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加速

「これは・・・?」


葉月は目の前に置かれた三つの小瓶を見つめていた。


「その、うーにゃんが魔力残滓を淹れる小瓶のこと教えてくれて・・・何に使うかわからないけど必要なのかなって・・・」


サエの消え入りそうな声を聴きながら、葉月は瓶を一つ一つ手に取って観察する。

瓶はどれも満タンで、まぶしく光り輝いている。


「市内じゃ今低レベルの無害なガーゴイルしかいないのにどうやって・・・」


葉月の疑うような視線にサエは気まずそうに目を伏せた。


「その、ちりつもというかなんというか・・・」

「サエは一日に30体は討伐をしてるにゅん!!」


サエの言葉を遮るようにうーにゃんが声を上げた。


「私肉弾戦が得意だからこういう細かいのを倒すの向いてたみたいで・・・えへへ」


とにかくこれあげると瓶を追加で二つ差し出すサエに圧倒された葉月が若干引き気味で受け取ると、サエは満足そうに微笑んだ。


「それじゃ、渡したいもの渡したし、私は帰るね」


サエがいそいそと荷物をまとめて立ち上がる。やけに急いでいる様子に葉月は少し違和感を感じた。



「・・・?」


「おじゃましましたー!」


サエは葉月の家の扉を閉め、少しばかり速足で家路を急いだ。



「今日はペナルティで走り込み倍だから早く帰ってこなさなきゃ」


サエの声が夕暮れに溶けて消えていった。



次の日、葉月の端末にはいつも通りの連絡が来ることはなく通知の一つもなかった。


「遂に飽きたか・・・?」


葉月は机の上に並べられた五個の小瓶を鞄に詰め込むと、外出の準備を始めた。





自治体所有のホテルの一室の扉が静かに開けられる。


「おねぇさん、来たよ」


数年前と変わらずきれいなまま目を閉じている少女に葉月は微笑みながら話しかけた。


「これだけあれば、私の願いが叶うかなぁ」


葉月は鞄の中から小瓶を取り出すと栓を抜き、それを傾けた。


キラキラとした光がその動かない体に降り注ぐ。


最後の一本が空になると、その体がかすかに光り、また沈黙を作り出した。


「・・・!」


電灯の消えた室内がまた薄暗く色を失う。


「まだ足りないってこと?かなり集めたのに・・・トータルだとレベル天災30体分相当するのに・・・!!」


葉月はエルエルの羽を強くつかんで乱暴に揺さぶった。


「エルエルもわからないエル!!必要量なんてどこの文献にもなかったエル!!」


振り回されながらもエルエルが必死に叫ぶと、葉月は涙でぐしゃぐしゃな顔のままその場にへたり込んで大きな声を上げ小さな子供のように泣きじゃくった。


扉の向こうで誰かがその声を聴いているなど知るはずもなく葉月は疲れて眠ってしまうまで泣き続けた。







「はい、そうです。今日から葉月と泊りでテスト勉強することになったので。はい、はい。わかりました」


サエはスマホの通話を切ると、葉月のスマホにメッセージを残してそのまま走り出した。



「私は何も聞かないよ」





葉月が目を覚ますと窓の外はすでに真っ暗で、慌てて端末を確認した。


『今日からしばらく私と泊りでテスト勉強してることになってるから数日は帰らなくて大丈夫だよ!!ただ、定期的に連絡はほしいみたいだからあとで裏口合わせさせてね』


葉月は震える手で端末の電源を落とすと、泣きはらした目を濡らしたタオルで冷やしながら軽く荷物をまとめた。


「・・・冷たいミント、熱いショコラ、巡り巡って目を覚ませ。マジカルマジカル☆スクリーム」


変身を済ませたショコラミントは部屋の鍵をかけると荷物をエルエルに預けて窓から空の向こうに跳び出していった。


次の日、市内のガーゴイル被害報告が完全になくなったと速報が流れた。





葉月の端末には止まることのない援軍要請の通知が並んでいる。

仲には過去の援軍で助かったからまたお願いしたいなどリピートのものから、テレビ取材の誘いまで。

葉月はそのリストを眺めながら面倒くさそうに眉を顰めると、いくつかの依頼をピックアップし変身しながら屋根を伝って目的地に向かった。





「最近話題に上がっている魔法少女さんですね。来てくれてうれしいです。先日動画も拝見しました」


ショコラミントを迎えに来たのは疲れのせいなのか、年齢よりもずいぶん老け込んだように見える一人の女性だった。

本来なら美しい黒髪だったのだろう長い髪は雑にまとめられぐしゃぐしゃになっている。

目の下のくまは、彼女が上手く眠れていないことをあからさまに表していた。


「この町の魔法少女はすこし前に亡くなってしまってね。それで緊急で依頼をしたの」


女性は夜桜美雪と名乗り、寂しそうな様子で何かを思い浮かべたのか微笑みをショコラミントに向けた。

地図にガーゴイルの発現場所を記しているらしく、保管場所の役所に案内されると、壁に飾られたかわいらしい姉妹の写真がショコラミントの目に入った。

片方は黒、もう片方は焦げ茶色と髪色こそ違えど、笑ったその表情はそっくりで、姉妹だと容易に想像できた。


「この写真、とても素敵でしょう?私の娘たちなの。離婚してからは妹のやよいは元夫に、姉のみつきは私が引き取ったのよ。・・・そして・・・」


美雪は写真に写る髪の色が薄い少女を指差した。


「みつきは・・・あの子は魔法少女だったの」


辺りがしぃんと静まり返る。


「魔法少女、エアリィ。この町をずっと守ってくれていた白い魔法少女よ。みつきが交通事故で亡くなったと自治体から連絡があった一月後に、差出人不明の手紙で知ったの」


美雪は手紙を机の引き出しから取り出すと、ショコラミントに差し出した。


手紙には黒薔薇のスタンプと歯車の模様が描かれている。

同封されていたのだと差し出された南京錠型のストラップにはオパールがはめ込まれており、ショコラミントはすぐにそれが変身アイテムだと気が付いた。


ショコラミントは手紙の特徴を見てすぐに、一人の魔法少女の姿を思い浮かべた。


「妹さん・・・やよいさんとは連絡取れるんですか?」


「・・・わからないの。元夫の消息すら知らされていないから」


美雪が目を伏せて今にも泣きだしそうな様子でいることにショコラミントは気が付くと、話題を変えようと隣に置かれたガーゴイル討伐リストと出現地域の記入された地図に手を伸ばした。


「私の活動している町は後輩の魔法少女に任せているので、しばらくはこの町に滞在予定です。泊るところとかを用意していただくことって可能ですか?」

「あっ、スイマセンありがとうございます・・・そうですね、宿泊施設の用意に少しお時間いただきますね」


美雪は無理やり笑顔を作り、ショコラミントを見送った。


ショコラミントは端末に保存した地図を確認しながら、被害が大きいエリアを優先して討伐に向かった。


「魔法少女の後任が現れないなんてあるの・・・?」


ショコラミントはひとりごとをつぶやきながら魔法の糸を張り巡らせた。

~エルエルの魔法少女解説~


こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!


今日は妖精女王様について解説するエル!

女王様は人間界のテレビにもよく出ていて、政治家の人ともよくお話しているエル!

妖精の時は光の塊のような姿をしているけれど、普通の人間には視認ができないからエルフっていう架空のヒト型の生き物の姿を借りてみんなの前に出ているんだエル!

女王様は博愛主義で、人間界にお金の流れをよくするきっかけとチカラを分け与え、妖精たちの生命や生活の元となる感情エネルビーをまんべんなく与えられるように交渉までしてくれたエル~!

とっても優しくて綺麗な心を持ってるから、みんな大好きなんだエル!

初代魔法少女チェリーと女王様はお友達らしいエル!でも人間は妖精よりもずっと老いるのが早いから、少しだけ心配エル。

人間で初めてできたお友達が死んでしまったら、きっと女王様は悲しむと思うエル・・・だから、エルエルは、沢山魔法少女を作って女王様のお友達になってもらえば寂しくないんじゃないかなって思うエル!

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