本当のココロ
サエは目の前にある夕食を見て目を輝かせている。
テーブルの上には一人前の寮が盛られたカレー、大皿に盛られたサラダ、ケチャップで炒めたペンネパスタが置かれている。いわゆる普通の食卓である。
「え、こんなにたくさん食べていいの!?」
「当たり前でしょ?何言ってるのこの子は」
「体を動かしてる上、食べ盛りの中学生なんだ。成長期なんだから食べなさい」
サエは両親の優しい声を聴いて嬉しそうにほほを緩めた
「やった!いただきまぁす!」
サエは目を閉じたまま、嬉しそうに微笑みを浮かべた。
ゆらゆらとした暗闇の揺り篭は、サエの体を心地よく揺らし、サエを守るように包み込んでいる。
笑顔の絶えない幸せな生活。たとえ失敗しても必要以上に責められない。留学や一人暮らしを決断してでも逃げ出さなければならないようなあの頃の家族は悪い夢だったんだと、今目の前にある風景が真実なのだとサエは自分に言い聞かせる。
「このまま変わらない幸せな生活がずっとずうっと続くといいなぁ」
「・・・さすがにおかしい」
ショコラミントは不機嫌な様子を隠すことなく目の前のガーゴイルの顔に拳をめり込ませながらぼそりとつぶやいた。
ショコラミントの浄化技で目の前のガーゴイルがきらめきをふくんだ灰になるとともに、瓶を天に掲げる。
瓶の中身がきらめきで満たされると同時にショコラミントはそれを見つめる。
「ソルトエース・・・サエと全く連絡が取れないんだけど、エルエルは何か聞いてない?」
「わからないエル。うーにゃんからもなにも聞いてないエル」
「そっか・・・いつもなら頼んでないのしつこいくらいメッセージ来るのに」
サエと連絡が取れなくなって数週間が立っていたが、ショコラミントは興味なさげな様子で小瓶をしまうと変身を解き、静かにその場を後にした。
「うっわ・・・なにこれ・・・」
葉月の目の前には不自然なほどに真っ黒な球体がいくつも浮かんでいる。
それはまるで純度の高い金属のように冷たい光を放ち、上空に向かってゆっくりと飛んでいく。
「ガーゴイルの気配が変に多いと思ってきてみれば・・・ったく、こんな時にサエは何してるの?」
葉月は苛立ちながら端末で再度サエにメッセージを送る。
SNSもある日を境に更新が止まっており、不自然な沈黙が葉月の中にある違和感や恐怖をさらに加速させた。
葉月が画面を見つめていると端末が震える。サエかと思って波面をロクに確認せず慌てて電話に出ると、慌てた様子を隠しきれない女性の声が聞こえてくる。
葉月が画面に表示される電話の主を確認すると自治体の研究施設の公式電話番号だった
「葉月ちゃん、サエちゃんともうーにゃんとも一切連絡が取れないの!!葉月ちゃんは何か聞いてないかな?」
「あぁ・・・奈緒さんでしたか」
落胆した様子の葉月の声色に、葉月もサエと連絡が取れないことが分かったのか、奈緒は現在進行形で起きている異常についてすぐに説明を始めた。
「いい?おちついて聞いてね。今この町・・・市内に集中して異変が起きているの。いのちからがら逃げてきた人から情報を集めている最中なんだけど、今のところわかってることは空中の黒い球は人を取り込んで潜在魔力を餌に大きくなってるってことくらいで、原因もわからないんだ。でも、魔力を餌にしてるからか、連絡が取れない人は魔法御少女の家族や友人、元魔法少女だった大人が多いのは確かなの」
「ということはサエも・・・」
「可能性は・・・ゼロじゃな無いわね」
しばらく沈黙のまま立ち尽くしていると、黒い霧の塊が葉月に襲い掛かった。
「・・・ふっ」
葉月は流れるように変身しその霧を払うように浄化した。
「全く、いつまでたっても世話が焼ける・・・奈緒さん、一旦電話切りますね」
ショコラミントは面倒くさそうに電話を切り、エルエルに端末を預けてからうんと背伸びをすると、ひときわ大きな球体に向かって強く地面を蹴り空中に飛び出した。
球体が浮かぶ空間は謎の重力出満ちており、魔法少女の魔力に反応して見えない足場が作り出された。
ショコラミントが歩を進めると、まるで月面にいるかのように体がふわりと浮かび上がる。
空気を蹴りながら大きな球体に近づいていくにつれて、球体自身の異様な気配にショコラミントは顔をしかめた。
いざ目的の物体の前に立つとその球体の威圧感に押しつぶされそうになる。他の球体よりもずっと大きいそれは、ショコラミントにとってどこか覚えのある魔力を帯びており、表面の模様は生き物のように醜く脈打っているのが見えた。
ショコラミントがその表面にそっと触れると、水面に石を投げ込んだときのように波打ち、脳内にサエの声がこだました。
《こんな幸せな生活がずっと続けばいいのにな》
その声は紛れもなくサエの声だった。ショコラミントは眉を顰めて呆れたように息を吐きだした。
「やっぱり・・・本当、いつもいつもこの子は・・・!」
ショコラミントは未知の衝撃に備えてぎゅっと目をつぶると、球体の中におもいきり飛び込んだ。
暗闇の中は煙が充満しているかのようにショコラミントの視界をふさぐも、不自然な温もりが心地よくショコラミントを包み込む。
それはまるで母親に優しく抱きしめられているような、布団の中でゆっくりくつろいでいるようなそんな安心感が感じられる。
暗闇の中にはどこもかしこもサエの気配が満ちていて、ひっきりなしにサエの声がこだまするように聞こえ続けている。
《誰も傷つかないのがこんなにうれしいなんて》
《ご機嫌なお父さん初めて見た》
《お母さんが優しいの、うれしいな》
《わたし、もう逃げなくてもいいんだ》
《幸せだな》
「あーもう!サエ、うるさぁぁい!!!」
ショコラミントはその声に対抗するようにうっとおしいといわんばかりの大声を上げると、サエの名前を繰り返し叫んだ。
しかし、名前を呼ぶ声はどこまでも続く暗闇の中に無力にも吸い込まれて消えていく。
「アンタがいないと広報とか困るの!両親がやばかろうが関係ない!私はサエの、サエ自身の今の能力が必要なの!理不尽な親の期待に応えるよりも、嘘をつけない私の信頼に応えなさいよ!!!」
ショコラミントの怒声に反応したのか、こだまするように聞こえていたサエの声が途切れ、空気が揺らいだ。
そして、まるで壊れかけのカセットテープを再生しているようなとぎれとぎれの泣きそうな声が暗闇の奥から聞こえてくる。
「・・・?」
《逃げていいの?本当に?でも、私、はもっと頑張らなきゃいけないのに?》
「サエ、サエ!!!!」
《でも、私は・・・出来が悪いから・・・葉月にも迷惑をかけちゃうし》
声のする方にショコラミントは進む足を速める。サエの泣きそうな声がどんどん近くなっていく。
そこにはあたりを包み込む暗闇よりもずっと深い漆黒で染められた小さな球体が浮かんでいる。
ショコラミントは変身を解き、ゆっくりとその球体に近づいた。
「サエ、見つけた。・・・全く、手間かけさせて・・・私の相棒を自称するならこんなことで簡単に敵の手に落ちないでよね」
胎児のように体を丸めたサエの姿を球体の中に見つけた葉月は、それに優しく触れ、抱きしめた。
小さな球体にひびが入る音がする。
葉月の胸元で球体が光を放つ。
その光はどんな光源よりもまぶしく、まっすぐで、真っ白だった。
「おはよう、サエ・・・お帰り」
~エルエルの魔法少女解説~
こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!
今回は各自治体にある魔法少女の研究施設について解説するエル!
研究施設では、魔法化学に精通している教授や研究員が所属している場所だエル!魔法少女が変身するために使うマジカルジュエルを作ったり、魔力汚染の浄化をしたりするのが主なお仕事だエル!他にはガーゴイルの研究もしていて、新種の記録だけじゃなくて様々なガーゴイルの特徴や行動原理を計算して、魔法少女が到着するまで持ちこたえるための攻撃手段を開発することもあるらしいエル!
研究員の奈緒は実は元魔法少女で、二十歳の誕生日で引退してからは研究員として元魔法少女の経験を生かした仕事をしているらしいエル!!
奈緒が魔法少女だったころ、エルエルはまだ生まれていなかったからわからないけれど、もし写真があったらエルエルも見てみたいエル~!




