ。昨夜も言っただろう。罠にはめたとしても罪にはならない」


 グレイスはもどかしさに眉を顰めた。

 昨夜カイルが言っていた言葉を父に伝えるわけにもいかない。彼がグレイスを抱いていたつもりだったなどと話したら、今まで当たり前のようにそういう関係があったことまで知られてしまう。それはもしかすると不貞行為よりも、目の前の国王を激怒させる話かもしれない。

 考え込むグレイスを見て納得していないと理解したのか、アルベルトは言葉を続けた。


「それにレストン公爵家を騎士が嗅ぎ回ったりしてみろ。あっちとしては被害者のつもりなのに、王族に対する不信感が生まれる。やはりバーレン家しか信用しないのかとな」


 グレイスは溜息を洩らした。確かに騎士を動かす大義名分は無い。彼の懸念は最もだった。


「…では、次の私の結婚相手候補はレストン公爵家の人になるのかしら」


 アルベルトは顔を険しくし「それは…」と言い淀む。


「家柄的に一番適当ということには、なるだろうが…」

「よく分かったわ」


 父の言葉を最後まで聞くことなく、グレイスは「失礼しました」とアルベルトに背を向けた。


「グレイス~!俺は誰だって嫌なんだぞぉ!!」


 追い縋るように背中に聞こえる声に肩を竦めつつ、グレイスは国王の部屋を出て行った。


 ◆


 ある日、ローランド王城の兵士訓練場での訓練中、アーロンは上級兵隊長バッシュに呼び出された。

 隊長の個人的な呼び出しは珍しい。不思議に思いながら向かうと、バッシュは開口一番「お前、なにやった??」と言った。


「…はい?」


 意味が分からず聞き返すアーロンに、バッシュはまじまじと彼を眺める。


「いいか、よく聞け。王女がお呼びだそうだ。お前を、名指しで」


 信じられないだろうと言いたげな顔で人差し指をアーロンに突き付ける。王女というと、つまりグレイスのことだ。


「そうですか」

「もっと驚け!!」

「え、あ、そうか」


 どうやらバッシュはグレイスを知らないらしい。恐らく、王女が近衛騎士隊に所属していたということも、知らないのだろう。

 アーロンにしてみても偶然知っただけなので、無理も無い。騎士隊を脱けたはずのグレイスが自分に何の用なのかと思いつつ、念のため「俺だけですか?」と聞いた。


「指名されたのは、お前だけだ」


 アーロンは「了解しました。行ってきます」と一瞬背を向けかけたが、はたと止まり、またバッシュを振り返った。


「どこ行けばいいんですか??」



 グレイス王女との面会のため、アーロンは生まれてはじめて城内に足を踏み入れることになった。

 上級兵士が直接王女に呼び出されたということで、確認に時間をとり、ずいぶん居館の前で待たされた。そしてやっと騎士の案内により、中へと案内された。

 長い廊下を歩き奥へ進む。階段を昇り、上へと進む。一体どこまで行くんだと思った時、やっと騎士の足が大きな扉の前で止まった。その扉は左右に衛兵が立っている。


「グレイス王女に、上級兵士アーロン・アルフォードが来たとお伝えしろ」


 騎士に言われてすぐ衛兵が動く。中の侍女に取り次ぎを頼み、またしばし待つ。アーロンは内心激しく”めんどくせぇ!!”と叫びたい思いでいっぱいだった。



 久し振りに会うグレイスは、相変わらず綺麗だった。

 シンプルなドレスを身に纏い、髪に飾りは何一つついていない。それでも何故か華やかに見えるのは、彼女のもともともつ魅力故らしい。

 グレイスは近くに控える侍女に「退がって頂戴」と言った。侍女は頭を下げると「失礼します」と行って出て行く。

 部屋には2人だけになった。


「久し振りね。どうぞ、こちらに座って」


 グレイスは、テーブルを挟んで2つ置いてある長椅子の片方を手で差した。


「どうも…」


 アーロンがそこに腰を下ろすと、彼女が向かいの椅子に同じように腰掛ける。向き合う形になったが、アーロンの視線は定まらず、豪奢な部屋をあちらこちら見廻していた。グレイスがクスッと笑った声で我に返る。


「…本当だったんだな、王女様って」

「信じてなかったの??」

「いや、そうじゃないけど、なんか、改めて実感したというか…」

「ごめんなさいね。突然呼び出したりして」


 グレイスの言葉にアーロンは「そうだ」と思い出したように居住まいを正した。


「何かあった?」


 呼び出されたのには理由があるはずだった。とりあえずそれを聞かないと始まらない。


「えぇ。力を貸して欲しいのよ」


 グレイスはそう言うと、順を追って話を始めた。

 自分の婚約が破談になったこと、そのいきさつ、そして婚約者の言った言葉…。ひとつひとつの説明を、アーロンはただ黙って聞いていた。話が終わるとグレイスは一息ついて「つまりね」と続けた。


「私はレストン公爵が何をしたのかを、調べたいの」

「…なるほど」


 顎に手を当て、アーロンが呟く。


「グレイスとしては、その婚約者が不貞を自ら働いたんじゃなくて、何かしらの方法で意識を操作されたと証明したいんだ」

「そうね。できれば、そうしたいわ」


 グレイスの真摯な瞳は、心から婚約者の潔白を信じているように見えた。


「結構、うまくやってたんだ。その婚約者と」


 アーロンの呟きに、グレイスは束の間沈黙した。ふっと微笑を洩らして頷く。


「そうね。5歳も年下で、生意気で我侭で世間知らずな坊やだったけど」

「すごいね、それは…」


 苦笑するアーロンにつられるようにグレイスも笑った。


「でも、かえってそれがよかった…。あの子の目には、私は王族でも騎士でもなく、なんの価値もない”普通の女”だったの。権力を誇示しても剣で勝ってもそれは変わらなかった。そのうちどうでも良くなって、気付いたら本当にただの普通の女になってたわ。そんな時間が…とても心地良かったの」


 アーロンはただ黙って聞いている。穏やかに語っていたグレイスの目から、ふと笑みが消えた。


「あの子を罠にはめるのは、いともたやすかったでしょうね。そんな手で自分の家をのし上げようとしたレストン公爵が許せない。一矢報いてやりたいのよ」


 落ち着いたその声からは、かえって彼女の怒りが滲み出ているように思えた。


「…分かった」


 アーロンは頷いた。


「協力するよ。どうしたらいい?」


「ありがとう。…相手になったレストン家の奥方だけど、結婚したのは2年ほど前らしいの。彼女はもともとフロンス伯爵家の令嬢だったんですって。まずは彼女の情報が欲しいわ。できれば、彼女に直接接触しないで…」

「2年前ね…」


 アーロンが気持ちを察したように、グレイスは「そう。私の結婚が決まるずっと前よ」と言った。その結婚まで今回の作戦のうちではなかったということになる。


「自分の奥さんに男誘わせるなんて…。ずいぶん捨て身の方法だよな」

「そうね。フロンス伯爵家の名前にだって傷がつくと思うんだけど…。奥様が命令に黙って従ったというのも不思議ね」

「ん…」


 アーロンはしばし考えに耽っていたが、やがて顔を上げた。


「分かった。じゃぁ、とりあえずフロンス伯爵家に行ってみる」

「えぇ、お願い」

「それで明日、また報告するけど…」


 アーロンは周りをまた見廻し、グレイスに目を戻した。


「…ここに来ればいい?」


 グレイスは首を横に振って「明日からは場所を変えましょう」と答えた。


「夜は、あなたダメなのよね…?」

「いや、今はいいよ。いつでも。妹とは別で暮らしてるから」

「そうなの?それなら夜、訓練場でいいかしら」

「いいよ」


 そう約束を交わし、王女との対談は終了した。


 ◆


 翌日、アーロンは単独で外へ出ることになった。グレイスから話は通じているらしく、アーロンの隊は一時的にキースに任された。


「なんの仕事だ?」


 そう問うキースは本当に何も聞いていないらしい。グレイスが何故自分だけを呼んだのか不思議に思う気持ちはあったが、一応極秘任務ということで、アーロンは「ちょっとね」とだけ答えてごまかした。



 フロンス伯爵家の屋敷は地方都市にあった。大きなその建物はまだ真新しい。

 門の外から美しい庭を眺めながら、アーロンは最初の一手に悩んでいた。直接伯爵を訪問してアンジェリーナの結婚のいきさつなど問い詰めるのも怪しまれる。実際結婚が2年も前ということで、今回のことと関係があるとも思えないわけだし。

 ふと庭に、召使いらしき女性が出てきたのが見えた。花を摘みにきたのか、切ばさみを持っている。ふとその目が鉄柵の向こうに立つアーロンを見付けた。

 アーロンはその女性に対して、軽く手招きをして呼び寄せた。


「どちら様ですか?」


 制服から兵士であることは伝わる。若い召使いは素直にアーロンの側に来たが、怪訝な顔だった。


「ローランド上級兵士、アーロン・アルフォードです。――ちょっと、聞いていいかな」

「…私にですか?」

「うん」


 女性は小首を傾げると「なんでしょう」と言った。


「こちらのご令嬢、アンジェリーナさんって知ってる?」


 アーロンの質問に、召使いの女性はこくりと頷いた。


「一応…」

「一応?」


「あんまり接点が無かったので。養女として迎えられてすぐにレストン家にお嫁に行っちゃったし」


 意外な言葉が耳に引っ掛かり、アーロンはひょいっと眉を上げた。


「養女??」

「…そうよ」


 本当の娘ではなかったのか。そうなると元の出所が気になる。

 

「養女になる前は、どこに居た人なの?」

「…知らない」


 その答えは無理もないだろう。下働きの彼女が伯爵家の事情に詳しいはずもない。養子縁組のなれそめなど特に。

 しかし、折角養女に迎えておいてすぐに嫁に出すというのは、不自然に思える。

 これ以上の情報は伯爵から得るしかない。アーロンは召使いの子に目を戻すと「伯爵と話ができるかな?」と聞いた。


 その後召使いの子に取り次いでもらったが、結局、伯爵は不在のため会う事はできないという返事だった。

 その代わりに執事が話を聞くと言われ、アーロンは屋敷内の1室に通された。


「初めまして。この家の執事、ジャック・バルバロッサと申します。旦那様に代わり、お話をお伺いいたします」


 そう言って現れた男は、恐らく40代くらいだと思われる中年の男だった。

 中年太りの小男で、なにやら脂ぎった顔をしている。頭の毛は薄く、もう地肌があらわになっている。

 アーロンは握手を交わして名乗ると、向き合って座った。


「…で」


 執事バルバロッサは座るやいなや口を開いた。


「どのようなご用件で」


 アーロンは一息つくと、切り出した。


「実は、こちらのご令嬢でレストン公爵家に嫁がれたアンジェリーナさんについてなのですが、もとのご出身は、どちらですか?」


 アーロンの質問に執事の眉がぴくりと動いた。少しの間をおいて、「もとの、ですか」と繰り返す。


「はい。養女なんですよね?」


 また眉毛がぴくりと動く。

 やや間をおいて、「どういった理由で、お嬢様のことをお調べに?」と聞いた。


「それは仕事上、ご説明できませんが」


 アーロンが答えると、執事の顔はまた険しくなった。その反応がかえって気になる。

 アンジェリーナに関して、調べられたくない何かでもあるのだろうか。


「…申し訳ないが、調査の理由が明らかにならないようでは、私の口からは何もお話できません」



 結局話は平行線で終わった。執事は頑としてアンジェリーナについて語らなかったし、アーロンも調査理由を説明するわけにはいかなかった。

 とりあえず「またお伺いします」と言ってその場は辞することにした。

 何か適当な調査理由を考えなくてはならない。グレイスと相談しようと思いつつ、屋敷を出る。

 すると先ほどの召使いがアーロンの姿を見つけて手を振った。そんな彼女に苦笑を返しつつ片手をあげる。

 召使いは足早にアーロンに近づいてきた。


「執事に会った?」

「…会ったけど…」

 

 アーロンの様子に彼女は「相手にされなかったんだ!」と何故か楽しそうに笑う。


「うん…」

「やっぱりね。あの人はっきりしてるから。好みじゃなかったのねっ」


 召使いの言葉にアーロンは「は?」と片眉を上げた。


「あなたよ。彼の好みじゃなかったんだわ」

「好み??」


 意味が分からないというようにアーロンが問いかけると、召使いの少女はクスクス笑いながら、「秘密なんだけどね…」と声を落として言った。


 ◆


「まったく、カイル坊やには参っちゃうよね」


 ローランド王城の1室で、弟のユリアンと食事をしながらグレイスは彼のぼやきを聞いていた。


「おかげ様で、俺の結婚の話も破談になりそうじゃん」


 グレイスは何も言えずに葡萄酒を口にする。確かに父はユリアンの結婚についても考えなくてはならないというようなことを言っていた。

 自分達より婚約期間が長いだけに、ずいぶん仲良くなってしまっているユリアンとジュリアにとっては、ひどいとばっちりだろう。


「レストン家の晩餐会は、危険なんだよ」


 ユリアンが言った言葉にグレイスは目を上げて「危険??」と問いかけた。


「俺、あそこでは何も口にしないもん」

「…どうして?」


 驚いたように問いかけたグレイスに、ユリアンはちょっと笑って「用心のため」と言った。


「昔、あそこの晩餐会に招待されてお酒を飲んだんだけどさ。一口飲んで、なんか普通と違う味がしたから飲むのをやめたんだ」


 グレイスは目を見張った。それはずいぶん大事な話ではないだろうか。


「そんな話、初めて聞いたわよ??」

「初めて話したからね」


 グレイスは顔をしかめると「なにか入ってたってこと?」と聞いた。


「さぁ、分からない。確かめてないし。ずいぶん前の話だから忘れかけてた。最近はもう全然よばれないしね」

「…いつの話なの?」


 姉の問いにユリアンは首をひねって考え込んだ。


「ジュリアと婚約するより、前だった気がする…。婚約してからレストン家には招ばれなくなったし」

「ジュリアと婚約するより、前…」


 グレイスは食事の手を止め、じっと考え込んだ。


 ◆


 その夜、約束通りアーロンはグレイスと訓練場で会った。訓練場の端にある木の長椅子に腰掛け、話をする。グレイスは鎧は身に纏っていないが、かつて騎士として会った時のようなシャツとズボンとブーツという軽装だった。そんな格好も、彼女にはよく似合っていた。

 アーロンはとりあえずフロンス家での話を報告した。


「養女…」


 グレイスはアーロンの話を聞き、小さく呟いた。アーロンは苦笑して肩を竦める。


「とりあえず今日はそれ以上のことは聞けなかった」

「話を聞きだす口実が必要なのね…」


 グレイスは長い睫を伏せて考えに耽った。レストン家でのことを持ち出さずにアンジェリーナの話を追求するのは難しい。

 不意にアーロンが「それなんだけどさ」とグレイスの思考を遮って言った。


「この調査にもう1人、巻き込んじゃだめかな」


 グレイスの目がアーロンに向く。


「…キース?」

「うん」


 グレイスは再び目を伏せると、ふっと微笑んだ。


「だと思った…」

「もともと俺だけであいつを呼ばなかったのには、なんか理由があるの?」


 最初から疑問に思っていたことを問いかける。グレイスがどちらか1人を呼ぶなら、むしろキースだと思っていた。

 グレイスは少しの間黙っていたが、やがて首を振った。


「無いわ」

「…ふぅん」


 実際何も無いとは思えなかったが、それ以上の追求は止めた。


「実はさ。あの家の執事、男色家なんだって」


「――えぇ?!」


 グレイスが目を丸くしてアーロンを振り返る。話すアーロンもどこか笑いを堪える表情になる。


「綺麗な男に弱いらしいんだよね」

「あなた…」


 グレイスは目を丸くしたまま少しの間固まった。


「…キースに何させる気なの?」

「いやぁ、ものは試しに…」


 直後、グレイスは盛大に吹き出した。「そんな理由で巻き込まれるなんて…!」と言いつつも可笑しくて堪らない様子である。


「いや、それだけじゃないけどさ。あいつ使えるし。だめかなぁ」


 笑いをおさめ、グレイスは首を振った。


「彼が承知しないわよ」

「大丈夫だよ。グレイスの頼みだって言えば」


 一瞬二人の間に妙な沈黙が流れる。

 アーロンは慌てて「いや、ほらミケーネ侯爵の時にも世話になったから」と付け足した。


「…あんなの、たいした事じゃないわ」

「でも、助かったからさ…」


 少しの間沈黙が流れる。やがてグレイスはまた顔を上げると、「分かったわ」と頷いた。


「キースも加われるよう、私からバッシュ隊長に依頼します」


 

 その日アーロンが家に帰ると、そこにはリンが来た痕跡が残っていた。

 部屋が綺麗になっていて、食事の支度が整っている。


 またすれ違ってしまったらしい。


―――顔、見たかったな…。


 アーロンはふっとため息を漏らしながら、冷たくなっているスープを温め始めた。


 ◆


 翌日、キースは訓練前にバッシュ上級兵隊長に呼び出されていた。

 昨日の話通り、彼に王女からの命令としてアーロンへの協力を要請されているのだろう。

 アーロンは2人を見ながらその話が終わるのを待っていた。

 バッシュが話を終えて去ると、キースは振り返ってアーロンを見た。目が合って、硬直する。無表情なキースの瞳には、妙な威圧感がある。威圧される謂れも無いが。

 キースはアーロンのもとへ歩いて来た。


「話は聞いた」

「…聞いた?」

「お前が王女の要請で動いているから、協力しろと言われた」

「うん…そうなんだよ」

「いつの間にそんな話になってたんだ」

「…なにが?」

「いつグレイスに頼まれた」

「一昨日だけど」

「なんでお前だけなんだ」


 追求するキースの声には、分かりやすく苛立ちが含まれていた。


「知らないよ。なに怒ってんだよ」

「別に怒ってない」


 誤魔化すように目を逸らしたキースは、やはりどこかいつもと違う。

 アーロンは内心、やっぱこいつグレイスが絡むとおかしいなと、しみじみ実感していた。



 キースとアーロンの隊員達をベン上級兵士に託し、2人は城を出た。馬車に乗って、地方都市へと向かう。

 その途中、アーロンはキースにグレイスから聞いた話を伝えた。グレイスの婚約者の話に、キースの表情は案の定険しくなっていった。


「で、その婚約者っていうのが、バーレン家の長男らしいんだけど…」

「カイル坊やか」


 吐き捨てるようにキースが呟いた。


「知ってんだ」

「知ってる。俺はバーレン家の傭兵団に所属してたんだ。カイル坊やは、我侭で有名だった」


 そういえばグレイスもそんなことを言っていたなと思いつつ、アーロンは「ふぅん」と呟いた。


「坊やが人妻に手を出して破談になったという話の、どこに問題があるんだ?」

「本人は不貞行為をした気はなかったらしいんだよ」


 キースはその言葉に何も言わなかった。それ以上聞かずに、黙って前を向いた。

 内心複雑なんだろうと思いつつ、アーロンも黙って馬車に揺られていた。

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