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プロローグ

『ようこそ、Neo-Craft-Onlineへ』

 齢12の少女は自室にてヘッドギアを起動していた。

 少女ーー、寺島一菜(てらしまいつな)が入れたカセットはNeo-Craft-Online、略してNCO。

 彼女はこの日を待ち侘びていた。


 NCOの制作発表は3年前に遡る。英国の人類学者チャールズ=フレイザーにより考案されたこのゲームのコンセプトは「発展」。

 一番の特徴はゲーム内に建物や道具の類が一切存在しないこと。プレイヤーは自ら道具や建物の作り方を思案し人類を発展させてゆく必要がある。つまるところ、原始時代からやり直せという話だ。

 スキルの類があるのかないのか、はたまた魔物がいるかどうか、全てはプレイヤー自身の手により開拓しなければならない。他にはない斬新なシステムだ。

 そしてゲーム内で死亡した場合復活が不可能であることもこのゲームの斬新さを促進していた。

 また、VRMMO初の試みとして「タイムコントロール」が導入された。ゲーム内の時間は現実の10倍、つまり24時間で10日を過ごすことになる。プレイヤーもゲーム内ではリアルに10日を過ごした体感を得られるらしい。これは日本に本社を置くデックテクノロジーによる新技術であった。


 一菜は開発発表からリリースまでの3年間、お年玉というお年玉をことごとく貯金にまわすことで、発売と同時にハードとソフトの入手に成功した。

 あまりの人気から抽選販売の形になったが、当選したのは運が良かった。

 ログインするとまず、彼女は真っ白無空間に立っていた。目の前には半透明のボードが浮かび、プレイヤーネームの記入欄と外見の設定欄が表示されている。

 一菜がプレイヤーネームの欄を選択すると、手元にキーボードが表示された。

「プレイヤーネームは……」

 キーボードを弾く彼女の指に迷いは見えなかった。

「ティナ」

 苗字の一文字目、名前の一文字目、そして最後をとってティナだ。

 ゲームをするときはこの名前と決めていた。

 外見ーー、こちらに関しては特に決めていることはなかった。NCOは現実の顔、体型をベースとして髪型、髪の色や肌の色といった部分を自由に変更可能であった。

「どうしようかなぁ」

 自身のモデルを前にして、ティナは指を顎に添えていた。

 考えること20分強。

「まず髪の色を変えよう」

 腰のあたりまである黒髪を灰色に変色した。それから真っ黒な瞳を神秘的な紫に。

「よし!」

 胸の辺りでガッツポーズを作った。12歳のティナにとって、この編集は渾身の出来と言えた。

 編集を終えてゲーム開始のボタンを押す。

『ようこそ、Neo-Craft-Onlineへ』

 アナウンスらしい女性の声が白い空間に響き、遅れて視界が青白い光に包まれた。

 声は続ける。

『ランダムな大陸のランダムな地点に転送いたします。それでは、よい人生を』

 

 気がつくと、彼女は平原に立っていた。

 見渡す限り自然しかない、ただの平原に。発売から1日しかたっていないのだから、まだまだ人類の発展は見られない。

「ここが……NCOの世界!」

 3年も待ったゲーム。胸が踊らないはずがなかった。

 彼女が初めに取り掛かったのは家造りであった。近くの森林にウッドハウスを作ることにした。

 木の加工や丸太の接着はある程度システムの補助があったため、家の完成にそう時間は掛からなかった。

 食料の調達には狩りが必要だが、それも慣れてしまえば大したことはない。

 家が完成し、家具を作っていた頃、森林近くに集落が形成され始めた。ランダムな地点に生まれるといっても、ある程度の偏在性はあるらしくこの辺りに生まれたプレイヤーの集落はそこらしかった。

 ティナもたまに集落に通った。バイトなんかをしてお金を稼ぎ、自分で狩りをせず食料を購入するようになった。

 友人もできた。同じ売店でバイトをしていたmolgana(モルガナ)とそこに通うソワレであった。

 紫のボブに黒い瞳を持つ姉気質のモルガナ、気が弱く、白銀の髪を踵まで伸ばした背の低いソワレ。現実でも同年代の二人はティナの良い友人であった。

 しかしある日から、ティナはめっきり集落に足を運ばなくなった。

 ログインはしていた。ただバイトも辞め、蓄えた食糧で息を繋ぎ、彼女は自室に篭りきりになった。

 ティナは魔術の研究を行なっていた。

 事前情報が少ないこのゲームにおいてそのようなものがあるかどうかは未知数だ。

 しかしティナは魔術の存在を確信していた。

 NCOの開発者である人類学者チャールズ=フレイヤーは「魔術論」を打ち出した一人であった。そして論文ではこう語る。「理論上、魔術は存在する。しかし人間が作った地球環境は魔術を使うに足りていない」。

 NCOは人類に汚染されていない世界だ。まだ無限の可能性があると言ってもいい。

 故に魔術を使用する環境たるのではないか。


 来る日も来る日も、ティナは魔術研究に没頭した。

 風のふりをして学校を休んだことも、たまぁにならあった。

 途中からモルガナとソワレも彼女の研究に加わった。

 3人は手探りであらゆる研究を行なった。中学生には難しい、「魔術論」も真剣に読んだ。

 ある日は、薬草から作った液体に生肉を入れ、

 またある日は、高価な水晶を思い切り投げた。

 現実で2ヶ月がたった頃に3人は魔力の存在を見つけ、それから2ヶ月後には遂にティナが術式による魔術の発動を成し遂げた。

 その頃になると、ティナの家には6人の助手がいた。

 合計9人になった彼女らは、ティナの発見を皮切りに魔術式の法則を読み解いて、次々と魔術を発明した。

 基礎魔術である炎や水、風といったものから、浮遊や光といった応用魔術まで、あらゆる魔術があっという間に作り上げられた。

 さらにティナは術式を描かずとも魔術を使用する「杖法」や、魔術における一級から五級の威力基準を作り上げた。


 そんなある日。

 ティナは突如としてNCOから姿を消した。

 原因はハードの破損だった。置いていた棚から落下し、その拍子に破損してしまった。

 修理や買い替えという選択肢はなかった。当時、彼女の家は困窮していたから。



 およそ4年後。

 高校に入り一年が経ち、寺島一菜は17歳になっていた。

「おっはよ〜!」

 午前7時50分。歩く彼女の隣に並んだのは佐々木華菜だった。

「おはよ」

「何? 眠そうじゃん」

「今日の小テストの勉強。華菜は?」

「してないしてない」

 華菜はいつもこんな調子だった。それでいて本番になれば100点に近い点数を叩き出す。

 勉強しているのを隠しているとかそういう陰湿な詐欺をするタイプでもなく、彼女はただ器用なのだ。

「そういえばさぁ」

 と華菜は続ける。

「Neo-Craft-OnlineっていうVRゲーム知ってる?」

 一菜の眉がぴくりと動いた。

 それは、ここ数年すっかり忘れきっていたゲーム名だった。

「知ってるよ」

「一緒にやらない!?」

 華菜がこちらに向けた瞳は爛々と光を帯びていた。

「あー」

 高校生になって軽いバイトも始めたし、4年前よりは家庭の財政状況は安定している。

 ソフトだけは大切に保管してあったし、今ならハードを買い直すこともできるはずだ。

「いいよ」

 

 翌日(土曜)

 一菜は自室で新品のハードを装着していた。

 4年前はフルフェイスヘルメットのような形状をしていたハードだが、今ではただのチョーカーだ。ソフトはダウンロード形式になっている。

(こんなので大丈夫かな……)

 時刻は午前10時59分。

 不安は残るものの、待ち合わせ時間が近づく一菜に起動する以外の選択肢は残されていなかった。

 一菜はチョーカーについたボタンを押し込み瞼を下ろした。

 直後視界は青白い光に包まれ、女性の声が脳に響く。

『お帰りなさいませ。Neo-Craft-Onlineに』

 読んでいただき感謝しかありません。もし、万が一にも面白いなんて思っていただけたら、ブックマーク・評価・感想・レビューの方をしていただけると、もれなく作者が喜びます。

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