第1話:不明
2004年9月。
日本近海からはるか離れた海域。
ロシア領までわずか10キロほどの場所だった。
暴風雨が荒れ狂い、
滝のような雨が降り注ぎ、
骨まで凍りつくような冷たい風が唸っていた。
その海上に穿界門が開き、四人の死神が姿を現した。
朽木白哉。
阿散井恋次。
六番隊の第五席。
そして十二番隊所属の阿近。
彼らは京楽春水総隊長と中央四十六室の命令を受け、この海域で観測された異常な高密度霊子現象の調査に訪れていた。
到着するなり、恋次が口を開く。
「へぇ……確かにここの霊子は異常だな」
一方の白哉は周囲を警戒しながら観察していた。
嫌な予感がする。
この霊圧はホロウに似ているようで、どこか違う。
阿近は携帯していた小型装置を取り出した。
浦原喜助と十二番隊が共同開発した霊子解析装置である。
ピッ、ピッ、ピッ――
しかし画面には、
『不明』
という文字しか表示されなかった。
阿近は何度も測定を繰り返したが、結果は変わらない。
「朽木隊長、霊子の発生源を特定できません!」
「妙だな……分かった」
白哉は頷き、恋次と第五席へ視線を向ける。
「全員、警戒を強めろ」
白哉は直感していた。
その何かは海の中にいる。
長年の経験がそう告げていた。
彼は海面へ向けて手をかざす。
「蒼火墜」
鬼道の閃光が海面へ突き刺さった。
光は深海へと貫通し、一瞬だけ巨大な光の穴を作り出す。
その瞬間、白哉は見た。
何かがいる。
姿までは分からない。
だが確実にこちらへ攻撃を放とうとしていた。
「全員散開!」
四人は即座に四方向へ飛び退く。
次の瞬間――
黒と紅が混じり合った巨大な閃光が海面を突き破り、天へと突き上がった。
「グラン・レイ・セロか!?」
さらに別の気配が現れる。
三体のホロウだった。
全身から莫大な霊圧を放っている。
その霊圧から判断して、少なくともアジューカス級以上。
そして一体はヴァストローデ級だった。
三体のホロウが咆哮する。
天地を震わせるような叫びだった。
彼らは一斉にグラン・レイ・セロを構える。
恋次と白哉は即座に阿近と第五席を引き離し、攻撃を回避した。
海面が爆発する。
グラン・レイ・セロの軌跡に沿って巨大な破壊が走った。
白哉と恋次は斬魄刀を解放する。
「卍解――千本桜景厳」
刀身は無数の桜の刃へと変貌する。
「卍解――双王蛇尾丸」
左腕は巨大な猿腕へ。
右腕は蛇の顎を備えた刃へと変化した。
白哉はヴァストローデへ向けて技を放つ。
「一咬千刃花」
無数の刃がヴァストローデを貫く。
同時に恋次も動く。
まずはアジューカスの一体へ。
「狒々王!」
巨大な拳が炸裂した。
アジューカスの上半身が半壊する。
恋次は即座に仮面を破壊し、そのまま残る一体へ突撃した。
「驚いたか? 蛇牙鉄炮!」
右腕の蛇顎へ霊圧が集中する。
巨大な蛇頭のエネルギーが放たれ、アジューカスを一瞬で焼き尽くした。
だが――
ヴァストローデはまだ倒れていなかった。
「吭景」
無数の桜刃が集まり、巨大な球体となって敵を包み込む。
しかし。
ヴァストローデはその球体を力任せに引き裂いた。
そのまま白哉へ突進する。
鋭い爪が振り下ろされた。
白哉は斬魄刀で受け止める。
だが押されていた。
鍔迫り合いが続くほど不利になる。
「破道の四――白雷!」
閃光が走る。
白い雷撃がヴァストローデの腹部を貫き、大きく吹き飛ばした。
その隙を恋次は見逃さない。
瞬歩で背後へ回り込み、首を斬り裂く。
続いて白哉が突撃する。
一閃。
仮面が砕け散った。
ヴァストローデは霧散し、消滅する。
「ふぅ……助かったぜ。思ったより強くなかったな」
恋次が安堵の息を吐いた。
だがその時だった。
海が激しく揺れ始める。
四人は硬直した。
全員の視線が海面へ集中する。
そして――
海中に潜んでいた異形の怪物が姿を現した。
巨大な口を開き、四人を丸呑みにしようと襲いかかる。
圧倒的な霊圧。
その霊圧に、白哉でさえ一瞬足を止めた。
「撤退だ!」
四人は即座に上空へ飛翔する。
そして穿界門を開き、そのまま尸魂界へと撤退した。




