お部屋散策
踏込の障子の先には板張りの廊下とガラス張りの窓。
窓の先には四畳半程度の焼杉の壁に囲まれた枯山水の庭が見える。
中庭の天窓から入っているであろう自然光が枯山水の白石を照らしキラキラと輝いていた。
少年は廊下の左側に向かったようなので、私は右の部屋を見てみることにする。
障子を引いて部屋に入ると右側の部屋はダイニングルームのようだ。
10人ほどが座れるダイニングテーブルセットと、その奥には大きなカウンターキッチン。
ダイニングの隣の部屋には食糧庫らしきガラス張りの部屋もある。
旅館にも料理はあるだろうから逗留中は少ししか使わないだろうけど、たまにここで少年に料理を振る舞ってもらうのもよいかもしれない。
「ねぇねぇエルフさん!見てみて―!」
そんなことを考えていると後ろから少年の声。
もう左側の探索は終わったのだろうか。
「なぁに、少ね――――はうっ!!」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
そこにはいつの間に着替えたのだろうか、青い浴衣と羽織を着た少年の姿。
「部屋着があったからきてみたー。どう?」
私に見せつけるようにくるくると回って感想を聞いてくる。
僧帽筋をゆったりとつつむ青い浴衣の襟。
前を向いて俯けば少年のまだ小さい胸板がちらりと見える。
ゆったりとした袖は少年が手を動かすたびにふわふわと揺らぎ、まるで今の私の理性のよう。
これは戦略兵器じゃないかしら?
「大丈夫? 条約で禁止されていない?」
「どういう感想???」
「すっごいに合ってるって意味」
「そう?よかった。エルフさんが喜んでくれると僕はうれしいよ」
にこりと少年の笑顔。
浴衣補正により私の心臓に334倍のダメージ。
初日でこれとか私の心臓半月もつかしら?
「ほら、左の部屋の引き戸のクローゼットにエルフさんの分もあるよ。来てみなよ」
そんなことを考えていると、少年は私も浴衣を着るように促してくる。
「じゃあ、そうするわ」
「着替え手伝う?」
「…………………………着替え終わってから感想聞きたいから一人で着替えるわ」
「わかったー」
本当は着替えを手伝ってもらったら私の理性が持たない確信があるからだけど、それは言わない。
「右の部屋はダイニングだから少年もみてきたら?キッチンもあるわよ」
「キッチン気になる!じゃあ見てくるねー」
少年はそのまま先ほど私が見ていたリビングエリアにぽポテポテと歩いて行った。
その間に私は左の和室で着替えをする。
左の和室は二部屋あり、一部屋はリビング用なのか9畳ほどの部屋に1畳ほどのローテーブルと座椅子が二つ。奥の部屋も9畳ほどの大きさで、そこには4人は優に練れる大きさのベッドが置いてある。
リビングにあたる和室の窓際には広縁。よく温泉旅館にあるあの謎スペースまで再現している。
その先にもさらに部屋があるようで障子が締まっているけど……あとで見よう。
寝室の壁の一面は大きなガラス張りの窓になっており、眼下にはスパエリアらしき森林ゾーンと岩で囲まれたエリア。
どちらもかすかに湯気が立ち上っている。
もう営業時間になっているのか、ちらほらと水着の人影が見える。
日本の温泉と違ってあのエリアは水着着用のスパ方式の様だ。
お昼ご飯を食べてから少年と一緒に入りに行こうかな。
そんなことを考えながら浴衣への着替えが一通り終わる。
「エルフさーん。着替え終わったー?」
ちょうど洋服をたた見え終えたくらいのタイミングで少年の声。
「いいわよー」
「ここのキッチン、エルフさんの宿舎よりも設備充実してるから何でも作れるよーっと……」
キッチンの感想を言いながら少年がふすまを開けて入ってくる。
「うん、やっぱりエルフさんは美人だから浴衣も似合うね。銀色の髪とピンク色の浴衣のコントラストがエルフさんの雰囲気にマッチしていて夜明けの花って感じ」
「そ、そう?ありがとう、嬉しいわ」
少年に褒められるたびに顔の血行が良くなるのが分かる。
このままだとゆでだこになってしまう。何か他に話題は……そうだ。
手でパタパタを顔を仰ぎながら寝室の奥の障子を開けてみる。
そこには脱衣スペース、脱衣場の窓は全面ガラス張りになっており、その先には広いベランダのようなスペースにヒノキの浴槽。
湯口から浴槽に流れるお湯にからはかすかに湯気が立ち上っておりいい湯加減そう。
「わぁ、貸切露天風呂もあるんだ!すごいね」
「え、えぇそうね」
ほてりから逃れるために進んだ先にはさらなる試練が待っていたとかどういうこと?
貸切露天風呂、恋人二人旅。も起きないはずがなく……。
いやまって、初日で崩壊しちゃだめよ理性!
頑張って私の理性。
「あとで一緒に入る?ほら――」
「私の理性を試そうとしてるの?少年の裸体を見たら最後、私の理性が持つ自信がないのだけど???」
出も少年も好意ってるしもうギブアップしちゃってよいのじゃないの?と頭の中の悪の私が囁いでくる。
「……ここに湯あみ着があるよって言おうと思ったんだけど」
「え、あ。そ、そうよね!ここエルフ族のホテルだから当然あるわよね、あははは……」
ほらここで理性崩壊したら少年にドン引きされてたわよ!と頭の中の善の私が悪の私をしばき倒す。
「裸のお付き合いの方がよかった?」
少年の言葉にお見合いする頭の中の悪の私と善の私。
イケー抱けー!と意気投合するわ頭の中の悪の私と善の私。
ちょっと????
あ、でも今のバイタルだと多分うれしさ限界突破でシャットダウンするわね、と頭の中の理論的な私。
あーと納得する悪の私と善の私。
そう!今はまだ早いのよ!
「理性がプッツンするか脳の処理がオーバーフローして倒れちゃう。もうちょっと段階踏んでから挑戦したいわ」
理論的な頭の中の私案を採用してなんとか少年に言葉を返す。
「昨日エルフさんの部屋で裸で添い寝した仲なのに?」
「あれ私昨日最後の方記憶ないんだけど」
朝起きたら少年はパンいちだわ私は全裸だわで頭が完全に寝ぼけから覚める前に田中の声でそれどころじゃない状況に追い込まれなかったら多分脳の処理が追い付かなくて失神してたと思う。
「エルフさんがリビングの床で寝落ちしそうになるわ寝室まで肩を貸したら脱ぎだすわ僕を脱がすわしてたよ」
「そんなことしてたの!?」
なんでその時の記憶覚えてないのよ私!!!!
いや覚えてなくてよかったわ私。
まだ耐性ついてないから思い出すだけで失神しちゃうわ私。
この逗留で耐性つけるもんねー私。
ぐへへ。
「ちょっと嘔吐してシャワー浴びできてって言ったら浴槽でまた寝落ちしそうになったから介助して体洗って体ふいてベッドまで肩貸したよ?そのあと僕も脱がされた」
だから朝パンイチだったの少年!?
「よくよく考えたらこれ、エルフさんお父さんの前でセーフって言ってたけどこれもろアウトでは?」
「なんでもしますので銀河警察には証言しないでくださいお願いします」
流れるようにDO☆GE☆ZA。
さすがに酔っぱらって同意なくそんな所業をしたとなればかなりこっぴどく絞られそう。
「僕はエルフさんの恋人だからエルフさんに不利になることはしないよー」
「きゃー!少年しゅきしゅきー!」
「別れる可能性もないし、ね?」
一瞬ニコニコした少年の目が笑っていなかった。
絶対私からは少年と離れらなくなったわね。
……まいっか!
「そうね!」
もともと私から別れる可能性は微粒子レベルでも存在しないわけだし。




