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【六話】三界連携活動(伍)

 ◇◆◇◆◇◆◇


─────ほんの少し、時は遡る。


 先行して機動巡回に入っていた〈スティレット〉戦隊を率いる翠蓮はだだっ広い公園の広場のど真ん中で腕を組んで、一人で立っていた。

 ここが機動巡回の終着地。再集合場所だ。

まだ誰も到着していない。煌輝もここにはまだ来ていない。


(ま、当然そうなるわよね……)


 みんな対応行動に入っていたし、翠蓮も数体の凶霊を捕縛して、〈デポ〉に放り投げて来た。

 〈デポ〉とは獄界警察専用の凶霊・悪霊の収容施設である。


 よく霊は瞬間的に移動することが出来る、と思われているが、実際にはそんなに使い勝手の良い話ではないのだ。《現世》においてはそれほど遠くに移動することはできない。

 《幽世》に一度戻って、目的地に直接降りた方が断然効率がよい。


 霊になって少しだけ便利になったことといえば、空を翔べることかもしれない。

もちろんそれも訓練をしないと出来ないけど。


 翠蓮と煌輝は一緒に行動していたが、部下たちのフォローに回らざるを得ず、別行動となった。《現世》での活動に不慣れなところはあるが、それを差し引いてもはっきり言って優秀である。

さすが中隊長である。


 《獄界警察》の隊員たちはいつも通りの働き。

 なんだかんだ悪態をつきながらでも、不慣れな《天界警察》の隊員たちを支えていた。

調子のいい第6小隊の洸大、円正、幸雅の男子3人組は少しでもイイところを見せたいとでも思っているのか、《天界警察》の女子隊員にベッタリ張り付いている。

 フォローしているって言えば、聞こえはいいけどね。

フォローしろなんて、指示は出した覚えはないんだけど。


───ったく女好きってのは死んでも変わらないんだな。


 きっと絶対後で「キモかった」だとか「ストーカー」だとか「胸ばっかみてた」「尻触られた」とか言われるに決まっている。《天界》の女子ってのはそういうタイプが多いから。

 あとで「隊長、なんとかしてくださいよ〜」とか言ってくるなよ。

そんなこと言われたら、私がめんどくさくなるのは目に見えてわかっている。

男子をかばうつもりもないし!

女子の言い分を聞くってこともしたくないし!


 《天界警察》の隊員は8人がこの機動巡回中に「玉返り」してしまった。確か「玉返り」は天界警察では始末書を書かなければならないはずだ。御愁傷様である。


 残り10人はなんとか保っているようだ。

そのうち男子はわずか3人。そのうち一人は煌輝だ。

 天玄と俊盈とかいう隊員だけで、あとは全員女子。あー、嘆かわしいったらありゃしない。

あの突っかかってきた分隊長は晴真といったか、残念なことに早々に玉返りしちゃったし。

 まったく、どーなってんだ。第二中隊は………。


 そんなことを思っていたら………。

三つの玉がこちらに向かって来ていた。

ま、まさか……煌輝までもが……男子全滅か……?と一瞬思ったが。


 どうやら違うみたいだ。

少し離れたところに留まった三つの玉は、徐々に人の姿の輪郭になっていく。玉から人の姿となると途端に発光しなくなるのだ。……なぜだかは知らないけれど。

 ときどき移動するときには玉になって移動するという器用な霊たちもいる。


少しだけ警戒しないといけない。

人の姿になった3人の霊が近づいてきた。

 3人ともおばさまだった。


「……翠ちゃんよね???」

3人のおばさまのうち、一人が声をかけてきた。

 翠ちゃん、なんて気安く声を掛けてくるなんて、あまりいないはず………。

いや、いや、そんなことはない。いる。確かにいる。


………え、えーと、確かに知ってるはずなんだけど、スッと出て来ない。

 別のおばさまが申し訳なさそうな顔をしている。

それを見て思い出した─────。

あー、この人たち知ってる!でも名前が出て来ない。


「やっぱ人違いじゃない?………ヒトミさんたら、もう」

「だって……絶対翠ちゃんだって思ったのよぉ………」とヒトミと呼ばれたおばさま。

「翠蓮ちゃんはいつも白い制服を着てるでしょ?」

「………翠ちゃんは黒い制服も着ることもあるって言ってたよ?」

なんだか二人のおばさま同士が自分のことで言い合いを始めてしまった。

 もう一人のおばさまが謝ってきた。

「ごめんなさいね、お仕事中なのに、お邪魔しちゃって………」


 なんかこの感じ………。この姦しい感じ、既視感がある。

絶対この人たちを知っている。

ヒトミさん………、ひとみさん………、瞳さん………!

わかった、斎藤さんだ!


「あ、あのー。すいません……あの方って、斎藤瞳さん、ですよね?」と言うと。


「やっぱり、翠ちゃんなのねっ!」と言うと、ドスドスと突進してきた。


 斎藤のおばさまは感情を爆発させた。

ハグである。しまった。逃れられない。もはや押さえ込みに近い。バランスをくずして倒れそうになったが、お構いなしだ。背中をバンバンと叩いてくる。

「……おばさま、この姿勢辛い……、それに痛いです……」

これを見ている二人のおばさまも流石に苦笑いである。


このおばさまは斎藤瞳さんという、かなりインパクトのある人だ。

以前、警邏中に生前いろいろあった四方山話に延々と付き合ったことがある。一度話始めるとなかなか終わらないタイプのおばさまである。

あとの二人も見覚えがある。

桜沢のおばさまこと桜沢夕美子さんと岸川のおばさまこと岸川眞子さん、のはずである。

 

 この3人は生前から仲良しだったこの地域のおばさまたちだ。

警邏中によく遭遇する人たちである。もちろん不正出界なんかではなく、きちんと在留許可を申請して降りて来ているちゃんとしている人たちである。


 暇でしかない《幽世》にいるよりは、《現世》に降りてきて息子や娘、孫、ひ孫をじかに見守りたい、といって、降りて来ている。そんな人たちだ。

 とはいえ、規則は規則。念の為、確認させてもらわないといけない。

 

「すみません、一応規則なんで……」というと待ち構えていたかのように〈パスポート〉を見せてくる。

 3人とも《幽界》の〈パスポート〉。

桜沢のおばさまは27冊目、斎藤のおばさまは19冊目、岸川のおばさまも15冊目である。


 一冊で50回くらい出界できる。

桜沢のおばさまは1000回以上《現世》に来ていることになる。《現世》滞在のプロといっても過言ではない渡界履歴である。玉になるのも人型になるのも自由自在なら、《現世》の合同庁舎で訓練なしですぐに働けるレベルである。

 パートタイマーで働きませんか、なんなら正規職員でも、とお声かけしたいと思ってしまう。


 3人ともに今回の在留許可は「短期滞在(祝祭)」となっていた。

何かのお祝い事でこちらにやってきているようだ。

 桜沢のおばさまは「ウチのひ孫が成人するのよ」と言い、

斎藤のおばさまが「ウチの孫がね、結婚するのよ」と言う。

岸川のおばさまは「ウチはひ孫がもうそろそろ産まれるのよ」と言った。

 3人揃って慶事って、本当に仲がいい。


「───夕美子さんと真子さんと一緒にいたらね、そしてさ、見上げたら、すごいスピードで翔んでる翠ちゃんが見えたの!」と斎藤のおばさま。

 思わず「よくわかりましたね」と言ってしまった。

かなりのスピードだったはずだ。それともよっぽど近くを翔んでいたのか。

それで私だと確信して追っかけてきたってことか。─────斎藤瞳、恐るべしである。


「……こんな夜更けに出て来たら危ないですよ。お戻りいただいた方がいいと思うんです。………それに、私、いま任務中なので……」

 3人のおばさまは顔を見合わせて神妙な顔つきになった。

「………翠ちゃんにお願いがしたいことがあるのよ」

 斎藤のおばさまが真剣な顔つきになっている。

祝い事で降りて来ている人のする顔ではない。

 ちゃんと話を聞いたほうが良さそうだ。


 隊員たちが次々と到着しはじめていた。

翠蓮はおばさまたちに一言断りを入れてから、煌輝を呼び出した。


───煌輝、いまどこ?

(まもなく到着します)

───状況は?

(天界警察は18名中10名が脱落。脱落者は全員本部に戻しました。活動可能な隊員は8名です。すいません。獄警のみなさんは把握できていません。天警3人、獄馨3人、2チーム6名で不正出界者を追跡、さきほど確保したようです。現在引渡対応中とのこと)

───了解よ。みんなをそのまま待機させて。いつでも動けるようにしておいてね。危なっかしいのいる?あ、玉返りしそうなヤツって意味よ。

(……見ている限りおりません。大丈夫かと思います)

───到着したら、すぐに私のところにきて。いま在留者から申し出を受けているの。一緒に聞いて欲しいから。

(承知しました)


「いま、こっちにウチの副長が来ますのでちょっと待ってくださいね」


斎藤のおばさまが顔を輝かせる。

このおばさま、興味津々である。

一緒に聞くっていうのは失敗かな、と一瞬頭をよぎったが仕方がない。


煌輝はすぐにやってきた。

シュッと現れ、翠蓮のほんの少し後ろに立った。


おばさま3人が色めきたつ。案の定である。

おい、煌輝よ。無駄にキラキラさせんな。

あー、そのまま話を聞く流れにしたいが無理っぽい。


「隊長、お待たせしました」

あー隊長って言うなって思ったけど、後の祭りである。

「はい。お疲れ様。一応、紹介しますね。─────これ煌輝です」


思いっきり簡略化した紹介にして、やり過ごそうと思ったのだが。

三人のおばさまたちの眼は………紹介が雑とでも思っているだろうか、少し不満げである。


「……しばらく見ない間に偉くなったのね……。なんか嬉しいわ」と桜沢のおばさまがぶっ込んできた。

 煌輝はこういう空気を読んでくれない。たぶん。

「はじめまして。第832次三界連携活動本部付遊撃戦隊、〈スティレット〉戦隊、副隊長の煌輝と申します。我が隊は獄界警察と天界警察の部隊の混成部隊となっております………翠蓮隊長の…」

 翠蓮隊長とか、言い出したので、「私のことは言わなくてよろしい」と機先を制する。

 煌輝はこほんと咳払いをして、続ける。

「私は天界警察自治機構警備部特別機構大隊第一中隊で中隊長を務めております。この度の活動では翠蓮隊長の元で学ばせていただいております」


 あー、いらんこと言った、と思ったが、もうどうしようもない。

「だそうです……」としか言えない。


 斎藤のおばさまは涙を浮かべている。

桜沢のおばさまも岸川のおばさまもウルウルさせている。

 おおう、どうした。どうしてそんな反応になるのか………。

最高レベルの誤解が起きているような気がする。


「どうかされましたか………?」と煌輝が心配そうに声をかける。

お前が余計なことを言うからだ、と言いたくなったが、ぐっとこらえる。


「い、いや、どうしたもなにも……、あの翠ちゃんが……、翠蓮ちゃんが天界警察の中隊長さんの下じゃなくって、上なんでしょ!そんなに出世しただなんて、夢にも思わなかったから……。おばさん感動しちゃって……ね」

「………確か、翠蓮ちゃんの上司の方、鳳仙さんっているわよね?」と桜沢のおばさま。

「はい。鳳仙様は今回、三界連携活動最高実施責任者でございます!」と煌輝がスルッと言いやがった。

「おおおーっ!ってことは翠ちゃんがナンバーツー!すごいすごい」と斎藤のおばさまが興奮している。

 あー、はいはい。違うんですけどー。

「はい、おっしゃる通り、翠蓮隊長は凄いんです」と煌輝が満面の笑みで応えた。


 あーもう、やだ。この展開。泣きたい。

大誤算だった。ちゃんと私の立場も言わせればよかった。


「………こんど、みんなで珠莉ちゃんのとこに行こっか、羊羹持って」と桜沢のおばさま。


 ちょっと待て。なんで課長、知ってんの!


「す、すいません。………うちの課長、ご存知なんですか」

「そうよ。私たちよくこっちに来て、在留超過しちゃったことがあったり、困ったことがあった時、いつもね、助けていただいてるのよ」

「綺麗だし仕事が出来る女性っていいわよね………」

 

 あー、そうですか。そうでしょうね。

課長のことはおいとこう。

 気を取り直して話を聞こう。

任務中、任務中なのよ………。

流されないでちゃんとしっかりしなさい!自分!


 改めて「─────いったいなにがあったんですか」と尋ねる。

 

 どうやら発端は岸川のおばさまらしい。

おばさまは孫夫婦の家に滞在しているとのこと。

 ひ孫が産まれるタイミングなので、孫の守護霊と一緒にこちらに降りてきた。

孫の守護霊である娘が近くのあるアパートの一室の前に何やら不穏な霊が居座っているのを見て、気味が悪いと言いだしたそうだ。


 (そりゃそうだ。子どもが生まれるんだ。気になるよね)


 気になったおばさまは様子を見に行ったが、その霊は近づくと逃げるようにいなくなる。

おばさまはそのアパートの持ち主を知っていた。


 いまの大家さんは岸川のおばさまと仲の良かった土屋さんご夫婦のお孫さんにあたることから、なにかわかることがあるのでは?と思って、わざわざ一度《幽世》に戻って話を聞きに行ってきたという。


 (すごい行動力である。普通の人はここまで動いたりしない)


 大家さんの守護霊は息子さんだったので、息子さんが働きかけをしてくれて、住人のことがわかった。

 住人は「大木愛」さんといい、シングルマザーだった。子どもと二人で住んでいた。


 それを聞いて、さらに心配が募る。

 物音もせず、暗くなっても明かりがつくこともなかったからだ。ここ数日間、出入りがなく、いないのか、と思ったけど、それならば霊がやってくる理由もない。


 あんまりお節介を焼くのはどうかと思ったけど、気になっておばさまは、斎藤のおばさまと桜沢のおばさまに相談して、三人で見にいくことにした。


 そして見てしまった。

その部屋の中には子どもが一人で横たわっており、生きているのか、死んでいるのかもわからない……。

 さあ、どうしよう、となったとき。

空を翔ける私を見かけて、追っかけて来たという………。 


「ねえ、翠蓮ちゃん。私たちにできることってないかしら」と誰かが言った。


 翠蓮は何も言えない。

外野ができることなんて限られている。

 もう既に亡くなっているのなら、対象となる霊はもう、ここにはいないってことになる。

 そうであれば、後始末は《現世》側の問題でこちら側にはない。

 もしまだ生きているなら、きっと関わっている霊たちは必死に最悪の事態を回避するために動いているはず、だ。


「………近くに守護霊はいませんでしたか?」

 三人は首を横に振った。


「岸川のおばさまが見た霊ってどんな人でしたか?」

「どちらかというと悪霊みたいな感じで嫌だったと娘がいうもんですから。私が見た時も守護霊って感じはしなかったです」

「【通報】はされましたか?」

「………娘がしました。最初に見た時に」

「娘さんのお名前を教えてください」

「夕佳です」


───煌輝。うちの桜花に通報履歴を調べるように言って。

(承知しました)


 煌輝が口を開く。

「───皆様で【支援要請】を上げていただけませんか。……保護が必要と思われる子どもがいると訴えてください。そうすれば私たちが動けるようになります」


 確かにおばさまたちからの【支援要請】があれば、私たちが動くことができる。不可解なこともないわけではないが、このおばさまたちが見たことは間違いないはずだ。


「───そうね、煌輝の言う通り、要請してもらえれば………動けると思います。管制に牡丹というのがいるので、そこに回してくださいと伝えてください。私も先に管制に話しておきますので」


 翠蓮は総指揮所の牡丹を呼び出した。

───牡丹管制官。こちらスティレット・ワン。

(牡丹よ。……どうぞ)

───機動巡回警戒、完了。天界警察は18名中10名が脱落。行動可能な隊員は8名。ウチは12名。なお天警3名獄馨3名、計6名が作戦行動中。

(完了でいいの?……6名が作戦中なのに?)

───うん。いいの。引き渡し中みたいだから。……あのね、これから【支援要請】が上がるから、こちらに回して欲しいの。そのあと、たぶんだけど【保護要請】に切り替わるから。

(なにそれ)

───詳しくは要請があがってきたら、そっちで確認して。対象のことでわかっているのは、性別不明、年齢は不明。詳しい状況も不明。もう亡くなっていて帰幽しているって線もあると思うけど、すぐにはそちらに上がらないと思うんだよね。


 牡丹が大きなため息をつくのがわかった。


(………そういうのはさ、こっちで検討して決めるもんだから、勝手なことはやめてほしいんだけど)

───正規在留者からのご指名なんだから、仕方ないでしょ!断れっていうの?要請をあげてもらったら僕ら、動けるようになりますって、入れ知恵したの、煌輝だからね!

(あー、はいはい。………それにしても、すっかり煌輝隊長と仲良しになってるのね)

───違うわよっ!中隊長様のアドバイスを聞いただけよ。勝手にやんないで、ちゃんと要請上げてくれってお願いしてんだからさ。そこんとこ汲んでくれって話。

(………っていうかさ、まさか総員配置でやるなんて言わないよね???)

───はあ?総員配置に決まってんでしょ?

(………翠蓮と煌輝、プラス4人くらいでやれないの?)

───できるわけないでしょ?通報者保護とか、こんな状況なんだし、転移門も使うかもしれないし)

(ストップかかるかもしれないわよ?)

───牡丹ならなんとかできる。なんだかんだいってなんとかしてくれる。

(しつこいっ!)


 煌輝は、おばさまたちをフォローしてくれていた。

 通報する手段はいくつかあるが〈パスポート〉を使った通報が一番カンタンで早い。

〈パスポート〉を使う通報は基礎番号が自動的に送信され、余計な確認が少ない。


 さあて、どうするか。

凶霊、悪霊が蔓延っていることはわかっている。

 権現のじいさまたちの交信を聞いていれば、そんなことは嫌でもわかる。確かに多いような気がするけれど、体感的にはいつもと変わらない。


 そういえば〈ネームド〉が出たって言っていた。

 ここから南西の方向約20キロメートル地点だから、《繰り返される悪夢》の特性を考えると、まだ安全圏。近づかれたらはっきりいって困る。


 深夜の活動だ。騒がしくするわけにはいかない。

下手に霊たちを刺激すると、集まってきてしまうし、特に市街地での活動には神経を使う。

 対象の守護霊やら関係者が捕まればよいが、いなければかなり強引に事を進めないといけなくなる。

 あくまで彼女達の【支援要請】という体だから、おばさまたちにも一緒に来てもらわないといけない。

 当然、彼女たちも警護しなければいけない。


(どうしましょうか?………翠蓮様)

───だ、だから……、様付けはお願いだからやめてって言ってるでしょ。そろそろ怒るわよ。

(翠蓮様は翠蓮様でしかありませんので)

───私はいったい、あなたのなんなの?

(私にとって、翠蓮様は神です)

───だ、だからーっ、そういうことをしれっというな。私は神様なんかじゃない!


ふふっ、とか、咳払いする音が、聞こえた気がした。


(仲いいわねー。でもそういう恥ずかしいやりとりは1on1で交信してよ。丸聞こえよ……)

───え?ここオプチャだっけ……。

(はいはーい!そんなのどーでもいいから、お仕事お仕事!ちゃっちゃとやっつけて体を空けて!あとが詰まってんだから!というわけで………。翠蓮!煌輝!はい指令!とっとと作戦開始!詳細はそっちで受けてんだからわかるわよね!……というわけで返事!)

───牡丹!あんたねー。

(返事の方が先!構ってる暇ないの!むっちゃ忙しいんだから!)

───了解。

(終わったらすぐに報告して!いいわね!)


 プツンと交信が切れた。

こちらに何も言わさずにブッチ切りやがったと、思ったら再度呼び出し。今度は秘匿回線だ。


(翠蓮。桜花からの通報履歴照会の件、関係するのよね?)

───もちろん。

(………8日前、確かに通報されているわ。岸川夕佳さんからの【不審者通報】として受理されてる。当番隊は《天界警察》、検挙に至らなかったみたいね。巡回強化の指示が出てたけど、一昨日に解除されてるわ)

───そう。なんか子どもの情報とかない?

(ごめん、そこまでは調べられない)

───ありがと。


「……煌輝、ウチのやり方でいいわよね」

「もちろんです。私たちは《現世》でのノウハウはありませんので」


 ウチらだけでやれるけど、そういうことじゃない。

せっかく三界連携活動になっているのだ。

 私たちが日頃、《現世》で何をやってるのかを知ってもらうにはいい機会だ。


 隊員達をどう動かすか。

まず必要なのは、【通報者】のおばさまたちの警護である。

 煌輝と相談して、天界警察男子生き残りの天玄と俊盈を当てることにした。


 こういうとき、〈獄界警察〉では、指揮班、執行班、斥候班、交渉班、規制班、結界班、警備班の7つの班で動くことが多い。

 今回の主目的は霊の【保護】である。

直接的な【保護】を行うのが執行班が担当することになるのが普通なのだが、珠莉が率いる公安3課では執行班は置かない。執行は指揮班が担うことになっている。


 どんなことが起きても動じない子、フットワークが軽い子、ちゃんとニコッと嫌味なく笑顔ができる子、そして自分で考えて動ける子………。

 それが翠蓮が求める指揮班の隊員。


 うちの隊員で執行を担える子たちはいないわけでない。

けれど今回は天界警察の女子を使いたい。


「女子二人、天界警察から回してくれない?」

「………かまいませんが、ご自身のところの隊員はいいんですか?」

「三界連携活動なんだし。対象者は子どもなのよ。ウチらより天界警察の方が絶対にいいに決まってるわ」

「それって、つまり執行班ってことでしょうか」

「ま、そうね。ウチはね、指揮班が、執行を担うの。ウチの課長は指揮官こそ前に出ろ、っていう人だから」


 煌輝が「………四人では多いですか?」と聞いてきた。

私と煌輝。そして四人。うちの隊員も2人入れようかと思っていたけど。

ま、いいか。全員「白服」に出来るし。ものは試しだ。


「目端が利く子をまわしてちょうだいね」

「それはもちろんです!」


 ヨシ、決まり。なんとかなるでしょ。

「………さあ、お互い隊員達を掌握しましょうか」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 遅れてきた天警女子3名、獄警男子3名も復帰した。

 ウチの男子3名がすぐに作戦開始だと聞いて、ぶーたれた。

 うるさいので洸大、円正、幸雅の3人を〈斥候班〉にしたら……。

天警女子3名も〈斥候班〉への配置を強く希望してきた……。

 希望するのはいいけど、ちゃんと出来んだろうな、と思っていたら、組む相手もこいつら自分たちで決めてやがった。幸雅なんかサムズアップしてやがるし。

 もういいや。とにかくうまくやってくれさえすればいい。


 おばさまたちに現場を案内してもらう。警護担当の二人が付き添う。

〈斥候班〉は二人一戦術単位の3チームで動く。

 彼らが先行して状況を把握する。それが最優先だ。


 対象者が深刻な危機がなく生存しているのであれば、全く問題ない。

たとえ危機的な状況だとしても、生命に別条がないのであれば、打てる手はまだある。

 また、もう既に亡くなっていたとしたら、ちゃんと帰幽しているかどうかがポイントになる。


 対応に苦慮するとすれば「生と死を分つその時」に立ち会ってしまうことだ。


 現場の確認が完了したという報告が入る。


 4階建ての少し大きめのアパートだ。

対象者がいるのは1階の一番奥の部屋、106号室。


 まず〈斥候班〉が周囲の検索を開始。

1チームはそのまま外周を警戒、2チームが室内に突入。

───室内においても危険がないことを確認。


 次は結界班と規制班が動き出す。

結界班が本部となる「幕屋」を設置した。

 そこに【通報者】であるおばさま達に入ってもらう、もちろん警護がしっかりと付き添っている。

人払いの結界も展開された。

───結界が張られたことを確認すると規制が始まる。

(これより作戦開始。規制開始します)

───交渉班は現場周辺の聞き込みを開始。

───警備班は規制線の外側で警戒に当たる。


それぞれのパートが粛々と任務に当たっている。

即席のチームにしては動きは悪くない。


 交渉班より報告が入る。

(……付近を検索いたしましたが、対象の関係者と思われる守護霊の姿はありません) 

 煌輝が応答した。

──それ以外に情報はあるか。

(3人の霊の目撃情報がありました。通報者の皆様と推察されます)

──確証はあるか?……推察ではダメだ。詳しく聴取するように。

(……了解)  


いまは三界連携活動中なのだ。これで終わりではない。

活動に復帰することを前提に考えておかないといけない。

もし【保護】することになった場合、《現世合同庁舎》で一時保護が最適解となる。


─────【転移門】の準備を。必要になるかもしれない。華子さんにも連絡を入れておいて。


 【転移門】とは、《現世合同庁舎》がある亜空間と繋げる出入口だ。

翠蓮たちが出入りしている常設の出入口と違い、こういった作戦中などに設けられる緊急避難用の出入口である。

 ちなみにこれを開くためには専門の隊員が最低4人必要である。

これは結界の展開と同じ技術となることから結界班が担当する。

人払いの結界も担当するため、かなり負荷がかかる。


 指揮班の四人も作戦開始と同時に動き出している。

室内には斥候班の隊員達が残って、警戒にあたっている。


 部屋に入るのは輝夜と伽羅。

玄関側には藤花、その反対側のバルコニー側には胡桃がついた。


 輝夜から交信が入る。


(………隊長、対象の性別は男性、推定年齢7歳前後)

───状態は?

(生存を確認、外傷はありませんが、吐瀉物の跡が見受けられます)

───病かしら?

(栄養失調かと思われます──。限りなく黒に近い赤)

 黒に近い赤。つまり、もうすぐそこに死が迫っているということ。


───どれくらい持ちそう?

(いつ遊離が始まってもおかしくありません)

 「遊離」とは肉体から霊魂が離れようとするときに起こる現象だ。

───守護霊はいないのね?

(はい。室内をくまなく検索しましたが、確認できません)

 応答したのは伽羅だ。


 きっと天界警察の二人には、異様な光景に見えているのだろう。

子どもが死に到る寸前だというのに、誰も守護霊がそばについていない、というのが不可解だからだ。

 それは子どもに限った話ではない。人の最期の瞬間を見届け、安全に《幽世》に送り届けること。

それが守護者の本懐であるはずなのに。


 このままでは【支援要請】から切り替えができない。

守護霊がいれば、すぐさま【保護要請】に切り替えた上で、介入することはできる。 

 私たちは要請に基づく対応しかできない。それ以上の介入は許されていない。


 守護霊の到着なんか、待ってなんかいられない。

始末書でもなんでも書いてやる。そもそも監査される身だ。


「煌輝……任せていいわね」

 煌輝は頷くのを見て、翠蓮は〈赤黒の官服〉から〈白翠の官服〉に切り替えた。


 玄関の前で警戒しているのは藤花という隊員だ。

「お疲れ様」と声をかけるとそれに反応してピッと敬礼をする。

やっぱり、こういうところは天界警察ならでは、と思って感心する。

〈白翠の官服〉で現れた翠蓮を見ても、顔色ひとつ変えなかった。


 藤花は猫のような眼が特徴的だ。

髪をキッチリ引っ詰めており、後ろで束ねている。

 髪を下ろしてふわっとさせたら可愛いと思うが、少し大柄ということもあって、天使のようなキャラクターを演じるのはちょっと辛いかもしれない。

 それ故、門衛に回っているのだろう。


「隊長……ちょっとよろしいですか?」と呼び止められた。

「なにか、あった?」と言うと、藤花はまっすぐに見返してくる。

「……隊長、お気をつけて。わ、罠かもしれません。………あなたを陥れるための」


 天界警察の隊員でこんなことを言ってくるのは珍しい。確かこの子は巡査長だったはず。


「あなた、なにか知ってるの?」

「いいえ。知りません。ただ…まさかと思う姑息な真似をする者も少なくないので………」

「参考までにあなたの思う姑息な真似って、なにか教えてくれるかしら」


 藤花は真剣な面持ちでゆっくりと口を開く。


「この対象者の守護霊がここにいないのは……、なんらかの事情で足止めされているって、考えられませんか」

「誰が?………何のために?」


 藤花は口籠った。口には出せないということか。


「……天界への招致をチラつかされていたら、どうでしょう?」


 そんなことをやりそうな連中が今回の活動に参加しているのも事実だ。

公安部特別捜査課。目的はアタシの監査のため。

 私の居場所は公安部特別捜査課に共有されている。

離れたところから監視しているのか、はたまた特別機甲大隊の隊員の中に潜入捜査員がいるのか、と疑っていたが。

 しかし……、機動巡回を行うということを思いついたのも。その経路の終着地をここにしたのも。

決めたのは活動が始まってからだ。─────行き当たりばったりで仕込めるはずはない。

 もしも、これが周到に仕組まれたことだとしたら………どうだろうか。

あの3人のおばさま達も噛んでいるってことになるが………。

 いや珠莉課長のことも知っているおばさまたちが噛むことなんてないはずだ……。


 これは、いま考えるべきことじゃない!


「……確かにね、ありえない話ではないけど。でもかなり無理があると思うわ」

 藤花は申し訳なそうに顔を伏せる。

「ですよね……。ごめんなさい。余計なことを申し上げました。………私たちも辛酸を舐めさせられておりますので、つい、そんな風に考えてしまいます」

「あなたも冷や飯を食わされてるってこと?」

「はい。私は……3階級降格を受け入れました」


 彼女の身に何が起こったのか、翠蓮にはわかる。


「………ありがとう。藤花」 

「礼には及びません。このような時に乱すようなことを申し上げてしまいました。お許しください」

「………ひとつ、聞いてもいいかしら?」

 藤花は頷く。

「輝夜、伽羅、胡桃の三人も藤花と同じ境遇ってこと?」

「………お察しのとおりです」


 翠蓮は大きく息を吐いた。─────これで完全に肚は決まった。


「もしもよ、この子を使って、このアタシを嵌めようとしたのなら、関わったヤツら全員しょっ引いて、地獄に落としてやる。それくらいの覚悟はしてもらわないとね」


 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 翠蓮は部屋に入る。

さぞかしゴミが散らかっているんだろうな、と思って入ってみたがそこまで酷くはない。

子どもが散らかしたと思われる程度である。ごくごく普通の部屋。

 奥の部屋、窓際に置かれたベッドの上に子どもが横たわっていた。 


 年齢は………確かに7歳くらいに見える。男の子だ。

頬も痩せこけていて腕も脚も肉付きも良くない。骨と皮だけといっていい。

 栄養失調の見立ても理解できる。育児放棄かもしれないが、それは私たちが詮索することではない。

こんな状態で守護霊がそばにいない、だなんて有り得ない。


(………遊離が始まりました) 

輝夜はそう告げた。


 肉体から幽体が離れ始めた。

体と魂を繋いでいる紐が露わになってくる。 

この銀色に光る紐は〈シルバーコード〉と呼ばれる肉体と魂を繋ぐもの。

本来、これを解くのは守護霊たちの役目だ。

 

 始まってしまったら、やるしかない。


「あなたたちは紐に触らないでいい。体が跳ねそうだったら押さえてくれると助かる」


………………。 

……………。

………。 


「私たちもお手伝いします」

「やめておきなさい。服務規定違反になるわよ。責任を取るのは私だけで十分」


 輝夜と伽羅は顔を見合わせた。

「隊長。一蓮托生ですよ、私たちもやります」と輝夜。

「ここまで来てそれはないですよ」と伽羅。


 うるっと来てしまうくらいにいい子達だ。


「とっても嬉しいけど……後悔しないでね」


 三人で数百ある紐を一本ずつゆっくりと丁寧にほどいていく………。

そして最後の紐をほどくと……浮いていた体がスーッと元に戻っていった。


 輝夜と伽羅は手を合わせて、目を閉じて祈る。


静謐な時間である。

─────彼が動き出すまで、少しの猶予がある。

彼はいま自分の体とお別れをしている。

 

 煌輝からの交信が入った。

(翠蓮様……守護霊が来ました。入ってもらっていいですか?)

───もう遅いわ。いま来られても困る。待ってもらって。あとで話を聞きましょう。

(せめて状況だけでも教えてもらえませんか)

───いま銀紐を解いたところ。ここからが大事なのよ。邪魔したら許さないんだから。 

(かしこまりました)

  

 輝夜と伽羅は準備を進めていた。


………………。

……………。

………。


 男の子が動きだす。

やがて目覚めるかのようにゆっくりと体を起こす。

思ったよりも体は大きい。キョトンとした顔、何が起きているのか、よくわかっていないようだ。


 翠蓮は両手を大きく広げた。


まるで、天国から舞い降りた天使の穢れを知らぬその無垢な微笑み。

その微笑みが彼を惹きつける。


「─────こっちにいらっしゃい」


 翠蓮は祈る。

お願いだから……そのままこっちにおいで。君に罪なんてあるわけないんだから。

見てはだめ。自分の亡骸を見ないで。見ようと思わないで。

自分から罪を背負いにいってはいけない。


 輝夜が彼の背中側に立って、ゆっくりと立たせた。

伽羅が輝夜と彼の周りをくるくると回りながら踊りながら、どこから取り出したのか、白い布を悪戯するかのように巻きつけていく。

 くるくると回る伽羅を彼の眼は追っている。

─────白い布は彼を包み込むと装束に変わっていった。


 伽羅は悪戯好きな天使のように動き回る。

楽しそうに。嬉しそうに。こちらの世界に来たことを喜んでいる天使のように振る舞いで惹きつけている。

 男の子は後ろにいる輝夜を見上げた。

輝夜は母のような慈愛に溢れたマリア様のような微笑みを湛えている。


 二人とも大した役者である。


 伽羅は驚かすかのように彼の顔に近づけた。

驚いている彼の鼻先をチョンとつつく。

─────その次の瞬間。


 輝夜が背中を押して、翠蓮に送り出す。

ふわりと前に出た彼を翠蓮はしっかりと受けとめて、バルコニー側に飛び出した。


 隊員たち、おばさまたち、そして守護霊と思われる一団が見えた。


(保護完了でよろしいですか)

 煌輝が交信を飛ばしてくる。


──まだよ。


 これで終わりなんかじゃない。


──結界解放。

───規制解除。

─────それから【転移門】を使うわ。いつでもいけるように準備しておいて。


 矢継ぎ早に指示を飛ばした。

翠蓮は懐の中にいる彼に優しく声をかける。 


「私がいいっていうまで目を開けちゃだめだからね」


 彼は胸の顔を埋めたまま、こくりとうなづいた。

翠蓮は結界が解放されたことを確認して、真上に跳び上がる。


 空高く上がっていく。

ぐんぐんと上がっていく。

─────上空4,000メートル付近。

ピタリと止まる。


 眼下には煌々と光っている街が見える。


「目を開けていいわよ。………みてみて、綺麗よ」


 男の子は顔を上げて、翠蓮の顔を見てから、恐る恐る眼下を見下ろした。

怖くなったのか、翠蓮の体をぎゅっと掴む。

「あはは、落ちないから大丈夫」

翠蓮はよく見えるように座らせる。

 最初は翠蓮の体を掴んで離さなかったけれど、そのうち、「あっちは何があるの」とかいろいろと質問をしてくるようになった。


「………君の名前を教えてほしいな」

「大木龍だよ!!」

「オオキ・リュウくんね」

「うん。素敵なお名前ね。………いくつ?」

「9歳。もうすぐ10歳だよ!」 

 龍は元気に答えたかと思ったら、急に黙り込んでしまった。

気持ちはよくわかる。そんなに簡単に受け入れることなんてできるわけがない。

「いま、僕はどうなってるの……ここは夢の中……なの?」

「ううん、違うよ」

「それって………」

「うん」

「死んじゃった……んだね、僕」

 龍はぼつりと口にした。


 嗚咽を漏らすように、泣き始める。

そしてだんだんと大きくなっていく。翠蓮はもう一度しっかりと抱き締める。

優しく龍の背中をさする。


「ぼ、僕ね……。お、お母さんと約束……したんだ」

「そっか」

「約束……守れなかった……」

「それは……待ってるって約束かな?」

「そうだよ」

「だったら、龍はちゃんと約束守ってるよ」

「で、でも……死んじゃったら……」

「龍は頑張った。寂しくても一人でお留守番してた。………でしょ」

「うん」


 翠蓮は龍の頭を優しく撫でる。

「いい子だったから、私たちがお迎えに来たんだよ」

「いい子、じゃないよ!」

「えー、ほんとに?それじゃ、確かめてみよっか」


 龍は不思議そうな顔をする。

翠蓮はギュッと手を握る。パッと手を開くと、そこには〈黒いメダル〉が現れていた。


「このメダルはね、すっごく不思議なメダルなんだよ。触るとね、色が変わるんだよ。龍がぜんぜん頑張ってなかったら、色は黒いまんま。ちょっと頑張ってたら銅色、普通に頑張ってたら銀色、むっちゃ頑張ってたら金色になるよ………触ってみる?」


 龍は恐る恐る手を伸ばす。

翠蓮からメダルを受け取って、両手でしっかりと握る。

次第に手のひらから光が漏れ出した。─────メダルは金色の輝きを放っていた。


「龍はむっちゃ頑張った。だからちゃーんと金色になった。お姉さんはわかってたんだから」


 光り輝く金のメダルを龍の胸に付けてあげる。

「お母さんに見せてあげるんだよ。……必ず会えるから」

「お、お母さんに会えるの?」

「会える会える。いますぐは無理だけど。龍、約束はまだ終わっていないの。会える日を信じて待つの。……お姉さんたちも付き合うからさ」


 龍は口を堅く閉じて引き結ぶ。涙を堪えているのがわかった。

「さあ、みんな待ってるから戻ろっか。帰りはゆっくり空中散歩しながら、ね」

 翠蓮は龍を背中に跨がせて、地上に向けて翔び始めた。

いつも読んでいただきありがとうございます!

いよいよ三界連携活動も終盤に突入していきます!

もう少し公開のペースをあげたいと思っている石楠花でございます。

がんばります。

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