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第2話 魔神と村娘のやりとり

「え?」

「あの蛇は死んだ。安心するがよい」

「え……あ、はい…?」


 石像の言葉を理解できなかったアンは混乱したまま返事をする。それを「全然大丈夫です」と判断した石像。


「ふむ、それで娘よ。ここで何をしておる? あの蛇の仲間か?」

「! いえいえいえいえっ! 違います!」


 蛇の仲間と言う言葉を聞いた途端、必死に否定するアン。それを肯定すればあの大蛇の様にされると脳が瞬時に判断し、否定に全力を注いだ。そのおかげで先程の混乱が吹き飛び、石像の質問に集中できた。


「仲間ではないと。では何をしておった?」

「えっと…生贄として…です」


 アンは自分の事、自分の村と大蛇の事、そして自分が今回の生贄に選ばれここにいることを説明した。それを聞いた石像は頭を抱える。


「何と…。そのような愚かな事をやっておるのか。魔族も人間も我のいない間に退化したのではあるまいか」


 心底呆れている様子を見て、アンは「この石像は悪い者では無いのでは」という期待が生まれる。だが、大蛇の返り血を浴びた石像のビジュアルと先程の光景がその期待を打ち消してくる。そんなアンを余所に石像は質問を続ける。


「娘…。そうだ、名前は何と申す?」

「アンです」

「ではアン、この近くに住むのであれば、何故ここが森と化しておるか分かるか?」

「…い、いえ。私が生まれた頃から森でした。60を超える村長が子供の頃から森だったと聞いてます。どうして森になったかはわかりません…。も、申し訳ありません!」

「いや、気にせずともよい」


 機嫌を損ねたかもしれないと思い必死に謝るアン。石像としては気になった事を聞いただけなので、その謝りっぷりに逆に驚き、それと同時に真面目な娘なのだという印象を受けた。


「ここが森になって長い事はわかった。森の外はどうなっておる?」

「外…ですか。私は村から出る事が殆ど無かったので詳しくは…。でも南の方に領主様が治める街があります」

「領主?」

「はい、この辺りを治める領主様です」

「ちょっと待て、ここは人間の国になっておるのか?」

「ここはガニア帝国の東端になりますけど…」

「て、帝国だと? 魔族はどうなった? 絶滅したのか?」

「え? き、聞いた話だと街からさらに南に行くと、魔族が治める大陸があるらしいです」

「そこまで追いやられるとは…魔王め、何をやっておるのだ…」


 石像はブツブツ文句を言いながらしばらく考え込む。それを見つめるアンだったが、急に石像がこちらを向くのでビクリと仰け反る。


「肝心な事を聞くのを忘れておった!」

「な、何ですか?」

「勇者はどうなった?」

「ゆ、勇者?」

「そう、勇者だ。我を封じ込めた忌々しい5人だ。あの後どうなった?」

「えっと…」


 勇者と聞いてアンはかなり困惑している様子だった。それを見て石像は首を傾げる。


「どうした?」

「あ、あの…勇者って、おとぎ話に出てくる魔神を封印した5人の勇者の事ですか?」

「そうだ、あの忌々しい………」


 怒りを露わにする石像だがアンの言った事に引っかかりを覚え、動きが止まる。


「おとぎ話?」

「は、はい、小さい頃聞いた事がありますけど、実在するんですか?」

「……ちょっと待ってもらって良いか?」

「あ、はい」


(おとぎ話とはどういう事だ? おとぎ話になるという事は、神殿の状況からも数百年は経っておるのか? ……ならば勇者といえども人間。寿命でとっくに死んでおるはず。という事は…)


「ク、クックック…」

「?」

「グワッハッハッハッハッハ! 我が時代来たれり!!」


 急に笑いながら天を仰ぐ石像。


「勇者がいなければもう恐れる者など何もない! …いや、待て。アンよ、勇者の子孫が今もいるという事は無いか?」

「さ、さあ? わからないです。すみません」

「そうか、油断しない方がいいか。用心しておくべきではあるな」


 喜んだり神妙になったりする石像にアンは恐る恐る質問をする。今までの会話から何となく答えが予想できる質問を。


「あ、あの…」

「何だアンよ」

「あなたは魔神…なんですか? 勇者に封印されていた」

「おお、自己紹介がまだであったな」


 石像は腰に手を当て胸を張ると、凛々しく名乗る。


「我こそ魔神ラオナクィーカ・イーガボエナモテ・カイナッタイ・エウカバマナ! 唯一無二の世界の支配者である!」


 会心の出来に満足し、アンを見ると少し困った顔をしていた。


「どうした?」

「あ、あのラオナ…クィー…?」

「ラオナクィーカ・イーガボエナモテ・カイナッタイ・エウカバマナである」

「ラオナクィーカ…イー…ガボ…テ…?」

「…………ラオナクィーカでよい」

「す、すみません!」





「さて、これからどうするかを考えねばなるまいな」

「…や、やっぱり人間を滅ぼしたりするんですか?」

「我の邪魔をするのであれば何であれ敵になる。そうでなければ配下として受け入れよう。とにかく拠点を手に入れねばなるまい」

「拠点ですか?」

「うむ、先ほど言っていた領主の治める街とやらに行ってみるか」

(あ、私とんでもない事言っちゃった気がする)


 アンは先程の自分の発言をひどく後悔した。「アナタが世界征服を企む魔神と分かっていれば言わなかった!」と喉元まで出かかる。そんな事とは知らず魔神はアンの足に繋がっている鎖を指差す。


「先程から気になっていたのだが、その鎖は何だ?」

「これは生贄が逃げないように村の人達が付けた物です。鍵は村にあるんで外せません」

「なるほどな。それに繋げておれば生贄が逃げる事もなく、村は安全と…くだらんな」

「ハハ…」


 苦笑いをするしかないアン。


「蛇も居なくなったのだ。その鎖も要らぬであろう。貰う事にするぞ」

「え?」


 魔神は手のない右腕を鎖の繋がったアンの足に近づける。すると右腕の先から黒い煙が出て来た。煙は生き物の様にアンの足首に付いた足枷の部分を覆うとパキンと音を立て、アンの足首から外れた。そして鎖を伝って煙が石柱の方まで行くと、石柱の方も外れてスルスルと魔神の手首へと入って行った。


「ふむ、質は悪いが、石よりはマシか」


 手首の中で金属の折れる音がしばらくすると、鉄で出来た手が出てきた。人の骨を模した鉄の手は生きているかのように自在に動いている。


「量があれだけではこれくらいしか作れんか」

「あ、あの」


 その様子を見ていたアンが魔神に声を掛ける。


「どうした? 足を傷つけたか?」

「いえ! 鎖を取って下さり、ありがとうございます!」


 アンは深々と頭を下げる。


「気にするな。丁度手の材料が欲しかったのでな。さて、次は…」


 魔神は辺りを見渡し、人骨があるのを見つける。


「アンよ。その辺に落ちておる骨を集めてくれぬか」

「え? 骨ですか」

「うむ、出来るだけ質のいい奴をな」

「は、はぁ」


 アンは周りに散乱している骨を集め始める。骨に触るのは抵抗があるのか指先で摘まむように持つ。


「うぅ、これってやっぱり人の骨かなぁ。触りたくないけど早く持っていかないとマズイだろうし…」


 ふと魔神に目をやると大蛇の死体をずっと眺め考え事をしている。


(このまま逃げちゃえないかな。…でも村まで来ちゃったらそれこそ皆殺しにされるかも)


 逃げたら村に危険が及ぶかもしれないと考えたアンは逃げる事を諦め、骨集めを続けた。

 周りにある骨は粗方集めて魔神の元へ戻ると、大蛇の傍に置くように言わる。顔の吹き飛んだ大蛇を見ないように顔を背けて拾った骨をその場に置いた。


「これだけあれば問題はなかろう。あとは…アンよ。すまぬが手を出してもらえぬか」

「え? こうですか?」


 アンが掌を出すと、魔神は右手の人差し指でアンの掌を軽く突く。細く尖った指先で突かれ、アンは軽い痛みを感じる。


「いたっ」


 掌を見ると針で刺した様に血が出ていた。


「すまぬな。少し血を貰った」


 魔神の人差し指にはほんの少しアンの血が付いている。その小さい一滴を取り込むように黒い液体が滴となって人差し指の先に溜まって行く。それを大蛇の死体と集めた骨の上から落とすと、直径2m程の黒い球体に膨れ上がり、大蛇の死体と骨を取り込んでいった。

 アンは目の前で起きている事が頭で理解出来ずにいる。


「あの…こ、これは?」

「うむ、我一人であれこれやるのは面倒だからな。とりあえず配下を作る事にした」


 骨の折れる音や肉の潰れる音を立てながら、10mあった大蛇の死体はすべて宙に浮く球体の中へ入って行く。しばらくすると1体の生物が生れ落ち、球体は煙になって消えて行った。起き上がったそれは上半身は人間の男、腕が4本、下半身は蛇だった。全身深緑で、腕や下半身は鱗に覆われていた。

 完全に置いてけぼりのアンを余所に魔神は納得の表情で頷いている。


「ナーガか。まぁ、有り合わせだがなかなかいい出来ではないか」


 魔神がそう言うとナーガはビシッと背筋を伸ばし、両手2組を後ろで組む。長年鍛え上げられた様な体付きで、顔もキリっと気合いの入っている様子だった。


「はっ! ありがたき幸せであります!」

「ふむ、やはりアンの血が効いているか。前の蛇とはエライ違いであるな」

「わ、私の血ですか?」


 やっと現状に追いついたアンが自分の血に反応する。


「うむ、性格付けにアンの血を使わせてもらった。なかなか真面目なようなのでな。おかげでいい魔族が出来た。礼を言うぞ」

「わ、私の血で魔族が…」

「腕が4本というのは新しいな。新種になるのではないか。そうだ、アンよ。お前が名前を付けてやるがよい」

「えっ!?」


 自分の血を分けた魔族が生まれたショックを感じる間もなく次の問題を投下されるアン。


(な、名前って…。何付けたらいいのよ。いきなり思いつく訳無いよ…)


 魔神とナーガの期待に満ちた視線を痛いほど感じる。


「えっと…ス、スネイクと言うのは…」

「スネイク?」

「スネイク…」

「あ、気に入らなければ別のを―――」

「良いではないか」

「さすがであります!」

「え? あ、アハハ…」


 咄嗟に出た思いつきだったが、2人が気に入ってくれ胸を撫で下ろす。だがそれで終わりの筈がなかった。


「よし、これで準備は完了だな。それではアンよ。お前も我と一緒に来るがよい」

「えっ!?」

「街の場所が分からぬでな。アンは知っておろう?」

「えっと……はい、知ってます」

「それに天涯孤独の身では不安も多かろう。我について来れば生活に困る事はまず無いぞ」

「さすがラオナクィーカ様! すばらしい配慮であります! スネイク、感動で涙がっ!!」

「うむうむ」

「ハハハ………」


 勝手に感動して泣きだすスネイクと、自画自賛気味の魔神を愛想笑いで見ながら「お願いだから放っておいて!」と心の中で叫ぶアン。

 だが、このまま村に戻れば、逃げてきたと思われ下手したら殺されるかもしれない。大蛇が死んだと言っても肝心の死体がもう無くなっているし、その説明の為に魔神達を連れて行くのは危険。そう判断したアンはしばらくしてから村に報告するという先延ばしな結論を出し、魔神達に付いて行く事にした。

次回、森の外に出た魔神達の話です。

出来るだけ早めに投稿出来たら…いいなぁ。

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