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ファーストコンタクト狂騒曲  作者: 九束
地球は保護国になりました

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15/46

惑星開拓は別に競争じゃないぞ?ちょっとわかってる?

今日という日は中華人民共和国にとっては記念すべき日になるだろう。



ケプラー7X5Cとかつては呼ばれ、今日から盤古ばんこと呼ばれることになる古い神話の創世神と同じ名前が付けられた開拓星を、我々はニャーティアから正式に受領する。

開拓開始に合わせてニャーティア共和国から寄贈された『軌道エレベーター』盤古明珠太空電梯。

どことなく東方明珠電視塔に似たデザインの軌道エレベーターのふもとにある広場。



その広場の中央に設けられた調印席に今、私はいる。



先ほどニャーティア共同体全権として首席監察官殿が条約文書に肉球で印を押した。

これに、私がサインをすれば条約は正式に発効する。


中国側署名欄に自らの名前をサインし、条約文書を参列者側に首席補佐官と手を携えながら掲げる。

これでこの星は今から惑星盤古となった。同時に、開拓進行時の暁に受領する星系は天命と名付けられた。

おびただしい数のフラッシュと盛大な拍手音、そして確かな熱気が式場を包む。



これで我が国はアメリカ・インドと同時にではあるが、他の国に先んじて宇宙への進出を果たすことになった。

いや、順番は重要ではない、『我々が』太陽系外への第一歩を踏み出したことが重要なのだ。



上海の貧民街で生まれた私が中国の新しい歴史の第一歩を踏む当事者となった事にこみ上げるものがないといえば嘘になる。

しかし、現実はそんな万感の思いに浸らせてはくれない。



「先ほど、移民団の船が軌道エレベーター到着軌道に入ったという連絡があったニャが……元気のある彼らにはぜひ頑張ってほしいニャ―」


笑顔のままぼそりと耳元でつぶやく観察官。


思わず私は笑顔がひきつりそうになるも、気合で耐えた。


脳裏に思い浮かぶのは忌々しい元主流派の姿である。




相次ぐ失策でかつての栄光は見る影もなく、地方組織や地方軍への影響力は計り知れないが、それも時間とともに低下する程度の勢力でしかなくなっていた。

主にトドメとなったのは先のニャタビ窟騒動だ。事後調査の結果、東北部の戦区と地方党組織が黒社会を通じて闇ルートの構築準備をしていたことが発覚した。

首席監察官からの正式な要請で徹底的に摘発をした結果、すでに権威は地に落ちている。



あとは見所のあるものを切り崩していけば……と考えていたころに彼らは起死回生の一手を打ってきた。



本土に見切りをつけ、この新たな惑星『盤古』に活路を見出したのだ。



「扶共滅宙」をスローガンにしていた彼らはいつの間にかそれを「盤古天命」にすり替え、あれよあれよという間に移民のための一大ムーブメントを形成。


開拓準備政府の高官の地位の4割は彼らの物になってしまった。



「私たちもね、いろいろあったけど王君の働きぶりに感銘を受けてね、こうやって助力をしようと思ったのだよ」


元主流派の首魁である前国家主席は開拓準備政府設立のための会合でニコニコとそう言った。

絶対嘘だ、開拓で成果を上げてどうせろくでもないことをするに違いない。私は詳しいんだ。

そう思いつつも、方針としては合致していることもありけん制することもためらわれる。


前回のやらかしもあり、首席監察官に相談したところ「いいんじゃニャいかな。開拓は元気が有り余ってないとできないからニャー」という返答。


断る理由もなくなってしまったので、しぶしぶ認めることになった。







――条約締結式典に続き、開拓団の開拓開始式典が始まる。


高層ビルほどの大きさもあるクライマーのハッチが開き、中からコンテナトラックや軍事車両、そして『元主流派』の開拓準備政府高官たちが乗ったの車両が降りてくる。


式典に参加をしない降下待ちの開拓団を含めれば1次開拓団は実に1000万人の大所帯だ。


そして私の元に開拓団の代表として元主流派の首魁、前国家主席が歩いてくる。



私は全国人民代表大会の決議に基づいて開拓準備政府の解散と星系政府の成立を宣言し、前国家主席を星政府主席に任命した。



「王君、今まで苦労を掛けたね」


ニコニコと握手を求めてくる前国家主席。

本当にな! と言いたいのをぐっと抑えて前国家主席の手を握る。


「いえいえ、前国家主席……いや盤古星政府主席のこれからの苦労に比べれば私など……」


「これからは協力し合って人民のために邁進していこうじゃないか」


そう言って手を握る強さ強める星政府主席。


「はははは……全くです」


私も手を握る強さを強めてそのまま星政府主席を抱擁する。


「まあ任せたまえよ」


そう耳元でつぶやいてくる星政府主席。目が言っている『ここで一気に影響力を復活させてやる』と。


「危険なことはしないでくださいよ」


フリじゃないからな! 本当にフリじゃないからな!


まともにやって私の影響力が減るならそれでいいから!!


「なぁに、足さえ引っ張られなければ大丈夫さ。絶対に我が国が自治国昇格一番乗りだよ」


ひっぱらないから! もうそういう段階じゃないから!

というか足を散々引っ張ってたのはお前だろうが!


あと自治国昇格とか独立加盟とかは競争じゃねえんだよ。まず開拓星で生き残らなきゃなの。

ちゃんと一歩一歩やるテストなの。分かってる? 開拓準備政府設立協議の時に私話したよね? 話聞いてた?


「ははは……」


「ははははは……」


笑いあう私と星政府主席。


その時私は気づいていなかった。開拓団のトラックの中にちょこちょこと動き回るノームたちがいることを。








☆彡







――2週間後



「そういえば盤古の開拓者についてニャのだけど、ノームが結構な重さで入ってきているが大丈夫かニャ?」


「………………は?」


いつもの定例会合、特に問題もなく主な議題が終わった小休止のタイミングで首席補佐官殿が振ってきた話題に私は一瞬フリーズする。


「ノーム……ですか……?」


「そうニャ、条約締結の前の会合で日本のが報告書をあげていたのは見たニャ?」


無論だ。動画付きで送られてきたノームのやらかしは印象に残っている。


「式典の時もノームがいたみたいニャし……ニャにかしてるんじゃニャいかニャ?」


……まさか、式典で自信満々だったのって……。


あの馬鹿どもなら『俺たちならもっとうまくやれる』とか驕ってノームの移民を承知していたとしても不思議ではない。


「おい、ノーム移民のデータはあるか!?」

近くにいた部下に急いでデータをあさらせる。


「該当ありました……式典翌日の第二次開拓団6万トンとのこと」


「トン?」


……そういえばノームは統計の単位が重さだったか。


「北海道の20倍ニャね」


首席監察官の言葉に一気に脂汗が噴き出すのが分かった。


加減!! 加減しろばか!


ま、まて落ち着け。


確かノームはきちんと制限を設ければそんなに酷い事にはならなかった……ハズ!


いくらあいつら(ばかども)とはいえノームを招致する前に日本の観察官からの警告は読んでいるだろう。


警告の内容に従っていればまだ軟着陸は可能なはずだ。


「……招致条件は」


「24時間労働許可、行政職員の命令には絶対服従……計量に関する規定は……ありません」


「……」


あーもうクソクソごみかすバカバカう〇こ! てめーの脳みそ13点!


全部の地雷踏んでんじゃねえか!!!





「常務委員閣下! 盤古から緊急の通信が!!」


あろう限りの罵倒を心の中でしていると別の高官が部屋に飛び込むように入ってきて、緊急の連絡を伝えてきた。


「…………………………繋げ」



力を振り絞って指示を吐き出す。


会議室の大モニターにすぐに現地の中継動画が映った。




そこには、新たに開拓していたであろう草原を背景に、戦車や装甲車がまるでおもちゃの車のように放り投げられ、砲弾や銃撃をものともせずに蔦?を鞭のように振り回して暴れまわっている謎の巨大植物。


そして星政府主席の救援要請と軍人たちの悲鳴。




「……」


あんまりにもあんまりな状況に私は絶句してしまい、横に首席監察官がいることを思い出し思わず横を向く。


首席監察官はプルプル震えだし、


「バカニャ!バカがいるニャー!やるニャって言ったのに何でやるかニャー!あははは、ひーー!」


大爆笑をし始めた。



挿絵(By みてみん)







「王君、あの植物……多分『豆の木』ニャ。たぶん、ニャタビと交配させたんじゃニャいかニャ」


コロコロと楽しそうに言う首席監察官。


つまりあれか? ノームをつかって盤古でニャタビを大量栽培してニャーティアへのイニシアティブをとろうとして、ノームを制御できずにこの惨状ってことか?


で、エルフ部族連合でさえ制御できなかった『豆の木』をいつの間にか作られてこれか?



もうおしまいだぁ……。



「いったい……私はどうすれば……」


「ほっとけばいいんじゃニャいかな?」


頭を抱える私に対して、気楽に返す首席監察官。どういうことだ?


「重大な懸念をいだかれると思ったのですが……」


「ニャタビが増産されるだけニャ?市場統制が生きていれば何の問題もないニャ」


「しかし『豆の木』は……」


もう盤古は一回核で滅ぼすしかないのでは……?



そんな思考をめぐらす私に対して、首席監察官は目を細めた。


「君たちは実に運がいいニャ。ほら、見てみニャー」


首席監察官の目線の先には蔦で吹き飛ばされる装甲車。


そしてそのまま落ちるかと思うと、別の個体がスライディングしてキャッチ、そしてまた吹き飛ばされる。


「君らは殺意満々みたいニャが、向こうは遊んでいるだけみたいニャ」


「多分、ノームがそういう性質に調整したんだニャ……」


画面を見ると、カメラをのぞき込んでいるノーム。


満足げに胸を張るノーム。


そして途切れる通信。



「多分にゃ……北海道のあれでノームのブームが変わったんだニャ」


「どのように?」


「怒られるか怒られないかのぎりぎりで遊んだほうが今は楽しそう、ってニャ」




「君たち人類は、本当に運がいいニャー」









☆彡





結論から言うと、事態は極悪ではあるものの最悪の状態は免れた。


軍の大半を盤古に移動していた我が国は、その戦力で巨大ニャタビの『収穫』に成功。


巨大ニャタビ豆の木側も満足したようで、今は大人しくしている。


『収穫』については、ニャーティアからの全需要には程遠いものの、今までに比べると比較にならないほどの収穫量。盤古にあふれかえる配給権。


それに応じて配給権で贅沢をしまくり、SNSで本国に自慢しまくる開拓者。


殺到する開拓希望。第三次開拓団への応募者は3億人を超えている。



しかし軍は壊滅。ニャーティアからの緊急物資で再編を急いでいる。


元主流派もさすがに懲りたようで、詫びを入れてきた。


青筋を立てつつも、全面的な協力を私は確約した。



結果としては、元主流派には物理的なお灸ができ、開拓希望者が大幅に増えた。


しかし一方でノームの気分によっては豆の木大繁殖からの核ルートだったわけだ。


次からはこのようなことがないように……。


「失礼します。ノーム族からの調査が終わりましたが、報告書はご覧になりますか?」


ひと段落と肩を下ろしたその時、部下が部屋に入ってきて報告書のデータを端末に送信してきた。


「すぐ見よう」


内容を見る。


……要約すると、こう書いてあった。


『次のお祭りは来月です』『これから毎月バトルしようぜ』『つぎはもっと頑張ります』


私の胃は死んだ。

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