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新たなる脅威と葉月のこころ

「今まで気にしたことなかったな・・・」


ショコラミントは苦々しく歯を食いしばると、端末をベッドに投げ捨てた。


端末には毎月更新される魔法少女の殉職報告の記事が映っている。


「・・・知らなければいいことだってある。私の日常は変わらない」


それだけ言うと、ショコラミントは窓を開けて空に飛び立っていった。




不自然なほど人気のない静かな公演の真ん中で、クマのぬいぐるみが座り込んでいる。

その腹のポケットからは子供たちの「助けて」という泣き声が聞こえてくる。


「うっわぁ・・・・気持ち悪い・・・アメリカの鳥みたい」


不気味なその様子をショコラミントは心底胸糞悪そうにガーゴイルをにらみつけると、唇をかみしめて戦闘の構えを取って地面を強くけった。





「最新種の憑依型かぁ・・・この前の植物型といいどんどん新種のガーゴイルが出てばかりなの、ほんとどうしたものかねぇ」


葉月がエルエルを介して自治体の担当研究員である春風奈緒に先ほど戦闘をしたガーゴイルの特徴や戦い方の特徴を報告すると、長いロングヘアを振り乱し眼鏡をカチャカチャずらしながら彼女は慌てて記録を取った。


「強さはレベル3の動物型と変わらない感じかな?」

「物理的な強さだけ言えば、ですね。でも私だったからよかったとはいえ相手が戦うのを躊躇するような戦略を取れるほどの知能はあるんじゃないですかね」


葉月はボロボロになったテディベアを取り出して見せ報告をつづける。


「あと、おそらくなんですけど、基本知識としてガーゴイルにとっては負の感情が餌になるといわれているじゃないですか。このぬいぐるみは長い時間大切にされていたのかもです。そのせいで急に放置されたのが寂しくてぬいぐるみ自体に負の感情がたまってしまったのかなと」

「ぬいぐるみに・・・?」

「長く大事にされてきたものに自我が生まれることは往々にしてありますから。特に人形やぬいぐるみなんてその最たるものですよ」


葉月の説明に奈緒は興味深そうにメモを取っていく。


「しかも人の言葉を模した音声を発するなんて・・・ほんと胸糞悪くて即倒しましたよ」


葉月は何かを思い出したのか苦々しい顔でガーゴイルから子供の「助けて」という泣き声が聞こえたということ、子供を取り込んでいたわけではないということ、倒した後ぬいぐるみをよく確認したが録音やオルゴールのような機械が入っている様子はなかったことを伝えた。


「なるほどねぇ・・・ということはガーゴイルになった時にその場にいた子たちの声を録音しただけとかじゃないんだろうな・・・そうなるとあとはありえそうなのは持ち主の周囲で一度でもそういう単語が出てきたりしてて、意味を分かってて使ってるとかくらい?」

「それって絵本とかですか?」

「そうそう。絵本の中にはそういう単語の入った物語の本もあるから。大きい子向けの絵本になるとは思うけど」


奈緒は結婚生活から得た知識をもとに考察を葉月に話す。


「お子さんは男の子でしたっけ」

「そう。双子。本当にね・・・お兄ちゃんはぬいぐるみやルカちゃん人形が大好きで、弟の方は戦隊ものの悪役にお熱だから誕生日プレゼントとかケーキの選択が大変で・・・」

「誕生日違う普通の兄弟なら別々でいけましたもんね・・・」


奈緒は困った様子で頭を抱えているが、その表情はどこか幸せそうで、葉月は不思議と心が温かくなった気がした。




「あ、ちなみに魔法少女としての戦い方に不具合とかはない?大丈夫?」


「特には。問題ないです」


奈緒は急に真面目な表情に戻り葉月の旨に光るペンダントに視線を移す。

サファイヤの輝きは相変わらず美しく、光の気泡がいくつも浮かんでいる。


「石に魔力がたまりすぎると人間じゃなくなる可能性があるから、定期的に洗浄しに来てね?あなためったに来ないから心配なのよ」

「はぁい」


葉月はけだるそうな様子で雑に返事をしながら通話を切ると、棚から小学生の頃に購入したピアノを模した模様が施された小さな鞄を取り出した。

鞄のファスナーを開けると、小さな可愛らしい簡易裁縫セットが顔を出す。

葉月はそのまま迷うことなくまち針ではみ出たわたを中にいれながら綺麗に布同士を止めていく。


「糸は・・・近い色・・・うーん、茶色と黄色かな」


葉月は口をきゅっとまっずぐ結ぶとテーブルランプの白い光の下で、一生懸命ぬいぐるみに向き合い続けた。





「・・・よし、できた」


陽の光が空を染め出す頃、葉月は針を裁縫セットに戻すと、ぬいぐるみを抱きしめてベッドに横たわった。


葉月が窓の外のまぶしさに手をかざすと三枚の絆創膏が痛々しく主張しているのが視界に入る。


ぬいぐるみは多少粗めの縫い目が見えるものの、わたはきれいにしまい込まれ、布が足りないところや汚れがひどすぎるところは葉月がもう着られない服の切れ端で可愛らしく装飾されている。


「さすが葉月エル!!ぬいぐるみさんもなんだかうれしそうエル~!」


エルエルがぬいぐるみをまじまじを見つめながら空中をぐるぐると飛び回っている。


「ふん」


葉月は心なしか口角が上がっているようだった。






「とりあえずベンチにでも座らせとくか」


太陽が真上を照らす頃、葉月は公園にある東屋の椅子に優しく立てかけるようにぬいぐるみを置くと、そのまま立ち去ろうと振り返った。


「あー!!ハナちゃんいた!!!」


ちいさな男の子が大きな声を出しながら葉月に向かって走り寄ってくる。



男の子は葉月を素通りし椅子に置かれたぬいぐるみを抱きしめた。


「あれ?僕のハナちゃんすごく綺麗になってる!おかぁさーん!!」

「良かったわね・・・あら?もしかして貴女が見つけてくれたのかしら?こんなにきれいに直してもらって・・・ありがとうね」


男の子の頭をなでた母親らしき女性は、葉月に気が付くとそれだけ言って軽く頭を下げた。

葉月が頭を下げ返すと、女性は男の子の手を優しく握り去っていった。


その背中を見ながら、葉月は手のひらをぎゅっと握りしめた。


「良いことしたエルねぇ」


ペンダントからエルエルの声がする。


「誰が聞いているかわからないんだから今は黙って。・・・でも、うん」


葉月の口角がいつもよりも緩やかに上を向いているようだった。


~エルエルの魔法少女解説~


こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだエル!

今日は魔法少女の変身アイテム、「マジカルジュエル」について解説していくエル!!


彼女たちの遣うマジカルジュエルは人によって使う宝石が違うんだエル!

ショコラミントはサファイヤ、パチットキャンディはエメラルド、ストロベリースフレはガーネットだったエル。宝石は使用すればするほど、持ち主に染まっていき、内面を表すようになるエル!

初代魔法少女チェリーはルビーだったエル。

それぞれアクセサリーやキーホルダーに加工して持ち歩いていることが多いエルね。ちなみに葉月はペンダントにしているエル!


変身すると、衣装の一部として変形するけれど、宝石が砕けると二度と変身できなくなるから、戦うときは注意が必要エル!


そして、マジカルジュエルは人間界の宝石とは少し違って、魔力の光が常に中に閉じ込められているエル。

戦うと宝石の中の人間用に調整された魔力とガーゴイルが倒されたときに発するの魔力残渣と化学反応を起こして穢れがたまっていくから、定期的に自治体に存在する研究施設で宝石の魔力洗浄を受ける必要があるんだエル!

まぁ、ショコラミントの場合は魔力残渣を発生した端から残らず小瓶に回収するから、宝石の魔力が穢れることはまずないんだけどエルね~。


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