小瓶に詰まった夢のカケラ
中学生生活も最後となったある日の昼下がり。
葉月が窓の外を眺めれば、真新しい制服で笑いあっている新入生の姿が暖かい風に運ばれた桜の花びらに祝福されている。
「もう二年たったのか」
葉月のつぶやきは誰にも聞こえることなくクラスの喧騒に掻き消され消えていく。
葉月はあの日の光景をそっと瞼の裏に投影する。
真っ白な雪にガーゴイルの真っ黒な体液の雨が混ざり合い、一面モノトーンの世界に来たような空間に、冷たく横たわる少女と自分だけが色をまとっている異常な光景だ。
「早くしないと」
『いいエル?魔法少女は11歳から19歳までしかなることを許されないエル!君の願いをかなえるためには20歳の誕生日までにたくさんガーゴイルを倒して、魔力残滓をとにかくたくさん集める必要があるエル。魔力残滓を集める容器はあとであげるから一緒に頑張るエル!』
魔法少女になると決意したあの日に知った年齢期限。葉月は長いようで短いということを子供ながらに理解していた。
効率よく魔力残滓を集めるためにはよりレベルの高い大型ガーゴイルを倒さなければならい。その辺に沸いているレベル1のスライム型などではなく、可能ならヒト型、そしてあの日助けてくれた魔法少女が命と引き換えに倒したのと同じ超大型を狙うのが最適だ。
「この町平和だし、自治体としても弱小だから集まらないんだよなぁ・・・どこかで緊急要請とかあればすぐにでも行くのに」
「ねぇ、民十さぁん」
葉月は後ろから呼びかけられたことに驚いて動きを止めた。聞かれてしまったかもしれないと前進から汗が噴き出す。
「な、なんでしょう」
葉月がぎこちない笑顔を向けると、小学生のころから同じクラスの潮谷サエが笑顔で立っていた。
「サエ」
「ずっとぼそぼそ言ってたからなにしてんのかなって思って」
サエはんへへと笑いながら葉月の肩に手を置いた。
「葉月とは小3からずっと腐れ縁だけどさ、ま、人見知り同士今年もよろしく」
「ん」
サエに差し出された手を葉月がとる。温もりが手のひらから伝わるたび葉月は切ない気持ちになる。
その日は珍しく何も召集がかからず、収穫が無かった葉月は雑魚狩りでもするかと町中のスライム型をかたっぱしから始末していった。
しかしやはり低レベルのガーゴイルからとれる魔力残滓は雀の涙と言っても大げさなくらい、小瓶の底にほんの少しだけだ。
瓶の底に輝く虹色の輝きを見つめながら、葉月は深くため息をついた。
「葉月、何してんの?」
サエの声に肩を震わせる。
「それなぁに?魔法アイテム?」
サエは隠しきれなかった葉月の手にある小瓶を素早く手に取り、陽に透かして眺めた。
「綺麗だね。中に入ってる粉は何の粉?」
「サエ、見えるの!?」
葉月が驚いて声を上げると、ペンダントからエルエルが声を出した。
「企業秘密エル!」
「え!?」
エルエルの声に驚いたサエの前にエルエルは姿を見せる。
「素質は十分エル、だけど願いの力が少しだけ足りないエルね・・・」
エルエルの冷静な声色に葉月は慌てて人目につかない場所にサエを引っ張り込む。
「もしかして葉月、今話題の魔法少女やってるの!?すごいねぇ!」
「・・・これごまかしきかないよね、エルエル」
「仕方ないエル。・・・子供の口は軽いエル。こうなったら・・・!」
エルエルの体が光り輝くのを見て嫌な予感を感じ取った葉月はエルエルの羽を強くつかんで引っ張った。
「痛いエル!葉月、何するエル!今すぐ記憶を消さないと大変なことに・・・」
「え、私言わないよ?葉月とは幼馴染だし、家のことで手いっぱいだからそんなこと言いふらす余裕もないし。」
サエはあっけらかんと言い放つと、ニコニコと笑顔を浮かべて葉月の肩に手を回した。
「でも応援はさせてほしいな。なんたって幼馴染だからね!!もちろん何かあった時のアリバイ作りも任せて!!」
葉月はサエの言葉に少しだけ肩の力を抜いたのだった。
自室で葉月はサエの言葉を思い返す。
「応援・・・ねぇ・・・変な子」
葉月は魔法少女専用ネットワークで遠征召集掲示板を眺めながら夜を過ごした。
「ショコラミントさん!拘束お願い!!」
「・・・わかりました」
ショコラミントの指先から繰り出さっる銀色の糸が大型ガーゴイルの両腕をとらえる。
「リリィプリンス!奴の足に氷の幕を!」
「わかったよ」
「リリィキャットはわたくしと一緒にコアを!!」
「おっけ!」
大型ガーゴイルの動きが完全に封じられた次の瞬間その中央に光る深い紫の宝石が砕かれる。
大きな断末魔の叫びが響き渡って体が霧と化し消えていく。
ショコラミントは慣れた手つきで小瓶を取り出すと、その黒い霧の一部が中に吸い込まれ色を変えていく。
リリィプリンスと呼ばれていたパンツスタイルの魔法少女がショコラミントの元に駆け寄っていく。
「すまない。助かったよ。これから音楽番組の収録があるのに思いのほか大きな強敵が出てしまってね。君のような冷静な子が迅速に来てくれて助かったよ」
「いえ、お三方は急いで収録に行ってください。片づけは私がやっておくので」
ショコラミントは「お礼を・・・」と何か言いたげな三人をタクシーにっ無理やり促すと瓶の半分以上になったきらめきを見て満足そうに頷いた。
「やっぱり大型は貯まるの早いな~ふふ」
変身を解いた葉月は、エルエルに小瓶を手渡しペンダントに入ってもらうと魔法省のマークは書かれたカードを取り出し、もう一つのタクシーに乗り込んだ。
家に戻ると、父親のうんちくが聞こえてくる。おそらく酒が入って気が大きくなっているのか玄関まで聞こえてくる大きな声は自慢げで、葉月はばかばかしいと鼻で笑う。
「・・・そうなんですよ!!信用できる筋からの情報によると今の政府は国民をだましていて、それに気付かせないように芸能人のスキャンダルとか自殺騒動をテレビで流してるんです。自殺したあの有名声優の○○も実は・・・」
葉月はその不快な話題に体調が悪くなった気がしたのでヘッドホンを付け、そのまま自室に戻った。
SNSの通話機能で仲間たちと楽しく話すその姿は葉月にとって異常なものに見えたため、葉月はここ数年の父親はあまり好きではなかった。
「この組織が裏で・・・魔法少女だって実はCGで、その証拠に・・・」
ヘッドホン越しでも聞こえてくるその上機嫌な声にうんざりした葉月は、母親に夕飯はいらないとだけメッセージを送信して布団をかぶった。
葉月は父親が拒否したことで被ってきた様々な不利益にうんざりといった様子で無理やり夢の世界へ旅に出ることにした。
「昔はこんなじゃなかったのに・・・はやく・・・早く朝になれ」
そう強く念じながら。
~エルエルの魔法少女解説~
こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!
今日は魔法少女たちが戦っているガーゴイルについて説明するエル!
ガーゴイルの正式名称は「闇をつかさどるもの(ナイトメアガーゴイル)」と言って、町を破壊したり人間に危害を加えるエル!ぼくたち妖精と元の魂は一緒だけど、成長する過程でなんでか変化するエル!
なんでなのかはぼくはわからないエル!
ガーゴイルの強さレベルは大きく分けて四つ。
レベル1 スライム型
ほぼ無害なガーゴイルで、増えすぎると水道管とかに詰まって大変なことになるエル!
レベル2 獣型
ぼくほどじゃないけど可愛い姿の個体が多いエル!三歳児程度の知能もあって悪戯が好きエル!
肉食でかなり狂暴だから、優先して討伐するよう召集がかかるエル!
レベル3 霧型
すごく小さな個体の集合体が霧に見えることからそう呼ばれるエル!虫の姿が多いけど、それに限らないエル!
範囲魔法以外での討伐は難しいから、物理攻撃系の魔法少女とは相性が悪いエル!
レベル4 ヒト型
人間や絵本に出てくるような妖精みたいな見た目をしているエル!
人に紛れて悪さをするけど魔法少女に変身しないと見分けが付かないエル!
しかも魔法を使う個体もいるから、かなり強敵エル!
レベル天災
建物よりも大きな個体が多く、力も魔力も桁違いエル!
形が個体によって違うけど、だいたいは一つ目だからわかりやすいエル!この規格に該当しない一つ目のガーゴイルはレベル天災に進化する前だから見つけ次第討伐するように決められているエル!
ぼくは低級妖精だし、生まれてからあまり時間がたっていない若輩者だからわからないことも多いけど、これからも解説頑張るエル!
応援してほしいエル!!




