天ざる蕎麦
「だから六文銭は持ってないってば!!」
「あ、エルフさんおはよう」
あ、あれ?私の服をはぎ取ろろうとしているおばあちゃんは?
上半身だけ起こしてあたりを見回す。
ここは逗留中の部屋の和室。
えっと……あれ?
「私、さっきまで何してたっけ?」
確か大きな川の前にいる夢を見ていて……その前は。
「エルフさん?大丈夫?さっき頭打った時結構大きな音がしたよ」
少年が心配そうに私をのぞき込んでくる。
そうだった、チェックインして少年の作ったお菓子を食べた後にひと息ついていた唐突に少年が抱き着いてきて、私のショタニウム摂取量が1日の限界を超えてゴロゴロ悶えていたらいつの間にか意識が飛んでいたんだった。
「だ、大丈夫よ。落ち着いたから」
今は血中ショタニウム濃度が下がったから平気。
「そう?じゃあお昼ご飯食べる?ちょうど準備できたところだよ」
そう言って、大皿に乗せたてんぷらを見せてくる。
鯛、海老、カボチャに茄子。
どれも適度に黄金色の衣をまとって最高の仕上がりに見える。
そのまま大皿をテーブルに置く少年。
ざるそばはすでに用意済みのようで竹製の蕎麦盛りが二つと小鉢にはとろろ、薬味皿。蕎麦猪口にはすでにそばつゆが注がれておりすぐに食べれる状態。
やだ、私の彼氏、主夫力高すぎない?
起きたらすぐそこに昼ご飯とか最高じゃない。
「エルフさん?どうしたのボーっとして」
「彼氏のスパダリスキルにうっとりしてたところ」
「……気に入ってもらえて何よりだよ。ほら、食べよう」
ちょっとあきれた表情を見せてからポンポンと座布団を軽くたたく少年。
自らは私の席の向かいに座る。
私は起き上がってのそのそと自分の席に座り手を合わせる。
「「いただきます」」
まずは蕎麦かしら。
少しだけそばを箸でつかみ、蕎麦猪口にちょっと垂らす。
最初にそば粉の香りが感じられ、その後つゆをつけた部分が口に入るとかつおだしの利いたそばつゆの甘旨な味。
「ん-……いいわー」
次に薬味を……入れる前に天ぷらに手を付けよう。
海老を取り、先っぽをちょんとそばつゆにつける。そばつゆの表面に少し油が広がり、かわりに海老天に微かにそばつゆの色がつく。
口に入れるとサクサクな衣とそばつゆで少ししっとりした衣の合わせ技食感。
そのすぐ後に海老のぷりぷりな触感が合わさり、口の中で衣、そばつゆ、海老のマリアージュが完成する。
もう一口、今度は海老のぷりぷり食感と衣のサクサク触感。
これも王道でいいわね。
次は茄子天。これはちょっと多めにそばつゆにつけてから食べる。
那須の中のそばつゆが入り込み、とろとろふわっ、のちにサクサク。野菜のうまみが広がる。
ちょっと口の中が熱くなってきたらすかさず少量の蕎麦。
冷えた蕎麦が口の温度を正常に戻し、茄子と蕎麦の風味でこれもまた最高。
揚げ物なのにそばと一緒に食べると全然こってり感がない。
むしろこれは飲み物なのでは?
「美味しい?」
「最高。なんか天ぷらって旅館って気分にならない?」
「確かに、お昼はありものの簡易版だけど、夜は懐石風にするからもっと旅館っぽいごはんになるよ」
これが簡易版……?
簡易版とはいったい……。
「これも十分旅館っぽいと私は思うけど」
「だって蕎麦とつゆはありものだし、天ぷらもてんぷら粉溶かして揚げただけだよ」
私にとってはカップラーメンにお湯を注ぐだけでも十分料理なんだけど、少年的にはこの天蕎麦御膳は適当に作ったモノ扱いらしい。
「基準が、基準が違いすぎる」
「半月も泊まるんだからエルフさんも一緒に料理しようよ」
「刃物とかCQCでしか使ったことないんだけどできるかしら?」
「僕が手とり足取り教えるよ」
想像する。
踏み台にのって私と慎重を合わせ、私の後ろから手を添えて包丁の使い方を教えてくれる少年。
私の耳元でコツを教えてくれながら体は密着し、少年の対ウォンを感じながら具材を切る。
間違えて手を切っちゃったりなんかしたときには少年が私の手を加えて止血してくれたりなんかしちゃう。
……いい。めっちゃ、いい。それ。
「やるわ。私頑張る!」
「……なんか変な妄想してなかった?」
「ベツニソンナコトナイワヨー」
「最初はあまり包丁使わないで済むように、はさみとかでも作れる料理にしようか」
「えっ!?私の指舐めは!?」
「……指舐め?」
「なんでもないわ!簡単なものからの方が安心だものね!そうよね!」
ちょっと妄想が漏れ出てた。
危ない危ない。




