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ゴンドールの大陸  作者: 芹沢 まの
第二章
27/88

近衛騎士隊長

 その後、アーロンはいままでに増してローラの存在を気にするようになった。

 あまり大きな接点は無いのだが、たまに姿を見かけると動きを止めて目で追ってしまう。ローラも気づいてくれると、にっこり笑って手を振ってくれた。その笑顔が眩しすぎて、まともに見ていられない。


「……やばい」


 食事中に独り言のようにそう呟いたアーロンに、目の前のキースが「どうした?」と問いかけた。


「…なんでもない」


 ごまかして食事を続ける。キースはたいして興味も無さそうで「ふぅん」と気の無い声を洩らすと、グラスを手にとって口に運んだ。


「――キース様」


 不意に声をかけてきた女性の姿に、2人の目は同時に向けられた。

 赤茶色の髪を短く切った、大人っぽい雰囲気の子が立っている。見たことの無い顔にアーロンが”誰だろう”と思っていると、キースは「なに?」と応えた。

 少女は一瞬アーロンの存在を気にしたようだったが、口を開いた。キースに「あの…もしよろしければ、今夜…」と言って口ごもる。キースは彼女の言わんとするところを察したのか、軽く「いいよ」と応じた。

 女性の顔が輝く。そして「失礼しましたっ」と礼をして去って行った。

 アーロンはその光景をただ呆然と眺めていた。


「……誰、あれ?」


 謎の女性が去った後に目を遣り、アーロンはキースに問いかけた。


「侍女だよ」

「いや、それは見れば分かるけど…誰?」

「それ以上の情報は無い」


 なんだそれはと思いつつ、アーロンは「何が”いいよ”なんだよ」と重ねて聞いた。キースが苦笑を洩らす。


「察してくれよ」

「はぁ??!!」


 アーロンは思わず声を上げた。流石のアーロンも、男と女が夜に約束を交わして何をするのか全く察しがつかないほど鈍くはない。とはいえ…。


「侍女という以外、何も知らないような女とお前…!」

「仕方ないだろ?勝手に部屋に来るんだから」


 キースはケロッとしてそんなことを言う。どこが仕方ないのかさっぱり分からない。さっき自分で”いいよ”と快諾したばかりではないか。アーロンは呆れて言葉を失った。

 ちょっと見直しかけていたのに、やっぱり恐ろしいほど無節操なのは変わらないらしい。けれども彼の餌食になっている女が、ローラでなくてよかったと、アーロンは改めて心の底から思っていた。


 ◆


 その頃、厨房でお皿を洗っていたローラの隣に赤茶色の髪の侍女がやってきていた。

 鼻歌混じりに仕事をしている。楽しそうな様子にローラはちょっと笑うと、「ご機嫌なんだ」と声をかけた。


「うんっ、もう最高!」


 ウキウキしている彼女はミリアムといって、ローラと同じ侍女だった。

 ただ彼女は普段城付きなので、たまにこちらに手伝いにくる程度なのだが。


「マシューといいことあったの?」


 ローラは手を動かしながら問いかけた。マシューというのはミリアムの恋人の名前である。ミリアムは人差し指を口元に立てると「マシューには秘密!」と楽しそうに言った。


「…秘密?」

「今夜、キース様と会うの!」


 その言葉にローラの胸がドクンと音を立てた。思わず手を止めてミリアムの顔を見る。


「え?……どうして?」


 思わず問いかけてしまう。ミリアムは意味深な笑みでそれに応えた。その意味を察し、ローラは眉を顰めた。


「マシューとは…終わりにするの…?」


 ミリアムは「終わらせない、終わらせない!」と言って笑う。


「秘密よ。ちょっとした思い出作りなんだから」

「思い出作りって……」


 ローラは呆然としてミリアムを見た。キースに以前言われた言葉が頭に甦る。


 ”俺の部屋に、来る?”


 あれは冗談だったんだと思いながらも、あの後彼を見るたび思い出しては1人激しく動揺していた。そんな自分がいっそう愚かに思える。

 ミリアムは汚れた食器を数枚一度に抱え、水の中へと沈めた。


「恋人になれるはずないし~。別にそんなうざったいこと言う気も無いし。マシューはマシューで、不満ないしねっ」

「そう…なんだ……」


 別にローラのことを目に留めたわけではない。キースは誰が相手でも構わないのだ。

 下らないと内心で呟きながら、ローラは軽くため息を洩らした。休んでいた手を再び動かしながら、声を強めて言う。


「どこがいいのか、分からない。そんな、軽薄な人」

「顔がいいのよ、顔が!」


 ミリアムの言葉を「それだけじゃない」と叩き返す。

 胸の奥から湧き上がる得体の知れない苛立ちから、ローラの手にあったお皿は乱暴に水の中に放り出された。


 ◆


 その日の午後、上級兵士の定例議会が開かれた。

 アーロンとキースは当然その場に参加している。バッシュが連絡事項などを伝達する中、アーロンはまた例によって眠気と闘っていた。

 その時、突然部屋の入り口が開いた。話が中断し、全員の目がそこに集中する。そこには立派な体躯の男が立っていた。

 ダークブラウンの短髪に同じ色の瞳、精悍な顔立ちに鈍い光を放つ金色の鎧がよく似合っている。その雰囲気には恐らく30代半ばくらいの年齢だろうと思える貫禄があった。

 男は部屋を見廻し、バッシュに目を留めた。


「――近衛隊長……!!」


 バッシュは驚いたように声をあげると、自ら男のそばに駆け寄った。

 バッシュも体が大きいので、2人並ぶと圧巻である。近衛隊長と呼ばれた男は綺麗に並んだ白い歯を見せて笑った。


「あぁ~、悪い、悪い!邪魔したなっ。やっと時間ができたからさ。噂の2人に会いにきたぜ」


 近衛隊長はそう言うと、また部屋を見廻す。バッシュは「あ、それでしたら、あちらに」と言ってアーロンとキースの方を振り向いた。それと同時に近衛隊長の目も自分達に留まる。


「あれか、金髪と赤毛の若造は!」


 言われた2人は揃って茫然としていた。アーロンが訝しげに「誰だ?」と呟く。


「近衛……隊長?」


 キースは信じられないという様子で呟きつつ、すっと立ち上がった。男は真っ直ぐ2人のもとへ来る。アーロンも慌てて立ち上がると、目の前に立った近衛隊長と向き合う形になった。距離が近くなるとさらに威圧的である。


「初めて会うな。俺はローランド近衛騎士隊長、アルベルトだ。バーレン公爵とバルジーのお薦めってことで、前から会いたいと思ってたんだ。よろしくな」


 言いながらまずキースに手を差し出す。


「キース・クレイドです。わざわざお越し頂き恐縮です。よろしくお願いいたします」


 キースはそう言ってアルベルトと握手を交わす。そして手が離れると、自然とその手はアーロンに差し出された。


「あ、アーロン・アルフォードです。どうも、よろしくお願いします……」


 慌ててその手を握り返して挨拶をする。アルベルトはニッと笑みを浮かべた。


「2人とも寄宿舎暮らしか?」


 鋭い目が交互に2人に向けられる。アーロンは首を振りながら「いや、自分は妹と2人で王都で暮らしているので」と返した。キースは「自分は寄宿舎です」と答える。

 アルベルトは少し残念そうに「そっかぁ。ま、1人でもいいか」と呟くと、「お前、今夜手合わせしよう。夕食後、訓練場に来い」とキースに向かって言った。

 意外な誘いに目を見張るアーロンの隣で、キースは即座に「はい」と答える。アーロンは内心”侍女はどうするんだ”と思ったが、当然口には出さなかった。


「待ってるぜ」


 アルベルトは満足気な笑みを残し、2人に背を向けて部屋の出口へと向かった。

 そしてバッシュに邪魔したなと一声かけると、あっという間に去って行った。

 近衛騎士隊長の去った部屋は少しの間静寂に包まれた。


「……えー、では、続ける」


 バッシュは気をとり直しそう言うと、また会議を再開した。キースとアーロンも腰を下ろす。


「近衛騎士隊長ってさ」


 アーロンは隣に身を乗り出し、小声でキースに話しかけた。


「騎士のけっこう偉い人だろ?」

「あぁ、騎士の中では一番位が高い。王族付きの近衛騎士隊の隊長だからな」


 キースの言葉にアーロンは目を見張る。


「そんなのがどうして俺達なんかに会いに来るんだよ。しかも手合わせって…」

「俺に聞くな」


 キースにそっけなく返され、アーロンは諦めたように前に向き直った。そしてアルベルトが身に纏っていた鎧を思い出す。

 変わった色をしていた。あれはかつて一度見たことがある。

 そう、ゴンドールで使ったバルジーのナイフの色。つまりあれは、ゴンドールの鎧だ。


 アーロンは1人納得しながら、バッシュの退屈な話が終わるのを待っていた。


 ◆


 その頃リンはいつもの通り学校に行っていた。

 相変わらず楽しい毎日なのだが、最近すっかりルイとは気まずくなっている。

 それというのもなぜか周りがルイとリンが話をするたびに、「仲良しですねぇ~」とか言ってからかうので、おちおち普通に会話することもできないからである。どうしてそんなにからかわれるのか、リンには全く分からなかった。

 その日授業が終わった後、リンはいつものように1人歩いて帰途についていた。

 不意にその背中から、「リン~!」と呼ぶ声が聞こえる。リンは足を止めて振り返った。

 パティとルイが並んで歩いて来る。今日は一緒に帰るらしい。


「一緒に帰ろうよ!」


 パティの誘いにリンはにっこり笑って「うんっ」と返した。そして3人で歩き出す。ルイはリンの方は見ずに、気まずそうに俯いていた。


「あぁ~!!」


 パティが突然足を止めた。つられてリンとルイも止まる。2人の目が同時にパティに向いた。


「あたし、忘れ物しちゃったぁー!」


 若干わざとらしい調子でそう言うと、パティは両手を合わせリンを拝んだ。


「ごめん!取りに戻るから、ルイと一緒に帰ってやって~」

「……え?」


 リンが目を丸くしている間にも、パティは柔らかそうな巻き毛をゆらしながら「じゃね!」と言って去っていく。残されたルイとリンは、それを呆然と見送った。


 2人きりになると、自然とお互い目を合わせた。いつも隣に居るはずなのに、久し振りに顔を合わせた気がする。

 ルイはすぐに目を逸らすと、癖のない黒髪に手を入れて呆れた溜息を洩らした。


「あいつ、なにやってんだか…」


 困惑の滲む声に、2人の間には気まずい空気が流れる。


「あの……帰ろうか」


 リンが思い切ってそう言った。ルイは「うん…」と頷いたが、その目は相変わらずリンの方は見ない。

 2人はなんとなく並んで歩き始めた。


 何を話せばいいのか分からず、ただ黙って歩く。そんな状態は居たたまれなくて、リンは必死で話題を考えた。

 普段アーロンと何も考えずに話をしているのに、どうして同じようにできないのか不思議に思ってしまう。


「なんか…」


 不意にルイが口を開いた。


「……ごめん」

「――え?!」


 リンは驚いてルイを見た。何を謝られたのかさっぱり分からない。


「みんなが変なことばっか言うの、どうもパティのせいらしいんだ」

「……パティの?」


 リンはその意味が分からず問いかけた。ルイはちょっと間をおくと、言いにくそうに顔をしかめる。


「なんか変なこと言いふらしてるみたいで…」


 リンは突然全てを理解した。そういえばパティは”ルイはリンのことを好きだ”とか言っていた。それを周りにも言ってしまっているということなのか。

 皆が変にからかうわけだ。リンは眉を下げて俯いた。


「そ、そうかぁ…」

「ほんと、ごめん」


 ルイが重ねて謝る。リンは「あ、別に、全然、大丈夫だから」と頭を振った。他にどう言っていいのか分からない。そもそもおかしな噂の被害を受けているのはルイ自身ではないだろうか。

 2人の間には、また妙な沈黙が流れた。


「あ、そういえばねっ」


 リンはやっと話題を思いついた。


「最近、私、お休みのときにアーロンに剣を教えてもらってるの」

「剣を?」


 驚いたようにルイが言う。話題が変わって少し気まずい雰囲気が消えた気がした。


「うん。前にお願いしたの。ただの、趣味なんだけど…」

「へぇ~」


 ルイの顔が興味深そうに輝く。そんな表情も久し振りに見た気がした。


「いいね。お兄さん兵士なんだもんね。俺、教えてもらえる人居ないから羨ましいな」


 どうやらルイは自己流らしい。リンは「そうなんだ」と言うと、ふと思い立って「それじゃ、今度一緒に教えてもらう?」と提案してみた。

 ルイが驚いたように固まっている。一瞬、おかしなことを言ったかと心配になったが、ルイは小さく「いいの?」と伺った。


「もちろん!!」


 リンは元気よく返した。


「今度のアーロンのお休みの時に、一緒に習おう?あの、都合が合えばだけど…」


 ルイは「都合、合わせるよ!」と言って明るい笑顔を浮かべた。

 そんな彼の表情に、リンもつられるように笑顔になった。


 ◆


「……と、いうわけで!」


 その日の夜、リンはアーロンと家で夕食を食べながら早速事の次第を説明した。


「次のお休みの時には生徒が増えるから、よろしくね」

「男相手だと、俺容赦ないよ?」


 アーロンが意地の悪い笑みを浮かべる。リンは慌てて身を乗り出した。


「だめだよ、優しく教えてあげてよっ。私のお友達なんだから!」


 リンの訴えにアーロンは「はいはい」と返しながらシチューを口に運んだ。

 毎度のことながら、それはアーロンが作ったものだった。けれども最近はリンも上手に野菜の皮剥きなど、こなせるようになってきている。もともと不器用ではないようで、練習するとどんどん上達した。剣も、女の子にしては筋がいい。


「今日は、近衛騎士隊長に会っちゃったよ」


 アーロンの報告にリンは「へぇ~」と言った。その軽い反応に不満を覚え、アーロンは「お前、近衛騎士隊長ってどんな人か知ってるか?」と聞いてみる。


「うん。知ってるよ。騎士隊の隊長さんだよね」

「それだけじゃねぇよ。騎士の中で一番偉い人なんだぞ!そんな人が直々に会いに来てくれたんだぞ?もっと驚け」

「……そっか。どうして来たの?」


 リンは状況を理解したのかしていないのか、とりあえず首を傾げてそう問うた。アーロンは拍子抜けしつつ、パンを籠から取り上げる。


「今日は、うちの隊長と手合わせするってさ。わざわざ兵士の腕試しするなんて、変わってるよ」


 リンは「へぇ!」と声を上げると、「隊長さん勝てるかな?」と楽しそうに言った。


「騎士隊の隊長があいつに敵わないような腕だったらガッカリだよ」

「そっか」


 2人はその後も他愛の無い話を続けながら、穏やかな夕食時を過ごしていた。


 ◆


 その頃、ローランド王城では昼に言われたとおり、キースが訓練場へ向かっていた。

 夜の空気が顔を撫でる。空には雲ひとつなく、星が輝いている。心地よい静けさだった。

 夜の訓練場にはいつもは誰も居ないが、今日は人影が見える。どうやら近衛騎士隊長の方が先に着いていたようだ。ただ、1人で来るものと思っていたので、彼の隣にもう1人姿が見えることを意外に思った。小柄な騎士だった。

 アルベルトがキースの姿を確認して片手を上げる。

 キースは軽く頭を下げながら、彼等に近づいた。

 やがて2人の騎士の姿が月明かりの下、はっきりと浮かび上がった。

 思いがけない姿に一瞬目を見開く。小柄な騎士は、若い女性だった。


 簡素な鎧に身を包み、真っ黒の長い髪を首の後ろで丸く纏めている。纏めきれずに頬にかかる長い前髪が、女性らしさを感じさせた。

 切れ長の涼しげな目元に、通った鼻筋、凛とした雰囲気の美しい女性だった。


「…こんばんは」


 キースが戸惑いながら挨拶をすると、若い女性もふっと微笑んで「こんばんは」と返す。あまり歳は変わらないだろうが、不思議と成熟した落ち着きを纏って見えた。

 アルベルトはキースの戸惑いを察したのか、


「おぅ、よく来たな。この子はグレイス。近衛騎士隊の隊員で、今19歳だ」


 と紹介した。そして一呼吸置くと、「俺の、女だ」と続けた。

 そう言われてキースは得心した。わざわざこんな時間に一緒に居るのは、恋人だからなのか。キースの顔を伺いながら、アルベルトはからかうような笑みを浮かべる。


「歳の差が気になるだろ」

「いえ、別に」


 キースは即座にそう答えた。実際、そんなことは気にならなかった。幼い頃からアイリスとヨーゼフを見ていたからだろうか。彼等程の歳の差は無いように見える。


「それは結構」


 アルベルトは納得したように頷くと「間違っても、手は出すなよ」と釘を刺してきた。


「……とんでもない」


 キースは目を丸くして答える。遊ぶ相手に困っているわけでもないのに、わざわざそんな馬鹿をする気は無い。

 グレイスは苦笑すると「いきなり、何言ってるの?驚いてるじゃない」とアルベルトを咎めた。

 そんなグレイスの言葉には応えずに、アルベルトは腰の剣を抜いた。


「さて、それじゃ始めようか」

「お願いします」


 言いながらキースも剣を抜く。グレイスは2人から一歩退がって距離をとると、腕を組んで眺めていた。



 星と月の明かりだけが頼りの視界の中、訓練場にはしばらく激しく剣が交わる音が響き渡った。

 キースの感触として、アルベルトの腕は近衛騎士隊長の名に恥じないものだった。

 付け入る隙は見出せず、子供のように翻弄された。そこまでの相手は久し振りだった。

 いつしか時を忘れ、キースはその手合いに夢中になっていた。


「勝負あったな」


 何度目かのその言葉の後、アルベルトはふとグレイスの方を振り向いた。


「そろそろ戻るか」

「そうね」


 キースは落とされた剣を拾いながら、大きく息を吐いた。体が汗で濡れているのが分かる。指先まで伝わる疲労に力が入らず、剣がひどく重く感じる。思わず自嘲的な笑みを洩らした。

 がっかりさせただろうと覚悟したが、アルベルトは目を細めてキースに言った。


「楽しかったぜ」

「有難うございました」


 キースが頭を下げる。アルベルトがそんなキースの頭をクシャッと撫でる。


「若いのに、たいしたもんだ。バーレン公爵の目は確かだったな」


 すっかり子供扱いの様子に苦笑しつつ、それでも彼の賞賛は素直に嬉しかった。キースは「恐れ入ります」と返す。


「私も是非手合わせしてもらいたいわ」


 不意にグレイスが言った言葉で2人同時に彼女を見た。アルベルトが「もう遅いぞ。今日は終わりだ」と返した。


「自分ばっかり楽しんで…」


 グレイスが不満気に顔をしかめた。そんな表情は可愛らしくもあり、キースは思わず笑みを洩らす。


「それなら、また日を改めるわ。バッシュを通して伝えればいいかしら?」


 グレイスが直接キースに問いかける。アルベルトがその提案に、「俺はそんなちょくちょく時間とれないんだよ」と口を挟んだ。


「私1人でいいわよ」

「なんだぁ?!2人で会うのかぁ?!」

「いいじゃない別に。ただの稽古なんだから」


 2人で勝手に言い合いを始める。

 キースはそんな様子を呆気にとられて眺めていた。

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