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独立までのロードマップ

「観察官事務所による業務体制もようやく軌道に乗ったことだし、そろそろ田中をはじめとした観察官事務所の地球人のみんなにも、今後のロードマップを共有するわね」


ある日、ボスが観察官事務所の現地スタッフである俺たちを一か所に集め、何なしにそう話し始めた。


最初は俺だけだった地球側の現地スタッフも今では十数人程度を擁する組織になっている。


「それはあの3か国への惑星譲渡日が正式に決まったことを受けてですか?」


現地スタッフを代表して俺がボスに質問をする。


「えぇ、泣く子は餅をひとつ多くもらえる。といった状態に不満を持ってる人もいると思うし、私たちが来てからドタバタして気づかなかっただろうけど、先のこと、そろそろ気になってくる時期だと思って」


確かにあの騒動で中国、インド、アメリカの3か国が早々に惑星の譲渡を受けたことに思うところがあるものはいるだろう。


スタッフ側の席を見るとうなづいているものがちらほらと。


「ちなみに先に行っておくと、あれ得じゃなくて人柱みたいなものよ」


「え、そうなんですか?」


スタッフの一人が意外そうな声を漏らす。


「そのあたりも含めて、最初から説明するわね、そしてこの説明はこの後の定例会で、他国の観察官がそれぞれの国で作るテンプレートにも活用するから、質問があったらどんどん聞いてね?」


そう言ってボスは今後の銀河連邦が考えているロードマップを説明しだした。










☆彡










「最初に、銀河連邦加盟までの大まかな道筋について説明するわね」






「まず、今は『保護国』宇宙に出るための準備をしてる状態」


「そして次が『自治国』。惑星開拓がある程度順調になったらの予定」


「そして最後が『独立・加盟承認』。元々はここからやるつもりだったのよ?」


挿絵(By みてみん)


でもそうはならなかったから、まずは自治領昇格を目指してね、と補足するボス。





そういってボスはスタッフの方を見渡す。


さっそく一人の若い女性スタッフが手をあげていた。


「大体どれくらいで独立・加盟承認までたどり着けさせる見込みなんですか?以前オーク汗国の方から聞いた話では、統一政府案が通っていた場合は数年ということでしたが」


「うーん…それは確実に何年、って言えない部分なのだけど、私個人としては、今のペースでいけば自治国までに7年、独立承認まで7年ってところかしらね」


思ったより早いな。息子が成人になるころには、もう人類は宇宙世紀を迎えているということか。





「でも、これはこの後話す要素によって大きく増減するわ。あくまで私の見積もり、という注釈をつけたうえでの見込みで考えておいて」




「続けるわね。今はあの3か国が先に惑星の譲渡を受けたけど、あなたたち日本も近いうちに一つの惑星を持つことになると思うわ。もちろん他の地球各国も、全部」


1国1星とは豪華な話だ。


「ただ、ここで注意してほしいのは惑星持ちになってからの数年が一番危ないってコト。これは貴方たちに限った話じゃないんだけど、最初の惑星開拓に失敗して母星に引きこもってる種族って結構いるのよ」


「それは最初から居住可能惑星の場合ですか?原生生物に何か問題があったとか?」


今度は老齢の男性スタッフが質問する。


「天然の居住可能惑星の場合でも、テラフォーミングで居住可能惑星の場合でも、ね」


「詳しいことは実際に惑星開拓が進んでからの話になるのだけど、今でこそ銀河連邦が天の川銀河の3割程度をテリトリーにしているけど、数千万年単位の昔には別の文明が栄えていた時代もあるわ」


さも当然のように言うボス。


それに対して質問したスタッフが聞く。


「地球で文明が栄えては滅んでいたように、宇宙でも同じことが起こっている、と」


……フェルミのパラドックスってやつか。


「当然。そして億年程度の時間軸で考えるとハビタブルゾーンに存在するちょうどよい惑星は過去に『誰か』が使っていた可能性がそこそこあるの」


「凍結されてたり封印されてた原生生物が復活したり、古代の超兵器があったり、いまだに私たちの科学水準でもよくわからないものがポンポン出てくるわ」


「大体星間雲単位で問題の法則性は似通るのだけど、局所恒星間雲はまだ私たちは未調査」


つまり我々の行く先はびっくりドッキリ玉手箱ってことかい。


「まぁ日本の場合はあんまり関係ないけど」


「?」


スタッフたちの頭に?マークが浮かぶ。


「あぁ、今は気にしなくていいわ。追々ね、追々」






「そして惑星開拓が順調に進んだら、晴れて自治国に昇格。観察官による保護は続くけど、宇宙領有権が返還されて基本的に恒星系の支配を自力で行ってもらうことになるわ」


やりたいならここからなら核打ってもいいわよと茶化しながらボスは続ける。


「ちなみに、恒星系全域を開拓するときはよくわからない超巨大生物が出てきたり、謎の古代兵器が発見されて半径数光年飲み込まれる暴走反物質装置が出てきたりとか、万年単位で古いプロトコルを実施している原生機械が襲ってきたりとかが稀に良くあるから注意する必要があるわ」



「つまりちょーおっかない環境ってことですね」


なんとなく予想してたのか今度は中堅どころの男性スタッフが茶々を入れる。



「そうね、記憶に新しいインシデントとしては、400年くらい前にイルカニアンがペルセウス腕のある領域を開拓していた時に、古代の道路工事機械を間違って起動して直線20光年の物質がなくなった事とかがあるわ。人類のみんなは注意してね」


何やってるのイルカニアンさん。そしてどうやって注意しろと?






「そして恒星系を難なく支配できるようになったら、ようやく独立と加盟承認。そこからは私たちの構成国とは対等。私たちとの楽しい銀河連邦時代の幕開けとなるってわけ。質問は?」


「その場合はこの観察官事務所はどうなるんでしょうか?発展的解消ですか?」

中年の女性スタッフが質問をする。



「それでもいいし、英連邦の高等弁務官のように歴史として儀礼的な組織のみを残しても良いと思うわ。そこは人類さんの好みで選んでくれればいいと私たちは思っている。今は独立後にこの組織を残すことなんて考えられないと思うけどね……でも―――」


一拍おいてボスは続ける。


「小舟のような宇宙船から始めた貴方たちが、自力で星の海まで出られた時には、今貴方達が大問題と思っていることのほとんどは宇宙の大きさが流してくれるわ。あなたたち自身の確執も、私たちとのわだかまりも、全部」



そう言って遠い目をするボス。


いったいこの人は、何回そんな風景を見てきたのだろうか。







「ま、そこまで行くまでに滅ばないようにすることが先だけどね。結構あっさり滅んじゃうから、文明って」


「あの、それは核的なあれこれのやつではなく?」

唐突にあっさりあんまりなことを言うボスに、話が始まってから今日は聞き手に徹するつもりが思わず言葉が出てしまった。


「いいえ?今までの話で分かったでしょ?宇宙は夢もいっぱい、危険もいっぱい!よちよち歩きの文明は日刊存亡の危機よ」


「その場合、助けてはもらえるんですよね…?」




「うーん……今みたいに最大限の努力はするけど、間に合わないことも当然あるわ。こればっかりは未調査星間雲は何が起こるかわからないから……」


「極論、地球だって地下に何がいるかは未調査だし」


「地球の天災と同じで助けられるものと助けられないものはあるわ。宇宙はそれの規模が少し大きいってだけ」


……前々からなんとなく思っていたが、宇宙人たちはどこか文明の興亡にたいしてどこか冷めた目で見ているところがあるな。


もちろん悲しいし、できるだけ防ごうとはする。なんならオークさんのように宇宙人の方が苦労してるパターンもある。しかし、何というか、ダメだった時の立ち直りが早いというか……。


どこか俯瞰して見る癖がある、そんな感じがするな。

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