魔法少女ショコラミント
四枚の羽を一生懸命出した饅頭のような生物が一人の少女の周りを飛び回っている。
「ショコラミント、あのガーゴイルは動きが遅いから高火力の必殺技で一気に仕留めよう!」
「うん。わかってるよ」
少女は片目を隠している前髪を風にゆらしながら答えた。
瞳のきらめきが強くなる。
「さて、とりあえず後片付けは行政の業者さんがやってくれるし、帰るか・・・」
少女は胸元の宝石に手を当て変身を解くと、人目を避けるように帰路についた。
日本では、”魔法少女”という戦う女の子たちが存在する。
2×××年の正月、日本に侵略してきたのは知的生命体闇をつかさどるもの、通称ガーゴイルたちの軍団だった。
いきなり現れた異形の者たちに日本は恐怖に包まれた。
その時、妖精界の女王が一人の少女に力を与え、ガーゴイルたちを一掃した。
少女は国を導くものとして注目を受け、今でもその心は受け継がれている。
国の未来が脅かされたあの日から、ガーゴイルたちは数こそ減ったとはいえ完全にいなくなったわけではない。
奴らを完全に消し去り再び国に平和を取りもどすために少女たちは戦い続けているのだ。
テレビの政治コーナーでは、一人の女性がキリッと眉を吊り上げスライドを前に解説している。
議題は魔法少女保護法についてだ。
『魔法少女のプライバシー保護は必須条項にあり、これが脅かされることは重罪となります。しかし、最近はアイドルや配信の活動をしている魔法少女がいる影響か、身元を特定しようとしたり、ストーカーのような行為を行う一般人が増えています。』
電気屋のテレビから聞こえる声に足を止める人もいれば、特に気にすることなく通り過ぎる人もいる。
魔法少女は日常の存在になっていた。
『お次の曲は魔法少女ユニット、マジカルメロディの皆様で、ユリの花園です!』
『今日の企画は魔法バンジーだよぉ!みんな、パチットキャンディを応援してね!』
家庭のテレビやスマホの画面から、様々な魔法少女の声が聞こえる。
推し魔法少女のためのふるさと納税にお金を費やす人もいる。
魔法少女とはいったい何なのか、誰にもわからなくなっていた。
電気屋のテレビを見つめる一人の少女が鞄を強く握りしめている。
「私は・・・負けないから」
「葉月、今日もいい戦いぶりだったエル!またガーゴイルが現れたら頑張ってほしいエル!」
「・・・エルエル、町中ではばれないようにしててっていったよね」
「ごめんエル・・・」
少女・・・葉月はペンダントの宝石から聞こえてくる声にぴしゃりと冷たい声色で話しかけると自宅の方に向かって歩を進めた。
「あ・・・ガーゴイル・・・」
葉月の視線の先にある家の外壁にスライムのようなモノがへばりついている。何ともやる気のない顔で葉月を見ると、そのままゆっくりどこかに行ってしまった。
「危険レベル1だから放置でいいか・・・水道が詰まったら召集来るでしょ」
葉月の影が夕日で濃くなっていく。
人気のない住宅街は、葉月の背中をより小さく見せた。
「君の願いの強さは十分素質があるエル!!」
黒色の雨の中、少女を抱きしめたままの小学生は一匹の生物に話しかけられていた。
「わかった。私の願いが叶うなら、私もやるよ」
「民十さん、次の38ページ5行目を読んでみてください」
葉月はハッとして手元の教科書に視線を戻す。
昼休み直後はどうしても眠くなる。葉月はボーっとする頭を何とか目覚めさせ、教科書に羅列している言葉の束を口に出した。
昼休みはレベルの低いガーゴイルの討伐に駆り出されていたせいでろくに休めていない葉月は、家に帰ったら宿題もせずに寝てしまおうと考えながら教科書を読み終えると、席に着いてすぐ窓の外に視線を移した。
退屈な授業をやり過ごし、葉月が帰り支度をしていると、ペンダントがちかちかと光った。
「ハァ・・・仕事かぁ」
葉月が人気のない学校裏でペンダントを取り出すと、エルエルがペンダントから飛び出してくる。
「大変エル!レベル4ヒト型のガーゴイルが現れたエル!!」
「話が通じる相手だといいけど・・・」
葉月は面倒くさそうにため息をつき、ペンダントを上に掲げた。
「・・・冷たいミント、熱いショコラ、巡り巡って目を覚ませ。マジカルマジカル☆スクリーム」
葉月のやる気のない変身の呪文に反応してペンダントの中心のサファイヤが強い輝きを放つ。
光はリボンの形になり、葉月の体を包み込んでいく。
リボンはやがて膨らみをもち始め、かわいらしい服に変化する。
光のない右目は髪で隠され、心の内は見えそうにない。
「魔法少女、ショコラミント、仕事開始」
ショコラミントは表情一つ変えずに空に飛び立っていった。
「あれか。ヒト型って本当一見見分けつかないから困るんだよな・・・」
ショコラミントは人込みな中に降り立つと、注目を浴びることもいとわず一人の男に話しかけた。
「オニーサン、人に紛れるの上手だね」
ざわつく周囲を完全無視してショコラミントは言葉をつづけた。
「レベル4,ヒト型ガーゴイル、話しができるなら場所を変えたいところだけど、弁解は?」
「よくわかったね、その忌々しい輝く瞳のおかげかな?」
話しかけられた男は不敵な笑みを浮かべると、真っ黒な雷を落とした。
雷に驚いて周りの人々はパニックに陥って騒ぎになったのを見てエルエルはすぐに避難指示の号令を出した。
「ガーゴイル出現エル!みんな!避難するエル!」
男はショコラミントを見つめたまま、逃げ惑う一般人に手を向けた。
「私はそこらの低レベルな同胞と違って狙うべき対象はわかってるのでね」
「無関係な人を狙うのは生産性がないと思いますが」
「こちらも仕事ってことなんで。ま、人間の感情とか道理とかは興味ないですが」
男は魔法を一般人に向けて放つ。
「させない」
ショコラミントは淡々と両手からテグスのような細い糸を出し男を拘束すると、魔法の打ち出された先に飛び出した。
「っ・・・!」
魔法の玉がショコラミントを直撃する。
「このくらい、あの人の傷に比べたら!!」
「何のことかわかんないけれど自己犠牲は美しいね。私は真似したくないけれど。
・・・いつか本気でやりあおう」
男は不敵な笑みを浮かべると姿を消してしまった。
「ガーゴイルの反応が途切れたエル!ショコラミント、お疲れ様エル~!」
人のいなくなった街中でショコラミントは変身を解くと、つまらなそうにある場所に向かうのだった。
「・・・敵の残した魔力残滓が足りない・・・まだまだだなぁ」
自治体所有のホテルの一室に置かれた豪奢なベッドに横たわる一人の少女に話しかける一つの影。
影はペンダントの宝石空きらめく粉のような光の粒を眠る少女に振りかける。
ベッドの上の少女はピクリとも動かず、冷たい肌にうるおいが戻る程度しか効果はないようで、影はまたため息をついた。
「いつか、あなたに伝えたい言葉があるから・・・それまで・・・」
影はホテルの部屋に鍵をかけると、力強く鍵を握りしめ帰路に就いた。
その背中は少し寂し気で、幼さを醸し出していた。
~エルエルの魔法少女解説~
こんにちはエル!ぼくは魔法少女の相棒をしているエルエルだよ!
今日はみんなにこの世界の理について紹介するエル!
僕たち妖精の住む妖精界は、様々な生物の感情エネルギーによって成り立ってるエル!人間の世界で言う電気やガス、ごはんみたいなものだと思ってくれればいいエル!
でもこのエネルギーはかなり不安定で、妖精界に住む妖精が増えた今、エネルギー源を確保しなきゃならないエル!
そこで行われたのが、君たち人間の世界との共存エル!
世界のすべての国の中で、感情の名称が細分化されている日本はぼくたちにとってとても貴重な存在だったエル。だから僕たちの女王様は国の一番偉い人と交渉して、日本を脅かす災厄の排除や人助けによって発生した感情エネルギーを妖精界に譲渡する契約をしたエル!
そのために生まれたのがスター性に富んだ魔法少女の存在エル。
日本政府と妖精女王様がどんな契約を交わしたかはわからないけれど、今の共存関係はとてもうまくいってると思っているエル!




