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召喚

 僕は今の生活に、特に不満はなかった。


平日は目覚ましの音で起き、会社に行き、仕事をこなし、帰宅して眠る。


休日は少し遅く起きて、洗濯や掃除を済ませたあと、好きなゲームをじっくりプレイする。――そんな、淡々とした日々。


最近、クリアしたばかりのゲームがある。タイトルは……まだ口に出す気にはなれない。


面白かった。心を惹かれる世界観に、骨太のシナリオ。

けれど――あのエンディングだけは、どうしても納得できなかった。


どの勢力にも善悪が混在し、誰かを助ければ、誰かが犠牲になる。


最後に主人公は、世界の真実を知って絶望し、虚ろな瞳で立ち尽くす。そんな結末だった。


唯一の救いは「トゥルーエンド」――だが、その条件はあまりに過酷だった。


全勢力をクリアし、いずれの陣営にも肩入れせず、あらゆる戦争に介入したうえで、特定のキャラクターを戦闘不能にすること。


セーブ&ロードという“神の特権”があってこそ成し得る奇跡。現実では、まず不可能だ。


何十時間、いや、何百時間も費やして、ようやくたどり着いたその結末は――


“未来に希望を託す”というものであった。


そして――朝。


出社の準備をしていたはずの僕は、気がつくと、まったく知らない場所に立っていた。


赤、青、黄、緑、紫……虹のように色とりどりの髪を持つ少年少女たちが周囲にいた。


煌びやかな鎧をまとった兵士たちが列をなし、その中心に、金髪の少女が立っている。

まるで絵本から抜け出したような容姿だった。


少女は僕たちの前に跪き、額を地に伏せると、震える声で言った。


「ようこそ、異世界の勇者の皆さま。どうか、我ら人類をお救いください――」


見上げると、天井には紅と金の装飾が施されていた。中世風の石造りの宮殿。


そこは、見覚えのある場所だった。


――王都エイグランドの玉座の間。あのゲームで何度も目にした場面。


「現在、私たちの領土の5パーセントが、魔族によって占領されています」


少女の声は小さく震えていた。


「このままでは、五十年以内に人類は滅びます。皆さまには、希望となっていただきたいのです」


少年少女たちから、当然のように戸惑いの声が上がった。


「元の世界に戻してくれ!」


「僕たちはただの学生だ。戦いなんて、無理だ!」


その言葉を受けて、金髪の少女は静かに言った。


「失礼します」


そう言って手を振ると、五人の兵士が鞘から剣を抜き、僕たちに向かって歩み出す。


歩みは重く、しかし確実だった。魔法で強化された身体は、瞬く間に距離を詰めてくる。


――やられる。


そう思った刹那、光が走った。


少年少女の手に、突如として武器が現れた。


剣、槍、盾、弓、そして杖。それはまるで、心の形が具現化したかのようだった。


そして、その武器は――美しかった。


兵士の斬撃は盾によってはじき返され、

次の瞬間、勇者のひとりが振るった剣が、相手の武器を一刀のもとに断ち切った。


少年少女たちは、自分の手にある武器を呆然と見つめていた。


使ったこともないはずなのに、なぜか扱い方がわかる――


まるで昔から身体に染みついていたかのように。


その姿は、人類にとっての希望そのものだった。


金髪の少女が、深く頭を垂れる。


それに続き、兵士たちも、静かに頭を下げた。


戸惑いながらも、少年少女たちはゆっくりと、自らの武器を掲げる。


その光景に、王城の空気が一変した。


――異世界に、希望が降り立った瞬間だった。

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