トンチキジャパンと化した聖地
ある角度ではまあ普通に見えても、ほかの角度ではすんごいことになっている。
そういう現象ってあるわよね。
今まさにそれ。
宇宙船を湖畔の係留場に降ろし、ボーディングブリッジを抜けた瞬間、私は目の前の街並みが信じられずに思わず目をこすった。
「何……この……――何?」
目の前に広がる風景を何とか言語化すると、熱海や草津のような温泉街とレトロ香港映画でよく見るネオンまみれの香港の街並みとホイアンのような伝統的な東南アジア風の建物とありったけの日本を見たことがない人が日本を頑張って想像した要素をブレンダーで粉砕してできた粉末をダイナマイトで爆破して飛び散った破片かき集めて作った結果のような街。
どういうことかわからない? うん私も言っててよくわからない。
係留場の目の前には高さ二十メートルはあるかと思える金色の招き猫が口から大量のお湯を湯畑に向かって吐き続けており、その周りにはコロニアル様式の低層建築物の商店街。
表通りはなかなかいい趣なのだが数個先の建物は一挙に九龍要塞のような密集建築物になっており、カラフルなでかい看板がずらり。
「ごはん買い取ります」
「足湯世界樹ピラニア安全」
「たぶんすし」
「地球人専用結婚紹介所」
日本語の看板で開店準備中のお店たち。
多分これ、夜になったら七色に光るんじゃないかしら。
自治国昇格後に日本人の観光客をターゲットにしたお店だろうか?
いや、こんなお店に近づく日本人いるかしら?
「楽しそう……!」
少年的には好感触らしい。
マジ?
視線を反対側に移す。
道路には車体が神社を模したデザインの自動車が縦横無尽に走っている。
霊柩車にしか見えない。
遠くを見る。
世界樹と崩壊した世界門の先にでかい大仏がある。
しかも斜めに傾いている。
なにあれ?
停留場から自動タクシーを拾うために数分散策しただけで頭が痛くなるレベルの怒涛のトンチキ街並みが視覚を襲って頭が痛い。
目頭を押さえながら歩道を見回す。
あ、町の案内板があった。
『世界樹温泉郷カブク案内端末』
対奉仕枠管理局戦争で更地になってしまったので確かに一か月前までは都市はなかったけど世界樹とその湖畔近辺はかつて聖都スヴァルトアールヴ世界樹都市圏という名前だったはず。
名前ごと日本に迎合したよくわからない名前になっている。
あんまりにもあんまりな状況に、私は気づくと情報端末で従妹に電話をかけていた。
「はいこちら旧皇族をどうやってコマそうか悩んでる従妹よ」
「あんたたちダークエルフの聖地がひどいことになってるんだけどこれいいの?」
端末でこの酷い街並みを見せながら開口一番従妹に問いかける。
「あー……思ったよりひどいわね。一応個々の再開発は8割くらいダークエルフの方で建築担当してるはずなんだけど……」
「じゃあ私たち白エルフの方が好き勝手やってるわけじゃなくてダークエルフと白エルフで両方好き勝手にやってこれなのよね?あんたたち聖地なんだと思ってるわけ?」
「私に言われても困るわよ……あれじゃない?本国の連中、日本食欠乏症で変なテンションになってるんじゃない?」
……あり得る。
日本食の魔力は確かにヤバイものね。
私や従妹は日本駐在だから毎食日本食を食べれてるけど、本国の連中はわずかな輸入量で日本食に一度触れてドはまりしても、常食できるレベルの量はそもそも流通していない。
日本に行くの解禁らしいよ!
じゃあ聖地に日本人呼び込んで交流増やせばもっと早く輸入増えるんじゃね?
やっちゃうか! 聖地日本化!
街並みの調整どうする?
納期ひと月だしそんな時間無いじゃん好きにやっちゃおう。
オッケー見切り発車でゴー!
とかのノリで各々好き放題やった結果がこれな気がする。
「……って私は思うんだけどそっちはどう思う?」
「私もそう思う」
従妹も同意見の様だ。
「それで、この惨状、日本人的にはどうなのかしら?」
「聞いてみる?少年ー!この街並み、どう?」
「トンチキジャパンが極まっててすごく愉快」
意外にも好評なようだ。
「じゃあ、いいか。日本人的にも好評なら日本人もいっぱい来てくれそうだし」
「来ないと思うよ?」
「え゛?」
通話画面の先でぴしっと従妹が固まる。
「トンチキジャパン、僕は好きだけど基本色物だし。町全体がそれだとちょっと胸焼け」
そう言って少年は湖畔一帯を指さす。
あっちこっちになんか日本のお城みたいな高層建築物や帝冠様式の建築物。
ちょいちょい韓国っぽいデザインが混ざっていたり中国っぽい建築様式が混ざっている。
ちゃんと日本由来の建築デザインに寄せられているのが1、ちょっとおしいのが3、お前それ違うだろうというのが6くらいのバランスの街並み。
「トンチキ1:ちゃんとした日本っぽいの1:エルフさん達の伝統建築様式8くらいならウケると思う。僕たちが見るって考えるならトンチキジャパンはあくまで脇役で主役はエルフさん達の文化だとおもうよ?」
「まあ……そうね」
少年の正論パンチに黙りこくってしまう従妹。
まあ日本人から見たらの意見だとぐうの音も出ない。
私たちエルフが日本入りする前に逗留する場所として考えても本物の日本は実際に日本に行けば好きなだけ見れるので別に世界樹近辺を無理に日本っぽくする必要は冷静に考えると一切ない。
一部の他分明文化との融合を目指すような芸術肌層がトンチキジャパンっぽいものを作って、その他はかつての古代エルフ文化デザインを復興した方がはるかに有意義だ。
「後で本国に連絡して少年の正論パンチ投げつけといてくれる?」
「そうするわ……」
どっと疲れた様子で通話を着る従妹。
……少なくとも今のこのトンチキジャパン温泉街は日本人が来る前には窓もな古代エルフ様式の温泉街になっていることだろう。
そう願いつつ自動運転の霊柩車タクシーを拾って逗留する旅館に向かう。
少年は相変わらず興味深そうな目で街並みを眺めている。
「逗留する旅館はトンチキかしら?それとも……」
逗留する旅館は従妹に手配を任せていたので私もどんなデザインの建築物なのかは把握していない。
どちらにしても逗留中にまともなデザインに代わる気がするが、最初の変更前デザインによって私のセンスが少年に疑われることになるのでまともなデザインであることを私は強く祈った。




