世界樹にいこう
宇宙港の滑走路から船が離脱し、自動操縦に切り替える。
距離は地球で言うところの日本からデトロイトくらい。
ちょうど反物質炉騒動で田中と移動した距離に近い。
しかし今回は前回とは異なり通常航行速度。大体60分程度だろうか。
船のAIが自動運転に切り替わったことを日本語で伝える。
(今後少年もたびたび乗ることになるので音声を日本語に切り変えた)
シートベルトサインが外れると同時に少年はシートベルトをはずし、窓に向かってふわふわと浮遊し始めた。
やはり無重力状態が楽しいらしい。
「じゃあ、これから行く世界樹について教えてよ」
そんな少年の様子をほほえましく見ていると少年が振り返り聞いてきた。
「そうね。世界樹に増える前に軽く私たちエルフ部族連合の成り立ちから触れましょうか」
放棄された惑星スヴァルトアルファヘイムとエルフ部族連合の首都星アルフヘイムを触れるにはそこから話した方が分かりやすい。
「まずね、私たちエルフ部族連合は今でこそ60の有人星系と数千の無人星系を擁する銀河連邦主要国だけど、前FTL文明時代にはフレイ星系第四惑星アルフヘイムから成立した白エルフ族とニザヴェッリル星系第二惑星スヴァルトアルファヘイムから成立したダークエルフ族に分かれていたわ」
「とすると、FTL文明への進歩の後に類似の種族が邂逅したってこと?」
「ううん?有史以来、白エルフ族とダークエルフ族は星系をまたいで交流があったわ。その交流の窓口になっていたのが、この聖地世界樹と世界門」
「何かワープ装置のようなもの?」
「よくわかったわね。おそらく私たちの文明が起こるはるか昔よりあった先史星間文明が作ったであろうワープポータルと、そのワープ装置のエネルギー源としての世界樹。対奉仕枠管理局戦争の前の研究では、放射年代測定によって少なくとも600万年前には存在していたと推測されている」
「つまり、エルフさん達は文明の成り立ちの時点から自分たちが孤独ではないということを知っていたんだ」
少年の言う孤独とは私たちが地球に来るまで宇宙関係者の中で言われていた知的生命体がいる、またはいたことを知っていたかということだろう。
その問いに対しての回答はイエスだ
私たちの歴史が始まるはるか前から存在する圧倒的証拠。先史文明の遺産。
科学が未発達な時期には宗教的な神とさえあがめられていた存在。
たしかに世界樹と世界門のおかげで、私たちは科学文明を迎えたころには孤独ではない革新を得た。
しかしそれは良かったことなのかというと、一概にそうも言えない。
「先史文明が種族の生存に最適で快適な環境を用意していたせいで、文明が興ってからFTL文明になるまでの世代数は人類と変わらない程度はかかったけどね。そして、ある程度文明が成熟したときには先史文明の遺構にあるオーバーテクノロジーをリバースエンジニアリングできるようになってからは一気に文明レベルが爆発。現在銀河連邦の国力の元になっている物質複製機などの技術もこの先史文明由来ね」
未解明の技術を扱う危うさは少年自身つい最近思い知ったところだろう。
「地球人は私たち宇宙人が地球人を子ども扱いしていると思っているようだけど、ある意味私たちだって同じようなものよ。銀河連邦のエネルギー技術、物質精製技術の多くは、もとをただすとこの先史文明に行きつく。しょせん私たち銀河連邦も巨人の肩の上にいるに過ぎない……」
私たち銀河連邦が活用して入れ宇主要技術の中にも、先史文明のリバースエンジニアリングえ理論はよくわかっていないまま使っているものは多々ある。
私たちの文明も、そういう危うさは孕んでいる。
「そんな前提を忘れた結果、起こったのが対奉仕枠管理局戦争。戦争の内容はまた今度話すけど、そこで聖地かつ有史以来のダークエルフ部族の首都があった世界樹近辺はほぼ消滅。惑星全体も文明の遺構を見つけることそのものが困難なレベルに荒廃したわ。終戦まで領有こそ維持はしたものの人口減少により復興は絶望的。結果的にダークエルフ族は惑星スヴァルトアルファヘイム放棄し、アルフヘイムに首都を移すことになったわ」
「その後は僕たちに教えた通りの自然保護惑星に?」
窓際から私のそばに寄ってきて私の肩に顎を載せながら少年が聞いてくる。
まじめな話の最中に誘惑しないで。抱きしめたくなっちゃう。
「……名目上の自然保護で、開発するにも入植者がいなくて宙ぶらりんになった結果だけどね。ちなみにスヴァルトアルファヘイムの世界樹は朽ち果てているけど、惑星アルフヘイムの方の世界樹は健在よ。宇宙規模で見ても一つの生命体としては規格外の大きさをしているわ」
「そっちもみてみたいなぁ」
言葉の裏には言外に『この逃避行のあと行くよね?』という確認の意図が見えている。
「いずれ行けるといいわね」
「新婚旅行とかで行くのはどう?」
「気が早いわねー少年」
「駆け落ち中だし、そういう話題もいいと思わない?」
そう言って微笑みかけてくる少年。
先ほどの無邪気な笑顔ではなくこちらを試すような私の琴線に触れるぐっとくる笑顔。
……いけしゃあしゃあと、よくもまあそんな私にクリティカルヒットする言葉を次々に放てるものだ。
その言葉が本当の好意からくるものであれば嬉しいんだけどなぁ……。
「そうね、君が大きくなっても私に価値があればその未来もありね」
それはそれとしてクリティカルヒットする言葉ではあるので、私は悶えそうになるのを押さえて平静を装いながら少年にいい返す。
「つまり確定した未来ってことだね」
顔が近い! やめて、悶えちゃう。
「……そうかしら」
「そうだよ」
「うーん!この女たらしめ!」
「こういうのエルフさん好きでしょ」
めっちゃ好き!!
クリティカルに琴線に触れたので一通り悶える私。
気が済んで少年を見ると少年はまた眼下に広がる海を見ている。
「あれが世界樹……」
朽ち果てているとはいえ地球では考えられない規模の巨大な木に少年が息をのむ。
いつの間にか航空機でも着陸できそうな高度に下がっていたことに気づいて私も外を見ると久々に見る朽ち果てた世界樹とチェレンコフ光のような青い光を放つ崩壊した世界門。
そしてその周りを囲うように市街地レベルの構造物が見える。
半月前までは構造物一つない更地だったはず……。
……予想の数倍開発に力を入れているようだった。




