ほっこりタイムのちゴロゴロタイム
キッチンカウンターからダイニングテーブルを見るとエルフさんが背筋をピンと伸ばしてニコニコ顔で湯飲み茶碗とどら焼きを前に絶賛大気中。
その様子は何というか、好物の前で待てをされてる犬っぽい。
ほほえましい光景に頬が緩む。
僕はほうじ茶の入った急須をもってキッチンを出、エルフさんの右手から湯飲み茶わんにほうじ茶を注ぐ。
「はわぁー……香ばしくていい匂いー」
飲む前から幸せそうな顔をするエルフさん。
そんなエルフさんに微笑みかけてみる。
あ、なんか心臓を押さえて悶えだした。
そしてテーブルに突っ伏してピクリとも動かなくなるエルフさん。
……とりあえず今のうちに僕のお茶も入れちゃおう。
うん、焙煎したナッツみたいないい香り。
「―――――六文銭ってどこの貨幣!?」
あ、戻ってきた。
「ねえ少年、今日本人のおばあちゃんに六文銭要求されてないって言ったら服はぎとられそうな幻覚が見えたんだけど」
「それ三途の川じゃない?」
「なにそれ?」
「日本の文化で死後の世界の入り口かな?」
「少年のごはんをあと800年食べ続けるまでは死ねないわ」
それ僕が寿命で死ぬと思うんだけど。
エルフさんのぼけ方は難解だなぁ。
「数百年先のことより目の前のどら焼きはいかが?」
「たべりゅ!」
「じゃあ……」
「「いただきます」」
エルフさんの声と僕の声がはもる。
まずはほうじ茶を一口。
焙煎したナッツのような香りが鼻を抜け、舌に少し苦みが乗ったと思うと、そのまま少しのうまみとともに喉の奥にゆったりと風味が流れていく。
苦みも嫌な感じじゃなく、焙煎由来のそれで、うま味のアクセントととしていい感じ。
「はふぅ……これこれぇ……香ばしくて飲みやすい」
「ずんだは良い青臭さの風味があるからほうじ茶と遭うんだよー」
エルフさんにそう言い、口に潤いが戻ってきたところでどら焼きを一口。
「どれどれじゃあさっそく」
僕に合わせてエルフさんも自らの分のどら焼きをパクっと一かじり。
舌に残るほうじ茶の風味の上に蜂蜜の甘さとふわふわとしたカステラ生地の触感。
その次にはずんだ餡の良い青臭さが香ってくる。
「んん~~~ずんだのやさしい甘みとカステラのふかふか食感~~~最高~~~~」
さきほどのお茶菓子っぽい何かを食べた時とは星阪大に。
ご機嫌に気分が急上昇のエルフさん。
よっぽどうれしいのかなんか左右に揺れながら食べてる。
バラエティーのグルメ実況みたいなリアクションに思わず苦笑してしまう。
そして湯飲み茶碗を口に傾けるエルフさん。
「はふぅー……」
なんか溶けそうになってる。
半熟エルフさんと名付けよう。
僕もエルフさんに合わせてずんだどら焼きを口に含み、ほうじ茶で口をリセットし、もう一口。
そんなに大きく作らなかったどら焼きは4口くらいでなくなり、ほうじ茶のお替りを自分の湯飲み茶わんに注ぐ。
「エルフさんはほうじ茶のおかわりいる?」
「いるっ!ねえどら焼きもまだあるわよね?もうちょっと食べたいなぁ……」
上目づかいでおねだりしてくるエルフさん。
うん、ダメです。
「お昼も近いんだから一個だけにしときなよ」
「えぇー?もうちょっと食べたいー」
「……お昼は天ざるにしようと思ってるんだけどなぁ」
「天ぷら!?」
本当はさっき作った副菜と出汁巻き卵にしようと思ってたけどエルフさんを釣るために急遽メニューを変更。
「揚げたてのてんぷらをそばつゆにスッとつけてサクサクひたひたな天ぷらを食べた後にそばをずずっとすすって食べるのはおいしいよねー」
「最の高じゃないそれ」
「今小腹が満たされたんだし、少ししたら一番おいしい状態の空腹なんじゃないかなぁ」
「我慢します!」
納得してくれてうれしいよエルフさん。
やっぱりね、初日から作りすぎ食べすぎだとすぐに飽きちゃうからね。
ちょっと足りないくらいが何回も食べれてその間に次の献立も考えれるから丁度良いと思うんだ、僕。
そう心の中で補足しながらほうじ茶を飲む。
エルフさんも一緒に飲む。
「「はぁー……美味しい」」
また声がハモった。
考えがシンクロしてるのかもしれない。
いいね、そういうの。
「お茶飲み終わったら和室でちょっとゆっくりしよう?」
「そうねぇー……午前中はドタバタだったしそうしようかしら」
「あぁー」
……。
…………。
………………。
「あぁー畳があるちと旅館って感じがするー」
食べ終わった食器を食洗器に入れて和室に戻った僕はそのまま畳に倒れこんでイグサの匂いを堪能する。
敷きたてのまだ青い畳の匂いが僕を癒し空間にいざなう。
僕の家はフローリングだから新鮮。
「少年、だらしないわよ」
「エルフさんしか見てないしいいじゃん」
それにゴムベラでつまみ食いするよりはずっとましなだらしなさだと思うんだけど?
「もぅ……」
「エルフさんもゴロゴロしようよー」
「ん-……じゃあちょっとだけ」
そう言ってエルフさんも座椅子からお尻をずらし、そのまま僕のいる方に古典と寝転がってくる。
「あ、これいいかも」
「でしょー?別途とかに寝転ぶのとは一味違ったリラックス缶だよね」
そう言いながらゴロゴロと転がってエルフさんの目の前に位置取りを変更。
もう距離はエルフさんの瞳の中にいる僕が見えるくらいの距離。
「……」
「……」
エルフさんが耳を赤くしながら無言になり、それにつられて僕も無言になる。
そんな雰囲気がなんだかもどかしくて、いたずら心が芽生えてきた。
「えいっ」
なので、ぎゅっと抱きしめてみる。
見上げるとエルフさんの顔がゆでだこみたいになっている。
つぎはどうしようかなー。
どう攻勢を強めようかと考える。
でもエルフさん的にはすでに何かの臨界値を超えていた様子。
次の瞬間、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー」
「!?」
びくりとエルフさんの体がはねたと思ったらなんか転がりだした。
え、ちょ、怖。
急に発狂しだしたエルフさんにドン引きする。
ゴロゴロと転げまわるエルフさん。
ゴンッ。
「きゅわっ!」
テーブルの角に頭をぶつけるエルフさん。
「だ、大丈夫?」
「きゃうぅぅ」
起き上がったと思ったら何か小動物のような鳴き声を上げるエルフさん。
僕と目が合うエルフさん。
「……ぐはっ――――」
失神するエルフさん。
え?本当に大丈夫?エルフさん。
予想以上のリアクションでちょっと怖いんだけど。
ちょっと?




