【序話】
聞こえたのは─────。
ピッ、ピッ、ピッ、と甲高く機械が発している音だった。
いろんな人たちの声が聞こえている。
お医者さん、看護師さんの声。
そして、ピーッと長く続く無機質な音がした。
(離れてー!もう一回行くよ)
ドスンッと体が跳ねた。
(PCPSまだかッ!─────早くッ!持ってきて!)
(離れて!)
ドスンッとまた体が跳ねる。
(戻りませんッ)
(もう一回行くよーっ)
だんだんと耳が遠くなっていく─────。
きっと心臓マッサージをしているのは先生だろう。
手が止まったかと思うと、ドスンッとまた体が跳ねあがる。
これが幾度も繰り返された。
─────。
──────────。
───────────────。
今まで出逢ったいろいろな人たちの顔が浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。
急に声が聞こえなくなった。
音もしなくなった。
─────すぐにわかった。
音がしなくなったんじゃない、とわかったのはすぐ。
─────切り替わったんだ。
さっきまでは目が開かなかったが、瞼に当たる光は感じていた。その光さえも感じなくなっていた。
急に明るさを取り戻す。
ゆっくりと体を起こした。
病で弱りきった体は何をするにも重かったのに。
体も軽くなっていた。
目を開けると先生の横顔が見えた。
こちらを見たので、目を合わせようとしたが─────。
うん。わかってた─────。
先生はいまの私は見えていない。
やっぱり先生だった。
先生、また腕が腫れちゃうよ、って言おうと思ったが、
もう、いいよっていうのも。もうだいじょうぶっていうのも。
違うような気がする。
なんて言ったらいいんだろう。
たとえ聞こえていなくてもいい。お礼は言わないと。
─────先生。今までありがとうございました。
ごめんね。─────みんな。
みんなが来るまでは待っていたかったんだけどな。
振り返ると自分だった体がそこにあった。
顔を見てホッとする。
私の亡骸は、
まだ生きているかのような顔で。
なにか楽しい夢を見ているかのような顔で。
笑っていた。
ほんの少しの慰めにしかならないけど。
よかった。
本当によかった。