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ファーストコンタクト狂騒曲  作者: 九束
少年とエルフさんの逃避行 ~世界樹温泉逗留記~

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チェックイン

霊柩車タクシーがエントランスロータリーから自動的に走り去っていく。

そして、車から降りた私と少年は本日逗留する旅館を見上げる。


「おぉー……」

少年から感嘆の声。


目の前に佇むのはローマのコロッセオを思わせるデザインの大型旅館。

石造りの壁に大きな窓。

古代エルフ式の代表的なデザインだ。


さらに目線を上にあげると、屋上エリアには森と温泉があるのか木々の奥から湯気が立っている。

正面から望む窓からはエントランスホールのデザインが少しだけ見える。

外観の石須栗とは打って変わって自然な木目調を基本として木材をふんだんに使ってい様子がうかがえる。


そしてホテル前には重厚な石造りの看板には日本語とエルフ語で『温泉旅館エッダ』の文字。


名前の由来はこの当たりのエリアの旧名称から来ているようね。

地図を見ながらトンチキな由来じゃなくてよかったという感想を抱く。


さすがに要人用に作られたホテルはノリと勢いだけで作られてはおらず、デザインに一家言ある専門家が設計したであろう風格を纏っている。

ひとまず外観がトンチキではなかったことで私のセンスが疑われそうなリスクが下がり、すこし心配の度合いが下がる。


「これはエルフさんの所の建築様式?」

「えぇ、これは貴方達で言うところの中世ごろに流行した様式ね。格式あるデザインと言えば私たちの文化ではこういう形になると思うわ」


「窓からちょっと中の様子が見えるけど、外の石造りと違って木が中心なんだね」

「そうね、元々近代化する以前の私たちは世界樹信仰の影響で自然との調和を重視していたから、特に中世のデザインは木の色味や香りなんかもデザインの重要な要素になっているわね」


「へぇー……やっぱり自分の国以外の文化の成り立ちを聞くのは楽しいなぁ」

少年はご満悦の様子。

さきほどのトンチキ街並みが勢いを楽しんでいる様子だとしたら、今は私たちの文化を知的好奇心でかみしめているよう。


「じゃあ中に入りましょうか」

「うん!」

私が少年に手を差し伸べると少年は私の手を取り、指を絡めたうえで腕に抱き着いてきた。

やめて、体温上がっちゃう。


耳が火照るのを感じながら少年とエントランスをくぐる。


エントランスにはドアマンがおり、袴にジャケット、和服のような羽織を着て、ドゴール帽を被った初老の男性エルフがやうやうしい動作で手動でドアを開ける。

……なんかどこかで会った気がするけど……気のせいかしら。

一度感じたことのあるマナな気がする。


しかし、こんなところまで一部古代様式を踏襲しているとはかなり本気ね。

半分くらい服装が和の要素が侵食しているのが少し気になるが、街中のトンチキさとは異なり妙な調和感が出ている。



エントランスをくぐると、新しい木材の芳醇な香りが鼻を抜けていく。

目の前に広がるのは天井まで大きく伸びた太い梁が重なり合いつつも、広く開放感を感じる吹き抜け空間。

所々に世界樹の葉を模した電飾で証明が淡い光を放っており。その集合体が空間を淡く照らして内装の木の年輪を際立たせている。

足元のなめらかではありつつもあえて光沢をなくしたであろう板張は光が吸い込まれていくような錯覚を覚え、荘厳さを感じる。


吹き抜けの先には壁に沿って建物の中心に向かってゆるやかに上る大階段がある。通路には緑がかった絨毯が敷かれ、手すりには温もりを感じる木肌。

階段の先には赤い毛氈(もうせん)が敷かれた小さな舞台が置かれており、ノーム族が大人しく様々な楽器でやさしい音色を奏でている。


舞台の下には青い石と白砂が配置されている水面が広がり、さながら水上舞台の様相。

手前側両脇には大乗様々なデザインのソファーとテーブルが配置され、その中央にフロントと受付係と思われるエルフがやはり和洋折衷な衣装で立っている。


和の雰囲気が多めながらも細かい彫刻などで私たちの古代エルフ文化を融合させた見事な木造内装に私は思わず感嘆の声が漏れそうになる。

「同じ市内にある建物とは思えないなー」

少年も同じ感想を抱いているようであちらこちらを見回しながらそんな言葉をこぼしている。


「あれが標準じゃないから。私たちの本来の風情ある佇まいはこういうのだから」

ちょっとテンションおかしくなった時の基準を私たちエルフ族の標準と受け取らないで少年。

お願いだから。


そんなやり取りをしながらフロントのエルフ族に目配せをする。

そうするとそのエルフ族の視線が動き、すぐに視線の外にいた別の和洋折衷姿のスタッフと思しきエルフ族が私に声をかけてくる。


「駐日首席観察官閣下、お待ち申し上げておりました。お部屋の準備は整ってございますので、ご案内いたします」

「お願いするわ」

私の姓名ではなく官職で呼ぶ古代式の作法。


日本人に分かりやすく例えるなら、時代劇とかで個人名を呼ばずに〇〇守とかよばれるあれと同じ文化がエルフにもある。

ただ、普通のホテルではまずやらない方法。


だって別にエルフ族だからって全員が全員官職持ってるわけじゃないし。


エルフ部族連合の中でも上流層のみを相手にするゆえに割り切った作法ができるのだろう。

徹底してるわね。


「チェックインカウンターでチェックインしないで顔パスとか上流階級みたい」

「みたい、じゃなくて仮にも保護観察体制の総責任者だから私これでも上流階級なのよ?」

「すごーい。かっこいいよエルフさん」

少年が羨望のまなざしを向けてくる。


「僕も頑張って数年後にはエスコートできるようになるね」

私の腕に頬を預けながら私を見上げてそう言う少年。


「やだ、期待しちゃう」

脳裏に数年後の少年を想像する。

今は私の肩位の少年、例えば5年後なら身長は私と同じか少し高いくらいだろうか。


私は彼の腕に手を預け、レストランのエントランスなどでは彼が一歩前に出てからドアを開け「どうぞ」と私に手で促す。

あどけなさを残しつつ眉目秀麗な男らしさが出てきた少年が私に微笑みかけてくる。


夜になるとバーで私はお酒を飲んで、でも数年後なら少年はまだお酒は飲めないか……。

でも私に寄り添ってくれて、私が「ちょっと酔いが回ってきたかも」とかいうと「大丈夫ですか?」って私より大きくなった手で私の肩を抱きよせてくれて。

それで―――


「えへへへへへえぇ……」

すっごくいい。

最高な未来ね。


案内役のスタッフエルフも同じような想像をしたのだろうか。

視線がいいなぁという羨望の目線。


うらやましかろ?

将来スパダリ確定のこの美少年、私が彼を独占なのよ?


『くっ私もきっと日本人のスパダリゲットできるもん!』

そんな決意を瞳の中に見た。

頑張りなさい。

そのための制度的なおぜん立てはするから、同士よ。


わずかなアイコンタクトの間にスタッフは気持ちを切り替えたのか、落ち着いた様子でホテルの設備案内を行いながら私たちを部屋に案内する。


バーやレストランフロアは一階、露天風呂は最上階の屋上にあるとのこと。

その他にもティーラウンジ、フィットネスルーム、エステサロン、カラオケ等のどことなく日本っぽい設備がちょいとい混じった設備案内を受ける。


そして上層階の奥にある部屋の開錠電子キーを私の端末に転送し、ドアを開け私たちを部屋の中に通す。

玄関――いや踏込のテーマは完全に和。

一目でわかる和風モダン。

でもフロントからこの部屋までの内装が木を基調としたデザインで自然に続いていたことで不思議と違和感は感じない構成になっている。


そして最後に「ご用がある場合は転送した呼び出し番号にてお申し付けください」と言い、私がドアを閉めるのに合わせて優雅な仕草で一礼。


「なんか、すごく洗練された所作だねスタッフさん」

「……迎賓館系の出身じゃないかしら」

古代エルフ式の所作が堂に入りすぎてほぼ確信する。

そう納得して、私は玄関で靴を脱ぐ。


「一番乗り―!」

少年は私よりも先に乱雑に靴を脱ぎ捨てて踏込に上がり、踏込と廊下の間にある障子をニコニコ顔で勢い良く開けているところだった。

可愛い。

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