もっともっと集めなきゃ
「そう言えば知ってる?魔法少女の隠し撮り写真を専門に取り扱ってるネットショップがあるんだって」
葉月は居眠りしようと机に伏せた瞬間耳を疑う言葉が聞こえ驚いて顔を上げた。
クラスの男子が見ていたらしいそのサイトは、なぜか知名度がある割に消されないことで魔法少女の七不思議のひとつなんて言っている人もいた。
「ホントだ、うわなにこれ下着が丸見えだしアングルが最低・・・」
サイトを興味本位で検索していたのか、隣の席に座っている女子が声を上げた。
葉月も気になり、机の影に隠すようにして自分の端末で調べてみると、見覚えのあるマークがサイトのロゴに紛れているのに気が付いた。
魔法陣の中心に刺さった一本の羽根、どう見ても国内の魔法少女のデータを管理している民間企業のロゴマークだ。
葉月はゴクリと息をのむとサイトの写真一覧を開く。
課金用のプランと無料プランの二つもボタンがあったので、とりあえず無料プランをタップすると、おそらく戦闘中の魔法少女を下のアングルから映したであろうかなりきわどい写真がいくつも表示された。
中には激しい戦闘により服が破けてしまったり、植物に擬態しているガーゴイルにとらえられているものもある。
葉月は課金プランの説明に視線を移すと『より過激な写真、動画はこちら』と書かれ、粗目のモザイク処理が施された写真が一枚貼られている。
魔法少女がどんなビジュアル化は全くわからないが、少なくとも腕が片方無いのはわかる程度のモザイクだ。
葉月はそれに気が付いた瞬間吐き気がこみあげてきてトイレに走った。
「・・・確かにエルエル以外にも配信カメラが来ることはあるけどまさか・・・うっ・・・」
この日、葉月は初めて授業をサボった。
学校のチャイムが鳴り響き、掃除当番を押し付けられた葉月は雑に掃除を終わらせると、鞄を手に取り急いで学校を出た。
葉月のペンダントがいつも通りちかちかと光り、エルエルの声が聞こえてきたので、葉月はすぐに裏路地に入ってペンダントを取り出す。
「ガーゴイル?」
「この前取り逃がしたヒト型と同じ反応を検知したエル!」
エルエルの言葉に葉月の体に力が入る。悔しさからかギリリと歯をかみしめると呪文を唱えて変身した。
「魔法少女、ショコラミント、仕事開始」
ショコラミントは静かにふうっと息を吐くとエルエルのナビゲーションについていくように屋根の上を駆け出した。
「・・・っ!」
見えない風圧がショコラミントの正面から襲い掛かる。悪意の圧を感じ取ったショコラミントはすぐにその攻撃を受け止めると魔力の膜で受け流した。
「私の攻撃を見切るなんてなかなかやるねぇ。君、実はかなり古参のプロ魔法少女なのではないかい?」
「私は魔法少女になって三年です。まだあと五年は戦えます」
葉月の淡々とした受け答えにガーゴイルは喉を鳴らすように笑うと愉快そうな様子で醜く口元をゆがめた。
「くっく、まだまだ強くなるというのか。これは楽しみだ。我らが女王様も注目するわけだ。そのうち本気でやりあおうじゃないか」
ガーゴイルはそれだけ言うと、ホログラムを消すように姿がサラサラと崩れ流れていった。
「・・・なんなの」
「反応が消えたエル!お疲れ様エル!」
エルエルは空気を読まずショコラミントの周辺をパタパタと飛び回っている。
「魔力残滓が・・・」
空瓶を取り出し悲しそうな声を上げるショコラミントに、エルエルは慌てて声をかけた。
「そう言えばこの前の話が他の自治体の魔法少女に広まっていて、また援軍要請が来てるエル!」
エルエルの言葉にショコラミントはすぐに食いくように反応した。
「その話詳しく」
その日からショコラミントの多忙な日が始まった。
魔法少女保護法により守られているため葉月が学校を休んでも何もペナルティはないが、事情を知ってしまったサエは連日学校に来ない葉月が気になり、時間を見つけてはネット検索でショコラミントの記事を追いかけた。
「・・・今日はこの村か」
プライバシーを守るために変身してからとある県境の集落の入り口に立ったショコラミントは、この集落の魔法少女を呼んでほしいとすぐ近くにいた青年に話しかけた。
「あ、ショコラミントさんですね!お待ちしておりました。魔法少女ルージュナイトと申します」
すっかり声変わりしたその青年はそう言って握手を求めたが、ショコラミントは困惑してのけぞった。
「驚きましたよね、すみません。俺、男なんですけど、この辺りで魔法少女になれる素質あるのが俺だけなんですよ・・・もちろん嫌ならこの話は無しにしていただいて・・・」
「いえいえ、驚きはしましたけど大丈夫です。とりあえず話を聞かせてください」
ルージュナイトと名乗った青年の言葉を遮りミントショコラは笑顔で差し出された手を握り返した。
とりあえず立ち話もなんだと公民館の一室に通されたショコラミントは出されたお茶
飲み干した。
「実はこの近辺は深い森や山に囲まれていて、ガーゴイルの恰好の隠れ場所なんです。そのおかげで俺もそこそ稼がせてはいただいてるんですが、ここ一年くらい数が一気に増えて手が回らなくなって・・・」
「それで援軍の要請を・・・」
「はい。僕は近距離攻撃が得意なので、ぜひ援護をお願いしたく・・・」
ショコラミントはその言葉を聞いて立ち上がると、部屋を出て行った。
「早くいきましょう。ちなみに危険レベルの平均は?」
「・・・!はい!この辺だと獣型がほとんどですですが数が多く変異種の植物擬態型も出てきます」
二人はそのまままっすぐ山に向かって走った。
「紅蓮に燃える情熱の華、騎士道に恥じぬ暴風を起こせ!」
赤いリボンが青年の体を包み込み、衣装が作りこまれていく。
いつの間にか体形も変化し伸びた髪には大きなリボンが結ばれる。
「赤薔薇の騎士、ルージュナイト、この心に忠実に、守り抜きます!」
森の中から複数の鳴き声が聞こえてくる。熊なのかイノシシなのか低くうなるようなその声には魔力がまとわりつき、地面を汚染していく。
「ショコラミントさん!上からくる鳥型をお願いします!猪型は俺が!」
「了解しました」
ショコラミントが木の間に自らの糸を何重にも張り、ミサイルのように突っ込んでくる鳥型のガーゴイルを切り刻む。
薄くスライスされたガーゴイルが地面に落ちていく。
「ルージュフレグランス!」
ルージュナイトが呪文を唱えると猪型のガーゴイルが動きを止める。
「ガーゴイルにしか効かない毒です。動きを止めるにはこれが一番ですので」
ルージュナイトは細身の片手剣をすらりと抜くと、目の前の猪型をすべて細かく切り刻んだ。
森が静けさに包まれ風に揺れる木々のなる音だけが聞こえてくる。
「こんなもんですかね・・・最近鳥型が増えてしまって困っていたので助かりました。」
「こちらこそ、いい学びになりました。また呼んでください」
ショコラミントは小瓶に蓋をしながらルージュナイトに言葉を返すと、軽く会釈してそのまま集落を出た。
葉月は門限こそないものの、帰る時間が遅いと母親に質問攻めにあうため魔法少女の力を最大限駆使して自宅に帰った。
リビングでは相変わらず父親が思想の強い話で盛り上がっている。
「今の政治家は裏で糸を引いてる組織がいて・・・」
もはや何回聴いたのかわからないほど聞きなれた単語の羅列に葉月はうんざりしながら足音を消して自室にこもる。
葉月は布団の中で端末の援軍要請リストにまた一つチェックを付けた。
~エルエルの魔法少女解説~
こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!
今日は魔法少女について解説するエル!
魔法少女を守るための魔法少女保護法は始まりの魔法少女である女大臣が立ち上げたエル!細かい話は時間が足りないから割愛するけど、簡単に言えば、魔法少女が家族や友達にばれないように身元や学習の機会を保障するものエル!
魔法少女は自治体によって決められた固定給と、倒したガーゴイルの数に基づいて国からボーナスが入る仕組みで、立地によってはかなり高給取りの子もいるエル!!
ちなみに自治体が貧乏だと、所属する魔法少女がメディアに出たり配信して、スパチャやギャラの一部を自治体に納めるといった方法で財源の確保をしているなんてこともあるエル!
市民県民が払う税金を減らした分こっちがメインの収入になりつつあるエル!
魔法少女は11歳から19歳まで、20歳の誕生日になったら卒業エル。もし殉職した場合は死体の損傷度合いによってさまざまな事故による死亡扱いで家族には伝えられるエル。戦いの中で手足など体の一部が欠損した場合も同様で、失った欠損部分は魔法で治したり補填は可能だけれど変身を解いたら補填も解けるから、魔法少女をそのまま引退する子も少なくないエル!その場合も事故として処理されるし、もしそれがトラウマになったりして情報漏洩になりかねないと上が判断した場合は研究機関で記憶の消去および操作が行われるエル!
子供たちを守るための素晴らしい制度エル!
魔法少女保護法ではいかなる場合でも彼女たちのプライバシーを侵してはならないというものがあるエル。これに違反した場合は妖精界のエネルギー源として終身刑にかけられるエル!椅子に座ってずっとエネルギーを枯れるまで供給し続ける、素晴らしいお役目エル~!
魔王少女は誰でもなれるわけじゃなくて、魔法適正が無いと絶対変身してはいけないエル!過去の実験では魔法の負荷に耐えられず肉塊になってしまった子もいたとか・・・魔法は超圧縮された強いチカラの相称だから、うーん・・・人間にわかるように説明するなら、生身で深海に急に放り出されるみたいなものって考えると良いエル!
最近は魔法少女がどの自治体にも一人はいるから、お金がないと少し危ない商売に手を染めるということもあるらしいエル。ぼくは難しいことはわからないけれど、人間って大変エルね~。




