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ファーストコンタクト狂騒曲  作者: 九束
地球は保護国になりました

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14/47

正気が試される大地

ノーム移民解禁から1ヶ月。


梅雨入り間近の雨模様のある日、監察官事務に北海道知事と農林水産省の事務次官が焦燥し切った顔でボスにアポイントメントを求めてきた。



持参された意見照会資料にボスと一緒に目を通す。


「……『農地が意思を持ち始めた』ってどう言うことです?」


要領を得ない内容に俺は首を傾げる。



「もう少しわかりやすく言うと、“畑が自動で収穫を始めた”です」


「……誰が?」


「畑が、です。私も視察に行きましたがそうとしか言えないんです」


そう言うと知事さんは両手で顔を覆って俯いてしまった。


その横では農水省の事務次官が完全にSAN値が削られてしまった人のような顔をしている。


どうらやその時の光景を思い出したらしい。




横に視点を移すとボスの長い耳が耳がぴくりと動く。




「……あーーー」


そしてこめかみを押さえた。


心当たりがあるらしい。俺もなんとなくある、と言うか一つしかない。


「まさかとは思うけど、ノームが関係してます?」


「十中八九そうでしょうね……行くわよ田中」


そう言ってボスは席を立ち、俺に目を向けた。



「来週小学校の運動会なんでキャンセルで」


「ダメに決まってるでしょ」


「あーもー……嫌な予感しかしないですよ」





☆彡





道内某所。



今回訪れた北海道の中でもそこそこ大きな部類になるその市は、北海道の多くの自治体の例にもれず大規模農業が盛んな地域だ。



ここに向かう途中に見ていた市の資料では放牧的な風景の写真が載っていた。




そして目の前の現実。


まずはトウモロコシ畑の視察。


広大な農地が、まるで呼吸をするように動いていた。


そう、農作物が――動いていた。



ここはトウモロコシ畑らしいのだが、収穫時期と思われる『個体』が激しく揺れ動いて茎から分離し、ひげを足代わりに移動してトラックの荷台に自ら乗り込んでいく。


そして出荷用段ボール箱の上でポーズをとったかと思うと、ぱたりと動かなくなって箱の中に倒れてゆく。


「仕上がっているよ!」


「身詰まりすぎです密です!」


「ナイス果肉!」


「はい!ズドーン!」


「糖度高いよ!ジュースになっちゃう!」


トラックの横では農家の人と思われる人たちがノリノリでトウモロコシたちに掛け声をかけている。


なにそのボディービル大会の掛け声みたいなの。



明らかに正気じゃない。怖。


その中には俺の従妹も混じっている。他人の振りしよ。



挿絵(By みてみん)




「……地獄絵図ってこういうのを言うんでしょうか」


「初動にしては大人しい方ね。思ったよりひどい状況じゃなくて安心したわ」


あきれ顔ではあるものの、落ち着いた様子でボスはそういった。


そうなの????


田畑というより、サバト的雰囲気を感じるこの惨状が? 農場の登場人物、誰一人正気の人いなかったよ?


ボスのコメントに同行してる知事さんもすごい顔してるじゃん。


「あとはとりあえず、この事態の現況への聴取ね」




その時、背後から陽気な声がした。



「おお! 観察官殿に田中さん!」


振り返ると、そこには自信満々のノームさん。


そして、その隣には“満足げな顔”をした別のノームさん。


さらにその後ろには、“やり切った顔”でフーと額の汗をぬぐうノームさん。


三者三様に元気いっぱいだ。


「すごいでしょ! 人手要らずですよ!」


「いや、人手とかそういう問題ではないのではこれは?」


俺がそう突っ込むと別のノームさんが胸を張る。


「感謝の心があれば植物さんサイドとしても多分満足です!気になるなら祈りましょう!」


そしてナムナムアーメンとか言い出す別のノームさん。


「……やっぱヤバイ宗教入ってるな」


やっぱサバトだったんだなあれ。



「ほかにもここでは畜産もやってますよ!ぜひ見て行ってください」


そう言ってノームさんたちが俺たちを畜舎の方に案内する。





畜舎の端のと畜場。


自ら後ろ脚をくくりつけて逆さ刷りになる豚と牛。


自らギロチンに首を預け、斬首されていく豚と牛。


順番待ちの豚と牛が、肉になった同族の血抜きや内臓処理をしていく。





「……倫理観って知ってます?」


「もちろんです! 彼らはこれを喜びになる習性に種族を改造済みです」


違う、そうじゃない。


ボスどうするんですかこの惨状? 責任者でしょ。認知して。


「まぁ、地球基準の倫理観に目をつぶれば特にやばい事態ではないわね」


相変わらずあきれ顔でそういうボス。


やばい事態の認定基準がばがば過ぎません?


そしてノームさんの方を見てボスは続ける。


「で、この“自立農業システム”に安全性はあるの?」


「もちろんですとも! この技術は実績があります!」


「それはどこの実績かしら?」


ノームさんが胸を張って答えた。



「“フォマルハウトⅣ農耕惑星”です!」


「……………………うーーーん」


ボスは判断に困ったように悩み始める。


「私の記憶が確かなら、そこって……」


「はい! すでにもう放棄されてしまいましたが、以前貴女達に7個納品した現地の植生が星の管理者を取り込んで惑星一個まるごと菜食化した伝説の!」


「やっぱり!」


エルフさんが顔を覆った。


「この前話していたあの惑星ですか?」


俺は思わず口を挟む。


あの双方倫理観放り投げてたあの?


「うん…あの惑星ね、残った一つもあのあと収拾がつかなくなって核で滅ぼした」


「う わ あ」


「どやぁ」


ドン引きする俺。満面の笑みでどや顔するノームさん。



「安心してください! 今回は地球ですから!」


「その“安心してください”の根拠がまるで安心できないんですが」


俺の突込みの横でボスは深呼吸して、ゆっくりと聞く。


「『豆の木』は持ち込んでる?」


「アレ持ち込んだら燃やされると思ったので持ち込んでません!小型種のみです!」


「……なら…まあ、いいか」


「ボス! 諦め早くないですか!?」


「まぁ、私たちの時も小型種だけなら核で吹き飛ばすほどの問題でもなかったし……それに……」


「それに?」


「私、あの農家の人たち止めるの、嫌」


そう言ってノームと意気投合して自ら収穫される作物に掛け声をしたり、自ら斬首される豚や牛を拝む農家の人を指出す。


目がやばい。


「安心してください!普段はあれにくらべるとガンギマリではないです!」


ノームさん基準でもガンギマリなんじゃん! ダメじゃん!


「あー……でも、農作業時以外はそんなに危ない雰囲気はないですよ」


すっかり空気になっていた北海道知事が補足する。


そうなのか? あの狂気は農地限定なのか?


農地からなんかやばい物質でも湧いてるんじゃないか? 本当に大丈夫?







「それで、観察官閣下。我々は……道としてはどうすれば……?」


心配そうに聞いてくる知事。


「就農時間一日4時間以内、無茶ぶりは禁止、毎日就労終わりにノームを計量する。……徹底できてなかったでしょ?」


流し目で知事に指摘するボス。


「……はい」


「ここから事態を進行させたくないのなら、徹底すること」


「監視部門を作って違反者には業務停止命令も含めた法令の整備をしようと思います……それで、事態の解決をする方法は」


「核で吹き飛ばしていいならできるけど……」


「「大丈夫です!ありがとうございました!」」


そんな事をとされたら失職どころではない知事と農水省事務次官は早口でそう言った。





☆彡






「結局、様子を見に行っただけで何の解決もしてないんじゃないですか?今回……」


車窓の外、ジャガイモ畑で巨大な収穫用コンバインが畑を走り――

いや、土の中からジャガイモの方がコンバインに殺到している。

そんなシュールな風景をみながら俺はボスに突っ込む。


「ノームがかかわる案件は途中で止めるか行くところまで行くかすべて吹き飛ばすかしか選択肢がないわよ?いい感じに修正ってのは無理。今回は途中で止めれたってだけ」


そう言ったあと、ボスは続ける。


「今日の晩御飯は羊自身がオススメの部位を使ったバーベキューらしいわ。楽しみね」







視察の後、夏には北海道は以前の10倍の農業生産高を記録するようになる。


ボスに報告書を見せたら満足顔だった。


その代償として――『正気が』試される土地、北海道――というスラングがネットに広まってしまうこととなった。


ボスに突きつけたらスルーしてた。


コイツ……。

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