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01 大魔女

「ここは……」

 ティナが立っていたのは埃だらけの部屋だった。

 思い出す。

 ここはかつて魔術を研究していた部屋だ。

 およそ4年ーー、いや、ゲーム内ではすでに40年以上の時間が経過していた。

 家の中を一通り見たティナは、リビングにあった椅子に腰を下ろす。

 6人の弟子も2人の仲間もすでにその姿を消していた。NCOを引退したか、はたまたどこかで魔術を広めているか。

 どちらにしても、急に姿を消したティナをどう思っているか。

 何も検討がつかなかった。40年という時間は長い。

 それにNCOは現実の体が成長すればゲーム内のアバターも成長する。今更会ったとして互いを互いと認識できるだろうか。

 ティナとてある程度成長していた。服は体型に合わせて大きさが変わる仕様らしく、大してきつくも無い。ワイシャツに黒のスカート、紫色で縁取られた黒のローブ、どれも気に入っていたためこの仕様には感謝しかない。

(そういえば)

 ふと思い出した。

 ティナは待ち合わせをしていたのだ。

 彼女は急いで腰をあげ、とんがり帽子を頭に乗せるとその足で家を出た。

 

 すっかり変わった街の姿を前に、ティナは思わず足を止めた。

 40年前は草原の中に林立した家々が集落を形成している、その程度だった。しかし今や10メートルは軽く越すような石製の防壁が街の周囲を囲んでいた。これでは街というより国に近い。

 防壁に沿うようにして歩いたティナは、やがて門を見つけると、その前に立つ鉄製の防具に身を包んだ男に目をやった。

(門番ってやつかな)

 声をかけてみればわかることだ。ティナは彼の元に歩みを寄せた。

「ここ、通ってもいい?」

「身分証はあるのか?」

 ギロリ、と言わんばかりの眼光がこちらに向く。180はある体躯を有する男から放たれたその威圧は凄まじいものだ。

 三歩ほど引いて言葉を作った。

「いやぁ、そんなのないかな。さっき、40年ぶりにログインしてきたんだよ」

 後頭部を掻いてみせた。

「……そうか。どこからきた?」

「あそこの家」

 ティナは森の方角を指した。

 指先を見た門番が眉を顰める。

「そこは、NCOの始まりの頃、いわゆる原初の時代に魔法技術を開発した大魔女ティナ様、[始祖の魔女]ソワレ様、そしてその弟子の方々が住まわれていた家だ。今は使われていない」

 間を開けて、ドスの効いた声が続く。

「本当は、どこからきた?」

「だ! か! ら! 本当に来たの!」

 思い切り頬を膨らませてみせたが、門番の顔色が変わることはなかった。

「少し待っていろ」

 言って門番は塀の方に足を運ぶと、一枚の紙を手にこちらに戻ってきた。

「ここにネームサインを」

 ネームサインーー、それは自身の名前を証明するためのいわゆる印鑑のようなものだ。

「わかった」

 ティナは手渡された紙を左手でもつと、右手を添える。

(ええと……確か)

 続けて小さく唱えた。

「ネーム、イン」

 と、白紙であった紙にTinaと名前が刻まれた。これはその名前を持つ本人以外にできることではない。列記とした証明である。

「なっ!」

 紙を目にした門番の目がゆっくりと見開かれていくのがわかった。

 ティナは両手を腰に添え鼻を鳴らす。

「あんたが大魔女っていうその本人だよ」

 数秒ほど硬直していた門番は勢いよく頭を下げた。

「申し訳ありませんでした!」

「別にいいけどね」

 悪い気分じゃない。軽くアイドルにでもなった気分だ。

 「熱意の国、イミューズ王国にようこそ」と門番。

 「ところで」とティナ。

「国に入る前に聞きたいことがあるんだけど……」

「なんでしょう?」

 目に見えて威圧感を減退させた門番が首を傾げてこちらをみている。

「さっき、ソワレって言ったよね? 知り合い?」

「いえ。知り合いではありません。魔法統括局の総帥として名を馳せておられるのです」

「へえ……。ソワレはこの国にいるの?」

「いません。魔法国家マギアにいらっしゃるかと」

「なるほどね。ありがと」


***

 合流。


 佐々木華菜ーー、プレイヤーネーム「サキ」はイミューズ王国中央部にある待ち合わせスポット、恋の噴水前に立っていた。

 肩までの茶髪、水色の瞳、黒のミニスカート。上着はローブで隠れていた。

 自身が寺島一菜でであること、大魔女と呼ばれていることを説明し、一通りの驚きを得たことで満足したティナは、サキと共にカフェに入った。


「いや〜。まさかあの大魔女様と一緒にゲームできるなんてね〜」

 ズズズ、とサキはジュースの残りを啜る。

「様なんてやめてよ。わたしだってびっくりしてるんだから」

「でも。実際ちょっと嬉しいでしょ??」

「あ、バレた?」

「バレバレだよ。あたし達中学からの付き合いじゃん」

 そう、中学一年時から一度たりともクラスが離れたことはない、奇跡の親友だ。もはや心情などお見通しか。

「で」

 とサキ。

「ティナは、二人で何かしたいことある?」

 聞かれて、特に考えてなかったな、と思う。

 しかし先ほどの門番との会話で多少やりたいことはできた。

「旅したい」

「旅、いいね! でもなんで?」

 サキは不思議そうにその細い首を傾けた。

「発展した世界を知りたい。それと昔仲間に会いたいんだよね」

「目的地とかある?」

「一旦、マギアを目指したいと思う」

「あぁ、もしかしてソワレ様?」

「そうそう」

 頷くティナを見て、サキはアイテムボックスから地図を取り出しテーブルに広げた。

 そこには大陸内の国家や気候が事細かに示されている。

 サキは地図の右下あたりにある小さな国を指差した。

「あたし達は今ここね」

 人差し指で指すだけで、国の全貌が影に落ちた。それほど小さな国であった。

 続いてササキの指が動く。

「で。マギアはここ」

「でかっ」

 率直な感想であった。

 目検討ではイミューズの20倍。想像もつかない広さである。

 その上、

「え、遠くない?」

 サキは大きく頷く。

「遠いね〜。正直数日で行けるような距離じゃないし、野宿とかもあると思う。それでもいく?」

「わたしは行きたい」

 素早く返答した。それから言葉を継ぐ。

「サキは、どう?」

「ティナが行くって言うなら、あたしもついてぐよん」

「ありがと」


 かくしてふたりの旅は始まった。

 読んでいただき感謝しかありません。もし、万が一にも面白いなんて思っていただけたら、ブックマーク・評価・感想・レビューの方をしていただけると、もれなく作者が喜びます。


 次回から戦闘描写とかもちょくちょく入るかと。

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